放射線医学総合研究所昭和35年度業務計画

 はしがき

 32年7月に発足をみた放医研は、その後着々と建設に、また研究準備に鋭意努力を続けてきたが、34年7月千葉市の新庁舎に移転を完了し、ようやく業務開始の基本的体制ができあがったのである。さらに35年度においては新たに技術部、病院部の2部を設けて11部とし、研究施設としてはRI棟、病院、東海支所、ベータトロン、ヴァンデグラーフ、またわが国はじめてのヒューマンカウンター等の完成が見込まれ、ここに人員の増強と相まってますます内部的充実をみ、いよいよ研究業務が本格化する機運になってきた。

 将来の原子力平和利用の健全な発達をはかるためには、その障害の予防対策に万全を期することが要求され、国際的にも国内的にも大きな関心が寄せられており、また放射線の医学的利用に対する期待も非常に大きく、「放射線と人体」という未知の領域に取り組む当放医研の使命はまことに重大である。

 しかしながら、この使命に応えうるにはまだ十分な体制を擁しているとはいいがたく、しかもなお、本年度は建設計画もその途上にあり、研究所の整備と体制の強化は依然として本年度の重要な問題である。

 また、放医研業務の一つである養成訓練業務についてはすでに旧年度その第1回を終了したが、本年度もほぼ同様の課程を実施する予定である。

 他方国内的要請から、現在全国的に実施されている放射能調査業務についても、放医研はそのセンター的存在となりうるよう整備し、あわせてこれを研究面に活用すべく運営していかなければならない。

1.研   究

 研究業務は放医研業務の中核をなすものであって、すでにはしがきの項において述べた使命を考えるならば、その課題の解決に必要な研究テーマを重点的に取り上げて計画をたてなければならない。

 この目的を達成するため本年度から総合研究課題と各部研究課題とにわけ、前者については国際的、国内的事情、研究体制などを勘案して、最大許容量に関連する基本的研究に重点をおき、日本人の食生活等の特殊性にかんがみ、特に栄養と放射線影響の関係および低線量による突然変異の発生率の2点に着目し、必要に応じて各研究部を総合した研究班を設けてこれを実施する予定である(また14Cに関する研究および緊急時対策に関する研究については、ともに課題の重要性にかんがみ、まずその問題点の所在を明らかにする段階にあるので、これらに関連する事項を調査し、今後の研究方向を検討する方針である。

 後者の各部研究は、放医研に課せられた業務である。放射線による人体の障害ならびにその予防、診断および治療に関する研究および放射線の医学的利用に関する研究を遂行するために必要不可欠なものであって、これらの研究の成果なくしては前に述べた総合研究課題の解明も達成できないのである。

 これらの研究を遂行するにあたっては、従来当研究所の企画にみられなかった各分野の総力を結集した研究会も開催し、当研究所以外の当該研究者よる知見の交流をはかる方針である。

 以上の研究方針に基づき、35年度の研究課題の大綱を示せば次のごとくである。

 研究課題
I.総合研究課題
 I)日本人の最大許容量に関する基本的研究
  a)放射線による影響と栄養に関する研究
  b)低線量による突然変異発生率の研究
 II)14Cに関する研究
 III)緊急時対策に関する研究

II.各部研究課題(研究内容については付録1参照)
 IV)放射線の測定に関する研究
  a)γ線用Back ground counterの研究(物)
  b)ラドン測定器の研究(物)
  c)ヒューマンカウンター建設に関する研究(物)
  d)吸収線量の測定に関する研究(物)
  e)電子阻止能の研究(物)
  f)熱量計によるX、γ線の吸収エネルギーの研究(物)
  g)2次線に関する研究(物)
  h)Critical organの防護法の研究(物)
 V)放射性核種の分析、定量に関する研究
  a)分析法に関する研究(化)
  b)生体内成分元素分析の研究(化)
  c)4H、14Cの測定(環)
  d)食品中(主として90Sr)の定量(環)
 VI)放射線障害に関する研究
  a)基礎的研究
   i 生体構成物質、コロイドに対する放射線の作用(化)
   ii 核酸、酵素に対する作用(化)
   iii 細胞の感受性に関する研究(生物)
   iv 代謝に対する放射線の作用(生物)
  b)組織、臓器への影響
   i 生殖機能に及ぼす影響(生病)
   ii 胎児に及ぼす影響(障害)
   iii 造血臓器に対する影響(障害)
   iv 障害曲線の実験的研究(障害)
   v 消化器系、神経系の機能的影響(障害)
  c)脱発効果
   i 発癌と寿命の短縮(障害)
  d)遺伝に関する研究
   i 突然変異誘発に関する研究(生物)
   ii 集団中の突然変異遺伝子の推移に関する研究(生物)
  e)放射線障害の防護剤
   i 障害に対する高分子物質の作用(障害)
   ii 予防薬の合成および薬理(障害)
   iii 放射性物質の除去、沈着防止(障害)
   iv 生体からの抽出(防護剤)と薬理(障害)
 VII)放射線の食物連鎖に関する研究
  a)放射性物質のecological study(環)
  b)放射性粉塵による影響(環)
  c)放射性物質の動向に関する研究(環)
 VIII)放射線による障害の診断、治療ならびに医学的
  利用に関する研究
  a)診断と治療
   i ビキニ患者の検査(臨)
   ii 治療患者の骨髄細胞に関する研究(臨)
   iii 白血病発生頻度に関する研究(臨)
   iv 骨髄移植の基礎的研究(臨)
  b)医学的利用
   i シンチスキャニングによる早期診断(臨)
   ii 悪性腫瘍の治療に関する研究(臨)
   iii ガラス線量計による測定(臨)

2.養成訓練

 本年度は、前年度末に実施した第1回放射線防護短期研修課程と同様の課程を2回実施すべく予算上措置されているが、これが実施にあたって前年度の経験を十二分に生かし、所期の目的達成に遺憾なきを期したい。すなわち、ラジオアイソトープ実験棟をはじめ、関連施設の完成と機械設備の整備および研究所員の増加により、所内における協力体制の強化をはかり、教科課程の飛躍的な充実を予定している。

 一方これに伴い次年度以降に予想される放射線防護長期研修課程あるいは放射線医学課程等に関し、具体的に実施計画を立案検討することも本年度の課題である。

3.建   設

 本年度の研究施設の建設は、病院、東海支所の建設をはじめとし、既存設備の整備、付属施設の充実(別表第2参照)等多方面にわたっている。

 かくてわが放医研の当初建設計画は一応充足する予定であるがさらに将来計画として各種施設について考慮する必要がある。

4.昭和35年度予算の概要

 昭和35年度放医研歳出予算の総枠は702,090千円が計上され、前年度583,187千円に比して118,903千円の増となった。ちなみに放医研発足以来の支出予算総額ほ4ヵ年合計1,998,183千円となり(別表1参照)、うち建設費は全体の47%(約985,000千円)、試験研究用機械器具購入費は約32%(約642,000千円)である。

 35年度予算の主要事項は以下に述べるが、当該予算の特色はまず第1に前年度完成のラジオアイソトープの実験棟などの研究施設、すでに購入済の試験研究用機械器具を使用する本格的研究体制をさらに推進させるため、研究者その他の職員の充足、試験研究用機械器具のよりいっそうの整備をはかり、第2に前年度国庫債務負担行為として計上された(140,000千円)病院棟および関連施設ならびに単年度予算で計上されたヴァンデグラーフ横、動物舎等、その他施設の建設を続行し、第3に病院棟の年度内完成により36年1月から病院業務を開始する。第4に東海支所の施設完成による運営の経費がみこまれたこと、第5に34年度その第1回の課程を開設した養成訓練事業が新年度には放射線防護短期研修課程を2回実施することとなったこと等である。

 なお、付属病院の開設に伴い入院外来患者収入として予想される歳入予算2,349千円が計上されたことも、本年度の特色として考えられるところであろう。

(1)組織および人員
 組織については、技術部、病院部が新設され、このほか研究部各室および管理部にそれぞれ若干名が増員されるが、その内訳は下表のとおりである。


(2)研究費 282,078千円
 研究費を便宜上研究用庁費と試験研究用機械器具購入費に大別してみると、まず研究用庁費については、前年同様研究者1人あたり年間365千円、計33,307千円が計上され、これには研究に必要な器具費、図書購入費、文具費、燃料費、消粍器材費、印刷製本費、光熱水費、通信費等が含まれている。

 試験研究用機械器具購入費は、東海支所の19,883千円を含めて総計248,771千円が計上され、ヴァンデグラーフ、マススペクトロメーター、X線用エネルギー分析器、電子スピン共鳴吸収装置、分析用超遠心機等の研究用機器類を含む。

(3)養成訓練事業
 放射線による人体の障害の予防、診断および治療ならびに放射線の医学的利用に関する技術者の養成訓練を行なうことは、放医研の3大事業の一つであるが、35年度ほ前年度の経験にかんがみ、放射線防護短期研修課程を2回実施することとなり、予算上は来年度(2,524千円)とほぼ同額の2,227千円が計上された。この内訳は講師謝礼金および旅費と庁費に大別されるが、前年度と同様教材用映画製作費1,455千円が今年度も計上されているほか、特に目だった変化はない。

(4)建設費 231,822千円
a)研究所施設費
 当研究所においてはリニアアクセレーター、シンクロトロン、サイクロトロン等の建設の一応の完成目標を昭和36年度としているが、昭和35年度において認められた歳出予算額は研究所施設費226,756千円であり、前年比30,882千円増となっており、昭和36年1月から開設される病院関係整備費が病棟建築のための国庫債務負担行為現金化分98,000千円を含めて全体の68%、廃棄物処理施設費が13%を占めるほか、施設費の詳細は下記のとおりである。

1. ヴァンデグラーフ棟 120坪
 18,507千円
2. 動 物 舎      80坪
 6,130千円
3. 病院関係施設費
 155,430千円
    内訳
    イ.国庫債務負担行為現金化分
 (98,000千円)
    ロ.病院内機械設備関係
 (55,726千円)
    ハ.看護婦宿舎(13人)48坪
 (1,704千円)
4. 廃棄物処理施設費
 31,084千円
    内訳
    イ.増設物建築費 30坪
 (2,216千円)
    ロ.特殊配管設備
 (786千円)
    ハ.中レベル放射性廃液処理装置
 (22,417千円)
    ニ.放射性屎尿処理施設
 (5,665千円)
5. RI棟設備費
 3,800千円
6. 2回線受電工事費
 8,798千円
7. 舗装植樹等雑工作物費
 2,927千円

b)研究所職員宿舎施設整備費
 1棟2戸建(20坪)5棟および東海支所において職員宿舎(12坪)1戸、研究員宿泊所(15坪)1戸、計5,066千円が認められた。

(5)その他
 以上のほか、予算上特に大きなものとしては、病院部門運営費86,332千円があげられる。これは昭和36年1月から病院を開設し、36年度には100床として経営する予定であるが、35年度において50床としこれの初年度調弁費、医療費2,182千円、患者食糧費、医療機器整備費79,273千円等を含むものである。

 また、研究活動の進展に伴って増大する放射性廃棄物の処理に必要な経費が7,238千円、東海支所が35年度当初に完成するので、これが研究活動に必要な運営費が試験研究用機械器具購入費19,883千円を別にして2,936千円認められたほか、技術部門運営費、養成訓練部門運営費は前年度と大差ない程度が認められた。

別表1     放医研年度別、科目別予算総表


別表2     昭和35年度放射線医学総合研究所営繕等実施計画


付録1 各部研究課題

物理研究部

物理第1研究室
〔研究題目〕γ線用低バックグラウンドカウンターの研究

 〔研究内容〕小動物、食物、土壌その他に含まれる天然または人工放射性物質を化学的に分離抽出することなしに外部から測定できるγ線用低バックグラウンドカウンターを遮蔽材料、大型プラスチックシンチレーターの検出機能等の検討後試作中であるが、さらに宇宙線、NaIの中の40Kのβ線、光電子増倍管中の40Kのγ線、散乱2次線等の問題を検討する。(継続)

 〔研究頭目〕ラドンおよびその壌変生成物の測定法に関する基礎的研究

 〔研究内容〕空気中のラドンの壌変生成物の詳細な行動については不明な点が多いので、この点究明し、ラドンおよびその壌変生成物の測定方法の基本的資料とする。(継続)

〔研究題目〕ヒューマンカウンターの建設に関する研究

 〔研究内容〕ヒューマンカウンターの建設にあたって、当所に設置するものは国産の試作品であり遮蔽材料、使用部品等の性能に不明の点が多いので、製作段階において、これらの調査研究を行なう。なお引き続き種々の性能を検討し、人体内に存在する各種放射性物質の定量測定、核種の決定、位置分布の決定等の基礎的条件を確立する。(新規)

物理第2研究室
〔研究題目〕β、X、γ線の吸収線量の算定に関する基礎的研究

 〔研究内容〕放射線照射の際、生体組織が吸収するエネルギー(吸収線量)を物理的に算定することは各種放射線の医学的利用と放射線障害の基礎的研究にとりきわめて重要である。よってβ、X、γ線について吸収線量の実用測定方法を研究するため、生体組織等価物質および外挿電離槽を試作検討する。(継続)

〔研究題目〕媒質内における荷電粒子の阻子能に関する研究

 〔研究内容〕電子阻子能は吸収線量を算定するための重要な一因子であり、よって各種物質、特に生体および生体等価物質について電磁型β線分析器を使用し、単一電子線のエネルギー損失を測定、阻子能を算定する。(新規)

〔研究題目〕熱量計によるX、γ線の吸収エネルギーの測定に関する研究

 〔研究内容〕吸収線量の直接的測定方法として有用な熱量計による測定方法を開発する。γ線の熱的に十分遮蔽した恒温槽中の鉛、グラファイト組織等価物質などの吸収体に照射、その温度上昇から吸収線量を検討し、空洞電離中における電離価から算定したものと比較検討する。(新規)

物理第3研究室
〔研究題目〕施設による防護方法の研究

 〔研究内容〕診療用にX、γ線を使用したときの照射容器、照射口、被照射休、床、壁等から出る2次線の線質および線量を実験的に調査研究し、2次線防護方法、特に迷路の基礎資料とする。

 なお一方におい防護施設の実態を調査する。(継続)

〔研究題目〕放射線に対するCritical Organの防護方法の研究

 〔研究内容〕人体ならびにファントームを使用し、X線診療時の生殖腺被曝線量の測定を行ない、その防護方法の研究をする。
 なお、線量測定の基準とすべき測定器を試作し、これが検討を行なう。(継続)

化学研究部

化学第1研究室
〔研究題目〕放射線作用の物理化学的研究

 〔研究内容〕放射線の生体物質に対する効果をみるため炭化水素、アミノ酸等に放射線を照射し、化学的変化を分析によって調べ、またElectronSpin Resonance により中間生成物の種類、寿命、変化などを測定する。(継続)

〔研究題目〕放射線のコロイド系に対する作用の研究

 〔研究内容〕生体は高分子物質および低分子物質からなる複雑なコロイド系と考えられるので、そのモデルとしてゾル、ゲルなどのコロイド系をとりあげ、放射線の作用をしらべるが、まずゾルに放射線をあてて、その変化を電気泳動性、凝固性、粘度などについて調べる。(新規)

化学第2研究室
〔研究題目〕放射線作用の化学的研究

 〔研究内容〕放射線の生化学影響をレベルでとらえるために大腸菌を用い、紫外線およびX線照射後特に遺伝との関連性を考えられているDNA、RNA およびタンパク質の合或に対する影響を化学的性質、細胞内における核酸の分布ならびに性質の変化について研究する。(継続)

 なお、上記変化と被照射大腸菌の生理的現象(死、恢復、誘導変異の発現等)との関連について研究する。(継続)

 照射をうけた生体での一般的な生化学的変化は大部分その酵素活性の変化に帰せしめることができるがこの本質を研究するため酵素合成能力の変化に対する放射線の影響をしらべることが必要であり、適応酵素系をえらんでその生成と核酸系との相関関係を研究する。(新規)

化学第3研究室
〔研究題目〕放射性物質の分析法に関する研究

 〔研究内容〕核分裂生成物中、比較的半減期の長い核種を対象として放射性核種の分析を行なう。すなわち、Sr、Cs、希土類元素、Zr、Nb、Ru、α−放射体を分析法、イオン交換法、溶媒抽出法、炉紙クロマトグラフィ、電気泳動法を用いて研究する。(継続)

〔研究題目〕生体の各種成分元素の分析法および分析に関する研究

 〔研究内容〕放射性物質の人体に対する影響をしらべるためにはそれらの元素の非放射性同位元素の生体および環境における分布および輪廻を知る必要があり、まず人体各種臓器について発光分光分析法、放射化分析法を用いて行なう。(新規)

生物研究部

生物第1研究室
〔研究題目〕細胞構成或分および生物学的に重要なる五大分子に対する放射線の作用に関する研究

 〔研究内容〕Molecular Biology の見地から放射線の感受性を探求するため電子スピン共鳴装置を用い、水分含有量と感受性、保護物質投与と感受性の関係をRadicalの面から追求する。(新規)

〔研究題目〕放射線の細胞に対する作用に関する研究

 〔研究内容〕細胞の感受性が放射線の長期照射によって変化するかどうかを自然放射能の弱い場所、強い場所のサンプルについて根冠の細胞分裂異常から評価し、かつこれらのサンプルを照射した場合の染色体異常発生率の比較検討を行なう。(新規)

 系統学的にいろいろな種類の動物の皮膚、魚類および両棲類の卵の発生段階、原生動物の同調培養による細胞分裂の各段階での放射線感受性を形態学的、組織学的に観察研究する(電子顕微鏡を使用。)(継続)

生物第2研究室
〔研究題目〕放射線の代謝に対する作用の研究

 〔研究内容〕放射線障害の機構の解明の方法として生物体の代謝系の相関関係に着目し、放射線による代謝系中におけるCoenzymeの消長をみるため、マウス、魚卵等の組織についてその分離、定量を行なう。(継続)

 細胞分裂、核分裂、増殖、分化、タンパク合成等の生活機能を単独におこさせ、放射性同位元素を用いて放射線照射によりいかにその活性度が変化するかを知り、生体エネルギー系への放射線の作用を知る。本年度は炭水化物に関して行なう。(新規)

遺伝第1研究室
〔研究題目〕放射線による突然変異の誘発とその機構に関する研究

 〔研究内容〕放射線による突然変異誘発を抑制防止することに関連して誘発の作用後棒を明らかにするために、核酸類(RNA、DNA)が放射線による突然変異誘発率にいかなる影響を及ぼすかを純合成培地飼育のショウジョウバエを用い、致死突然変異を Muler-5 テストにより検出し解明する。(継続)

 また放射線の遺伝的影響に関する作用機構を解明するための基礎的研究としてショウジョウバエ野生型諸系統間ならびに系統間雑種における放射線成受性の差異と代謝面における差異との関連性について検討を加える。(継続)

〔研究題目〕放射線感受性の適応に関する研究

 〔研究内容〕生物における雑種強勢と放射線感受性の問題をバックグラウンドの弱い場所と強い場所の動植物を用いて遺伝学的に研究する。(新規)

遺伝第2研究室
〔研究題目〕生物集団における放射線による突然変異遺伝子の推移に関する研究

 〔研究内容〕生物集団中の劣勢遺伝子の推移ならびに集団の遺伝子構成の変動を数理統計学的に考察し、ショウジョウバエを材料に用いた場合の実験方針を計画吟味する。(継続)

生理病理研究部

生理学研究室
〔研究題目〕放射線の内分泌腺に及ぼす影響に関する研究

 〔研究内容〕副腎皮質、卵巣、睾丸等のin Vitro、in Vivo の実験条件下における放射線と Hor-mone 産生機能の変化および腫瘍発生の機序との関係に関し研究する。(継続)

〔研究題目〕雌性ラッテの生殖能力に及ぼす放射線の影響に関する研究

 〔研究内容〕放射線の雌性の生殖能力に対する影響を研究するため、まずマウスおよびラッテを用い生れる仔数に及ぼす放射線の影響を系統、照射の時期、特に線量との関係において研究する。(継続)

〔研究題目〕胎児に及ぼす放射線の影響に関する研究

 〔研究内容〕胎児は放射線感受性が高いが、ラッテを用い、妊娠5日目、10日目の親ラッテに数種の適量のX線を照射し、生後の反射機能、甲状腺機能、生長、生殖能力について観察する。(継続)

障害基礎研究部

障害基礎第1研究室
〔研究題目〕造血臓器に対する放射線の作用に関する研究

 〔研究内容〕造血臓器の放射線障害を核酸代謝の変調という面から解析研究するためin Vivoの骨髄、脾、多種細胞群および単一細胞株の組織培養系の脂質代謝に対する(i)放射線の直接作用および(ii)被照射動物血清の作用について研究する。(継続)

〔研究題目〕血液に対する放射線の作用に関する研究

 〔研究内容〕放射線による細胞膜透過性の変化を脂質代謝の変動の面から研究するためin Vivoの骨髄、脾、外種細胞群および単一細胞株の組織培養系の脂質代謝に対する(i)放射線の直接作用および(ii)被照射動物血清の作用について研究する。(継続)

〔研究題目〕造血臓器に及ぼす放射線障害の様相に変化を与える高分子物質の作用に関する研究

 〔研究内容〕LD50程度にX線照射したマウスに動物性、植物性、細菌性ヴィールス、種々なる起源の核タンパク、その他有効と考えられる高分子物質を注射し、核酸代謝、脂質代謝、死亡率等にいかなる影響を及ぼすかを観察する。(新規)

障害基礎第2研究室
〔研究題目〕放射線による発癌と寿命の短縮に関する研究

 〔研究内容〕放射線による寿命の短縮について理論的(情報理論等による)に研究する。(新規)

 発癌性、急性照射感受性の異なるマウス2系統についてγ線を連続照射およびX線の1回照射を行ない、寿命の短縮と発癌についての実験に関する予備研究を行なう。(椎続)

 X線急性照射による障害曲線の実験的研究を行なう。(新規)

障害基礎第3研究室
〔研究題目〕放射線による生体の機能的影響に関する研究

 〔研究内容〕放射線被曝による早期症状(吐気、嘔吐など)に関し、ことに消化管への影響およびそれらの症状の発現照射によりこれを機能的面から研究する。(継続)

 神経系に及ぼす放射線の作用に関し、照射中および照射後における血圧、呼吸、体温、筋電図、EKG、ERG などを同時記録によって機能的変動を調べる。(新規)

薬学研究室
〔研究題目〕放射線障害に対する予防薬の合成および薬理研究

 〔研究内容〕芳香族および異環族Mercapiamineを合成し、これらの保護効果およびその結果からみた保護作用の生化学的解明に関する研究を行なう。(継続)

〔研究題目〕生体内放射性物質除去および沈着防止に有効なる薬剤の合成および薬理的研究

 〔研究内容〕長期微量沈着除去に関しchelateの合成および薬理、体内成分のbalanceの変化について研究する。また急性大量沈着除去に関しては、不溶性物質の形成化、非吸収化について研究する。(継続)

〔研究題目〕放射線障害に有効なる生体成分の抽出および薬理研究

 〔研究内容〕ラッテの脾臓から保護物質を抽出し、分析、薬理試験を行なう。(継続)

環境衛生研究部

環境衛生第1研究室
〔研究題目〕放射性物質による環境汚染の基礎的研究

 〔研究内容〕放射性物質の Ecological Study 137Csを対象とし、一般環境におけるCs及び137Csの測定を行ない、次に廃棄物中の137Csの水路系における動向を測定する。(継続)

 生体内のRaの測定に関する研究、ヒューマンカウンター設置後、日本人体内のバックグラウンド放射線を測定することを目標とし、特に夜光塗料取扱者および放射性物質含有温泉地帯少住者との比較を行なう。(新規)

環境衛生第2研究室
〔研究題目〕放射性粉塵の人体への影響に関する研究

 〔研究内容〕放射性粉塵の危害を研究するためには有効にして安全な発生装置と吸入実験装置を作成研究する必要があるが、本年は試作した装置の性能について検討し、さらにそれを発展させることとする。(継続)

〔研究題目〕労働環境における Bioassay に関する調査研究

 〔研究内容〕U工場の労働者のUの体内蓄積および排泄に関し調査研究する。

 なお Radial PainterのBioassayをも行なう。(継続)

環境衛生第3研究室
〔研究題目〕3H および14Cの資料の固定化に関する研究

 〔研究内容〕Liquid Scintillater Counterによる大気および陸水、海水中の3H、14Cの測定法に関し資料の固定化に関する有機化学的検討、測定器の性能テストを行なう。(継続)

 原爆実験および原子炉運転による自然界における14C、3Hの増加率および循環の調査研究の一部として生物体内の14Cの増加、循環について研究する。(新規)

環境衛生第4研究室
〔研究題目〕Foodchainにおける放射性物質の調査研究

 〔研究内容〕人骨、人体臓器および米、麦、その他食品中の放射性物質(主として90Sr)の定量を行なう。(継続)

〔研究題目〕Food chainにおける放射性物質の動向に関する研究

 〔研究内容〕Fod chain にしたがって放射性核種(主として90Sr、137Cs、131I)の土、農作物、水畜産物に摂取、移動する機構およびこれに及ぼす要因を実験的に研究する。(継続)
 哺乳動物を材料とし、種々の食品、または食品成分を90Sr、45Caで2重標識し、Sr-Ca差別率や、137C摂取に及ぼす影響の測定を行なう。(継続)

臨床研究部

臨床第1研究室
〔研究題目〕放射線障害の診断および治療に関する研究

 〔研究内容〕原爆被爆者およびビキニ被災者の後影響に関して血液学的、その他の検索のほかにヒューマンカウンターによる検査、骨髄機能検査等を行ない、総合的に観察研究する。(継続)

 ベータトロン、Co、Cs、X線等の放射線治療を受ける患者の被曝の影響を骨髄細胞の核酸タンパク、鉄等の代謝の研究を行なう。(新規)

 放射線と血液学的変化と線量との関係について純系マウスに種々の照射量で照射を行なって白血病発生の頻度の差を追求し、その骨髄被曝線量の測定について基礎的研究を行なう。(継続)

 骨髄移植療法を行なうための基礎的研究および諸種薬剤による各種放射線障害の防護および治療剤の臨床的応用を行なう。

臨床第2研究室
〔研究題目〕放射線およびアイソトープによる診断法の研究

 〔研究内容〕シンチスキャンニングによる癌、肉腫等の早期診断法の確定を行なう。(新規)

 甲状腺131I摂取率を種々の方法で比較検討し標準測定法を確立する。

 また簡易測定器の試作についても検討する。(新規)

 RIによる血液疾患の診断に関する研究を行なう。(新規)

臨床第3研究室
〔研究題目〕放射線およびアイソトープによる悪性腫瘍の治療法の研究

 〔研究内容〕高エネルギー放射線療法と在来のX線療法との比較検討を行ない。実験的、臨床的に治療効果を比較する。(継続)

 患者を対象として静注、腔内注、腫瘍内注薬、各種の方法を行ない、ラジオコロイド臨床的効果を追求する。(新規)

 ガラス針線量計による病巣線量の測定に関する研究。(継続)

 付録2 主要施設の概要
1)ベータトロン
 高エネルギーX線および電子線を用いる各種実験および医療用に短期間運転最高エネルギー35MeV、連続運転最高31MeVの性能を有するベータトロンを設置する。

利用研究部:物理・化学・生物・障害基礎・臨床

2)ヒューマンカウンター
 人体内に存在する微量のγ線放射性物質の量、核種の位置分析等を測定するため、わが国はじめてのヒューマンカウンターを設置する。

 大、小2鉄室からなり、小鉄室においてグロスカウンティング、大鉄室において精密測定を行なう。

 利用研究部:物理・環境衛生・臨床

3)ヴァンデグラーフ
 電子線、γ線、中性子線等の加速を選択的に行なうことができ均一エネルギーの放射線がえられる。電圧は3MeVである。

 利用研究部:物理・化学・生物・障害基礎

4)東海支所
 東海村に設置される東海支所は、本研究所に課せられた研究目的を達成するため、その研究の一部として、日本原子力研究所の原子炉を利用し研究を行なうための施設である。

 本支所において実施されるべき研究課題は次のごときものである。

   1)短命RIの投与、中性子の照射による生物の影響に関する研究
   2)生体および環境の各種成分元素の放射化分析に関する研究
   3)短命RIによる診断、治療ならびに中性子による治療の実験的研究

 利用研究部:化学・生物・障害基礎・環境衛生

5)病   院
 臨床研究部を中心とし、関係研究所の研究上の目的のために病院が建設され、全国大学病院、国立病院、病院診療所等からの絡介患者をうけいれる。対象となる疾病は、

 1)放射線による障害
 2)アイソトープ投与による治療、高エネルギー放射線等の外部照射による治療の対象となるもの
 3)アイソトープをトレーサーとして利用する診断およびエックス線の特殊撮影による診断の対象となるもの