わが国におけるウラン探鉱の現状

 

 わが国におけるウラン探鉱は、国内ウラン鉱床の資源的な見通しを早急に得るという方針のもとに、昭和29年度に原子力予算が成立すると同時に着手された。昭和29および30年度においてはとりあえずウラン鉱床に関する資料の収集、探鉱実施地域の選択、探鉱方法の検討等、一連の準備および予備的調査が行なわれた。昭和31年度において、さらに通商産業省工業技術院地質調査所の充実、原子燃料公社の設立等、調査開発機構の整備が行なわれ、本格的にウラン探鉱が開始されることとなった。以下に過去4年間のウラン探鉱の成果と、昭和35年度の探鉱計画の概要を紹介する。

§1.探鉱の方法とその分担

 ウラン鉱は原子力の開発で脚光をあびるようになった新しい資源であって、わが国においては従前はほとんどその賦存が知られていなかった。したがって、探鉱を実施するにあたっては、基礎的な調査から積み上げ、漸次調査の精度を高め、鉱床の地質学的および鉱物学的検討を進めて、わが国におけるウラン鉱の産状を解明することとした。探鉱方法としては、ウラン鉱は放射性鉱物であることから、主として放射能測定器を使用し、次に示す探鉱方法の組合せにより、組織的かつ能率的に探鉱が適められている。

(1)概  査

(イ)放射能強度分布概査
 この概査は飛行機に高感度の放射能測定器を積載して行なうエアボーンまたは自動車を走らせて行なうカーボーンにより放射能の強度の分布状況を調査して異常地区を見つけ出すものである。しかしこの調査では、少数の人員で短時間に広範囲の地域を調査できるが、ある程度の面積的広がりをもって放射能異常地区が発見されるだけである。このほか、地形が急峻で、飛行機、自動車の利用が困難な地区等については調査員が放射能測定器を携帯して放射能強度を調査するマンボーンも行なわれる。

(ロ)放射能異常地調査および鉱床調査
 前述の放射能異常が認められた地区に対しては、地質鉱床概査等を行ない、放射能異常の原因を調査する。また、鉱床の賦存が予想される地区に対しては、さらに地質鉱床概査、物理探鉱、地化学探鉱等を行ない、鉱床の概括的な状況を明らかにする。

(2)精  査
 概査の結果、有望と判定した地区については、物理探鉱、地化学探鉱、試錐探鉱により鉱床の概要を明らかにする。さらに相当の規模が推定される鉱床に対しては、坑道探鉱を行ない、鉱石の品位および鉱量を総合的に推定して将来の開発にそなえる。

 以上の探鉱において、概査は地質調査所、精査は原子燃料公社がそれぞれ担当しており、その実施にあたっては、緊密な連けいを保って探鉱の効率化を図り、わが国ウラン鉱床の実態を解明しつつある。

 なお、稼働している鉱山で放射能異常が認められる鉱山に対して前記の概査、精査の実情を勘案して探鉱補助金を交付して坑内探鉱を行なっている。

§2.現在までの探鉱概査

 昭和29および30年度における探鉱準備期間中に、民間探鉱家の手により鳥取県小鴨鉱山において、また岡山大学の手により岡山県三吉鉱山においてそれぞれウラン鉱物が発見され、さらに地質調査所が試験的に行なったカーボーン調査により鳥取・岡山県境の人形峠において基盤をなす花崗岩上の推積岩に放射能異常が発見された。特に人形峠地区におけるウラン鉱床の発見は、わが国においてもウラン鉱床として有望な鉱床型式である推積型鉱床が賦存する可能性があるということを示したものであって、探鉱の前途に明るい期待を持たせたものである。

 このような状況のもとに、昭和31年度から探鉱が本格的に開始されたのであるが、昭和34年度までに行なわれた探鉱の概要は次のとおりである。

(1)概  査
 地質調査所においては昭和31年度からウラン鉱賦存の可能性のある地域20万km2を対象として、エアボーン、カーボーン調査を行なうこととし昭和34年までに前号9ページの地図に示すように約10万km2のエアボーン、カーボーンを実施した。この概査において各地にウラン鉱物を含む鉱床が発見されたがこれらを大別すると次のとおりである。

(i)ペグマタイトに伴うものおよびその近傍に砂鉱をなして産するもの
 花崗岩中に不規則塊状または脈状をなして賦存するペグマタイトに伴うものおよびその近傍に風化作用等により推積したものであって、福島県水晶山および石川町、岐阜県苗木町、その他全国各地のペグマタイト中に数多く発見されている。
 この種のウラン鉱は一般に低品位であり、かつ量的にもあまり期待できない。さらにその賦存は不規則であって、採鉱に手数がかかるとともに、この種のウラン鉱物は一般に稀鉱酸に溶けがたいため多額の製錬費を必要とする等の理由により、ウランだけを目的としては資源的にもまた経済的にも開発の対象とすることは、目下のところ困難である。

(ii)金属鉱床に伴って産するもの
 一般に火成岩、変成岩、堆積岩中に脈状を呈して存し、金、銀、タングステン、モリブデン、マンガン等の金属鉱物鉱床中に産出され、全国にわたり多くの鉱山に発見されている。
 この種の鉱床においては、部分的に高品位の鉱石が発見されているが、現在までに発見された鉱床においては平均品位が低く、かつ鉱床の規模も小さく、ウラン資源としての価値は少ない。

(iii)堆積型鉱床をなして産するもの
 層状をなし、堆積岩中に産する。代表的な鉱山は人形峠鉱山および東郷鉱山で、このほか山形県東田川郡下、宮城県大内炭鉱等において放射能異常を伴う堆積岩が発見されている。現在までに発見された堆積型ウラン鉱は平均品位は0.1%以下であるが量的にまとまっており、鉱石は稀鉱酸にも溶けやすいので、資源的な価値が大きい。調査の進行に伴い、このように各種型式の鉱床の特性が判明してきたので、昭和34年度における概査の対象地域は堆積岩地域とし、特に陸成層、湖成層、潟成層等、淡水等の作用により生成された堆積岩を重点的に取り上げ概査を行なった。その結果、現在までに山形県砂川地区、新潟・山形県境金丸−小国地区、京都府宮津地区等において相次いで堆積岩中に放射能異常が発見されており、新潟・山形県境金丸−小国地区においては、かなり広範囲に含ウラン堆積岩の露頭が発見され、かつウラン鉱物が発見され、大きな期待が寄せられている。

(2)精  査
 原子燃料公社が現在までに精査した地区のうち、坑道探鉱を含む詳細な調査を実施した地区は鳥取・岡山県境の人形峠鉱山ならびに岡山県三吉鉱山、鳥取県倉吉鉱山および東郷鉱山、岐阜県黒川鉱山である。これらの鉱山のうち、三吉鉱山は昭和32年度、倉吉鉱山は昭和33年度、黒川鉱山は昭和34年度をもってそれぞれ探鉱を中止した。その理由は、これらの鉱山におけるウラン鉱は、いずれも金属鉱床に伴うものであって局部的には高品位のウラン鉱が発見されてはいるが、平均品位は低く、かつ鉱量の少ないことが判明し、経済的価値は少ないものと認められたためである。

 人形峠鉱山および東郷鉱山は、いずれも堆積型鉱床に属するもので、基盤の花崗岩の直上の堆積岩中にウラン鉱床は胚胎しており、特に堆積当時の基盤の凹所に富鉱部が存在する可能性の高いことが探鉱の進展により判明した。この含ウラン堆積岩は、前号10ページ地図に示すように、人形峠を中心とし、その東方および北方に広範囲にわたって分布しており、人形峠およびその東方の地域については人形峠鉱山として、人形峠の北方地域については東郷鉱山としてそれぞれ探鉱が行なわれている。

 人形峠鉱山および東郷鉱山ならびにその周辺におけるウラン鉱床の鉱量品位は、今後行なう精査の結果をまたなければ、的確には見積れないが、今までのところおおむね品位平均U3O8として0.06%190万トンと推定されており、その鉱石が製錬しやすい特性からみて、わが国におけるウラン資源として有望なものの一つである。

(3)探鉱補助金による坑内探鉱
 昭和31年5月公布された核原料物質開発促進臨時措置法に基づき民間鉱山に交付された探鉱補助金は次表のとおり合計約110,000千円にのぼっている。


 これらの稼働している鉱山では一般にウランはマンガン、タングステン、モリブデン等に随伴して産し、なかんずく岩手県野田玉川鉱山、宮城県新磐井鉱山、岐阜県恵比須および平瀬鉱山等は有名である。これらの鉱山においては、ウラン鉱は副産物として採取できるので、ウランの品位は低くても鉱石価値は大きいものと考えられる。

§3.昭和35年度の探鉱計画

(1)地質調査所が行なう探鉱
 35年度においては地質調査所は予算的42,000千円をもって、次の地域に対して概査を行なう計画である。




(2)原子燃料公社が行なう探鉱

 原子燃料公社は、昭和35年度において予算307,000千円をもって人形峠鉱山および東郷鉱山ならびにそれらの周辺地区の探鉱に重点をおいて精査する計画である。

(イ)人形峠鉱山およびその周辺地区
 現在までに、峠、夜次、赤和瀬地区についてはおおむね探鉱を終了し、中津河地区については立入坑道を約1,500m掘進して鉱床の直下に到達している。中津河地区の鉱床は、試錐探鉱によってかなり高品位の優勢な鉱床が存在することが確認されており、昭和35年度は、鉱床に沿って坑道探鉱を実施し、鉱床の品位、鉱量を確認することに重点をおいて探鉱を実施する。
 さらに、中津河地区東方の倉見および黒岩地区においても、最近かなり広範囲に含ウラン堆積岩が存在していることが判明し、放射能異常が認められているので、今後の探鉱の成果が期待されている。

(ロ)東郷鉱山およびその周辺地区
 人形峠鉱山からその北方約15kmにわたる広範囲の地域において、優勢な露頭を有する含ウラン堆積l岩が就存している。本地域のうち、現在までに方面、麻畑および神倉地区において坑道探鉱を含む精査を実施中で、すでに平均品位0.06%(U3O8含有量)として約45万トンの鉱量が試算されている。鉱床の性質、鉱物の種類等は、人形峠鉱山とほとんど同様であって、今後の探鉱の進展により、鉱量の飛躍的増加が期待されている。
 昭和35年度においては、方面、麻畑および神倉地区における坑道探鉱を継続するほか、本地域に広く賦存する含ウラン堆積岩に対する精査を行なう予定である。

(ハ)その他の地区
 昭和34年度において実施した概査により有望と判断明した新潟・山形県境の金丸・小国地区および京都府宮津地区は、いずれも堆積岩中にウラン鉱物の存在が確認されている。昭和35年度においては、地質鉱床精査および試錐探鉱を行ない、鉱床の概要を明らかにする。

 このほか、概査の結果有望と判明した地区および原子燃料公社所有鉱区等に対して必要に応じ地質鉱床精査等を行なうこととしている。

(3)探鉱補助金による探鉱

 昭和35年度は予算14,550万円計上されており、主として堆積岩鉱山を対象として探鉱補助をする予定である。

§4.ウラン探鉱技術の進展

 前述の概査および精査と並行してウラン探鉱の方法およびウラン鉱床の地質鉱物学的研究が進められており、その成果が今後の探鉱の進展に寄与することが期待される。

(1)探鉱方法の改善
 今までにも探鉱の方法は多くの改善がなされた。すなわち、地形急峻等の理由により、エアボーンおよびカーボーン調査が実施できない地区に対しては、従来調査員が小型の放射能検定器を携帯し調査を行なっていたが、最近は小型かつ高感度の放射能検定器の使用に切り換え、能率を向上することができるようになった。

 また、放射能異常が指向性をもってブラウン管に映し出されるUスコープが発明され、異帯地区の調査に有力な手段が提供されている。

 これらの探鉱方法の改善されるに従い、従来ウラン探鉱に考慮されていなかった探鉱法の採用が検討されるに至っている。すなわち、人形峠鉱山においては、鉱床の富鉱部は、基盤の凹所に賦存する傾向にあり、このため最近地震探鉱が試験的に実施され、基盤の凹所発見に好結果を得ているので、目下人形峠型鉱床に対する地震探鉱の適用について検討が進められている。

 さらに地化学探鉱がウラン探鉱に有効であることが実証され、ウラン探鉱に適した改善が加えられて、精査に先行して精査範囲を示唆する手段として広く用いられるようになった。

 また、試錐の際、従前はコアーを採取して分析していたが、最近では放射能検層管を試錐孔内部に挿入して、放射能異常を測定し、検層曲線によって鉱床の厚さ、品位の概要等の推定が比較的正確にできるようになっている。

(2)ウラン鉱床の地質学および鉱物学的究明

 ウラン鉱床は、前述したとおりペグマタイトに伴うもの、金属鉱床に伴うものおよび堆積型のものに大別されるが、それぞれの型式の鉱床について鉱床の成因、地質条件と鉱床との関連、ウラン鉱物の形態、随伴鉱物の有無等について地質学および鉱物学上の研究検討が必要である。これらの研究は探鉱と並行して実施すべき性格のものであって、研究の成果は探鉱範囲を限定し、探鉱の指針を与えさらに鉱床評価の際に有力な基礎となるものである。