学校法人立教学院原子炉の設置に関する原子力委員会の答申


 学校法人立教学院が研究、教育用として、神奈川県横須賀市大楠町立教大学原子力研究所に設置する水素化ジルコニウム減速濃縮ウラン固体均質型原子炉については、原子力委員会は昭和34年5月18日付をもって諮問を受け、審査をかさねた結果、昭和34年7月8日付で中曽根委員長から岸総理大臣あて次のような答申を行った。

34原委第58号   
昭和34年7月8日 

内閣経理大臣

 岸  信介殿

原子力委員会委員長   
中曽根 康弘

学校法人立教学院の原子炉の設置について(答申)

 昭和34年5月18日付をもって諮問のあった学校法人立教学院の原子炉の設置について審議した結果、下記のとおり答申する。


 学校法人立教学院が研究用および教育用の目的をもって神奈川県横須賀市大楠町立教大学原子力研究所に設置する水素化ジルコニウム減速濃縮ウラン固体均質型原子炉(TRIGA−II型)熱出力100kW1基の設置許可申請は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号に規定する許可の基準に適合しているものと認める。

 なお、各の基準の適用に関する意見は、次のとおりである。

○核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第24条第1項各号の許可基準の適用に関する意見

(平和利用)

1 この原子炉は、学校法人立教学院に所属する立教大学(以下「立教大学」という。)において、研究用および教育用に用いられるものであって、平和の目的以外に利用されるおそれがないものと認める。

(計画的開発利用)

2 立教大学がこの原子炉を設置し、同大学の原子力研究室を中心に研究用および教育用に利用することは、その使用目的が適切であって、原子炉の型式、性能もその使用目的に合致しているものと考えられる。また必要とする燃料も少量でその入手に支障がなく、かつ同大学においては、原子力に関する教育陣容も整っており、原子炉の運転に要する経費についても、毎年、同大学経常部予算から、原子力研究室予算として、約20百万円を計上されることになっていて、その教育効果も確保し得るものと考えられるので、この原子炉の設置、運転がわが国の原子力の開発および利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないものと認める。

(経理的基礎)

3 原子炉の設置に要する経費は、総額約226百万円を要するが、その調達については、そのうち180百万円はアメリカ聖公会本部等から寄付されることになっているほか、24百万円の自己資金は昭和34年度立教学院臨時部会計に計上され、残額22百万円の金融機関からの借入についても米国聖公会本部からの補助等による返済の見透しを得ているので、原子炉を設置するために必要な経理的基礎があると認める。

(技術的能力)

4 この原子炉は、米国聖公会本部とゼネラルダイナミックス社との契約により、ゼネラルダイナミックス社が原子炉の製作および据付工事を行った上で、米国聖公会本部から立教大学に寄贈されることになっている。従って、原子炉の設置に関する技術的能力は、事実上、ゼネラルダイナミックス社に求められるが、同社は、既に同型原子炉について、製作、設置および運転の経験もあり、またこの原子炉については直接の製作者でもあるので、この原子炉を設置するために必要な技術的能力があるものと認める。

 また原子炉の運転管理は、同大学の理学部および大学院理学研究科を技術的背景として、同大学の原子力研究室が当ることになっているが、その具体的な運転管理体制は、教授5名、助教授2名、講師3名、助手2名その他補助員約11名をもって構成し、それぞれ、原子炉、保健、ホットラボ管理およびアイソトープ取扱、廃棄物処理等の部門に適切に配置しているので、原子炉の運転管理を適確に遂行するに足りる技術的能力があると認める。

(災害防止)

5 原子炉施設の位置、構造および設備については、次の検討結果により、核燃料物質、核燃料物質によって汚染される物または原子炉による災害の防止上支障がないものと認める。

(1)立地条件

 この原子炉施設は、神奈川県横須賀市大楠町の元海軍機関学校跡に設置を予定されているが、そ の施設の設置用地は約15,000坪、原子炉格納施設から人家への至近距離は約200m、原子炉格納施設から半径300m以内の人口は約40名となっており、またその他の気象、地盤等の設置場所に関する立地条件も、この原子炉の性能等からみて支障ないものと考えられる。

(2)原子炉の安全性

 この原子炉は、

(イ)熱出力100kW、過剰反応度1.6%で設計されているが、即発性の大きな負の温度係数(−0.013%/℃)にもとづく自己制御性を有するので、仮にこの過剰反応度を急激に入れても、出力の上昇は自動的にあるレベルに抑えられて原子炉は暴走しないのみでなく、燃料棒(水素化ジルコニウムと22%濃縮ウランを均質に結合させた棒状固体燃料)も溶けないことが理論的にも、またこの原子炉(TRIGA II型)の原型であるTRIGA I型(出力10kW、過剰反応度1.6%)の実験によっても確められていること。

(ロ)放射線遮蔽は、出力100kWの場合でも遮蔽壁の外側で放射線量率が2mrem/h以下になるよう計画されているので、1週48時間の標準作業条件下において、現行の科学技術庁告示の許容線量(300mrem/週)は勿論、ICRPの1958年勧告の許容線量(100mrem/週)内にあること。等のため、その安全性は確保されるものと考えられる。なお、その他原子炉冷却系統施設、計測制御系統施設等の原子炉本体関係施設については、特に問題となる点はない。

(3)廃棄物処理

 放射性気体廃棄物(41Ar)は排気筒を用いて行う換気により、大気中に放出し、放射性液体廃棄物はイオン交換塔および高速度沈殿装置によって処理して、土中に埋没したポリエチレン管により海に排出し、また固体廃棄物は適切な保管所に一時保管の後、他の処理機関に送ることが計画されているが、使用ずみ燃料の取出量も少ないこの原子炉施設においては、現計画の廃棄物処理施設をもって、安全に、十分な機能が果し得るものと考えられる。

(4) 放射線管理

 放射線管理施設としては、各種のモニターを備えており、エリアおよび個人のモニタリングを満足に行うことができるものと考えられる。また周辺地域には、常時モニタリングステーションをおいていないが、この原子炉のもつ安全性と排気筒出口および排水口で行う排気および排水モニタリングから考えて、その必要がないものと考えられる。

(損害賠償)

6 なお、原子炉の災害による第三者に対する損害賠償については、原子力災害保険に付保するため毎年500万円の準備があるので、損害賠償に関する保険付保の法律実施の際には、これに加入する態勢にあるものと認められる。