参与会

第9回


〔日 時〕昭和34年9月17日(木)14.00-16.00

〔場 所〕東京都千代田区永田町2の1総理官邸

〔出席者〕稲生、井上、大屋、倉田(代理柴田)、瀬藤、高橋、中泉、細田、三島、安川、山県各参与。
中曽根原子力委員長、石川、有沢、菊池各委員
佐々木局長、法貴、島村各次長、井上(亮)、中島、鈴木、藤波、亘理各課長ほか担当官

〔配布資料〕
1.原子力船専門部会中間報告書(案)
2.昭和34年度原子力平和利用研究費補助金交付決定一覧表
3.昭和34年度原子力平和利用研究委託費交付決定一覧表
4.原子力委員会各専門部会の審議状況
5.原研半均質臨界実験の安全性について
6.放射線審議会の意見書

1.原子力船の開発方針について

 島村次長から資料1を説明、さらに原子力船専門部会部会長を兼ねる山県参与から資料1のさらに詳細な説明があった。

 山県参与:原子力委員会から「原子力船開発研究の対象として適当な船種、船型および炉の選定について」という諮問が専門部会に対してあったので検討した。しかし、その結果特定の船種、船型、炉を一つだけ選定することは、国としての政策や要請に深い関係があるので専門部会としては困難であるし、やるべきでもないということになった。そこで、原子力船の対象と考えられる船種、船型、炉に関する詳しい資料を集め原子力委員会に提出することとした。それと同時に今回の報告書をまとめたものであって、専門部会としてはどれが最もよいかという議論はしていない。原子力委員会では災害補償等周囲の事情も考慮してわれわれの整えた資料を参考として開発の方向をきめていただきたい。

 専門部会が検討の対象として3船種5船型を選んだのは次の理由によっている。

イ、貨客船  原子力船が経済的になりたつには、大型、高速、高稼働率といった条件が必要である。

 この点、南米への移民船とすれば寄港地が少なく、日本の特殊事情にもかなっている。

ロ、小型船  原子力船の採算が合わず国家の資金的援助を必要とする可能性は十分考えられる。その場合に国費の負担を少なくしうる意味で建造費の最少なものとして小型船を考えた。近い将来に現われる実用の原子力船は4万トン2万馬力程度と考えられる。小出力の炉の経験が大出力の炉にどの程度あてはまるかということから小型船の炉にも出力の最低限が考えられる。この意味において、 5千馬力では関連性が難かしく連続最大8千馬力程度を最小と考えた。

ハ、タンカー  大型で相当の速力を有し90%程度の稼働率(貨客船の稼働率は50〜60%)で走るというタンカーの特徴を考えるならば、原子力船は最初にタンカーとして出現する可能性がある。近い将来に原子力タンカーが相当建造されるようになったとすれば、その標準として4〜5万トン、 2万馬力のクラスが予想される。英国では8〜10万トンのものを考えているが、これはガス冷却炉を使用するからである。

 この意味で、将来の標準クラスに相当するものとして4万5千トン2万馬力、船価の小さいものとして2万トン2万馬力を考えた。後者は将来に備える意味で2万馬力とし、高速を期待した。この二つの設計を比較すると2万トン2万馬力のものは非常に採算が悪いので、 3番目のタンカーとして2万トン1万馬力を考えた。 2万トンは現在の標準タンカーである。

 以上の各船型の設計にあたっては、運転要員のほかに50人の実験要員を乗せるスペースを考えている。原子炉としては、 PWRかBWRが現在では対象と考えられる。

 原子力船の建造費を試算したが、特に原子炉の価格の推定は困難である。専門部会ではAmericanStandardの資料を検討して炉の価格を出し、日本の造船の経験から他の必要なデータをそろえて船価を出した。乗出費用を含めた船価では、貨客船67億円、小型船28億円、タンカーでは4万5千トン50億円, 2万トン1万馬力37億円, 2万トン2万馬力43億円となっている。これらの船価を在来船に比較するとタンカーで4〜6割高,小型船は在来船の3倍程度になる。小型船を在来のもので造るとすれば、観測船としてはずっと小型でよいからそれを割り引きすれば原子力船は相当割高になる。

 原子力船の運航採算を検討した。船価を上記のように考え、そのほかほぼ妥当と思われる前提条件をとって試算した。小型船は国有が予想され経済性を離れて建造されると思われるので採算は検討していない。

 その他の船種の場合には、船価が在来船より高い結果金利を5%とみても、なお資本費が割高であり、最初の年度は各船種とも赤字になる。貨客船では10年度目には黒字になるが、これは国家の移民政策を前提としている。タンカーの採算性は運賃の考え方が大きく影響する。現在のように油が安いときの運賃を使って計算するには問題があるのでUSMCレートマイナス40%とした。約6ドル/LTである。この場合、4万5千トン2万馬力の船は10年度目には黒字になり、耐用年数18年間にわたってみると5億円黒字になる。2万トンの船型ではいずれも耐用年数の尽きるまで赤字のままで終る。

 このような計算の前提に疑問が伴うのはある程度やむをえない。また、最初の原子力船は半年間ぐらいは実験に使うことも避けられないので、以上の試算はうまくいけばこうなるという目安である。

 同じ資金で在来船を造るとすれば原子力船1隻の代りに1隻半でき、投下資本の利益率では在来船にはかなわない。タンカーを追っても、現状では純商業的にはかなわない。

 原子力委員会に提出した答申の内容は以上のごとくである。炉型式をすぐきめるのはむずかしい点があるが、船型のほうはきめる気になれば簡単にできると思われる。採算を重んずれば4万5千トンのタンカーだが、その際災害補償等対外的な問題が解決されていなければ就航できなくなる。小型船であれば太平洋の真中を走らせれば国内問題の解決だけでよいと思われる。

 石川委員:原子力委員会では提出された資料を今後検討していく。

 大屋参与:原子力船の開発には船自体の問題のほか、造船、海運に関連して外部の諸問題も大きな影響を持っている。たとえば、4万トンのタンカーが経済的に引き合うといっても日本の造船計画には資金調達の問題がある。そこへ4万トンの(あるいは2万トン程度であっても)原子力船が割りこんでくるのは大きな問題である。

 これに対して小型船は船価が割高なのは仕方がないが、経済問題以外では造船、海運に関する問題、外国に対する安全補償の問題等について難点が少ないという長所を持っており、政府の資金で小型船を造ってほしいという要望も多いことと思う。結局、小型船の建設費として28億円を国がだすかやめるかという結論になると思う。

 発電炉の場合には発生した電力は電力会社が買うが,原子力船の場合は持てあます結果になるかも知れないという事情は考えねばならない。

 船自体の問題ばかりでなく外部の問題をも広く考慮したうえで、民間の力だけで原子力船を造れないならば必要な助成をしてほしい。

 細田参与:運輸省内部では関連する各局間や外部との連絡会議を行ない原子力船の問題を検討している。結論は一つの船型にしぼられるかも知れないが運輸省としての意見を早い機会にまとめて原子力委員会と相談したい。民間の会社だけで原子力船を造ることは現在は考えられない。国家資金を幾分は出さねばならない。小型船を推すような発言もあったが、運輸省としては、そこまではいっていない。

 大屋参与:日本の造船事業が現在の環境を是正するには原子力船の経験を自分のものにせねばならない。できるだけ早く技術を身につけるにはどうするべきかが大切である。

 石川委員:運輸省の方針をすっかりきめてしまう前に、われわれにも打ち合わせてもらって、お互いに連絡をとっていきたい。

 細田参与:趣旨には賛成でそのようにするつもりである。

2.原研の新理事長について

 中曽根委員長から原研の駒形理事長、嵯峨根副理事長が辞意を表明され、各原子力委員の賛同を得て菊池原子力委員を新理事長とすることになった旨報告があり、菊池委員から各参与に挨拶が述べられた。

3.昭和34年度原子力平和利用研究費補助金、委託費の交付について

 資料2、3により中島研究振興課長から説明した。

 中島課長:資料の補足として交付決定までの経緯等につきお話する。

 要望課題の官報告示は4月10日、 5月11日に締め切り、以後局内で審査内規に基づいて審査し学術会議からも推薦の形で意見を示してもらった。その結果9月15日に交付決定をみた。

 補助金についてみれば、申請内容は件数64件、研究費総額約11億5千万円、うち交付申請額約7億4千万円であり、査定後の本年度交付決定額は約1億円となった。本年度補助金の枠約2億2千万円に前年度からの操越額約2千万円を加え前年度の債務負担行為約1億円を引くと本年度交付可能補助金額は約1億4千万円で、本年度に交付する約1億円との差額は昨年度の教育訓練用原子炉に回す予定である。

 委託費についていえば、申請内容は31件で研究費総額約4億4千万円、交付申請額約4億3千万円、査定後の交付決定額約1億3千万円である。本年度の委託費の枠約1億6千万円との差額は約2,850万円になり、うち850万円は東芝の核融合の研究に、さらに約1千万円は前記教育訓練用原子炉に流用し、結局約1千万円が余るのでこれは要望課題を示して再交付することを考えている。

4.参与の再任について

 安川、駒形、岡野の3参与については8月21日に参与の任期が切れ、本人の承諾により8月22日から再任の発令があった旨を報告した。

5.原子力委員会各専門部会の審議状況について

 資料4を法貴次長から説明した。

6.原研半均質臨界実験の安全性について

 資料5を藤波原子炉規制課長から説明した。

藤波課長:原研が重要テーマの一つとして開発することとなった装置で、半均質炉のデータを得るためのものである。専門部会で安全性等設置許可を下すのに必要な要件を備えているかどうかを検討し、答申として原子力委員会に提出し、委員長からさらに内閣総理大臣あてに9月23日に答申した。安全性は十分確保されているという結論が出されている。

7.五島育英会原子炉の安全性について

 藤波課長から口頭で説明した。

藤波課長、安全審査の結果が答申として原子力委員長に提出されている。委員会としてはさらに地元関係者に審査結果を説明したうえで、総理あてに答申を出すが、参与会にもその段階で資料を配布する。設置場所は川崎市王禅寺部落であり、川崎市当局から市議会でも問題になっているから審査結果がでた際に解説をしてほしいと申し込まれており、また王禅寺部落では原子炉設置対策協議会を作って政府に反対陳情を行なっている。

 専門部会において立地条件、原子炉の安全性、廃棄物処理施設、放射線管理施設、技術的能力等を検討した結果、本施設の安全性は十分確保されうるという結論をだしたが、陳情の内容を十分考えて審査を行なった。石川委員も現地を視察し、地元の意見を聞きこちらの見解も説明した。現在のところでは地元は全体としては反対しているが、住民投票の内容では絶対反対という人は多くはないようである。

大屋参与:周囲の人口密度はどうか。炉の型式は?

石川委員:現地は非常な寒村で立地条件は適当と思う。

藤波課長:場所は登戸と原町田の中間にある。常時には廃棄物は出さない。非常の際にも内部の処理施設で許容量の1/10まで処理して外に出す。炉は熱出力100kW、立教大学の原子炉と同じ型式である。人家との距離は最も近いところで400mだが、半径500m以内にはほとんど人家はないといってよい。

大屋参与:資料5に「脱走」と書いてある。暴走とせずにこのような表現を使うことにしたのか。

藤波課長:資料5にある「脱走」とは、半均質臨界実験装置においては取扱いの間違いと装置の故障が重なった場合に反応度の異常な増加が起るが、「暴走」まではいかないので区別して「脱走」とした。広い意味でrun awayを使うときには米国でもこのようなcaseを含めているようだが、 run awayとexcursionとを区別している場合もある。

8.放射線審議会の意見書について

亘理放射線安全課長から資料6を説明した。

亘理課長:国際放射線防護委員会は昨年1954年の勧告を大幅に改正した勧告をだした。本資料はそれに対する放射線審議会の意見である。

大屋参与:原電で設置することを考えている原子炉にこの勧告通りをあてはめても困ることはないか。

藤波課長:こういう勧告が法規に取り入れられることを予想し、先を見越して審査しているので問題はないと思う。

中泉参与:1954年の勧告は線量率で、今度のは積算線量でいくところに大きな改正がある。日本でも職業人の積算線量が計れるような体制とすることが必要で、制度化せねばならない。来年度予算に要求してある。