原研半均質臨界実験の安全性に関する原子力委員会の答申
34原委第84号 内閣総理大臣 岸 信 介 殿 原子力委員会委員長 日本原子力研究所の半均質臨界実験の安全性について(答申) 昭和34年8月14日付をもって諮問のあった標記の件について、この実験に係る核燃料物質の使用許可申請書により、実験装置の安全性の外に、その具体的な使用方法、操作方法等について審査を行った結果、下記のとおり答申する。 1.臨界実験装置の安全性 (イ)装置の概要 この装置は、ウラン-235、ウラン238、トリウム-232及び黒鉛からなる炉心集合体と、それを載せる架台(駆動機構を含む)、制御安全棒機構、中性子源,計測装置、インターロック(取外し可能)及び制御盤から構成されている。炉心集合体は黒鉛反射材を含めて同じ大きさの2個の正六角柱(六角形対辺距離2.4m、高さ1.
2m)から成り、これらを架台に載せて、両者を分離して、それぞれに燃料体を装填の上密着することによって臨界に達せしめる。 なお、この実験装置に使用されるウラン-235は、最大15kgでそれ以上の量が使われることはない。 架台は、静止架台および移動架台から成り、移動架台には駆動軸がとりつけられて、移動架台は静止架台に対し、20cmの距離まで速駆動(500mm/min)、それから密着まで緩駆動(15mm/min)する。 制御安全棒は両架台に取りつけられた端面板に固定され、中性子吸収物質はカドミウムである。 インターロックは、この装置の駆動、制御及び計測に関する各装置が定められた順序に従って操作されるようにしてある。 制御盤は、炉心集合体に対して厚さ90cmのコンクリートの生体遮蔽をへだてて設置される。 (ロ)脱走に対する評価 この装置の諸機構が正しく働き、申請書に記載された装置の操作方法が厳守される限り、この装置は安全に運転されるものと認められる。 この装置の機構に故障が起り、運転者の過失等がこれに重なった場合には脱走が起り得る。 申請書に添付された資料には、燃料の誤装填による超過臨界量の集合体が架台の速駆動の速度(500mm/min)のままで接近した場合の脱走が解析してある。これによれば、
0.8%△K/K/secの速度で反応度が加えられることになり、発熱量340W. see/c,c,瞬間出力は2, 000MW程度になることになっている。これは、この装置について想定される最悪の事故と考えられるが、その際の炉心部温度上昇は200℃前後(燃料ヂィスクは600℃)に止まり、この場合にも、装置自体は破壊されず、また,その周囲に対しても特に問題にならないと考えられる。 (ハ)熱出力について この臨界実験装置の出力は10W以下になっているが、実験及び遮蔽の点から考えて適当なものと認められる。 2.立地条件 この臨界実験装置は東海研究所の原子炉開発試験室内に設置される。同じ原子炉開発試験室内のこの半均質臨界実験装置設備室と隣接した部屋に、既に使用の許可を受けた水性均質臨界実験装置が設置されることになっているが、仮に、この水性均質臨界実験装置が事故を起し,最悪の事態に立ち到ったとしても、この半均質臨界実験装置の担当者が退避するに支障なく、逆に、この半均質臨界実験装置についての最悪事態においても水性均質実験装置の担当者が退避するに問題はない。またその設置場所から最も近い原子力研究所の建物(ホットラボラトリ-)は約50m、研究所以外の建物(村松小学校)は約350mの距離にあるから安全は確保されるものと認められる。なお、開発試験は放射線に対して適切な遮蔽がほどこされているものと認められる。 3.技術的能力 この臨界実験装置の運転に当っては、運転管理責任者1名、同副責任者2名、運転担当者4名、燃料管理責任者1名および健康管理責任者1名がこれに当ることになっているが、その人員、分担および技術歴から考えて、この臨界装置を適確に使用するに足りる技術的能力があると認められる。 4.運転管理 この臨界実験装置に使用する燃料の保管について定められている方法は、十分妥当なものと思われる。また、燃料の装填作業ならびに臨界接近の方法については、申請書記載の手順が厳守される限り、十分安全に行われ得るものと判断する。 5.結 論 この臨界実験の安全性に関する以上の諸事項を総合判断した結果その安全は十分確保され得るものと認められる。 |