昭和34年度日本原子力研究所事業計画


 原子力委員会の策定せる昭和34年度原子力開発利用基本計画に従い日本原子力研究所の昭和34事業年度における事業計画を次のとおりとする。

1.事業概要

 昭和33事業年度においては研究第3、4棟の建設、研究諸器材および居住環境の整備等一応の体制は整い、東海研究所として円滑な事業を推進する。なかんずく半均質炉のごときは、基礎研究の中から生れた独創的な着想であり、今後もこうした新構想は次々に生み出されていくものと期待されている。

 昭和34事業年度においては、JRR−2が年央に臨界に達し、JRR−3、動力試験炉、ホットラボ等の建設に着手し、これらに並行して研究を進めていく。

 研究の実施にあたっては、基礎の培養に努めるのはもちろんであるが、逐次研究を集約し、目的研究に近づけていき、重要な総合課題はプロジェクト化して開発にあたる。また外部との研究協力を特に重視し、たとえばJRR−3の建設、その燃料要素ならびに半均質炉の開発のごときを中心にして、国内メーカー、各研究所との共同研究の実をあげていくよう配慮する。さらにJRR−1、Co−60照射室のごとき主要施設はもちろんであるが、その他のものについても共同利用の実をあげ、原子力研究センターとしての責務の遂行にあたる。

 これら事業の遂行に要する人員は年度当初750名、年度末1,006名、ほかに外来研究員甲50名、乙5名とする。

2.おもな事業

 本事業年度に行うおもな事業は試験研究関係、動力試験炉関係、建設関係、技術者の養成訓練関係に分けられる。

(1)試験研究関係

 A 原子炉の開発利用

 a 設計研究
 熱中性子増殖炉、高速中性子増殖炉、軽水炉についての核的な設計研究を行うとともに、材料工学試験炉についての調査検討を行う。

 b JRR−1の運転、JRR−2の建設ならびに運転
 JRR−1は33年2月定常運転に入り、以後安定した運転を続けている。JRR−2は本年年央臨界に達し、以後試験運転を行い、年度末には炉を用いる各種実験を並行して行う。

 c JRR−3の建設
 炉本体については建屋の工事に並行して製作を進め、躯体工事の完成をまって組立を開始する。初期装荷燃料については地金3トンをIAEAから購入し、残りの約6トンについては原子燃料公社において製造されたものを使用する予定である。

 d 増殖炉の開発
 高速炉については、高度の技術を要するため、情報資料の十分でない現状から本年度は33年度に準備した実験装置でブランケット部分の実験を行うに止める。水均質炉については、前年度から化学関係部門と協同研究を行い、本年度年央には臨界集合体が完成し、下期からこれを用いて臨界実験を行うとともに零出力予備実験装置の設計製作を行う。ただし本炉については、腐食の問題が開発のキイポイントとなるものと思われるので、核的な研究と並行し、その調査研究にあたり、本炉開発のスケジュールを再検討する。半均質炉については、前年度までの調査研究によれば相当有望であるので、本年度はこれの開発を重視し、各部門の人員、器材を集中し、プロジェュクト化して開発にあたる。すなわち核的な研究においては2分割型実験装置を組み立て、臨界前実験を行うとともに燃料体の研究、炉心部における揮発性核分裂生成物の挙動、燃料の再処理、燃料棒の機械試験等の基礎研究を並行的に進め、インパイルループを作りその実現性の検討を行う。
 なお、炉心燃料体ペレットの製造は委託研究に出す。

B 関連研究

 B−1 基礎的研究

 a 原子核物理の研究
 ヴアンドグラーフをパルス運転してタイムオブフライト法で高速中性子に対する炉材料の核物理的性質の研究を行い、原子炉を用いてパイルオシレ一夕一法による炉材の検査法の確立ならびにクリスタルスペクトロメーター、スローチョッパーを用いて、低速中性子に対する炉材料の核物理的研究を行う。

 b 固体物理の研究
 原子炉材料、特に人工グラファイト材の原子炉による照射効果(いわゆるウィグナーエネルギー)の研究を行う。このために極低温装置を組み立て、格子欠陥の解明にあたる。この他ウラン、トリウムおよびその合金の固体物理的研究を前年度から引き続いて行う。
 また前年度から継続中の照射損傷の研究についてはイオン結晶、半導体、金属を対象として中性子束密度の高いJRR−2等を使用して種々なエネルギー粒子で照射損傷機構を研究する。また原子炉から出る熱中性子線を単色化しこれを用い原子炉材料の固体物理的研究を行う。

 c 分析化学の研究
 研究室においては分析方法の開発にあたり、方法論の確立したものについては、中央分析室に移し、各部各室に対し分析サービスを行う。
 分析の研究としては核燃料、炉材料、強放射性試料の三つの研究にわかれる。
 核燃料については、燃料中の微量不純物、添加物、非金属成分の分析法を確立しようとするもので特に本年度においては質量分析計を整備し、ウラン同位体濃度測定に着手する。
 炉材料については炉材料中の微量不純物の定量を行わんとするもので固体のほかに、重水濃度の測定法確立も研究する。
 強放射性試料については、将来ホットラボの使用開始にともないこうした需要がますます増大することを予想し、遠隔分析法、超微量分析法(マイクログラム以下)を確立しようとするものである。

 d 物理化学の研究
 再処理の基密的研究および水均質炉のためのスラリー等の放射線下の化学的安定性の研究が中心テーマであり、前者についてはフッ化物分留法の研究として前年度にフッ素取扱のための特別研究室の建設に着工し、年央には増築分も完成するのでここにおいて、まずフッ素取扱の基礎的な研究に着手し、ついでUF6の分留研究に進む。なお、溶媒抽出法については化学工業部門において装置の運転による工業的な研究を行うのに対し、本研究室では新溶媒の開発、抽出機構および溶媒に対する放射線効果等の基礎研究を行う。
 後者については、ウラン、トリウムの塩類溶液およびスラリーの中性子、γ線照射下の化学的安定性の研究を行い、原子炉材料との化学反応性、腐食性等の重要点の解明を行う。

 e 放射化学の研究

 放射化学の研究としては核燃料、核分裂生成物の放射化学的研究ならびに廃棄物処理の化学的研究、原子炉化学に関する研究がある。すなわち、
 U−Np−Pu、Th−Pa−U系燃料の研究においてはPuの化学(ただしトレーサー量を用う)および233Paの分離法に重点をおく。
 核分裂生成物の研究については核分裂生成物から有用放射性同位元素の分離を行うことを目的として本年度はさしあたり131Iの分離精製について検討する。
 廃棄物処理の研究としては、核分裂生成物中のルテニウムの化学的挙動が複雑であり、再処理廃棄物処理の際最もやっかいな元素であるのでその化学的挙動を研究するとともに廃棄物中の放射性物質を半永久的に固定化できる方法を見出す。
 次に原子炉化学の研究としてppm又はppbオーダーの超微量成分の定量のため放射化分析法の方法論を確立するとともにホットアトムの化学的研究を行う。

B−2 工学的研究

 a 金属の研究
 JRR−3燃料要素の研究開発を中心として行うほか、炉材、酸化物燃料の冶金学的研究ならびに構成材料、液体系燃料による腐食、侵食の研究等を行う。
 すなわち、JRR−3燃料要素の研究の目的とするところは、天然ウラン加工燃料の製造条件、熱処理、被覆、材料強度、物理冶金、非破壊検査等の分野にわたり研究し、鋳塊から燃料体を完成し、安定なしかも燃焼率の高い燃料を得ることにある。
 JRR−3の製作にあたって炉体の部分はもちろんであるが、燃料要素の開発も重視しており、しかも、国内メーカーとの関連において、当研究所の果すべき役割ははなはだ大きい。
 したがって、2ヵ年にわたり高周波溶解炉、溝ロール、スェジングマシン等の大型機器を整備し、ウラン棒の試作を行う。これらを用いた研究成果を十分に国内生産に反映せしめるため、民間産業と強力な共同体制を作り、少なくともJRR−3の取替燃料の国内生産に寄与する。
 一般的な被覆材、炉心材料の研究としては、マグノックス等の研究を前年度から引き続き行うとともに、Fe−Al-Cr合金等の物理冶金組織研究、機械試験を行い、特に照射下の研究を行うためインパイルテストの準備を行う。
 酸化物燃料の研究としては、将来の動力炉用燃料として酸化物系燃料は金属ウランに比しはるかに融点が高く、はなはだ有望であり、民間産業においてもすでにその研究に着手しておるので当研究所としては、民間とタイアップして特に照射試験に重点をおいて研究を進める。
 金属部門として腐食、侵食の研究もはなはだ重要であり、炉内における水、ガスによる炉材料の腐食、侵食の研究(特に照射下における研究)、液体燃料および液体金属による腐食、侵食の研究を行う。後者はJRR−1の硫酸ウラニル溶液による炉心容器の腐食、侵食、液体金属、特にNa、NaKによる腐食の研究を行い、これは後述する液体金属の伝熱研究と同一ループを用いて行う。

 b 機械装置の研究
 この部門においては熱の研究が中心テーマであり、まず将来の動力炉用のため水冷却、ガス冷却原子炉の伝熱と流動の研究を行う。すなわち放射線下における沸騰現象と2相流のボイドの研究とフィンの基礎資料を得るためガス冷却炉の基礎研究を行うもので、後者においては、本年度は高温下における研究を重点的に行う。
 次に円筒、球、同心球を用い流体を流し、内部流動の変化を測定し、クーラントの炉内の流れについての研究も行う。
 また、前述したような腐食、侵食のためのルーブを用い液体金属の熱伝達特性、流体抵抗の測定等を行うこととしている。
 なお、原子炉内の温度分布は定常運転の際にすら温度分布が異なり破損原因となっているので、燃料、材料の熱応力を測定し、設計上の基礎資料を得るため原子炉における熱応力の研究も行う。
 以上のほかに本年度から新しく追加された課題として、原子炉系中の機械的コントロールの研究がある。

 c 計測制御の研究
 動力炉の動特性の解析、原子炉伝達函数の測定、不連続制御装置の試作検討、制御用機器の調査研究、原子炉シミュレーターの開発、原子炉自動起動の研究等を含め原子炉制御の研究が本部門の中心課題である。
 次に前年度に引き続き新しい放射線計測技術の開発を目標に新しい測定機器、測定技術の研究を行い、原子炉計測およびその他の放射線計測の基礎を確立するため、放射線計測の研究も計画しており、本研究においては特にミリマイクロセコンドパルス技術の研究を進め、また測定の自動化、データの迅速処理などに関する技術の開発を行うことに重点がある。
 また本部門では前年までにACアナコン、DCアナコンの設置が終ったのでさらに広範困な応用を可能にするため、使用頻度の高い付属機器を増設する等整備を充実し、また、データ処理に関する研究を進める。
 JRR−1、JRR−2および半均質実験装置等について核的動特性の実験的な研究を行い、平均中性子寿命、連発中性子の実効比率ならびに炉の諸定数の測定を行う。
 次に冷却体中に放出されたFPを検出する方法について放射線計測の立場から研究し、燃料棒破損検出法の基礎を確立する。

 d 化学工学の研究
 この部門としては溶媒抽出法による燃料再処理装置の研究が重点であるので、溶解、調整および抽出関係のバッチシステムの装置を作り、コールド状態で研究を行う。
 次に水均質炉開発研究の一部としてテストループを用い、各種スラリーにつき流動、伝熱および浸食の研究ならびに放射性廃棄物処理装置の研究を行う。
 後者についてはイオン交換膜処理、沈殿濃縮処理、ついで廃気については液体煙霧質のみならず、固体煙霧質についても、処理の研究を進め既設の廃棄物処理場の方法の改善に資する。

B−3 放射線応用の研究

 a RIの研究
 この部門では短寿命RIの製造研究がまずあげられる。
 すなわち、短寿命RIは需要が多いにかかわらず、短寿命のため輸入が困難であったが、JRR−1を使用して本年度は32P,131Iの製造研究を引き続ぎ行うとともに、新たに58Co,51Cr,64Cu,56Mn,65Ni などの製造研究を開始する。さらに32P製造用のS中不純物の検出定量精製を行うほか、Fe,Ni,Co,Mnの相互分離、14C製造用のターゲットの合成の研究を行う。
 また、ホットアトム効果、高比放射能の51Crの製造を検討し、また(n,d)、(n,p)反応などにより無担体のRI製造研究を行う等高比放射能RIの製造研究を行う。
 次に短寿命RIについては製造のみならず、その利用研究も行う。
 すなわち、主として(γ,γ)反応による放射化利用の研究に重点をおき、安定アイソトープの濃縮度決定の基礎研究を行う。
 また製造されたRI中の放射性不純物の検出定量法を研究し、将来工場にて実施すべき検定法の確立に努めることとしている。
 前年度製造所究を行った24Na,42K,76As,82Br,198Au等について本年度は試験製造を行い、また32P,35S,131I については試験製造装置を作る。

 b 放射線利用の研究
 Co−60線源(10kc)と原子炉を用いグラファイトと冷却気体との反応を研究し、その他高分子材料、高分子溶液の放射線効果を研究するとともに有機化合物の放射線による反応の研究を行う。
 すなわち、有機減速材の放射線による分解反応の研究と中性子線による標準化合物の直接合成の研究を行う。
 このほか前年度完成したCo−60照射室をいっそう整備するとともに、線量測定法を確立し、各種試料照射のための共同利用の体制をますます固める。

B−4 保健物理の研究

 この部門は放射線管理に対し、その改善の材料を提供するため行うもので、まずγ線、中性子線を用い、2次線の有効な遮蔽の研究を行うこと。

 放射線障害防止の目的をもって測定法を改善し、ウラン、トリウム等の極微量のものの核種決定および定量の方法を研究すること。

 尿中のウラン量から被曝線量の測定を行うこと。などのほかに中性子吸収線量の測定に関する研究があげられる。

C 放射線の管理および廃棄物処理

 この部門は研究に対するサービス的な色彩をもったもので、仕事としては、本来はルーティン化しているべきものであるがなにぶんにも日本では初めての経験なので、研究を進めながら方法論を確立し、逐次ルーティン化して行っている。

C−1 放射線の管理

 次のような区分により管理体制を固めている。

 a 非常管理

 b 個人管理
 本年度は、内部照射の管理に着手する。

 c 研究室管理
 本年度新らしく管理対象となるべき建物は、JRR−2、研究第3、4棟、リニアック室等である。

 d 野外管理
 モニタリングステーション1ヵ所を増設し、計8ヵ所とし、大気中の気体放射能検出装置を追加する。なお、土壌農作物に対する汚染、吸収、移行の調査を行う。

 e 汚染除去
 被服および固体表面の汚染除去の技術開発を行う。

 f 気象、海洋その他の観測と調査
 前年度に引き続き局地気象の観測を行うとともに茨城県水産試験所と共同し海潮流の測定を行う。

C−2 廃棄物の処理

 前年度液体廃棄物処理関係は施設を終り、本年度初めにかけ試運転を終り、年央から正常運転に入るが、本年度は固体廃棄物の処理施設を整備し、下期から正常運転に入るべく予定している。

D その他

D−1 ホットラボの整備

 建物については、すでに着工しているが、内装は本年度中に大部分の器材を入手して、内装機器の配置の検討および遠隔操作の訓練等を摸擬セルについて行い、その結果によってホットラボの整備を行う。

D−2 LINAC の整備

 32年度に契約を行った米国High Voltage社製20MeVのLinacは、本年秋ごろから据付が開始される予定であり、年度末には調整試運転に入りうる見込である。これに並行して、増力用基礎実験を進め、将来の出力増強にそなえる。

D−3 融合反応研究委員会の世話

原子力委員会専門部会の結論にしたがい、実験装置の調査設計に関する委員会をつくる。

(2)動力試験炉関係

 動力試験炉(軽水減速電気出力1万kW発電用原子炉)の導入については、年度当初には契約が成立し、下期に至り建屋工事に着工する予定である。

 したがって、本年度は東海研究所においては、土木建設工事が始まり、いっぽう、炉関係はメーカー側において詳細設計に入ることとなるので、当研究所としては、設計打合せが事業の主なるものとなる。

 現在の予定では、昭和36年年央に臨界に達し、年度末までに試運転を終了し、当研究所に引き渡される見込である。

 本炉は発電用の試験を行うのはもちろんであるが、船舶用としての試験研究を計画しており、これに対しては関係者と密接な連絡を保ちつつ準備を進める。なお、昨年東海研究所に運輸省技術研究所の支所が開設され、今後いっそう当研究所と共同研究の体制を進める。

(3)建設関係

 a JRR−3建屋
 前年度に引き続き、JRR−3建屋はJRR−3の建設工程に合わせて、35年度上期内完成を目途に工事を継続する。
 建坪延約1,100坪、うち炉室約530坪、付属研究室等約570坪である。

 b ホットラボ
 前年度に引き続き原子炉による照射試料の各種実験を行う施設であるホットラボの建設を行い、34年度内に完成することを目標として工事を進める。建坪は延約320坪である。

 c 放射線照射量
 前年度に引き続きリニアック照射室の建設を34年秋には終る予定である。建坪は延約340坪である。

 d 研究第5棟
 一般研究棟として建坪延1,128坪の研究第5棟は34年度下期完成を予定している。

 e その他の建物
 上期研究施設建屋の建設を行うほか、おもな新規工事として建坪延約225坪のモックアップ建屋、建坪延約500坪の事務本館第2棟等の建設があり、これらは本年度下期完成を目途としている。
 なお、このほかに外部から集荷される放射性廃棄物の貯蔵施設を新設する。

 f 住 宅
 約230戸を建設する。

(4) 技術者の養成訓練関係

A RI研修所

 基礎課程は前年同様年間8回開設を計画している。
 8回の基礎課程の受講者数は通計約250名、この中には東南アジア研修生も約20〜25名予定している。

B 原子炉研修所

 内容は高級課程と一般課程に分れ、前者は大学卒5年以上の科学者、技術者の原子力分野への転換であり、年度初めに開設の予定である。人員は10〜15名とし3ヵ月の講義、9ヵ月の専門別実験を計画している。後者は大学卒2年以上のものを対象とし、人員は約16名とし、期間は暫定的に3ヵ月を予定し原子力全般に対する知識を与えることを目的とし、下期から開設する。

C JRR−1による短期講習

 原子炉の理論、構造を解明し、運転経験を得させるため、JRR−1を利用し、1回15名程度で10日間の訓練を行う。本年度は6回の実施を計画してる。

D 留学生の海外派遣

 当研究所の費用をもって行う海外派遣の留学生は7名を計画しているが、このほかにIAEAの招へいおよびその他の奨学資金によるもの数名がある。


昭和34事業年度資金計画