(核融合専門部会の答申)

 昭和34年3月30日  

 原子力委員会委員長

     高 碕 達之助 殿

核融合専門部会部会長   
湯 川 秀 樹  

核融合反応の研究の進め方について

 核融合専門部会は、核融合反応に関する内外の研究の現状を検討し、わが国における今後の研究の進め方について審議した結果、下記の結論を得たので報告する。


1.研究の現状

 先に開かれた第2回原子力平和利用国際会議で、各国における核融合反応の制御に関する研究の状況が明らかになった。それによると米、英、ソの3国は1950年ごろから制御の原理についての基礎研究を始め、それにもとづいてさまざまな方法の高温プラズマ発生装置を多数建設して広範な研究を続けている。こうして数百万度の温度を得ることに成功したが熱核反応の確証を得るには至っていない。さらにこういう研究によって一方では核融合反応の制御に対する希望が増大するとともに、他方では高温プラズマの諸性質についていっそう理解を深めることの必要性が再確認された。参加者の大部分の一致した意見によれば核融合の制御という目標達成のためには長年月にわたる研究を積み重ねることが必要であると考えられている。一方わが国ではこの分野の研究は1955年ごろから着手され、その活動は近年次第に活発になり、その基盤はある程度確立された。

 しかし、これに対して今までに支出された研究費は文部省科学研究費と原子力予算を合わせて約8,000万円であり、これは米国のそれと比較して0.2パーセントに過ぎない。研究費の増額は核融合に限らず、科学の全分野にわたって必要なことで、基礎科学の新分野として登場した核融合の研究も基礎科学振興の一翼として、また将来の成果を期待する地固めとしていっそう強力に推進する必要がある。

2.今後の研究方針

 核融合反応の研究を推進するにあたっては、研究の各段階で現状を分析し、将来の方針を立てていく必要がある。そのためには柔軟性を待った研究体制が望ましい。当面の方針としては、1の分析にもとづき、(A)基礎研究に重点を置き、新しい着想の育成と具体化をはかるとともに、新しい研究分野に働く研究者を養成することが大切と考える。さらにそれと並行して、(B)諸外国である程度成功の可能性の示された実験装置、またはその改良型を建設し、その建設過程において得られる経験と作られた高温プラズマの利用によってすみやかにわが国の研究水準の向上をはかることも大切である。そのために国内の諸機関、諸専門分野間の交流を盛んにして、組織化された研究を行うとともに、諸外国との知識の交換のための研究者の交流を盛んにすることも考慮しなければならない。組織化された研究としては、次のA、B両計画を実施することを提案する。

 A計画 新しい着想の育成と具体化

 核融合の研究に関して、過去数年間に次々新しい考案が生れてきたが、そのうちどれが終局の成功に導かれるかどうかは今なお不確定である。わが国でもいくつかの新しい着想が生れつつあるが、それを積極的に育てていくことが必要である。そのためには当面次の措置を講ずることが望ましい。

(1)大学にプラズマ科学の促進を目的とするいくつかの講座を増強し、基礎研究を進めるとともに研究者の養成を行う。

(2)核融合研究の根幹になり、特に多額の経費を要する高温プラズマ発生装置については、新しい着想の検討、装置の試作を目的とする研究グループを作る。

(3)上記の活動でかなり有望だとわかってくれば、この研究グループを恒常化してそれを中心にして一つの研究中核を組織する。

(4)このための予算的措置を講ずることが必要である。

 B計画 中型装置の建設

 諸外国ではピンチ型、ステラレーター型、磁気鏡型等の高温プラズマ発生装置を建設し、プラズマ物理学に多くの成果をもたらした。わが国でも各研究機関で類似の小型装置を製作または設計し、高温プラズマについてさまざまの知識を得つつある。しかし百万度を境にしてプラズマのふるまいにかなり質的な違いが予想されるので、1千万度程度の高温を保持することを目標とする中型装置が必要である。そのためには諸外国である程度成功をみた型を参照して、中型装置をできるだけすみやかに建設することが望ましい。これは3〜10億円の経費が予想されわが国としては、かなりの規模の研究になるので、効率的で総合的な方法として次のような措置を講ずるのがよいと考える。

(1)中型装置の形式、規模を調査研究し、その設計の具体案を作るために、中型装置設計グループを組織する。このグループは日本原子力研究所に置かれ直ちに活動を始めるのが望ましい。

(2)このグループは、昭和34年度中に中型装置の形式、規模等を選定し、さらに具体的な検討を行うことを目標とする。

(3)上の仕事の成果にもとづき中型装置を建設、運転、研究を行う実施機関を決める。実施機関は昭和35年度から出発できることが望ましい。

 なお、これに付属してB計画推進要領が提出された。その要点は原子力委員会核融合専門部会の答申に従い超高温を保持することのできる中型実験装置を建設し、その過程において得られる経験と作られた高温プラズマの特性の研究によってすみやかにわが国の研究水準の向上をはかることを目標とし、装置の型式規模を調査研究し、その設計の具体案を作成するため、当初15名程度をもって構成する中型装置設計グループを設置することとし、このグループは各型式の装置について調査研究しその結果を比較検討したうえB計画に適した装置の型式規模を選定し、選定された装置については核融合専門部会の審議決定を経て具体的な設計に入ることとしている。なおB計画を35年度から開始することを目標として作業日程が付されている。

 〔訂正〕

 前号12ページ原子力委員会専門部会専門委員の追加の項のうち(左側下から5行目)佐々木茂雄は佐々木重碓の誤りにつき訂正します。