原子力委員会

再処理専門部会中間報告書を提出

 再処理専門部会では使用済燃料再処理について当面の研究開発方針の検討を行なってきたが、昭和35年5月27日に開かれた第8回会合において、次のような中間報告書をまとめ、これを原子力委員会委員長に提出した。

昭和35年5月27日

原子力委員長
  中曽根康弘殿

再処理専門部会長
大山 義年

 再処理専門部会は、使用済燃料処理に関する当面の研究開発方針の検討を目的として、昭和34年5月以降審議を重ねてきましたが、現在までの調査検討を取りまとめ、中間報告いたします。

まえがき

 再処理専門部会においてはわが国における再処理技術開発の方針をかためる前提として、先進諸国における開発の状況やその動向を調査するとともに、わが国において再処理技術開発を進める上に必要な基本的な事項について検討を行なってきたので、一応中間報告することにした。今後、さらに関係資料の収集および海外調査等を通じて、海外の急速に発展しつつある技術を調査検討し、当部会としての答申を行なう予定である。

第1章 世界における再処理の状況

1−1 再処理の諸方式
 現在研究開発されている使用済燃料の再処理法は湿式法と乾式法に大別できるが、湿式法には溶媒抽出法、沈殿法、イオン交換樹脂法などがあり、乾式法には高温冶金法、フッ化物蒸留法がある。再処理法としては、いずれにしても基本的には、1)選択性のよいこと、2)化学的に安定で放射線に耐えること、3)操作時間が短く連続操作ができること、4)安全な操作ができること、5)コストの低いことが要求される。湿式法、乾式法の比較は、開発段階も異なるので簡単にはできないが、たとえば回収率、除染率や連続的遠隔操作の点で湿式法が、再処理に要する時間の点で乾式法がすぐれているなど一長一短があり、またその開発段階も湿式法は実用規模、乾式法は実験室規模の段階にあるといえよう。

A 湿 式 法
 溶媒抽出法はTBP、Hexone、Butexなどの有機溶媒による液−液抽出分離法で、現在実用規模の工場が運転されている。この方法は、前処理工程(使用済燃料を機械的および化学的処理により液状とする)、分離工程(溶媒を用いて核分裂生成物と核分裂性物質ならびに核分裂性親物質を分離する)、後処理工程(分離した各成分を純化精製する)からなり、溶媒や塩析剤の種類などからPurex法、Redox法、Butex法、Thorex法などの諸法がある。核分裂性物質を高純度で回収し、その操作が安全確実であることを再処理の選択規準とすれば、この溶媒抽出法がもっとも効率よく、連続的遠隔操作に適しており、1945年以後、世界各国においてそれぞれ独自の諸法が開発され実用化されている。

 沈殿法は、アメリカにおいては1940年初期のプルトニウム分離法として、リン酸ビスマスをキャリアーとした方式が用いられていたが、化学工学的にいろいろの難点があり、溶媒抽出法が発展するに及び沈殿法は主分離プロセスに用いられなくなった。またイオン交換樹脂を用いて分離する方法は第2次世界大戦後急速に開発されたが、その再処理に対する応用は、回収、分離の点で比較的すぐれているものの、連続操作の適用が困難なこと、樹脂の放射線損傷が大きいことなどの欠点のためまだ実験室における研究段階を越えていない。沈殿法、イオン交換樹脂法は溶媒抽出法との組合せ、すなわち、補助工程として用いられている現状である。

 溶媒抽出法による再処理法は燃料の種類や型式に関連して広範囲に発展しつつある。当初、再処理の主たる対象はプルトニウム生産炉用燃料、すなわち、アルミニウム被覆の天然ウラン棒であり、処理するにしても比較的簡単であったが、発電用原子炉の開発が進むとともに、燃料はその形状、組成ともに複雑化し、このため再処理法にもいろいろな発展がもたらされた。すなわち、溶解しがたいジルコニウム合金やステンレス鋼などを被覆した燃料体が多く使用されるようになり、このため第1段階である被覆除去工程において被覆材除去のため特殊な化学的溶解法(たとえばジルコニウム合金被覆燃料に対する Zircex 法、ステンレス鋼被覆燃料に対するDarex法など)や機械的処理法が開発されるに至った(表1−1〜1−3参照)。このように現在すでに実用化されている溶媒抽出法にしても前処理、後処理工程の改良、工程の簡略化、装置の改良、新しい溶媒の開発などが研究されており、またイオン交換法にしても主分離プロセスへの適用、無機イオン交換体などの新しいイオン交換体の開発などが研究されている。

表1−1 ステンレス鋼被覆燃料の前処理


表1−2 ジルコニウムならびにジルカロイ−2被覆燃料の前処理


表1−3 ユーロケミク工場に予定される前処理

B 乾 式 法
 高温冶金法のおもなものには使用済燃料を高温で溶解して核分裂生成物の酸化性と揮発性とを利用して、これを除去する溶融精製法(Melt Refining)と、核分裂生成物を液体金属で抽出して除染する液体金属法などがあるが、これらの多くは実験室的研究の域を出ていない。このなかで溶融精製法は最近特に進んでおり、この方法によるパイロットプラントがアルゴンヌ国立研究所によってアイダホの EBR-2炉の燃料処理用に建設中である。

 このような高温冶金法によって再理処が可能なことは1945年ごろから知られていたが、この方法には技術的に困難な点が多く除染度が著るしく低いので、当時の軍事目的には不適当であった。しかし動力炉燃料たとえば高速増殖炉燃料に対する要求はそれほどきびしくなく、かつ工場が小型となり、原子炉敷地内に付属することも可能なので、ある特定の原子炉に付属し、その原子炉の燃料サイクルの一環となるいわゆるクローズドサイクルとして最近関心が高まりつつある。

 フッ化物蒸留法は使用済燃料中の全成分をフッ化物に変え、このフッ化物の揮発性の差を利用して燃料物質を分別蒸留し回収する方法である。種々の合金燃料に対してBrF3、ClF3のような液相フッ化剤を用い、あるいはNaF-ZrF4のような溶融塩を用いてフッ化する方法が開発中である。現在アルゴンヌ、オークリッジ、ブルックへプソなどの国立研究所で小規模なパイロットプラントの実験が行なわれているが、溶媒抽出法と同程度の良好な除染率が得られること、工程の数が少ないこと、材料が放射線分解を受けないことなどの利点があるが、装置の腐食など困難な問題があり、まだ実用化の段階には至っていない。

1−2 再処理工場の概況
 世界における再処理工場の発展状況を表示すれば、表1−4のように1942年アメリカにおける沈殿法パイロットプラントが建設されたのを初めとして、その後多くの工場が建設運転されているが、現在操業中または建設中(計画中)の再処理工場は表1−5に示すようにほとんどすべて溶媒抽出法が採用されている。

表1−4 湿式再処理工場の発展概要




表1−5 世界における溶媒抽出再処理工場一覧表

 アメリカではHexone、TBPを溶媒とするRedox法、Purex法、Thorex 法などの溶媒抽出法が採用され、現在ではハンホード、オークリッジ、アイダホ、サバンナリバーに再処理工場が操業されている。このうちサバンナリバー工場は世界に唯一の遠隔保守方式の生産規模の工場といわれ、またアイダホのIdaho Che-micalProcessing Plant(省略ICPP)はアルミニウム系燃料をはじめジルコニウム系燃料、ステンレス鋼系燃料などが処理できる比較的多目的な工場である。ハンホードの Hot Semiworks、オークリッジの MetalRecovery Plant はいずれも天然または低濃縮ウランを処理する研究−生産両用のプラントである。またオークリッジのThorex Plantはもともとトリウム系燃料を処理するためのパイロットプラントであるが、最近これにMetal Recovery Plant の一部を組み合わせて動力炉燃料をも処理できるPower Reactor Fuel Re-processing Plant として改装されている。
 イギリスでは戦後ウインズケールに再処理工場を建設している。この工場では Butex を溶媒とする溶媒抽出法を採用しており、直接保守の生産規模の工場で、コールダーホール炉などのアルミニウムまたはマグネシウム合金系被覆燃料の再処理を目的とする。またその後ドーンレイに材料試験炉や増殖炉燃料を処理するための工場が建設されている。
 フランスではイギリスにやや遅れてプルトニウム生産計画がたてられ、まずフォンテネ・オ・ローズにパイロットプラントが、次いでマルクールに直接保守、生産規模の工場が建設された。両者とも Purex類似型の溶媒抽出法を採用しているが、特に後者はマルクールにあるプルトニウム生産−発電兼用のG-1、G-2、G-3炉の燃料処理を目的としている。
 そのほかノルウェーとオランダがシェラーにパイロットプラントを建設中であり、また計画中のものとしてはユーロケミクがモルに共同のパイロットプラントを建設すべく着々と準備を進めている(注参照)。ソ連の再処理工場についてはジュネーブの第2回原子力平和利用国際会議で第1号発電炉燃料再処理などが発表されているだけで詳細は不明である。

 (注)
昨年中に公表された資料の範囲内では、ユーロケミク処理工場はプロジェクトI、II、IIIの計画をもち、昨年中にはプロジェクトI、IIの予備設計とプロジェクトIIIの設計要綱が完成したといわれる。前処理工程としては表1−3のように計画されており、溶媒抽出法として Purex法が採用されている。建設費の見積りにあたっては前処理工程に不確実な因子が多いが、付帯施設等を含めてプロジェクトIに2,370万ドル、プロジェクトIIには1,770万ドル、またプロジェクトIIIには1,900万ドルが見積られている。なお、この見積りには技術料は含まれていない。
 予備設計を完成したユーロケミクでは、1960年内に工場の建設を開始し、1962年には運転を開始する予定といわれる。

 世界各国において現在運転されている再処理工場はすべて各国政府所有のものであり、処理されている燃料も大部分が国有燃料である。しかしながら民間の動力炉などの計画が進んでくると、その使用済燃料の再処理が問題になってくる。
 アメリカでは昨年から近い将来民有再処理工場が建設運転されるという見解のもとに、それまでの間民間動力炉の使用済燃料を既存政府施設で再処理サービスを行なう計画が進められている。最近ハンホード、サバンナリバー、オークリッジ、アイダホの4ヵ所における国有ならびに民有の使用済燃料の処理分担が表1−6のように公表され、さらに1959年10月20〜21日にはハンホードで再処理シンポジウムが開催されたのもその現われである。

表1−6 アメリカにおける再処理施設とその分担



 この計画では各プラントでは大なり小なり拡張工事を行ない、溶媒抽出工程についてはいずれも既存のものを用い、動力炉燃料を取り扱うための施設として、たとえば輸送、容器浄化、貯蔵、前処理工程に関するものが付け加えられることになっている。拡張されたHanford、ThorexおよびMetal Recovery Plantは小規模な多目的工場に匹敵し、1961年末までには完成するといわれる。しかしながら、このような米国原子力委員会(略称AEC)の計画は後述のIRG調査の見通しが判明するまで一時中止されているといわれる。米国の再処理事業に対する民間業界の動きが注目されていたが、昨年 Commonwealth Edison Co.などの5大電力会社とDavison ChemicalCo,Divisio of W-R.Grace & Co.からなるIndustrial Reprocessing Group(省略IRG)が結成され(表1−7参照)、1959年12月から約6ヵ月間民間再処理工場の設計、建設、運転について技術上、経済上の可能性が調査検討されている。この計画にはAECの経済的援助は与えられないが、検討に必要なデータはAECから入手できる。経済的な可能性については、AECは現在使用済燃料の再処理サービスに対する料金を16,260ドル/日(表1−8参照)としているので、IRGではこの数億を基準として検討することになろう。1957年のAEC多目的工場(仮想)による再処理サービス料金設定の際は、民有再処理工場の実現が見られなかったが、再処理技術の進歩した現在、このIRGの計画は再処理事業が商業ベースにのりうる可能性が大として非常に注目を集めている。

表1−7 Industrial Reprocessing Group(省略IRG)メンバー会社


表1−8 いろいろな燃料に対するAEC再処理料金

 イギリスにおいても民間動力炉およびイギリスが海外に建設した動力炉からの使用済燃料を再処理するため新しい再処理工場建設が計画されている。

 このように世界各国において、運転、建設および計画中の再処理工場について要約すると次のようなことがいえよう。

1)大部分の工場はパイロットプラント(研究−生産両用を含む)であるが、Windscale Plant(イギリス)、Savannah River Plant(アメリカ)、Marcoule Plant(フランス)などの本格的な生産工場が操業されている。
2)再処理工場として多形式の燃料を処理しうる多目的化が最近の傾向である。既存のものではICPPが多目的工場といえるものであり、またオークリッジやハンホードの工場も多目的化されつつあり、一方計画中のユーロケミクでも多目的計画をたてている。
3)天然または低濃縮燃料を処理対象としており、その主分離工程は溶媒抽出法であり、その方式はPurex法またはPurex法類似型を採用している工場が多い。
4)大部分の工場は保守方式として直接保守法を採用している。
5)調査の段階ではあるが、民間業界としてIRGグループが結成され民有再処理工場建設の動きが活発になっている。

(付)プルトニウム燃料開発の現況

 核燃料資源の完全利用に通ずる道として、また濃縮ウランの代替物としてプルトニウム燃料は重大な意義を持っているので、最近各国とも鋭意研究を行なってきているが、現在まだ実用化されているとは言いがたい。

 プルトニウム金属は固体として五つの変態点があり、熱膨張に対し寸法の安定性がない。また溶融点が低く熱伝導率がきわめて低いことは比出力の増加を限られたものにしている。このためプルトニウム金属をそのまま動力炉に用いることは不適当であるので合金、酸化物、その他の耐熱性プルトニウム化合物が研究開発されている。プルトニウムを含んだ燃料の製作上ウラン燃料の場合と異なる点は、はるかに毒性が強いことおよび低プルトニウム含有燃料体を開発しなければならぬことである。

 合金燃料中最も開発されているものはPu-Al合金で、ハンホードの燃料加工パイロットプラントではこの合金の製造が半連続的に行なわれ、1時間に1kgの割合で8.25(w/o)のPu合金が生産されている。この施設は種々の型のプルトニウム燃料を開発して実験炉に供し、またプルトニウム燃料の商業ベースでのコスト評価をするために拡張され、1960年に完成する予定である。

 その他の合金としてはPu-U、Pu-U-Mo、Pu-U-Fissium、Pu-Th、Pu-Fe、Pu-Zr等が、酸化物ではPO2、PuO2-UO2、PuO2-ThO2、PuO2 サーメット等が研究されており、その他の耐熱性プルトニウム化合物では炭化物、窒化物、ケイ化物等について研究がなされている。

 プルトニウム燃料の使用法には大別して2方法あり、一つは熱中性子炉で、他は高速中性子炉で使用する方法である。プルトニウムの核的性質からみれば、熱中性子炉燃料としてはややウラン-235に劣るが、高速炉燃料としてははるかにすぐれている。アメリカの Los Alamos Fast Reactor は1946年臨界に達したが、これは世界最初のプルトニウム燃料を装荷した高速中性子炉であった。この燃料はステンレス鋼被覆のプルトニウム金属が用いられたが、燃料棒の欠陥により冷却材を汚染したので1953年解体された。Experi-mental Breeder Reactor IIは1960年運転開始の予定であり、最初の燃料はプルトニウムを含まないがこれを高温冶金法で再処理した20%プルトニウム含有合金が次いで装荷されることになっている。Los AlamosMolten Plutonium Reactor Experiment-1は現在建設中で、燃料は溶融Pu-Fe合金でタンタルのカプセルに入れられる。ソ連のBR-1 Reactor は高速中性子研究炉で1955年、BR-2は1956年運転開始され、燃料はプルトニウム棒である。BR-5は最近建設され、その燃料要素は焼結酸化プルトニウムをステンレス鋼管に装入したものである。1954年イギリスの Zero EnergyFast Reactorはプルトニウム棒とウラン棒燃料で臨界に達し、高速中性子系の研究が行なわれている。

 熱中性子炉ではカナダのNRX Reactorに1951年若干のプルトニウム燃料がスパイクされ、この試験は現在まで続けられ、3種のPu-Al合金の燃料が開発中である。アメリカのMaterial Testing Reactorでは1956年プルトニウムの高次アイソトープをうるため若干のPu-Al合金燃料が使用され、1958年Pu-Al合金燃料のみで運転された。この炉はその前まで濃縮ウランで運転されたものであったが、プルトニウム燃料を使用するに際してわずかに設計を変更したにすぎず、また運転操作もウラン燃料の場合と大差なかったと報告されている。この試験の結果、炉の燃料装荷にあって要求されるプルトニウムの量は核的性質の相違によりウラン-235より少なく、プルトニウム炉心の燃焼率は核計算から予期されていたように、同じ初期超過反応度をもつ高濃縮ウランの炉心の燃焼率より小さいことが確認され、また高出力、高中性子束運転というきびしい条件に耐えるプルトニウム燃料体の製作は可能であり、プルトニウムのように遅発中性子の割合が小さい燃料を用いて原子炉を高出力で安全に運転することができることがわかった。

 Plutonium Recycle Test Reactorは熱出力70MWの重水減速炉で、反応度と長期照射時のプルトニウムアイソトープの効果、プルトニウム燃料装荷炉の安全性、プルトニウム燃料要素の放射線損傷、種々な燃料サイクル型式の経済性等を検討するために建設され、1960年に運転が開始される予定である。当初の燃料は天然酸化ウランとPu-Al合金のスパイク燃料が予定されているが、その後はプルトニウムで均一に濃縮された燃料が使用される計画である。

 またイギリスのZero Power Thermal Reactor Experimentの燃料要素はPu-Al合金である。

第2章 わが国における原子炉開発と再処理

 わが国の原子炉開発は、昭和32年12月18日原子力委員会で決定された「発電用原子炉開発のための長期計画」に沿って進められている。すなわち、原研用原子炉として日本原子力研究所に建設されたウオーターボイラー型原子炉(50kW)は過去2ヵ年半良好な運転が行なわれており、続いて建設されているCP-5型原子炉(10Mw)は昭和35年度の上期に、天然ウラン重水型の国産1号炉(10MW)は昭和36年度の中ごろに、それぞれ運転される予定である。

 また動力炉開発計画の一環として低濃縮ウラン軽水型の動力試験炉(電気出力12.5MW)の建設計画が具体化されている。さらに発電用動力炉としてコールダーホール改良型原子炉(電気出力166MW)の設置が昭和34年12月14日許可され、本格的な原子力発電にその第一歩が踏み出された。

 現段階における動力炉は天然ウランまたは低濃縮ウランを燃料とする非増殖型炉であるが、将来の動力炉としては資源の面からまた経済の面からわが国の原子炉開発の長期目標として増殖型原子炉が重視されており、日本原子力研究所においては水性均質炉系、高速中性子炉系および半均質炉系の開発研究が進められている。

 このような原子炉開発の具体的進展に伴い、炉の運転によって生成されるプルトニウムおよび減損ウランを再処理によって回収しこれを再使用するいわゆる燃料サイクルに関する技術開発が、わが国の原子力開発の重点の一つとして取り上げられるようになってきた。

 燃料サイクルの前堤としては、使用済燃料の再処理およびプルトニウム燃料の開発が重要であるので、米、英、仏の先進国では生産兼研究用の再処理プラントから得られるプルトニウムを利用して、鋭意プルトニウム燃料の研究に力を注ぎ、その実用の可能性を検討中である。このため、いくつかの臨界実験装置や研究炉が建設され、特に米国では、大きなプロジェクトとして集中的努力がなされている。

 世界における再処理技術の現状と動向は前章に概観したとおりであり、当初軍事用プルトニウム獲得のために育成された原子力先進国の再処理は相当な発展を遂げ、すでに2、3の方式は工業的方式として確立され、かなりの規模の工場が運転され実用されている。さらにその技術改良を図るとともに、新しい炉型、燃料の型式に対応する新方式の開発が進められている。

 また欧州経済協力機構(OEEC)の欧州原子力機関(ENEA)では、1959年7月、共同企業としてユーロケミクを設立してベルギーのモルにパイロットプラントを建設し、1961年以降研究炉および試験炉から取り出される使用済燃料を再処理する計画を進めている。このパイロットプラントは将来欧州で開発される原子炉の使用済燃料を処理する大プラントの先駆として計画されたものであるが、その基本的な考え方は再処理技術開発の動向に大きな示唆を与えるものといえる。

 このように、海外においては原子力の平和利用の進展につれて、その一環として再処理、プルトニウム燃料の開発が大きくクローズアップされるに至った。

 一方、米国原子力委員会においては、再処理事業は経済的に民間企業が実施できる段階に到達しているとの観点のもとに、近い将来、民間原子炉から取り出される使用済燃料の再処理は民間企業が実施することを期待しており、これに対して前述のとおりIndustrial Reprocessing Groupにおいて目下その技術上および経済上の可能性に関し検討を進めている。わが国において目下建設が決定している原子炉から取り出され再処理を必要とする使用済燃料は、表2−1に示すとおり昭和41年において約60トンであるが、原子炉開発の発展に伴い昭和41年以降この量は飛躍的に増加することが予想され、これらの使用済燃料の再処理は、将来経済的にもまた外貨節約上の見地からも、国内において行なうことが要求されることとなろう。

 わが国の原子炉開発においても再処理の研究開発は大きなウェイトがおかれて進められており、すでに日本原子力研究所においては、現在先進国において実用されている溶媒抽出法、また将来有望視されているフッ化物蒸留法、高温冶金法に関する基礎研究を継続的に行なっており、昭和36年度には工学汎用のホットケーブを建設して再処理の工学的研究を実施する計画である。

表2−1 現在建設予定の原子炉からの要再処理燃料の見込量


表2−2 同要再処理燃料中のプルトニウム生成見込量



 これらの研究の推進により基礎的な技術はレベルアップされることが期待できるが、さらに臨界性、高放射能下の操業等再処理の特質にかんがみ、再処理技術を確立するためには適切な規模のパイロットプラントを建設し、一連の連続操作による試験を行なうことが望ましいものと考えられる。このパイロットプラントは、現在わが国において建設が決定している原子炉から取り出される使用済燃料を国内において処理することを可能にするとともに、再処理にたずさわる技術者および操作員の養成訓練に大きな効果をもたらすほか、その運転に伴って得られるプルトニウムは、わが国のプルトニウム燃料開発の上に重要な意義をもつであろう。

 一方少量の研究用プルトニウムは、日米原子力協定に基づいて精製したものを入手することができるが、燃料加工試験用のプルトニウムはかなり大量となるので使用済燃料を再処理して取得せねばならない。もちろん日米、日英の原子力協定においては、わが国の使用済燃料から得られるプルトニウムは優先的にわが国の平和利用計画に確保することができるわけであるが、パイロットプラントが稼働すれば、必要な時、必要な量を入手することができ、プルトニウムの利用技術の進展に大いに貢献しうるのである。

 以上の諸点から、再処理パイロットプラントの建設を目標として早期に計画をたて、効率的にその具体的計画を推進することが望ましい。

第3章 わが国に建設するパイロットプラントの基本的な考え方

 第2章において、わが国で再処理技術を確立しプルトニウム燃料の研究を促進する上にパイロットプラントを建設、運転することがきわめて望ましいことであり、その実現へ努力する必要があることを述べた。しかし再処理技術に関してはまだ不確定な要素もあるので、今後調査検討すべき事項があるが、現在時点でパイロットプラントの具体的内容を列記すれば次のとおりである。

3−1 目   標
 使用済燃料の再処理は一般の化学工業と全くおもむきをことにしており、臨界性、高放射能下の操業、放射能汚染等の特質があり、再処理技術の確立には連続装置の運転、計装、遠隔操作、臨界管理などの技術を修得するためパイロットプラントによる操業が欠くべからざるものである。また再処理工場における操業の安全を確保するためには高度の知識、綿密な注意力および的確な判断力を必要とするので、連続運転のできるパイロットプラントにより再処理に携わる技術者および操作員の養成訓練をはかっておかねばならない。

 さらにプルトニウム燃料の研究開発は燃料サイクルの面から強く要求されているので、その推進にあたっては必要な量および組成のプルトニウムを必要な時期に国内において供給できる態勢を整備することが望ましく、このためにはパイロットプラントの建設運転が大きな役割を果たすことが期待される。このようにわが国に建設するパイロットプラントは国内で取り出される使用済燃料を対象として、再処理技術の確立、技術者の養成および研究用プルトニウムの供給を目標とし、わが国原子力開発の一環として重要な意義をもつものである。

3−2 規   模
 パイロットプラントの規模は再処理操業の工業化試験を一貫して行なうに十分な設備を有することが要求される。その具体的内容は採用する処理方式を定め、細部にわたる検討を進めた上で決定されるべきであるが、諸外国における例からみて、おおよそ1日処理量200〜500kg程度の天然または低濃縮ウラン燃料を処理する能力を有する規模が適当であろう。

3−3 方   式
 パイロットプラントはさしあたりJRR-3および第1号動力炉に装荷される天然ウランを対象とするが、将来はさらに低濃縮ウラン型炉の燃料もその対象とすることができるいわゆる多目的プラントに適する再処理方式を採用することが望ましい。これには諸外国ですでに実用段階にある溶媒抽出法が適当であると考えられる。溶媒抽出法としてはPurex法、Redox法、Butex法などの方式のいずれを選ぶかは十分検討を要するが、ユーロケミクではその廃棄物量の少ないことや除染率の高いことなどからPurex法を推奨していることは大いに参考にすべきである。なおフッ化物蒸留法、高温冶金法は将来の再処理方式として有望視されているが、まだ開発の途上にあり、技術上の解決すべき問題も多いので今後基礎研究を推進する必要はあるが、パイロットプラントに採用する段階に達していないとみることが妥当であろう。

 工場の保守方式に関してはパイロットプラント規模のものは直接保守が適当と考えるが、遠隔保守の技術習得のため部分的には遠隔保守の併用も必要であろう。

3−4 範   囲
 再処理の範囲には燃料の脱被覆、溶解、主分離、ウランおよびプルトニウムの精製、廃棄物処理等を含むが、前処理工程は2〜3種類の燃料要素を処理しうるよう計画されることが望ましい。またこのパイロットプラントから相当量のプルトニウムおよび減損ウランが生産されることになるので、将来その金属あるいは酸化物への転換工程の付置等を考慮する必要がある。さらに核分裂生成物中から長半減期のストロンチウム-90、セシウム-137等を分離すれば、これらアイソトープは有用物質として役だち、また廃棄物処理が容易になる可能性があるので、その分離工程の付置も今後検討されるべきであろう。

3−5 設備時期
 パイロットプラントの建設には予備設計に1年、本設計およびその審査などに1.5年、建設に2年のほか予備設計着手前の調査1.5年程度、計6ヵ年が必要であると予想される。建設の時期は主要な対象である第1号動力炉から取り出される使用済燃料の利用可能の時期を考慮して決めるべきであろう。

 日本原子力研究所に設置されるホットケーブは昭和37年度からホットの試験を開始する予定であり、昭和38年度に一応の成果が得られる予定となっている。その試験をできるだけパイロットプラントの計画に活用することが望ましい。

3−6 設計建設
 ユーロケミクのパイロットプラントの設計、建設には米国から技術資料の提供および技術者の派遣を受け、再処理工場の設計にあたるもようである。わが国としては日本原子力研究所において37年度からホットケーブによる基礎研究が行なわれるが、これと並行してパイロットプラントの予備設計の検討を行なうために海外の技術調査を実施することが望ましい。

 パイロットプラントの設計建設には日本原子力研究所における基礎研究の成果を取り入れることはもちろんであるが、さらにさきに述べたように再処理技術には多くの技術上の問題があり、再処理操業の安全性確保の面から、また投資の効率の面からみても先進諸国から技術導入を行なうことが適当と考えられる。しかしパイロットプラントの建設にあたっては国内技術でまかなわれるものも多いと考えられるので、最大限にこれを活用することを考慮すべきである。

3−7 建設費および直接操業費
 パイロットプラントの建設費等については資料が十分でないので明確に算定しがたいが、米国原子力委員会が発表した仮想多目的再処理プラントの建設費および直接操業費ならびにMITグループが試算したスケールアップ係数から推算してみると次のようになる。建設費は、天然ウラン使用済燃料300kg/日の処理能力の場合、だいたい30億円ないし40億円程度が必要であると見込まれるが、パイロットプラントに付帯する研究施設の規模によって、その建設費はかなり変動すると考えられる。年間直接操業費は約3億円程度が必要と見込まれる。もちろん、パイロットプラントは必ずしも全操業を行なう必要はなく、その運転の方式によって経費がいちじるしく異なるのはいうまでもない。

第4章 再処理に関する基礎的技術の開発

4−1 基礎研究の推進
 原子力開発の一環として再処理の研究開発を進めるにあたって、再処理技術に関連する基礎研究を推進することは国内の技術レベルを高めるためにまた将来の発展のためにきわめて重要なことである。再処理に関する基礎研究は、日本原子力研究所において溶媒抽出法を対象として、コールド試験を経てホットの研究に発展する計画が進められている。このような研究と並行して、将来有望視されているフッ化物蒸留法、高温冶金法等の研究が、今後開発される原子炉との関連において強力に推進される必要がある。

(1)溶媒抽出法
 溶媒抽出法は前にも述べたとおり、欧米においては実用の域に達し、現在では装置の改良または適用範囲の拡大に研究の主眼が向けられており、かなりの報告が発表されているが、わが国においては未経験の分野であるため、核分裂性物質、核分裂生成物等の性質、再処理の主要工程に対する基礎的研究を行ない、基礎的データを積み上げるとともに、新しい溶媒抽出方式の開発を推進する必要がある。
(2)ホットケーブにおける工学試験
 わが国で特に欠けている分野の一つは、高放射能下における工学である。これに対しては、日本原子力研究所において、工学試験用ホットケーブを建設し、さしあたり表4−1に示すように溶媒抽出法の工程試験を行ない、関連する機器、計器、分析等の研究を進める計画である。すなわち、主要工程を分割して実験できるホットケーブを36年度に、同付帯施設を37年皮内に完成する予定であり、38年度にはJRR-3の使用済燃料の一部を試料として本格的な実験が開始されることになっている。
 これら一連の工学実験は既存の溶媒抽出工程の簡素化、装置の改善に寄与するばかりでなくホットの技術を修得するにも重要であるので、さらに強力に推進されることが望ましい。
(3)その他の処理方式
 溶媒抽出法以外の再処理方式、たとえば、フッ化物蒸留法、高温冶金法などについては技術的に困難な問題が多く、欧米においてもまだ研究開発の途上にある。わが国においてもこれらの方法の将来性にかんがみ、その原理、方法、技術に関する基礎研究を積極的に推進すべきである。

表4−1 ホットケーブ関係施設建設のタイムスケジュール

4−2 分析技術の開発
 再処理工場を維持するにあたり、(a)一定運転条件の保持、(b)核分裂性物質等の計量、(c)核的安全性の保持、(d)製品の品質管理、(e)運転上の難点の発見や運転条件の改良などの完全な管理は厳正な日常分析が円滑に行なわれて初めて達せられるものである。
 このような分析管理には外国の実例に見るように(表4−2参照)多種多様な分析対象および分析方法が要求されるばかりでなく、特に高放射性物質を取り扱うため、他の一般工場における分析管理と著るしく異なる考慮が必要とされるので、分析技術の確立と分析要員の養成は再処理技術を開発するにあたり重要なものの一つである。

表4−2 日常分析の必要な工程、成分、分析方法(ユーロケミク案)




表4−3 人員配置の比較

 現在わが国においては、再処理工場におけるような高放射線下の試料採取ならびにその分析の技術に関する経験はほとんどなく、再処理分析関係の技術的・人的な基盤は皆無といってよいであろう。したがって早期にかつ計画的に分析技術の開発を進め、ホットケーブにおける研究が本格化する段階においてはそのための分析技術を確立しておかねばならない。

 さらにパイロットプラント建設までにはホットケーブにおける分析および海外における訓練計画を通じて、ぜひとも分析管理技術を確立し分析要員を養成することが必要である。

4−3 海外の調査
 再処理技術開発に関する具体的計画を最終的に決定するにあたっては、現在再処理技術を持たぬわが国としては、まず世界における再処理技術の現況とその動向とを総合的に把握し分析しなければならない。このためには文献による調査検討、海外の専門家の招聘等と並行してなるべく早い機会に再処理技術に関する調査団を海外に派遣し、各国の実態を具体的に調査する必要がある。

4−4 技術者の養成
 パイロットプラントの操業には、表4−3にあるように、普通の化学工業に比較して、分析、保健物理、保守および研究部門に特に多くの専門的な技術者をさかねばならないので、その数はかなりの人数になるものと予想される。

 さらにパイロットプラントの操業には、すでに述べたように強放射線の制御という特殊条件があるため、保健上、技術上、工場の安全運転の観点から特別の熟練と十分の経験が要求される。したがって早期に技術者をホットケーブによる試験に参加させて十分ホットの経験を得させるほか、毎年相当数の技術者を海外の再処理プラントへ派遣して訓練を受けさせることが必要と考えられる。

(付) プルトニウムに関する研究の推進

 プルトニウムの平和利用は、目下のところ中性子源としてあるいはフィッションチェンパーとしての利用があるが、プルトニウムは燃料サイクルの面から核燃料として使用されることが本命であり、先進諸国では強力に研究が進められている。

 プルトニウム燃料の開発には、(a)物理的、化学的諸常数の測定、(b)分離、精製、分析の研究、(c)取扱技術の確立、(d)燃料の加工およびその照射試験、(e)プルトニウム燃料を使用する原子炉の開発等、きわめて広い分野にわたる研究開発が必要である。

 日本原子力研究所においては、昭和34年度においてJRR-1を使用してμg量のプルトニウムをつくり化学研究に着手しているが、35年度にはプルトニウム専用の研究室を設けてmg規模でプルトニウムの分析、分離の研究および核的諸性質の検討を行なうことになっている。

 昭和38年度には工学試験用ホットケーブによりJRR-3使用済燃料の処理試験が行なわれ、これによりg量程度のプルトニウムが得られるので、プルトニウム冶金の研究が可能となると見込まれる。

 さらに本格的なプルトニウム燃料の加工、照射試験をはじめ各種の研究を行なうためには、総合的な研究開発計画を早期に樹立し、これに必要な多量のプルトニウムの供給源を確保しておかねばならない。