日本原子力発電株式会社が発電用の目的をもって茨城県那珂郡東海村大字白方字白根3番地に設置する天然ウラン黒鉛減速炭酸ガス冷却型原子炉(熱出力595,000kW) 1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。
(1)立 地 条 件
敷地は茨城県那珂郡東海村東部にあり、その東側は外洋に面し、敷地の周囲は日本原子力研究所予定敷地である。原子炉設置予定地点より最も近い民有地までの距離は約650mで、かつ水戸市等の大きな都市から十数km離れている。このような周辺の状況ならびに気象、地震、地盤、排水、用水、航空機関係等に関し、平常時および異常時について検討した結果、敷地は、この原子炉の設置場所として支障ないものと考える。
(2)原子炉の性能
原子炉の核設計は,英国の同型原子炉の運転経験および研究開発をもととしているので、その精度は高いものと考えられる。また、原子炉の運転に伴って生ずる超過反応度を出力増加、燃焼度増加および運転の自由度の確保に割りふっているが、その設計方針は妥当である。
しかし、英国においても高燃焼度下における運転経験はないので、平衡サイクル到達後の原子炉の超過反応度および正の温度係数の計算値は、若干の誤差を生ずる可能性があり、今後詳細な検討の上適切な設計を行なうことが必要である。
熱設計は、燃料被覆最高温度、通常運転時の熱伝達特性等の熱的諸特性についておもに実験と経験によって検討されたものであり妥当なものと考える。
運転上の問題となる正の温度係数が炉の動特性に与える影響およびキセノン振動による中性子束不安定現象に対しては、正の温度係数が計算値より若干上まわった場合にも制御可能な設計となっているので、その設計方針は妥当なものと考える。現在の段階では本現象に関する経験は少ないが、今後英国においてこの現象についての実際的経験が得られるはずであり、その経験を生かして設計を行なえば特に問題はないと考える。
(3)燃料要素の性状
燃料要素は、黒鉛スリーブつきの個別積重ね方式による中空型のものであり、その設計、伝熱特性等について検討したところ、中実型燃料要素に比し性能上の利点を持つ改良設計によるものと認める。しかも、新しい技術によるものであることを考慮して、炉内試験の結果によってその安全と性能が確かめられた上で使用されることになっている。したがって、この計画は妥当なものと考える。
また、燃料要素が破損した場合には、それによる放射性物質の漏洩を早期に検出することによって破損を確認し、取替えうることになっているので安全性は十分保持されるものと考える。
(4)黒鉛の構造
黒鉛のウイグナ−効果に対しては、スリーブを用いて減速材を高温に保持し、そのエネルギー蓄積をさけ原子炉耐用年数中ウィグナーエネルギー放出作業を不必要としており、また6角柱ブロックの蜂の巣型設計によってウィグナー収縮および膨張に対処しているのでその計画は妥当である。 また、黒鉛の質量移動については、その量もきわめて少なく、原子炉の安全上も性能上も支障ないものと考える。
(5)原子炉施設の機械およびその構造
一般に機械構造の良否は、その詳細設計が行なわれ各種の試験をした後でなければ判断できないものが多く、本申請書の機械構造の設計に現われている寸法等の決定も今後の設計施工の段階において検討すべきものが多いが、原子炉圧力容器、炭酸ガス循環装置、制御棒駆動機構、燃料取替装置、ガス安全弁、緊急停止装置、緊急時炭酸ガス注入装置等の機械構造の設計方針は、おおむね妥当である。
このうち、緊急冷却装置としての炭酸ガス循環装置と緊急時炭酸ガス注入装置とはいずれも必要な機能を原理的には備えているものと認められるが、装置の各部には経験の少ない新しい試みが多くみられる。したがって、これらの装置に1次冷却系における事故時の安全性を確保する後備保護装置の役割を果させるためには、その詳細設計、容量の決定、製作据付等にあたって今後綿密な調査研究を行ないさらに実際に近い状態での十分な工場試験等を行なってその信頼性を確認することが必要である。
(6)原子炉の計測および制御
中性子束の測定はキセノン振動による中性子束の歪みが生じても支障のないように考慮され、冷却ガス、燃料要素等の温度測定器は取付数、取付箇所とも一応適当であり、かつ故障時にも取替が可能であり、破損燃料の検出は各チャンネルについて行なわれる等、原子炉を安全に運転するための必要な各種計測の方針は、全般的にみて妥当なものと考える。
また、原子炉起動時の反応度事故防止のためにタイム・スイッチ等を用いる特殊な制御方式、出力運転時には25%負荷以上は自動的に出力に応じて冷却ガス流量を調節し出口ガス温度を一定に保つ制御方式、減速材の正の温度係数およびキセノソ振動による中性子束の不安定に対しては炉心を9分割して制御する方式等は、いずれも妥当なものと考える。
(7)地 震 対 策
炉心部の設計震度を0.6とし、ガスダクトの設計震度を2.0とする等東海村敷地において予想される最大地震動に対し十分余裕のある設計地震力をとっており、また、構造計画として剛強な生体遮蔽構造物に原子炉本体、ガスダクトおよび熱交換器を結びつけ、かつこれらを一体の基礎の上に設ける方針をとっていることは、妥当なものと考える。
黒鉛構造、ガスダクト、燃料取替装置、冷却池等の各部耐震構造について検討した結果、東海村において予想される地震力をうけても施設の損傷はなく継続して使用できるものと考える。また,わが国は地震の多発国である特殊事情にかんがみ安全のうえにも安全を期するために構造物の一応の竣工後、その各部につき振動性状を確かめ設計計算の適切なことを確認する計画は妥当なるものと考える。
(8)放射線障害対策
遮蔽および廃棄系統の設計基準は、科学技術庁告示(昭和32年第9号)、1958年ICRP勧告および昭和33年11月27日付原子力委員会原子炉安全基準専門部会答申の放射線に関する許容値を十分下まわるようにしてあり、妥当である。
気体廃棄物の敷地周辺に及ぼす影響については通常運転時および異常時のいずれの場合においても障害を生ずることはなく、かつ、施設からの直接ガンマ線についても民有地に対して許容値を十分下まわり問題とならない。
固体廃棄物および液体廃棄物についても、その処理系統の考え方は妥当なものと考える。
放射線管理については、その重要性にかんがみ、設計施工の段階においては具体的内容について十分検討する必要があるが、その管理方針は妥当である。
(9)安 全 対 策
本発電所の異常時の安全対策としては、安全保護装置の多重化機構のほか地震等を考えて英国等におけるよりもさらに高度の安全性を期するためボロン鋼球を落下せしめる緊急停止装置および補助駆動装置をもった炭酸ガス循環装置と緊急時炭酸ガス注入装置とからなる緊急冷却装置が付加される計画である。このような安全対策に対し、種々の反応度事故および冷却能力喪失事故、その極端な場合としてガスダクト1本が完全に切断し、かつブロアー主駆動装置全部が使用不能となるようなほとんど起こりえない事故を想定して検討した結果、これらの異常時における原子炉の停止および冷却については十分の信頼性があり、燃料要素は溶融しないものと考える。
なお、この場合、最終的後備安全装置としての緊急停止装置および緊急冷却装置については特に慎重を期したが、前者による原子炉の停止は確実に行なわれるものと認められ、また後者は原子炉停止後の崩壊熱除去とガスダクト破損時の空気侵入防止特に必要な機能を原理的には備えていると考える。
しかしながら、これらの諸装置は原子炉の安全性を確保するうえにきわめて重要であるから、「(5)原子炉施設の機械およびその構造」にも述べたように、今後の設計施工等において特に注意を希望する。
ダクト破損等の場合燃料の溶融は防げても、もし原子炉内の燃料被覆に微小孔があれば、侵入した空気によってその部分の燃料が急速に酸化し、
酸化部分から放射性物質が外部に放出されることが考えられる。これに関しては、燃料被覆の小孔の数、空気の混入割合等を起こりえないと考えられるほど苛酷に仮定し、さらにその場合にたまたまきわめて悪い気象条件であると想定して、一般公衆に対する放射線の影響を検討した結果、放射線の被ばく限界をかなり低くとっても一般公衆の安全は確保しうると考える。
なお、本原子炉では,その本来の特性に加えて、特に緊急停止装置および緊急冷却装置が付加されているので、事故評価の結果にかんがみるとコンテナーを用いない本計画は妥当なものと考える。