放射性廃棄物の海洋投棄に関する国際原子力機関パネル第2回会議


 国際原子力機関はウィーン本部において1959年3月16日から3月21日にいたる6日間、放射性廃棄物の海洋投棄に関するパネルの第2回会議を開き、本パネルの作成すべき報告の草案につき審議を行った。出席者は第1回会議とほとんど変りなく、ただユネスコは都合により事務局員を送らなかったので、国連専門機関としての参加はFAO、WHOのみであった。別に若干のオブザーバーが来会した。日本からは東大教授斎藤信房氏が出席した。

 司会はスウェーデンのプライニールソンによって行われ、同委員長不在の間は米国のブリチャード教授が委員長代理をつとめた。今回は第1回の会議と異なり、会期の前後2日間を費して総会を行ったほかは、すべて部会を行い、報告草案の作成と検討につとめたのが特徴である。

 第1回の会議において考慮された項目は慎重に検討された結果、次のような項目とすることに変更され、それぞれについて部会を開くことが決議され、実行された。新たに設定された項目は次のようである。

1.緒論、事務局担当

2. a)廃棄物の性質および量(担当者、コーエン(仏)、ガングリ(印)、モーソン(カナダ)および事務局)

 b)海洋の性質(担当者、斎藤(日)、プリチャ ード(米)、スケーフ(オランダ)、FAOおよび事務局)

3.環境汚染レベルの計算法(担当者、ハウエルス(英)、ブリチャード(米)、アラー(スウェーデン)、WHO、FAOおよび事務局)

4.放射性廃棄物についての許容レベル(担当者、べフネク(チェッコ)、モーソン(カナダ)、WHOおよび事務局)

5.a)液体廃棄物投棄の方法(廃棄場所および輸送方式を含む)(担当者、ハウエルス(英)、ガングリ(印)、斎藤(日)、スケープ(オランダ)および事務局)

5.b)容器入廃棄物投棄の方法(廃棄場所および輸送方式を含む)(担当者、コーエン(仏)、プリチャード(米)、モーソン(カナダ)、FAOおよび事務局)

5.c)原子力船の問題(担当者、プリチャード(米)、スケーフ(オランダ)、モーソン(カナダ)、および事務局)

6.モニタリングおよびその方法の標準化(担当者、ハウエルス(英)、斎藤(日)、べフネク(チェッコ)、FAO、WHOおよび事務局)

7.登録(担当者、WHOおよびIAEA法律部と相談の上事務局作成)

 これらの項目のうち、第2回において新しく加えられた項目は、2.b)海洋の性質であって、前回作成した各項目の草案を検討の結果、海洋の物理的、化学的、生物学的諸性質をひとまとめにする必要があることを認めたので、この新しい項目が設けられたものである。

 各メンバーの提出した草案は各項目における記載の重複を避け、かつ文章のふぞろいを調節する必要があるので、新たに編集小委員会を設けることとし、プライニールソン委員長、アラーおよびティト(事務局)の3氏が指名された。

 報告の様式は、教養のある一般人に理解できる程度の文章にて本文を記し、専門的事項およびデータはこれを付録として添付することに意見が一致した。

 付録として添付すべきものとしては、次の項目があげられている。

 a)代表的な放射性廃棄物に関するデータ
 b)放射性廃棄物の放出に関して適用されるAdditivity Principle
 c)放射線の最大許容度に関する数字的データ
 d)海洋における混合および交換の過程
 e)海水の化学的性質およびこれと関連する生化学的過程
 f)海洋生物学的データー
 g)液体廃棄物に関する計算例
 h)容器入廃棄物に関する計算例
 i)原子力船からの放射性廃棄物
 j)モニタリング、サンプリングおよび分析技術

プライニールソン委員長、アラー、テイトの3名から構成される編集小委員会は第2回会議終了後、ただちに活動を開始し、第2回会議において各メンバーの提出した草案に修正を施した結果、報告の暫定草案を作成することができたので、6月上旬これを各メンバーに発送した。

 パネル報告の暫定草案においては、第2回会議において定めた項目を再編成し、次の7章にまとめている。

 1.緒 論
 2.放射性廃棄物問題の実相とその範囲
 3.放射性廃棄物問題を解決する方策
 4.放射性廃棄物海洋投棄にもとづく放射線に対する最大許容量の問題
 5.海洋の性質
 6.代表的な放射性廃棄物問題についての実際的評価
 7.海洋投棄を制卸する方策

 第1章においては、本パネル成立の端緒となった国連海洋法会議につき述べたのち、本パネルの構成を記し、さらにパネル報告の性格を論じている。次に放射性核種、放射線およびその生物学的効果、放射線の測定などにつき解説的記述を行っている。

 第2章においては、産業物の性質を述べ、廃棄物を数種類に分類したのち、鉱石処理および精錬によって生ずる廃棄物、陸上における原子炉運転にともなう廃棄物、海上における原子炉運転にともなう廃棄物、照射燃料処理工場からの廃棄物、ラジオアイソトープの使用にともなう廃棄物の性質を論じ、さらに放射性廃棄物の量の現状と将来に触れている。

 第3章においては、いかなる放射性廃棄物投棄方法が採用さるべきかを考え、放射性廃棄物投棄場所としての海洋について述べ、さらに海洋投棄にともなう人体に対する放射線量の最大許容レベルの問題に入っている。放射性廃棄物から海産物を経て人間にいたる放射性物質の移行のルートについては、段階的に解析が行われているが、いまだ多くの不明確な点を残している。

 次に放射性廃棄物投棄の許容度の計算についての考え方を述べ、投棄の可否を実験的に立証することの必要性を記し、最後にイギリスのハウエルスの提案によって放射線量の計算にあたっての加成性(additivity)の原理を述べているが、これは特に新しいことではない。

 第4章では、放射性廃棄物の投棄により生ずる放射能にもとづく人体の曝射の問題を取り扱い、最も重要な最大許容線量の点に論及しているが、いまだ未熟な議論が多く、パネルメンバーの間にあっても意見が必ずしも一致していない。本章では放射線に対する人体の露出の型式を分類し、異なった集団に対する線量の最大許容レベルを考察し、さらに人間に対する放射線量のうち、その何割にあたる部分が放射性廃棄物の海洋投棄に由来するかを評価せんとしている。

 第5章は、海洋の性質を論じ、まず物理学的性質として沿岸水、大陸棚、深海などの特性、海洋における水の交換の問題を論じ、次に海洋の化学的、地球化学的性質を略述し、さらに生物学的問題として海洋におけるバクテリア、プランクトン、海藻、魚類、海鳥などの性質を述べ、海洋生物による放射性物質の移動の可能性および海洋における食物チェーンの問題を取り上げている。

 第6章では、放射性原案物の海洋投棄の技術面について評価を行っている。沿岸水に対する液体廃棄物の問題については投棄場所の選定、沿岸の性質に関連した物理的要素などを簡単に述べ、さらに沿岸に対する投棄に影響ありと考えられる気象学的および海洋学的要素、海水中における拡散および分散の問題、海中における化学的、生物学的要素などを考え、海岸の利用方式と放射性廃棄物問題との関連を論じている。最後に沿岸水への投棄にあたっては、海中における放射性物質の希釈または濃縮の過程に関する実験が必要であり、また沿岸がどのように利用されるかを実験的に研究することも必要としている。本章の中段では容器入廃棄物または固体廃棄物の投棄に関しての現状を考え、投棄場所を論じ、投棄の割合(頻度)はどの程度まで安全でありうるかを評価することについて説明を試みている。続いて放射性廃棄物容器がどのようなデザインであるべきかを論じ、容器の材料、密度、空隙の充填法、衝撃に対する強度などのデザインを記している。また固体廃棄物を他の形態で投棄する問題についても触れている。本章では最後に原子力船問題を取り上げ、第1次冷却水中の放射能、第1次冷却水を処理する場合のイオン交換樹脂に吸着される放射能、船の各部から生ずる放射性廃棄物の問題を論じ、海を六つのゾーンに分けて、これらの各ゾーンに対する廃棄物投棄の方法と可否に及んでいる。

 第7章においては、モニタリングおよびその方法の標準化を考察し、サンプリングの行い方と分析の頻度などを述べ、最後に海洋投棄の登録の必要性が強調されている。これらの内容については第3回の会議において全員の討議を経て修正を行った上、少なくとも本文7章については、本年夏に完成をすることが期待される。

 技術的な諸問題についての詳細なデータは、すべて付録として報告の末尾に添付されるが、これについては本年秋にモナコにおいて開催される放射性廃棄物処理に関する国際会議の成果を織り込んで、最もすぐれたものとすることが要望されている。第2回会議においては、本年秋のモナコ会議(上述)の後、第4回会議を開くことが提案されたが、理事会の承認を得る必要があるのでまだ確定していない。

 第2回会議には米国から同国内の廃棄物処理活動についての報告が提出された。海洋における原子力船からの放射性廃棄物についての考察および米国における太西洋およびメキシコ湾沿岸水に対する放射性廃棄物の投棄がその報告であって、いずれも有益なものであったが、特に前者の原子力船に関する報告書の要点は、パネル報告中に取り入れられている。

 なお第3回の会議は同じく国際原子力機関ウィーン本部において6月26日から30日まで開催され、斎藤教授が出席したが、その報告は次号以降に掲載する予定である。