原子力委員会

 日本原子力研究所が設置する天然ウラン重水型研究用原子炉施設の安全性に関する答申が原子力委員長から内閣総理大臣あてに3月9日なされた。長期基本計画の改訂に関する作業要領が2月24日決定をみた。前菊池原子力委員の後任として国立遺伝学研究所長木原均氏が3月14日内閣総理大臣により任命された。原子力災害補償制度の確立に関する原子力委員会の内定があった。また本年1月11日〜22日に開催された国連放射線影響科学委員会第7回会議の概要を掲載した。

国産1号炉の安全性について委員会の答申

 日本原子力研究所は、昭和34年11月16日付をもって天然ウラン重水型研究用原子炉(JRR-3)の施設に関する設計およびエ事方法の認可申請書その2(炉本体について)の添付書類としての「JRR-3の概要とその安全対策」を提出した。原子力委員会は、昭和35年1月14日付で上記原子炉施設の安全性について諮問を受け、審議を行なっていたが、このほど結論を得たので、下記のとおり3月9日付で原子力委員長から内閣総理大臣あて答申を行なった。

35原委第25号
昭和35年3月9日
内閣総理大臣 岸  信介 殿
原子力委員会委員長 中曽根 康 弘

日本原子力研究所第3号炉(JRR-3)の安全性について(答申)

 昭和35年1月14日付をもって諮問のあった標記の件について審査を行なった結果、下記のとおり答申する。

1 審査結果
 日本原子力研究所が茨城県那珂郡東海村日本原子力研究所東海研究所に設置する熱出力10MWの天然ウラン重水型研究用原子炉(JRR-3)の安全性について、同研究所が昭和35年1月提出した「JRR-3の概要とその安全対策」に基づき、特に平常時および事故時の安全対策に重点を置いて検討した結果は次にのべるとおりであり、この原子炉の設置の安全性は十分確保しうると認める。

 日本原子力研究所が設置する天然ウラン重水型研究用原子炉施設の安全性に関する答申が原子力委員長から内閣総理大臣あてに 3月9日なされた。長期基本計画の改訂に関する作業要領が2月24日決定をみた。前菊池原子力委員の後任として国立遺伝学研究所長木原均氏が3月14日内閣総理大臣により任命された。原子力災害補償・制度の確立に関する原子力委員会の内定があった。また本年1月11日〜22日に開催された国連放射線影響科学委員会第7回会議の概要を掲載した。

2 平常運転時の安全性
 この原子炉の平常運転時においては、日本原子力研究所周辺の一般公衆はもちろん、原子炉の運転に従事する従業員に対しても、放射線線量率および放射性物質の濃度が科学技術庁告示昭和32年第9号および1958年ICRP勧告に示された許容値を十分下まわるように、次のような配慮をもって設計計画されているので、その安全は確保しうると認める。

(1)放射線遮蔽
 原子炉本体およびその付属施設の設計にあたっては、従業員の受ける年間被ばく線量が1.5rem以下となるように計画されている。ICRP勧告による職業人の年間被ばく線量 5remに対する余裕として年間3.5remを事故その他将来のために備えておく計画は、安全上妥当なものと認める。

(2)放射性廃棄物処理
(i)気   体
 重水水面を覆うヘリウムガスならびに黒鉛反射体および放射性同位元素試料を冷却する炭酸ガスは、原子炉の内外を循環するが、閉回路であるので常時外部に放出されることはない。燃料棒の被覆が破損すれば、ガス状の核分裂生成物がヘリウムガスに混入するが、これは常時モニターにより検出され精製される。

 しかし、汚染したヘリウムガスまたは炭酸ガスの放出を必要とするときは、許容値以下に稀釈して放出されることになっているので支障はないと認める。

 実験孔等原子炉内の空隙部で照射された空気は独立した排気系によって煙突に導かれるが、この場合、主として問題となる41Aについて、地表における最大濃度を求めると、気象条件を厳しく仮定しても、十分最大許容濃度の10分の1以下となるので、煙突から排出される放射性物質による影響は問題にならないと認める。

(ii)液体および固体
 液体廃棄物は低レベル廃液(10-4〜10-5μc/ml)と中レベル廃液(1〜1×10-3μc/ml)に分けられる。低レベル廃液は、この炉に設けられた2基の排水貯槽に一時貯えられ、一般排水の量を考慮し、排水口における濃度が最大許容濃度の10分の1以下となるようにして下水に放出され、中レベル廃液は原研内の廃棄物処理場に送られることになっている。

 放射性固体廃棄物は、規定の容器に入れて廃棄物処理場に送り、処理されることになっているので、放射性廃棄物の取扱いについては適切な措置が講じられていると認める。

 また、廃棄物処理場ではJRR-3の廃棄物処理のほかにJRR-1、JRR-2、その他研究設備からの廃棄物を処理することになっているが、処理能力は十分あるものと認める。

(3)放射線管理
 この原子炉および付属施設においては、日本原子力研究所として統一された放射線管理が行なわれる。放射線管理施設としては、エリヤモニター、粉塵モニター、サーベイメーター等を炉室内に備え、ガスモニターおよびダストモニターにより排気を、また水モニターおよびサンプリングにより排液を監視し、また野外モニタリングステイションを設けて敷地内外を管理することになっている。

 以上の放射線管理計画は妥当なものであると認める。

3 事故時の安全性
(1)安全保護設備
 各種の原因による事故に対して、原子炉を安全に停止し、燃料の溶融を防ぐよう冷却するために、事故の程度に応じて次の7段階の安全保護設備が計画されている。

 警報、リバース、スクラム、重水ダンプ、制御棒軽水注入、重水汲上げ注入および緊急軽水注入
 なお、この原子炉は、研究用原子炉として放射性同位元素製造のほかに、工学試験をはじめ各種の実験を行なうものであるから、特に誤操作防止のため十分なインターロックを設け安全をはかっている。

(a)スクラム
 原子炉の異常状態が進展し、次の各現象によりスクラム信号が発せられれば、粗調整安全棒が落下すると同時に、微調整棒が下降し、原子炉は確実に停止されることになっている。

 中性子束異常上昇、ペリオド異常減少、地震、主電源電圧降下および逆相回転、主重水ポンプ電流低下、計測用電源電圧低下、重水流量低下、タンク出口重水温度上昇、タンク出口ヘリウム圧力上昇、タンク入口重水圧力低下ならびに重水溢流槽液面低下

 以上のスクラム条件の選定は妥当なものと認める。また、特に重要な中性子計装および地震検出系は、独立な2ないし3系統を備えており、そのうちのいずれかの1系統の動作によってスクラム信号が発せられる。安全棒はワイヤロープ巻胴巻込の自重挿入式であり、全制御安全棒中の内側4本が動作しなくても、原子炉は停止されるように制御容量に余裕をもたせており、さらに緊急停止装置として重水ダンプ装置を備えている。したがって、原子炉停止には十分慎重な計画がなされていると認める。

(b)緊急冷却
 万一の重水漏洩等に備えて、重水汲み上げ注入装置と緊急軽水注入装置とを備えていることは、原子炉停止後の崩壊熱による燃料の溶融を確実に防止することを目的とするものであって、安全確保の上に万全の考慮が払われていると認める。

(2)事故の種類
 この原子炉の考えうる事故の種類を分類整理すれば次のとおりである。

(i)反応度事故(起動時事故ならび制御棒連続引抜き、燃料の誤挿入および中央実験孔の破損による事故)

(ii)冷却系事故(冷却重水ポンプ故障、冷却重水水位低下、冷却重水流量変化、炉心タンクまたは重水配管の破損)

(iii)燃料要素の破損

 以上の事故を逐一検討する。
(i)反応度事故  解析の結果によれば、1.5%△Kが階段状にまたは5%△K/secが直線状に加わったとしてもスクラムが働くので燃料が溶融することはない。実際に起こりうると考えられる反応度外乱を検討した結果は、いずれの場合も、上記の値よりはるかに小さい。したがっていかなる反応度事故に対しても、後述のように原子炉は確実に停止されるので燃料が溶けることはありえないと認める。

(ii)冷却系事故  冷却系の事故により冷却能力が減少すれば、原子炉は確実に停止され、崩壊熱除去に必要な最低冷却水量は確保される計画となっている。すなわち、この原子炉の炉心の圧力は、常圧であり、炉心中の重水最高温度も54℃となっており、高温高圧ではないので、炉心タンクあるいは冷却重水配管系の材料や溶接部に劣化が起こるおそれはきわめて少なく、また、仮に製作時等において発生した微少な欠陥が発見されずに存在していても、これが炉心タンクや配管系の大規模切断に進展することは考えられない。また、炉心タンクの構造、その支承方法および配管系は震度0.6の地震力に対して安全なように設計されており、さらに配管系については、施工後その振動性状を調べ、耐震性を検討することになっているので、地震によって炉心タンクまたは配管系に大規模破損が起こるとは考えられない。
 万一、大規模な破損が生じても、上述のように系内の圧力温度は高くないので、短期間に大量の重水が系外に流出することはありえないのみならず、炉心タンクおよび重水配管系のうちで、重要な部分は二重構造になっているので、炉心タンク内の重水水位が急速に低下することを防止しうる。この場合、系外に流出して炉室地下室のピットの中に留められた重水は、重水扱み上げ注入装置により炉心タンク内に注入され、また、必要に応じ緊急軽水冷却装置による軽水注入も計画されているので、燃料が露出することは考えられない。したがって、考えられるいかなる事故の場合にも、燃料要素が溶融することは起こりえないと認める。

(iii)燃料要素の破損  この原子炉に使用される燃料は、直径2.5cmの天然ウランに厚さ 2mmのアルミ被覆を施したもので、有効長さは265cmであり、全装荷量は246本である。燃料要素の破損は、破損燃料検出装置によって検出され、破損燃料要素が直ちに取り出されることになっている。

(3)災害評価
したがって、現実に起こりうるかもしれぬと考えられる最悪事故としては、炉心タンクまたは配管に亀裂が生じて重水がもれ出し、その重水に、検出もれの破損燃料からの核分裂生成物が溶けこんでいる場合である。

 カナダNRXの実績によれば、破損燃料要素の発生は年間数本程度であるので、この原子炉においても、重水漏洩の事故時に破損燃料要素が何本も原子炉内に存在するとは考えられない。また重水の漏出は緩慢なので、その流出エネルギーや温度の上昇によって事故時に破損燃料要素が新たに発生するとは考えられない。また、燃料は水面上に露出することはないので、急激な温度上昇による新たな被損や、空気による破損部の酸化は起こらないと認める。

 燃料破損の大きさは、カナダの例では最大長さ10cmの被覆の亀裂であるが、燃料内部に亀裂が存在することも考慮して、1本の燃料要素被覆表面積10分の1相当が露出すると仮定する。

 以上の露出面より、平均飛程内の核分裂生成物の半分が重水中に溶けこむとしてもその総量は約10キュリーに満たない。しかもこのうち、重水から炉室内の空気に混入し、さらに建屋外に放出されるものはきわめて少なくなる。したがって、このような事故によっても放射能による被害を生ずる恐れは全くなく、この原子炉の安全は十分確保されるものと認める。

4 立地条件
 この原子炉の設置予定場所は、日本原子力研究所敷地のほぼ中央にあって、民有地境界から約300m離れているが、前述の平常時および事故時における安全性の検討の結果から考えて、一般公衆の安全に支障を与えることはない。

 また、設置予定場所一帯の地盤、気象、水理等の条件もこの原子炉の設置に支障を与えることはないと認める。

5 技術的能力
 この原子炉の設置計画は、日本原子力研究所のJRR-3建設室を中心とし、大学、試験研究機関、民間会社等のわが国における原子力関係の学識経験者の衆知を集め、長期にわたる研究を基として、国産技術を結集して設計製作されることになっている。さらにこの原子炉の設計の詳細については、この型の原子炉について十分経験を有するカナダのAECLの援助を得て万全を期しているので、この原子炉の設置に要する技術的能力は十分確保されるものと認める。JRR-3運転管理機構の構成は、現建設室員のほか、JRR-1、JRR-2等の運転管理の経験者を加えて充実することになっているので、この原子炉の運転に必要な技術能力は十分確保されるものと認める。