原子力委員会

 昭和35年度の原子力関係予算が決定した。その内訳は現金額77.4億円、債務負担額42.8億円で、これは前年度に比べると現金額において3.2億円の増加である。IAEAの原子力発電コスト算定基準パネルへ関西電力の長安実氏を派遣することとなった。また2月10日カナダ原子力会社のギルバート氏が来日した。


昭和35年度原子力関係予算政府原案の決定

税金額77.4億円、債務負担額42.8億円

昭和35年度原子力関係予算について

 昭和35年度の原子力関係予算は、年度中に支出可能な現金額77.4億円、債務負担行為額42.8億円である。これを34年度に比べると現金額において3.2億円の増加を示している。35年度原子力予算の内訳は別表に示すとおりであるが、そのおもなものについて述べると次のとおりである。

(1)日本原子力研究所
(イ)原子炉の建設関係については、JRR-1は稼働後2年半の実績を有するに至ったが、35年度には、34年度中に完成予定のJRR-2により試験研究を行ない、またJRR-3については、その建設を促進して36年度初期には運転開始に至る予定である。さらに動力試験炉の購入契約を締結し、建設に着手する。
(ロ)各種の試験研究関係については、物理、化学、工学、放射線応用等の各般の研究をいっそう推進するとともに、特に将来の開発目標である増殖炉に関する試験研究として、水均質炉臨界実験、半均質炉臨界実験、高速炉予備実験等の試験研究を強化する。
(ハ)技術者の養成事業関係については、アイソトープ研修所、原子炉研修所を拡充強化する。
(ニ)建屋および付帯設備関係については、研究第6棟、RI製造試験工場、Pu用研究室、再処理ホットケーブ、5.5MeVのヴァンドグラーフ等を新設するほか、ホットラボラトリー、冶金特別研究室等の増築を行なう。また、職員の福利をはかるため、厚生施設の整備を行なう。
(ホ)研究業務の本格化に即応して人員を充実するため、理事1名の増員を含めて191名を増加して35年度においては1,197名(34年度は、1,000名)とする。
(ヘ)以上の事業を遂行するため、民間出費2.5億円、営業収入および雑収入1.1億円を含め、総事業費47.6億円(債務負担行為34.9億円)を計上し、35年度政府出資は44億円(債務負担行為34.9億円)となる。

(2)原子燃料公社
 核原料物質の採鉱については、34年度に引き続き、人形峠、倉吉鉱山に重点をおいて探鉱を行なうほか、34年度において新たに発見された山形、新潟県境小国地域、秋田県田沢湖周辺、京都府宮津北方地域等に重点をおいて組織的な精査を行なう。
 人形峠鉱山については、34年度に引き続き探鉱試験切羽を設け開発に対しての基礎的資料を得る。
 製錬については、35年度から新たに燃料検査技術開発室の建設に着手するほか、34年度と同様、粗製錬設備および精製還元中間試験設備により金属ウラン生産の工場設計の基礎的資料を得る。
 なお東海製錬所基礎試験所については、分析設備の近代化をはかるため分析機器の増強を行なう。
 以上の事業を推進するため、35年度は12.3億円を計上し、人員も34年度の410名を66名増員して476名とする。

(3)放射線医学総合研究所
 35年度においては、病院を完成して、放射線障害の治療、診断およびアイソトープを利用した治療診断等の業務を開始する。
 また、医療用のヴァンドグラーフ等、研究用機械類を整備して研究を充実する。
 以上の事業のため、35年度は7億円を計上し、人員も現在の163名を62名増加して225名とする。

(4)国立試験研究機関
 各省庁所属の国立試験研究機関においては、29年度以来、原子炉材料の研究等各種試験研究を行なっているが、35年度も原子炉材料、原子燃料、原子力船、核融合、放射線利用、放射線測定、放射線障害防止等の研究を推進する。新規のものとしては、工業技術院、名古屋工業技術試験所における放射線利用の研究のための開放実験室の設置(11,640千円)、北海道開発庁土木試験所における積雪寒冷地帯における建設工学上の諸問題解明の研究(8,245千円)および国家消防庁消防研究所における火災時におけるアイソトープ施設の研究(3,564千円)等を予定している。
 以上の予算措置として5.2億円を計上した。

(5)補助金、委託費
 原子炉およびこれに関連する機器材料の国産化のための研究、核融合に関する試験研究、原子力船に関する試験研究等を推進するため、補助金1.9億円、委託費1.3億円を計上したが、核原料物質の探鉱奨励金1,455万円を加え、合計3.4億円の予算を計上した。

(6)放射能調査研究
 従来行なってきた調査の強化を図るほか、14Cの分析標準食中の放射能調査等を行なう。
 以上の予算として48百万円を計上した。

(7)核燃料物質等購入費
 35年度中に購入されるJRR-2用濃縮ウラン、武蔵工大炉用濃縮ウラン、立教大学炉用濃縮ウランの購入等のために必要な経費として2.7億円を計上した。

(8)原子力委員会の強化
 原子力開発の進展に伴う原子力行政の広汎化、複雑化に対処して、35年度においては、原子力委員会の機能を強化するため、原子力委員を現在の4名から6名に増加するものとし、所要の予算措置を講じた。

(9)原子力技術者の海外派遣その他
 原子力技術者の海外派遣費については30百万円を計上し、34年度に引き続き、さらに専門的技術者の海外派遣を積極的に行なうこととした。
 原子力局の人員については、現在の116名を16名増加して132名とし、原子力行政事務の増大に備えることとした。
 また、放射線障害防止の事務を円滑に行なうため、モニタリングカーを原子力局に備えて、検査機能を充実することとした。
 以上のほか、原子炉設置等の許認可事務、国際協力関係事務、各種の調査企画事務等を強力かつ円滑に行なうため必要な予算措置を講じた。

(10)各省原子力関係行政費
 関係各省の行政費としては、外務省における国際原子力機関のために必要な経費、各省の原子力関係調査費等1億503万円が関係各省の予算に直接計上されることになっている。

昭和35年度原子力関係予算総表 ( )内は債務負担額(単位 千円)