原子力委員会参与会

第2回

〔日 時〕 昭和35年2月18日(木)14.00〜17.00

〔場 所〕 東京都千代田区永田町2の1総理官邸

〔出席者〕

稲生、井上、大屋、久留島、瀬藤、高橋、細田、三島、安川、山県、脇村各参与

中曽根委員長、石川、有沢、兼重各委員

横山政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、島村、法貴各次長、井上(亮)、太田、井上(啓)、藤波、亘理各課長、ほか担当官

〔配布資料〕
1.原子力損害賠償保障制度の確立について(案)
2.長期基本計画の改訂に関する作業要領(案)
3.原子力委員会各専門部会の審議状況
4.昭和33〜34年原子力年報

1.原子力損害賠償保障制度について
  資料1を井上政策課長が説明した。

稲生参与:資料1の三、原子力損害賠償責任(三)求償権の項に「ただし、これらの求償権に関し特約をすることを妨げない。」となっているが特約とはなにか。

井上政策課長:求償権を放棄するとか強めるとかいうことを当事者間で特約すればそれが優先するという意味である。

瀬藤参与:「これらの求償権に関し特約することを妨げない」というのは特にメーカーとの間の特約を意味するのか。

有沢委員:だいたいそういう場合が多いと考えている。

瀬藤参与:メーカーに対する原子力事業者の求償権を仮に強化するならば、メーカーとしては原子炉の存続期間中危険に具えて付保せねばならない。これは製品の価格の上昇となって現われるが、そのような結果は避けるべきではないか。

有沢委員:特約して原子力事業者が求償権を放棄する場合をおもに考えている。

島村次長:特約を結べば当事者の考えだけで求償権の有無をきめられるとしたのは、国家として損害賠償保障措置を考える際には内容に秩序をもたせるのが第1だという考え方によっている。現在の状況では求償権を放棄することが多いと考えられるので、「特約をすることを妨げない」という表現に替えて「請求権を放棄してもさしつかえない」とも書ける。「自分の所には過失はないから求償してもよい」というメーカーがあるという極端な場合をも考えて「ただし書き」を入れたものである。原子力事業者がメーカー等に対して求償権を有するという規定については、故意はともかく過失を入れるべきかどうかを考えた。電気事業者としては無過失責任を負わされているので他の者の過失によって原子力損害が起きたときに求償権がないのは困るということも考えて過失を入れた。

大屋参与:万一の事故の場合被害者の保護を図るという考えはぜひ必要である。また、原子力事業者には原子力という特殊性から無過失責任が負わされているのだから、50億円の保険をかけるだけで勘弁してやるべきである。

 国家補償のやり方として第1案と第2案が示されているが第2案で政府が返還請求権をもたないというのならば第2案のほうがよい。

有沢委員:その点では第1、第2案には差はない。差は500億円のようなある限度で補償の最高額をきるというところにある。第1案のように金額の限度を示してこれだけは国家が出すというのがよいか財政の許すかぎり出すという言い方がいいかという問題である。

瀬藤参与:その点では第3者は第1案のほうが安心する。

久留鳥参与:同感である。

大屋参与:その点はどちらの案なら大蔵省が了承するかということできまる問題である。表現の差は第3者にとっては大きな問題ではあるまい。

宮本参事官(松尾参与代理):第2案の(1)「原子力事業者の故意若しくは過失又は土地の工作物の設置…」の箇所は「原子力事業者の故意若しくは重過失」とし、「土地の……」は除くべきだと思う。

久留島参与:「故意」という表現を入れる必要はないと思うが。

井上政策課長:通産省から「財政事情の許す範囲内において」という表現でなく全額国家補償で出すような書き方にしてくれという意見があった。

宮本参事官:それは50億円以下の災害について国家補償する場合のことだと承知していただきたい。

中曽根委員長:50億円以下の災害のときにも原因が地震や風水害であれば保険ではカバーされない。そのような災害の起こったときにまず原子力事業者に出させてそれ以上を国家が出すという考え方と、第3者に安心させるため国家がまず金を出しそれから原子力事業者に求償するという考え、また、国家が全部出すべきだという考えとがある。この三つのうちどれがよいだろうか。

瀬藤参与:地震、風水害の場合には付保していても保険ではカバーされないのだから、全額を国家が出すのが当然と思う。国家補償に先立ってまず原子力事業者の資力があるかぎり払わせることにすれば事業者は別会社を造るようになる。そのようなずるいやり方に追い込むのもーつのやり方だが、そもそも国全体の見地からして適当な方法かどうか疑問である。

大屋参与:地震のような原因で災害が起こったならば国家が出すのがたてまえとしては本当である。事故はまず起こらないと考えられるが、事故のときにはまず国家が金を出しあとで調査をするようにすべきであろう。

中曽根委員長:補償料を多少ならば高くとって国が地震のような災害を補償することにしたほうが筋が通っているかもしれない。地震、風水害保険を国がみるような考えになる。

大屋参与:内容も大切だが今国会で何とか成立させてほしい。

兼重委員:法案を成立させるにはある程度妥協を要するかもしれない。第3者補償の線が崩れるような妥協はいけない。そのほか、妥協すると原子力事業者に地震による被害などの負担がかかってくる。早くというのはいいが妥協の仕方が問題である。

中曽根委員長:来月上旬に国会に法案を提出する意気込みでいる。

2.長期基本計画の改訂作業について
  資料2を島村次長が説明した。

稲生参与:原子力船という項目はあるが原子力発電は考えないのか。

井上政策課長:動力用原子炉のところに原子力発電も含めている。

山県参与:原子力発電の開発規模をどうするかということは資料2の表現では入らないように思われる。

宮本参事官:企画庁で長期計画の一環としてエネルギーの計画を検討しておりその結果を使えば以前よりは具体的に原子力発電の規模が考えられると思われる。炉として考えるだけでなく原子力発電の開発規模を検討の対象としてほしい。

兼重委員:発電計画を対象から除くように考えているわけではない。資料2の表現は広く原子力に関係する問題を考慮の対象にしようとしているものである。実際にこれらの項目のうちでどれだけが長期計画に取り入れられるかは作業を進めた結果によるものと考えてほしい。

石川委員:通産省の趣旨はよくわかったから、作業を進める際に取り入れていきたい。

3.原子力委鼻会各専門部会の審議状況について
  資料3を法貴次長が説明した。

 昨年9月に原子力船専門部会がまとめた答申は当時の参与会ですでに配布してあるが、答申に裏付けとなるデータを加えた資料が「原子力船開発研究の対象として適当な船種、船型および炉の選定に関する答申」としてできあがったので、各参与に郵送する旨を伝えた。

4.昭和33−34年原子力年報について
  資料4を島村次長が説明した。

5.前回の参与会以後における主要なでき事について
  島村次長から下記の件について説明した。

(1)法律案について
 i.原子力委員会設置法の一部改正および日本原子力研究所法の一部改正については成案をえて国会で審議中である。
 ii.障害防止法の一部改正は成案をえて近く国会に上程される。
 iii.原子力損害賠償保障法および原子力施設周辺地帯整備法についてはまだ成案をうるに至っていない。

(2)カナダとの協定は昨年調印を終っており、近く今国会に外務省から提出される。