近畿大学原子炉の設置に関する委員会の答申

 学校法人近畿大学が教育訓練用の目的をもって大阪府布施市小若江321近畿大学に設置する濃縮ウラン軽水減速不均質型原子炉については、原子力委員会は昭和35年4月18日付をもって諮問を受け、審議した結果、昭和35年8月3日付で原子力委員長から内閣総理大臣あて下記のような答申を行なった。

35原委第63号
昭和35年8月3日

内閣総理大臣
  池田 勇人 殿

       原子力委員会委員長
             荒木万寿夫

学校法人近畿大学の原子炉の設置について(答申)

 昭和35年4月18日付35原第846号をもって諮問のあった学校法人近畿大学の原子炉の設置について審議した結果、下記のとおり答申する。


 学校法人近畿大学が教育訓練用の目的をもって大阪府布施市小若江321番地近畿大学に設置する濃縮ウラン、軽水減速、不均質型(UTR型)熱出力0.1Wの原子炉1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各号の基準の通用に関する意見は、次のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号の許可基準の通用に関する意見

 (平和利用
1 この原子炉は、学校法人近畿大学が教育訓練用の目的をもって使用するものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

計画的開発利用
2 学校法人近畿大学が、この原子炉を設置し、同大学の原子力研究室を中心に教育訓練用に利用することについては(1)その使用目的が適切であって、原子炉の型式、性能もその使用目的に合致している。(2)必要とする燃料は、少量でその入手に支障がない。(3)原子炉利用に関する技術陣容および運転資金も十分で、その利用効果は確保しうる。したがってこの原子炉の設置、運転は、わが国の原子力開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

経理的基礎
3 原子炉の設置に要する資金は、総額約1億1千5百万円で、その調達にあたっては、そのうち、原子炉本体および原子炉格納施設費約8千万円を大倉商事から借り入れ、その他の関係付帯施設費約3千5百万円は銀行値入と自己調達による計画になっている。これらの借入の返済および自己調達は、昭和35年度以降昭和39年度にわたる近畿大学経常部予算の剰余金によって賄うことになっているが、同大学の予算の規模、内容等から見て、その調達は可能と考えられるので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があるものと認める。

技術的能力
4 この原子炉の設置計画は、学校法人近畿大学の関係教授を主体として構成する原子力研究所運営委員会によって進められ、原子炉の据付工事は、この原子炉の製作者でありかつこの原子炉と同型のものをすでに数基製造し、据付けた経験のあるアメリカン・スタンダード社が施工にあたることになっている。

 したがって、学校法人近畿大学が同大学の原子力研究所運営委員会を主体として原子炉の設置を行なうについては、この原子炉の設置に要する技術的能力があると認める。

 原子炉施設の運営管理は、同大学原子力研究所運営委員会の決定に基づき、同研究所原子炉施設管理室によって行なわれる。

 同管理室は、専任職員13名、兼任職員4名をもって構成し、その専任職員のうち、原子炉主任技術者免状を有する者2名、放射線取扱主任者免状を有する者2名がおり、それぞれ運転管理、放射線管理の各部門に適切に配置されているので、原子炉の運転管理を適確に遂行するに足りる技術的能力があるものと認める。

災害防止
5 原子炉施設の位置、構造および設備については、別添の原子炉安全審査専門部会のこの原子炉の安全性に関する審査結果のとおり核原料物質、核燃料物質によって汚染された物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

損害賠償措置
6 この原子炉に関する損害賠償措置としては、原子力保険事業の免許を受けた損害保険会社と普通保険約款および風水害拡張担保特約による保険契約を締結することとなっており、その保険金額は1億円、保険契約の締結期間は、原子炉施設の核燃料物質を搬入する時からすべての核燃料物質を搬出する時までとされているので、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令第5条の3の基準に適合するものと認める。



(別添)

 昭和35年7月20日

 原子力委員会委員長
   荒木 万寿夫 殿

原子炉安全審査専門部会部会長
矢木   栄

学校法人近畿大学原子炉の安全性について

 当部会は、昭和35年4月19日付をもって審査の結果の報告を求められた標記の件について、下記の審査経過により結論を得たので報告します。

I 審査結果
 学校法人近畿大学が教育訓練用の目的をもって、大阪府布施市小若江近畿大学原子力研究所に設置する濃縮ウラン・軽水減速・不均質型原子炉(UTR型、熱出力0.1W)1基について、原子炉設置許可申請書に基づいて審査した結果、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうると認める。

II 審査内容
1.原子炉の安全性
 この原子炉は、昭和34年に、アメリカ合衆国原子力委員会が、東京国際見本市に展示したもので、放射線遮蔽に若干の改良がなされているほかは全く同一である。

 この原子炉は、東京国際見本市原子炉審査の際にも検討したように、熱出力(0.1W)がきわめて小さく、かつ

a)超過反応度(0.25%)がきわめて小さいこと。
b)反応度の温度係数(-0.008%/℃)および気泡係数(-0.3%/%気泡)が負であること。
c)中性子寿命(1.35×10-4秒)が比較的長いこと。
等のために自己制御性が大きく、さらに制御装置および安全装置の機能も十分であるので、その安全性はきわめて高いものと認める。

 かりに、全超過反応度が加わり、しかも制御安全装置が働かないような最悪事故を想定しても、この原子炉と同型式のSPERT炉等の暴走実験を参考として判断すれば、出力は最大80kWまで上昇する可能性があるが、以後は自動的に約900Wに落ち着いて、燃料要素の溶融を起こすおそれはなく、その安全性は確保しうると認める。

2.放射線障害対策
 この原子炉の遮蔽は、水の代りに湿砂を遮蔽体として用いて遮蔽効果を上げており、平常運転時において、通常人の立ち入るいかなる場所においても、その線量率は年間5レムの1/3を下まわるよう計画され、現行法規および1958年ICRP勧告のいずれをも満足する。

 したがって、この遮蔽計画は適当なものと認める。

 また、この原子炉の運転に伴う放射性廃棄物の生成は皆無に等しく、通常運転時には全く問題にならないが、さらに炉心タンクがなんらかの原因で破損するような異常事故に備えて、炉の下部にトレンチおよびピットを設け、減速材である水が外部に流れ出ないようになっている。付属実験室で用いられる放射性同位元素も、この出力のきわめて小さい原子炉で生産されるものに限定される計画であるので、半減期の比較的短いものが数μc程度の微量用いられるにすぎない。これらによる放射性廃棄物は、無視できる程度であり、その処理も容易であるので安全上問題ないものと認める。

3.立地条件
 この原子炉の設置場所は、大阪府東方布施市にある近畿大学構内の、広さ約1.3ヘクタールの旧運動場である。その周囲は平坦な耕地および宅地で、現在原子炉設置場所から最も近い民家までの距離は約165mである。

 将来、敷地周囲に民家が増加することも考えられるが、原子炉設置位置は、敷地境界および校舎から50m以上離れている。

 以上の離隔距離、周辺状況は、この原子炉の出力、特性等を考えれば、安全上支障ないと認める。

 原子炉設置の場所から東北約2kmの所には、平均流量8m3/secの楠根川が流れていて、寝屋川、大川、木津川等を経て大阪湾にそそいでいる。

 原子炉施設から楠根川までの排水路は幅1〜2m程度の下水路であるが、この原子炉および付属実験室からの放射性廃棄物は前述のごとく無視できる程度であるので以上の排水条件は安全上支障ないと認める。

 また、この地点の地盤、気象等も、この程度の原子炉の設置に対して、特に問題はなく、さらに原子炉本体は0.3gの地震力に対して設計されているが、この程度の原子炉では耐震性も十分確保しうると認める。

4.技術的能力
 この原子炉の設置計画は、近畿大学総長および関係教授等をもって構成する同大学原子力研究所運営委員会によって進められ、原子炉の設置工事は、この原子炉の製造者であるアメリカン・スタンダード社が行なうことになっている。

 アメリカン・スタソダード社は、この原子炉と同型のものをすでに数台製造し、据付けた経験があるので、この原子炉の設置に要する技術的能力は確保されるものと認める。

 原子炉施設の運営管理は、同大学原子力研究所運営委員会の決定に基づき、同研究所原子炉施設管理室によって行なわれる。

 同管理室(専任職員13名、兼任職員4名)の専任職員には、原子炉の運転管理の責任者である原子炉主任技術者1名、原子炉主任技術者筆記試験に合格し原子炉主任技術者と同程度の技術能力を有する補助者1名がいる。

 また保健管理については、放射線取扱主任者の資格を持つ専任職員2名がいる。

 したがって、同大学には、この原子炉の運転管理を確実に行ないうる技術的能力があるものと認める。