酸化ウラン核燃料体の製造に関する研究


 昭和32年度原子力平和利用研究費補助金による原子力平和利用研究のうち、酸化ウラン核燃料体の製造に関する研究(三菱金属鉱業)を以下に紹介する。

酸化ウラン核燃料体の製造に関する研究

三菱金属鉱業(株)


1.まえがき

 二酸化ウラン焼結体は金属ウランに比べはるかに高い融点を有し、相変態とか膨張の異方性もなくかつ耐食性もきわめて良好であるなどの長所を持っている。

 しかし反面二酸化ウラン焼結体は一般セラミックと同様強度が弱く、熱伝導度が低いなどの弱点を有する。

 そこで核燃料体としての二酸化ウラン焼結体の特性を十分に発揮するためには、まず第1に高比重で通気孔のないしかもそのO/Uが化学量論比でかつ寸法精度の良好なペレットを造らなければならない。さらに普通平和目的の動力源としての原子炉では1期あたり膨大な数のペレットを必要とするのでこれを工業的に生産するにあたってはむらのないことはもちろんのこと、生産原価を安くすることについても考慮しなければならない。

 上述の点を考慮して現在一般に行われている一般粉末冶金法に準拠して次のような具体的な目標のもとにこれを試作することにした。すなわち製造上容易な3t/cm2以下の圧力で圧縮成形し、クラックのない均質なφ9.1×9〜10mmの圧縮体を得ること、比較的作業の容易な1,500℃以下の温度で焼結すること、ペレットの寸法精度±0.02mm以内、通気孔率零、理論値の95%以上の比重とし、しかもその物理的、化学的性質は最近欧米で発表されている値と同様な焼結体を製造することである。

 従来わが国ではウラン鉱を製錬してこれより酸化ウラン粉末を造り、さらに二酸化ウラン、ペレットを焼結するまでの一貫した製造技術については研究されていなかった。欧米においてはここ1、 2年間に酸化ウラン粉末の製造に関し2、 3の論文が発表されたが、詳細な製造技術に関してはあまり触れていない。そこで第1図に示すような製造工程により人形峠ウラン鉱から二酸化ウランペレットを造る実験室的製造方法を確立することができた。

第1図 国内産ウラン鉱からUO2ペレットまでの実験室的製法


 この製造工程のうち特に次の2点について製造技術上きわめて有効な成果を収め、二酸化ウラン焼結体生産工業化に最も重要な研究を達成することができた。

 第1は超微粒で焼結性の良い酸化ウラン粉末を国内産ウラン鉱および輸入イエローケーキから造り得たことである。

 第2は焼結性があまり良くないとされている米国Mallinckrodt社製二酸化ウラン粉末を用いて、真空焼結法により工業的に有利な1,400〜1,500℃の焼結温度で高比重の焼結体を造り得たことである。

 次に現在までに得た成果の概要について述べる。

2.供試原料粉末の製造とその性質

 国内産ウラン鉱および輸入イエローケーキを基にして精製重ウラン酸アンモン(以下ADUと略称する)を造り、これを焙焼してUO3またはU3O8とした後,これらを還元してUO2粉末を造る最も一般的な方法で実験を進めた。

 一般に焼結性のよいUO2粉末を造るためには粒子を細くすることが必要である。しかし粒度が0.1μ以下の超微粒になるとUO2粉末は酸化物であるにもかかわらず不安定で常温においてもさらに酸化されやすい。しかもUO2粉末は非化学量論的な特性を有しO/Uが一定になりにくい。このためUO2粉末の性質は原料の種類、製造条件、保存、混合条件などによって著しく変化を受けやすい。

 そこでUO2粉末の性質変化に最も影響を及ぼすと考えられるADUの沈殿条件ならびにその焼結および還元条件について主として検討した。いろいろな実験の結果、第1図に示すごとき適正な製造条件でまずAD Uの沈殿を造った。

 これを300〜400℃で焙焼すればUO3となり、 600〜900℃ではU3O8となる。これらはいずれも600〜800℃で水素還元すればUO2となる。しかるにこのUO3およびUO8のいずれも水素還元後空気中に取り出すと黒色の粉末となり褐色のUO2粉末を造ることができなかった。この還元状況を熱天秤で詳細に観察したところ第2図に示すごとく還元はすでに500℃付近から始まり、700℃、3hr保ち急冷してもすでに冷却の過程でふたたび酸化することがわかった。この黒色のUO2粉末は0.05μ以下の微粒であるが、O/U比は2.2以上でこれを圧縮し水素中で1,750℃以上で焼結しても90%以上の比重を得ることはできず、かつ収縮率大でクラックやふくれを生じるのである。

第2図 熱天秤によるUO3の水素還元曲線

 さらに研究の結果ADUの沈殿を水洗のさい15〜25%の硝酸アンモンをわざと残存させたADUを焙焼、還元すると第2図に示すごとく、冷却の過程で酸化することもなく、かつ空気中に取り出しても褐色の比較的安定なしかも焼結性の良いUO2粉末が得られる事がわかった。なおADU中に残存する硝酸アンモンは乾燥、焙焼ならびに還元の過程でほとんど完全に逸散する。硝酸アンモンが10%以下の場合、また25%以上の場合にはいずれも適当な粉末が得られない。かくして造られたUO2粉末の性質は第1表に示すごとく比表面積7〜8m2/g、平均粒度0.07〜0.08μ電子顕微鏡による形状はやや角ばった不規則な0. 05μ前後の大きさである。またO/Uは還元直後は2.04〜2.06であったが、 2週間以上デシケーター中に室温で放置すると2.10〜2.14になり以後安定化する。


第1表 供試 UO2 粉末の性質

 さて酸化ウラン燃料要素は現在のところ低濃縮のものを使用することが多いがこの低濃縮ウランは6弗化ウランUF6の形で供給されるであろう。これからUO2を造る場合はUF6→ADU→U3O8→UO2の方法をとらなければならない。

 かかる場合のことを考慮してこの方法により造られたといわれている米国Mallinckrodt社製セラミックグレード用UO2粉末(ただし本実験の場合は天然ウラン)を供試原料として使用することとした(以下MCW製UO2粉末と記す。第1表にその性質を併記した)。入手したままのUO2粉末の比表面積は2〜3m2/g,平均粒度0.2〜0.3μ、電顕による形状は丸みを呈し、その大きさは0.3μ前後で当所製粉末に比べ約10倍近く粗大である。 O/Uは入手したままでは2.09であったが、600℃水素中で再還元すると2.03になる。これを2〜3週間デシケーター中に放置してもO/Uはほとんど変りない。

3.試作品およびMCW製UO2粉末の焼結性の比較

 試作品超微粒UO2粉末(第1表D、E)を圧縮成形後800〜1,000℃, 1hr水素中で予備焼結後1,400〜1,800℃、 2hr水素中で焼結した焼結体の性質は第3図に示すごとき結果を得た。なお比較のためMCW製セラミックグレード用UO2粉末(第1表A, B)についても同様に処理したものを示した。理論値の96%以上の高比重をうるためにはMCW製〔A〕では1,750℃, 〔B〕では1,700℃付近の温度を必要とするが試作品UO2〔D〕は1,500℃、〔E〕では1,400℃以下でよいことがわかる。しかしながら1,600℃以上の高温になると試作品UO2はふくれまたはクラックを生じ比重がかえって低下する。また通気孔率ε0も増加の傾向を示す。この傾向は〔E〕 (O/Uの大きい2.14)のほうが顕著である。この現象はMCW製粉末では起らない。このことの原因は多分焼結体内の過剰の酸素が高温になると還元解離されて気体化しふくれまたはクラックを生ずるためと考えられる。このように1,500℃以下の温度のみに上っても内部に過剰の酸素を介在するペレットは熱伝導度、耐食性その他の点からみて核燃料体として好ましくない。そこで800℃以上の温度になると毎時50℃前後の低速加熱で,しかも指定焼結時間を5hr以上にして、ゆっくり焼結したところ、 MCW製と同様にO/Uを2.00に近づけることができ、ふくれも生じなかった。

 なおUO2粉末のO/U、粒度の相違が焼結体に及ぼす性質変化についてはさらに系統的に検討の予定である。さらにこの超微粒UO2粉末の工業的製法ならびにこの均一性、保存条件などについても引き続いて研究中である。

第3図 試作品ならびにMCW製UO2粉末から造った焼結体の性質の比較

4. MCW製セラミックグレ-ド用UO2粉末の焼結性について

 MCW製UO2粉末から理論値の95%以上の比重の焼結体をうるためには、水素焼結では1,650〜1,750℃の温度が必要である。しかしかかる高温度の焼結は実験的には可能であるが、工業的に大量生産の場合には耐火物、ボート、加熱体などの点において困難な問題が起りやすい。そこでなるべく低温度でかつ短時間で焼結するための手段として、焼結雰囲気を変えたり,少量の添加物を加えたりして焼結性を改善する研究を行った。

 雰囲気の相違による焼結体の性質変化は第4図に示すごとく、圧縮圧力の相違により水素,水蒸気を含む水素(アルゴンも同様)、雰囲気の焼結の場合1,600℃〜1,500℃以下の温度で比重、気孔率は大きく変化する。しかし真空焼結では圧力の相違はほとんど影響しない。また1t/cm2以下の低圧では圧縮体はこわれやすく、かく収縮率が大で変形しやすい。 5t/cm2以上の圧力では圧縮体に層状のクラックが入りやすい。実用上3t/cm2前後の圧力が妥当のようである。

 3t/cm2の圧力で95%の比重をうるためには、水素焼結では1,650℃、水蒸気を含む水素(またはアルゴン)焼結では1,550℃、真空焼結では1,450℃の温度を要する。水蒸気を含む水素(またはアルゴン)焼結が水素焼結に比べ約100℃低温でよいことはUO2+χの還元,酸化作用により燒結が促進するものといわれている。しかし真空焼結は水素焼結に比べ、約200℃低温で95%の比重に達する。

第4図 焼結温度の相違による焼結体の性質変化(焼結時間2hr)

第5図  焼結体の密度と通気孔ならびに閉気孔との関係

第6図 焼結温度と結晶粒の大きさとの関係

 次に水素、水蒸気を含む水素、真空焼結の場合、比重と気孔率との関係は第5図に示すごとく真空焼結の場合最も低い比重で通気孔率が消滅する。

 次に顕微鏡組織から見た各種雰囲気における焼結温度の相違によるグレインの大きさの変化は第6図に示すごとくH2焼結の場合についてはKresscling氏の発表にほぼ似た傾向を認めた。しかし真空焼結は水素、水蒸気を含む水素焼結にくらべ非常に低温の1,200 ℃以下でグレイングロスが起る。しかも1,600℃以上になるとグレイングロスの速度は遅くなる。一方気孔はグレイン内に分散し、丸みをおびてくる。これはまだ諸外国においても発表されていない方法と考えている。なおMCW製セラミックグレード用UO2粉末に1 %以下のごく少量のTiO2を添加し1,500℃、3hr、H2焼結により、またBeOAl2O3を添加し1,600℃, 3hrで理論値の95%に近い比重の焼結体を得た。第7図に実験結果の一部を示す。

第7図 少量添加物の相違によるUO2ペレットの焼結温度と微密化度との関係

UO2に少量添加物を加え緻密化を促進する研究については、すでに諸外国においても発表されているがこれとは多少異なった成果を得た。なおこの少量添加物と、真空焼結とを結びつけて1,400〜1,500℃/hr焼結により通気孔率、閉気孔率のほとんどない高比重のペレットを造りうる見込を得た。

5.UO2焼結体の物理的、化学的性質

 当所製UO2ならびにMCW製UO2から得たペレットのうち95〜97%のものについて物理化学的性質を測定した値を第3表に示す。試作UO2から得たペレットはMCW製に比べ粒度が細かく、したがって収縮率が幾分大きい。しかしそのほかの諸性質は両者ともに全く同様な値を示し、最近諸外国で発表されているものとほぼ似ている。

第3表 UO2ペレットの諸性質

6.むすび

 以上述べたごとく、試作超微粒UO2粉末並びにMCW製セラミックグレード用UO2粉末のいずれを用いても、現在一般に行われている粉末冶金法に準拠して、理論値の95%以上の比重で通気孔のないかつ寸法精度の良い二酸化ウランペレットを実験室的に造りうる見込を得た。特に焼結温度1,400〜1,500℃、1〜5hrで焼結できる点は現在わが国で工業的に行われている超硬質合金と全く類似の方法により工業化しうるので、量産に移る場合の明るい見通しを得たものである。わが国においても遠からずその時期が来るものと期待されるが、その際世界各国に負けない良質で安価な二酸化ウラン核燃料体を製造するためには今後さらに基礎的研究を続けるのみならず原料粉末の量産方式、混合保存条件、圧縮成形、焼結操作などにおけるばらつき、歩留まりなどの点について十分の検討を要すると考える。