原子力委員会参与会

第5回

〔日 時〕 昭和35年7月14日(木)14.00〜17.30

〔場 所〕 東京都千代田区丸の内 東京会館

〔出席者〕 石川、兼重各原子力委員
稲生、井上、大屋、大山、岡野、菊池、倉田(代理駒井)、駒形、嵯峨根、瀬藤、高橋、藤岡、伏見、正井、松根、三島、三宅、安川、山県、吉沢、我妻各参与
杜局長、法貴、森崎各次長、井上(政策)、太田、中島、井上(核燃料)、鈴木、佐藤、亘理各課長、武安監理官、村田調査官
通産省宮本参事官、経済企画庁大木技官、原研阿部企画室長

〔配布資料〕
1.原子力開発利用長期基本計画基礎となる考え方(案)〔当日回収〕
2.昭和36年度原子力関係予算の問題点
3.原予力委員会各専門部会の審議状況

1.長期計画基礎となる考え方(案)について
 石川委員;年末に長期計画をまとめるが、その作業に先だって長期計画の骨子についての各方面の批判を聞きたい次第である。

 村田調査官が資料1を読み上げ、次いで項目別に説明し各参与の意見を聞いた。

(1)「長期計画改訂の目的」「計画の範囲および期間」について
 伏見参与;32年末につくられた長期計画では発電炉の問題が主となり、研究についてはあまり力点がおかれていなかった。今回の案には四つの柱の一つとして「研究開発のすすめ方」が入っているので結構である。お流れにならぬよう重視してほしい。

 藤岡参与;「内定長期計画」のつくられた昭和31年9月から現在までの間に原子力をめぐって起こった大きな情勢の変化として、1.核原料供給面の見通しの変化、2.電力需要の急増と石油消費の拡大、3.在来火力発電コストの大幅低下予想、4.原子力開発に必要な研究量の大きいことにつき認識されてきたこと、があげられ、他方、計画の基本線として、1.原子力の動力としての利用、2.アイソトープ利用、3.核燃料および材料の開発利用、4.研究開発、の四つの柱が示されている。情勢の変化としてあげられた四つの項目は主として第1の柱特に原子力発電に関するものとみられるが、ほかの三つの柱に関連する情勢の変化はなにかないのか。

 嵯峨根参与;「4年前には漠とした文章で言っていたが、現在では経済性をはじめ数値的にはっきり言えるようになった」ということを入れれば今の御意見はよいのではないか。

(2)「原子力発電」について
 大屋参与;10年間に何万kWかを建設するというのは建設を始めるということか、それとも建設の終った年度をいうのか。

 石川委員;建設の終った年度で言っている。

 稲生参与;電力会社がこの計画のとおりに発電炉をどんどん造ればよいが、そうでない時にはどうするのか。どういう指導方針をとるかということを長期計画にお書きになるのか。

 石川委員;資金問題等もあるのでその時にならないとはっきりいえないのではないか。

 稲生参与;「新規火力発電設備の15〜20%が原子力で開発される」というのは自然にこうなるというのか。

 石川委員;制約もあるからこれ以上にはならないという考えである。

 村田調査官;前期の100万kWは採算に合わなくてもやるのだから、どうやって開発するかが問題である。電力会社が造らない時にどうするかはこれからの作業になる。

 瀬藤参与;前の長期計画をつくる時には各方面の意見を聞かなかったが、今回は決定前に批判を聞こうということである。独裁国ではないのだから国策の樹立にあたってこのようにして皆が協力できる目標を作っていくことは必要である。原子力委員会の作った計画がどれほど実現できるだろうかという見方でなく、努力目標を作り、官民一致してその実現に努力するという方向で考えるべきであると思う。

 嵯峨根参与;だいたいこの辺になりそうだからそれを目標にしようというのか、委員会はこう考えるから皆さんも賛成なら努力して実現しようというのかニュアンスがいろいろある。

 石川委員;政策で裏づけする必要はある。このとおりにしなければならぬという結論はでてこない。

 兼重委員;各参与が政策を立てる一員であるようなつもりから発言していただきたい。

 大屋参与;このような計画を立てたらぜひ実現するように努力しなければ意味がない。官民とも協力していかねばならない。

 稲生参与;皆の思想が同じ方向に一致して協力できればよいわけである。

 安川参与;経済ベースに乗らない間の10年間の開発は政策的に裏づけがいる。経済採算に合う時期がくれば電力会社にまかしておけばよい。

 山県参与;はたして1970年に経済ベースにのるかという点をもっとつめる必要がある。

 兼重委員;1970年に採算にのるだろうというのは予想であるが、それまでの10年間に行なう開発は計画としてもっと具休的に考えねばならないと思う。

 山県参与;計画か予想かという議論になったがどちらともいえない。おりまぜた性格のものである。

 瀬藤参与;数年後にはまた改訂する必要があるとしてもそれまでは変更のありうることを前提としながらの計画であることにわたくしはこの計画の意義を重視したい。そういう考え方が一致していないと話し合ってもむだであると思う。

 大屋参与;安川参与と同意見である。初めの10年間は計画、その後の10年間はわれわれが努力する目標でなければならない。

 藤岡参与;経済採算にのらないのに、原子力船の第1船を10年内に造るべきだというときは計画で、政府が金を出されるのだと思う。発電の場合は仕事全体が民間でやることである。これを目標として努力しようとおっしゃるのはわかるが、政府の立てる計画とは変った性格のものである。民間のやる仕事について政府が計画を立てるのだから予想ではないか。

 大屋参与;電力会社も努力するから政府も協力してくれということと考えている。
 山県参与;前の「長期計画」はエネルギー資源の問題から説かれていたが、今度の「考え方」の案では採算にのるかどうかが問題になってきた。その辺の考え方が非常に違うので議論になったものと思う。

 石川委員;2〜3年経ったらまた見直してみるわけだが、この案のように500〜800万kWという規模は皆さんからみて過大と思われるか。

 瀬藤参与;この案は産業会議で考えられている線と大差ない。官民一致して賛成できる程度ではないかと思う。

 通産省宮本参事官;通産省でも原子力発電の計画を考えているが、だいたいこういうことになると思う。経済採算にのる前の10年間に開発する100万kWについてはだれが損をかぶるかが問題になる。計画どおりにやったからといって電気料金を値上げすることとは別の問題であるから、勢いメーカーに負担がかかりがちになる。

 瀬藤参与;電力料金を現状のままにすえおいて、増加する電力需要を停電なく供給せよということであると、根本的に無理があるとわたしは考えている。電力会社も目標を達成するに、これこれのことを国としてもやるべきだという要求を出すべき時期にあると考えるが、

 井上参与;開発規模はこの程度でよいと思う。計画か予想かという点については同じような問題がすべての経済計画にもある。10年後の開発規模は展望ということになるが、それしかないしそれでよい。また、メーカーにだけ負担をかけようとは思わない。電力会社も想応の力をつくす。

 嵯峨根参与;損をかぶるというお話だが、一時はかぷるような形になるだけで、長い目でみるならばむしろやらねばかえって損になるからやるということだと思う。

 開発規模については実際にやってみると違うかもしれないが、現在の情勢からはこう思われるからこうしようという目標を示せばよい。原子力委員会としてそういう覚悟をしておられるかどうかということになる。

 石川委員;100万kWという今後の10年間の開発規模が無理だというなら減らしてもよい。

 大屋参与;ちょうどよい。

 松根参与;100万kWという規模に幅をもたせ、また時期も5年ぐらいの余裕をおくことが必要であると思う。

 兼重委員;原子力委員会が計画としてかためてだすときに、たとえば建設資金は主として民間から出し、政府が助成するというように政府の政策をどうするかが問題である。規模とか時期とかはあまり問題にすべきではない。

 藤岡参与;この前の「長期計画」でほガス冷却型と軽水冷却型とを半分ずつというような見込みがあった。今回の案ではそのほか有機材冷却型もあげられているが、型別の開発規模は考えてあるか。

 村田調査官;採算の合わない前期10年間はどうやって開発するかが問題で、金融、税金の問題も含めてこれからの作業でかためていく。炉型式もその問題との関連で今後だんだん明らかになるが、将来の炉型式の割合についてどれだけはっきりした計画がつくれるかは問題である。

 瀬藤参与;今日の午前中に同じく長期計画についての専門部会長会議があった。その際、今度の計画では天然ウランと濃縮ウランとを適当に使いこなそうという考えだと思ったが、炉型式別の規模は出ていない。炉型式としては重水減速型等がでてくる場合も考えられ、違った様相になる可能性もある。炉型式まではっきりきめておかないほうがよい。

 嵯峨根参与;Puを将来どう使うかによって将来の金繰りや電力原価にひびいてくるから、計画の内容が変ってくる。Pu の使用法ほ現在はわからなくても将来はわかってくるから、その時に驚かないということ、つまり Puが使えるようになれば大幅に変ってくるということを書いておく必要があろう。

(3)「原子力船」について
 藤岡参与;第1船について炉型式をはっきりさせればもっとよい。また、10年後から建造する規模も示されればそのほうがよい。

 石川委員;現在ではむずかしい。

 伏見参与;エネルギーとしての原子力の一番大きな特徴は小量の燃料から大きな電力をうることである。陸上の炉ではこの特徴が生かせないので、発電炉は採算の問題からモタモタしている。船、特に長期間帰港せずに動くような船――海洋観測船も一案――に原子力を使えば、この特徴を発揮することができ、採算が問題にならない。

 岡野参与;日本は造船では世界的な国だから採算に合う合わないに固執するわけにいかない。海洋調査船には前から賛成している。各国に先んじて国家の金で実験船の建造に着手すべきである。4万〜5万トンの船では造るまでに問題が多いから、できるだけ早く造るという意味で5千〜1万トンぐらいのものを選び、その後の改良を目ざしていくのがよい。小さい船のほうが金額も少なく、早く造ることにより得るところは大きい。

 兼重委員;今のような御趣旨は了解している。原子力船の安全基準や災害補償体制に関しはっきりした見通しをつけることがまず必要で、その後に船の建造にとりかかりたい。

 藤岡参与;国内体制の整備はむしろ原子力委員会の責任ではないのか。

 嵯峨根参与;国際的な問題に先だって国内の問題を原子力委員会がまず片づけねばならない。その際にもたとえば一つの船について50億円というような災害補償の考え方を、世界の基準に合わせようとするとき国際的な問題となるわけである。

 兼重委員;50億円をふやす見通しはない。ふやそうとしても容易でない。今から5年後にできるというような見通しもないのに、相当の金をつぎこんでやった場合、むだになる可能性もあるから、その辺の見通しが得たい。

 嵯峨根参与;同感である。

 駒形参与;「1970年までの採算が合わない時期に原子力船を1隻造り、原子力船に関する研究開発を積極的に進める」というが、政府資金で造るとかいう方法をとるのか。

 村田調査官;原子力発電の場合と差はあるかもしれないが、採算に合わないものを造るのだからどういうふうにするかは一つの問題である。運輸省の意見も聞かねばならない。

 瀬藤参与;今日の案には1970年までに実用規模の原子力船1隻を建造すると書いてある。小さくてよいから早く造れという岡野参与のご意見は「実用規模」という書き方と矛盾しないか。

 岡野参与;「原子力船の建造にとりかかる前に安全基準や災害補償体制等の国内的措置についてはっきりした見通しを得ねばならない」というのは、その時までは建造にとりかからないというのに等しい。建造に着手すると同時に国内的措置を進めるというのとはだいぶ違う。見通しが得られるまで建造に着手しないというのではいけない。

 最初から4〜5万トンの船を造ろうとすれば50億円ということも問題になってくるから、最初の船は小さいぼどよい。

 石川委員;国内の体制を整えておかないと船を動かすこともつないでおくこともできない。

 岡野参与;懸念のしすぎである。造ってから5年も3年も動かないようにはならない。

 嵯峨根参与;国内の体制も国際的な問題も必要だが、世界的な考えも決ってきたから、それと矛盾しないように国内も整備するとすれば、岡野参与の御意見のように書ける。この案では否定的に書いてある。

 石川委員;まだ安全基準の考え方も国際的に決っていない。

 嵯峨根参与;最終的には決っていないが、案も出てだいたいの線は決っている。

 菊池参与;国内の体制の問題、国際的な問題も原子力委員会のほうに推進する責任がある。外からの行為を待っておられるのではいけない。

 兼重委員;原子力委員会や原子力局には船の専門家ほ少ない。専門家を集めるには運輸省と連絡してやることになるが、この問題の担当者はあまり熱心でない。いろいろ話しをしてやっても数ヵ月経ってもうまく運ばない。

 山県参与;原子力船の安全基準の問題について国際会議をロンドンでやり、最終的ではないが一応のとりきめをした。相手国の港に入る時にほ安全審査書を出さねばならないこととなっている。形は勧告だが実際には国際条約と同じような強いものになる。だいたいの線がでているので、国内の体制を整える必要のある時期になったと思う。

 村田調査官;1970年までに運航するというには1968年には建造を終っていなければいけない。炉を輸入するか国産するかという問題はあるが、一応技術導入して国産するとなると4年間は建設に要する。その前の2年間は交渉に要する。したがって1962年に計画が固っている必要がある。ここ1〜2年で体制を整える必要がある。かなり急いでやっとこの案のとおりにいくということになる。

 岡野参与;そういうふうに書いてない。原子力委員会が指導するという考えで腹をきめることが大切である。

 井上政策課長;わたくしどもとしてはふみきって書いたつもりである。今年か来年に舶用炉の技術導入を完了したと大胆にきめても、2〜3年は相手会社で研鑚し国内でも消化しなければならないので、早くても1967〜68年でないと船はできない。舶用炉は全部まるまる輸入するというよりも技術導入の体制ができており、技術導入による国産を考えるほうが意味があると思うので、1970年までに原子力船を1隻造るという考えをとった。

 原子力船の国内体制の問題は勉強次第では2〜3年でできなくはない。国際的な問題は3年あるいは数年程度ではできない問題だと各国で考えられている。

 国内体制の問題については、運輸省が原子力局と連絡して原子力委員会を補佐する体制を固めるよう、運輸省とたびたび打ち合わせている。

(4)「核燃料」について
 藤岡参与;探鉱、採鉱、精練、加工、再処理、ウラン濃縮等あれもこれもやるというのでなく、もう少しアクセントをつけてほしい。

 村田調査官;プルトニウム燃料の実効性を1960年代の終りに見究めるよう努力することとしている。ウラン濃縮はそれとの関連で実施を考慮することになる。

 伏見参与;プルトニウムについては1965年までになんとか結論を出してほしい。

 村田調査官;原子炉に入れて実際に使えるかどうかがわかる時期を考えている。プルトニウム強化燃料ばかりで炉心を装荷したとして、100kg近いプルトニウムを要すると考えられる。再処理の進め方との関連でプルトニウムの入手時期を考えると1967〜68年ごろに見通しがつくと思われる。

 嵯峨根参与;燃料の経済性――濃縮ウランは今後安くなるかならないのか――原子炉の開発が進んだ場合、燃料の供給量が十分あるかどうかということが重要であるのに、このあたりが抜けている。重要なことだが書くのがむずかしいから書かないということですか。

 村田調査官;前期10年の燃料所要量は一応計算できる。価格は今のところ米国の価格という以外わからない。現在はふれられないが、今後可能なかぎりふれたい。

 嵯峨根参与;米国の濃縮ウランの生産量の1/10ぐらいがいるということになった場合どう考えるか。

 村田調査官;日本で濃縮ウランを造ることも考えられる。

 石川委員;最初の10年間には濃縮ウランが足りなくなることはない。次の10年間については展望と考えている。

 嵯峨板参与;それならよいが、20年間のことがわからないのに10年間手をつけるのにはやはり不安が残る。もっとつめて計画になさるのか、このままになるのか。

 法貴次長;秋からの作業でもっと具体的にする。どこまでいけるかは問題である。

(5)「放射線の利用」について
 正井参与;放射線化学センターの場所は原研におくことになっているが、原研はそうするつもりか。

 原研阿部企画室長;(菊池参与中座のため代って発言)原研は利用面の細部はやらぬにしても、一応やるつもりである。

 兼重委員;ここで原研というのは東海研究所といっているわけではないからその点に留意してほしい。

 通産省宮本参事官;放射線化学の研究開発の項において、「原研、民間共同開発施設」とあるが「国立試験研究機関」を入れてほしい。

 村田調査官;了承。

 藤岡参与;アイソトープの生産に関し、「特殊なアイソトープの国産に重点を置く」というのは 60Coのことか。

 村田調査官;60Coにはかぎらない。その時々であるアイソトープがほしく、外国のほうが安くても国内で造るというケースがいろいろ考えられる。

 藤岡参与;60Coは造るほうがよい。線源として使用済燃料を使用することが書いてあるが、原子炉との関連で数量をつめてほしい。

(6)「研究開発のすすめ方」について
 倉田参与(代理駒井);材料試験炉の設置、運転は高価につく。製造業者の採算には合わない。国家的な考え方で運営してほしい。この点、民間の研究機関のためだけに使われるように書いてあるので、この表現では不適当である。

 兼重委員;ご主旨は了解。書き方がよくないので改める。

 倉田参与(代理駒井);増殖炉についてほ原子力発電の項では海外機関との共同研究を開発方法の一つに入れていたが、ここでは国産を主体にしているように読める。技術情報を海外から入れるという書き方にしてはどうか。

 村田調査官;技術導入がありえないと考えているわけではない。増殖炉は軽水炉等と異なり、技術提携先がはっきりしていないのでその差を出すために、このような書き方になっている。また、共同研究は米英等におけるプロジェクトに、原研から参加することが考えられる。それには自分の研究を進めてある程度の素地を作っておくことが必要なので、その点も考えた結果このような表現になっている。

 瀬藤参与;現在の原研の限られた土地に次々に思いついた施設を置いていくと、あとになってもっと大切なものが入れられなくなるおそれもある。設置する施設に関して長期計画のようなものを考えているか。

 石川委員;心配はしている。

 菊池参与;材料試験炉と増殖炉の実験炉までは入れることを考えている。

 瀬藤参与;一つの研究所として人員が1万人になると大きすぎる。今後研究所が大きくなると、やがて面積と人員との両方から制約がでてくる。

 石川委員;なお御意見のある方は個々に連絡していただきたい。御意見を考慮して「基礎となる考え方」を内定し、それに対する各方面の意見を聞くこととする。