原子力委員会

 昭和34年度の原子力開発利用基本計画が決定され、研究、開発のいっそうの深化、拡充がはかられることとなった。天然ウランの受入れに関しては3月24日国際原子力機関との間に協定が締結され、原研に設置される国産1号炉の燃料3トンが供給されることになった。また専門部会では国際見本市展示用原子炉の設置ならびに核融合反応の研究の進め方についてそれぞれ答申を行った。

昭和34年度原子力開発用基本計画の決定

 欧米先進諸国に比して著しい立ちおくれを見ているわが国原子力の開発利用を急速にとりもどすためには計画的、効率的にこれが推進をはからなければならないことはいうまでもないが、一方日本原子力研究所法および原子燃料公社法には、それぞれの機関の業務が原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める基本計画に基いて行わなければならない旨が規定されており、この点からも原子力委員会は原子力開発利用に関する基本計画を議決することを要請されている。

 この基本計画は長期計画と年度計画とに分けられ、このうち昭和34年度の年度計画は、各方面の意見を参考として原子力委員会において検討がかさねられていたが、3月20日開催の第3回原子力委員会参与会の審議等を経てこのほど議決を見、内閣総理大臣に報告、決定のはこびとなり、ここに本年度わが国において実施される原子力開発利用の基本方針が明らかにされるにいたった。以下にその全文を紹介する。

昭和34年度原子力開発利用基本計画

1.はしがき

1955年8月、ジュネーブにおいて開催された第1回原子力平和利用国際会議以来逐次その気運を高めてきた世界の原子力平和利用のための研究開発は、昨年9月の第2回会議の開催を契機に新たな発展段階に入ろうとしている。

 わが国においても、昭和29年以降、各界の協力のもとに、日本原子力研究所、原子燃料公社等における研究開発のための諸施設ならびにその内容も順次充実し、放射線医学総合研究所における研究も軌道にのりつつある。さらに民間企業においては、日本原子力産業会議を中心に相互の連絡協力をはかるとともに各産業分野の企業がそれぞれの特徴を生かしうるようなグルーブが形成されており、実用面においても大規模な商業用原子力発電施設を英国から導入しようとする計画が日本原子力発電株式会社により具体的に進められている。同時に各分野に関連をもつ原子力研究開発に従事するものの研究成果を交流する場として日本原子力学会が正式に発足した。

 また、対外的な面についても従来米国との間に締結されていた原子力研究協定に加えて、日米、日英間に原子力一般協定が調印され、発効し、さらにわが国が理事国の一つとして活躍している国際原子力機関に対しても天然ウランの供給を申し入れるなど国際協力の場を拡大する努力が続けられてきた。

 かようにみるならば、わが国の現状は、従来努力されてきた原子力平和利用のための研究開発態勢が一応整備された段階にあるといえよう。

 かくして、昭和34年度において果さるべき事業の特徴は上記のごとき成果の上に立脚して人員の拡充をはじめとして、広く研究開発の内容を深化し、拡充せしめるとともに、世界の研究開発の趨勢に沿って増殖炉、核融合反応、原子力船等やや将来を見通した研究開発の基礎を固めるところにある。同時にこれら研究開発の進展に応じて必要となる態勢の整備拡充に努力すべきであろう。

この昭和34年度原子力開発利用基本計画は、以上のごとき同年度の特徴を実現せしめることを目標に、すでに決定した「発電用原子炉開発のための長期計画」、「核燃料開発に対する考え方」の線に沿い、また、目下検討中の核融合研究計画、原子力船開発計画、技術者養成訓練計画、アイソトープについての利用計画等「原子力開発利用長期基本計画」に織り込まれる長期的な観点を加味しつつ、昭和34年度において果さるべき事業の大綱を示したものである。

 本計画を遂行するに当っては、各方面の積極的な協力を期待することが必要であることはいうまでもなく、このため当委員会は、わが国の原子力開発利用の基本方針ならびにその進捗状況を従来に引き続き刊行物等の広報手段こより周知徹底せしめるよう努力し、研究開発の秩序ある発展に遺漏なきを期する。

2.開発態勢の整備

(1)研究開発機関の整備

 日本原子力研究所においては、一昨年夏にJRR−1が運転を開始したのをはじめCo60γ線照射室、ヴアンドグラーフ粒子加速装置その他の各研究施設が完備したので、人員を拡充してわが国の原子力平和利用のための研究開発を一段と深化、拡充せしめ、将来の発展の基礎を固めるものとする。同時にJRR−2の完成、ホットラボ、JRR−3および動力試験炉の建設をはじめ廃棄物処理場、リニアアクセラレータ等研究施設の整備に努めるものとする。

 原子燃料公社は人形峠鉱山において採鉱試験を行うとともに、東海製錬所においては、すでに完成した精製還元中間試験工場の試験運転を行い、さらに本年度初頭に粗製錬工業化試験設備も完成するのでウラン金属国産化のための一連の技術を確立するものとする。

 さらに、放射線医学総合研究所においても研究棟の建設を終った段階にあるが、早急に研究施設の整備を行い、放射線障害の防止ならびに放射線の医学的利用に関する基礎研究を推進するものとする。

 そのほか各国立試験研究機関においてもそれぞれの特徴を生かした研究を押し進めるようさらに態勢の整備をはかるものとする。

(2)対外協力関係の促進

 諸外国におくれて出発したわが国の原子力平和利用のための研究開発水準を急速に高めるため、すでに米、英との間に原子力一般協定が締結され、また、ドイツとの間にも原子力平和利用に関する日独両国間の協力関係を強化するための書簡の交換が行われる等、原子炉をはじめ核燃料、資材等の供給、各種技術情報の交換等への道が開かれた。さらに広く各国との協力を促進するため、かねて予備交渉の行われてきたカナダ等と協定を締結するものとする。

 なお、国際原子力機関については、天然ウラン購入契約の実施ならびに原子力災害補償、放射性廃棄物の海洋投棄などを検討する専門家会議をはじめ各種国際会議への出席、留学生の受入等具体的な計画について積極的に協力をはかる。また、国連科学委員会への参加、東南アジア諸国等との協力等を促進するものとする。

 さらに、昨年度において大きな成果をおさめた諸外国の原子力専門家の招へいを引き続き行うとともに先進諸国における成果を摂取するため核燃料調査団をはじめ原子力船に関する調査団等を派遣することを考慮するものとする。

(3)原子炉の安全対策および原子力災害補償制度

 原子力の研究利用の進展にともない各種原子炉が多数設置されることが予想されるので、その安全性を確保するため従来から原子炉等規制法により規制を行ってきたが、これらの法律の実施をより有効ならしめ、わが国の実情に即した具体的対策を樹立するため、原子炉事故の原因の一つとなる塀症のある核燃料が使用されることを未然に防止する核燃料についての国家検査制度の検討ならびに原子炉設置許可に当って基準となる原子炉安全基準の策定等に努力するものとする。

 なお、近い将来原子力船の就航が予想されるので、その航行に付随する諸問題の解明に努めるものとする。

 かように慎重な安全対策の実施にもかかわらず、不幸にして万一核的災害が発生した場合における第三者の被害を補償するため、民間原子力保険を内容とする損害賠償措置を原子炉設置者に保持せしめることを義務づける原子炉等規制法の一部改正法を国会に提出したが、本年度においては同法律に付随する各種政令を制定し実施に当って遺漏なきを期するとともに、さらに国家補償制度をも含めた包括的な原子力災害補償制度を検討するものとする。

 なお、原子力施設の従業員に対する労災補償についても関係方面において解決するよう努力するものとする。

(4)放射線障害防止

 放射性物質等の使用にともなう放射線障害を防止するため、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、放射線障害防止の技術的基準に関する法律が制定、実施されてきたが、今後各種放射線障害防止の技術的基準の斉一化に努力するとともに、国際放射線防護委員会の新しい勧告のとり入れ方についても十分検討し、放射線障害防止に万全を期するものとする。

(5)原子力委員会専門部会

 当委員会はわが国の原子力研究開発の基本方針の策定ならびにその実施に当って各分野についてそれぞれの専門部会を設置し、学識経験者等の意見を求めて万全を期している。本年度の専門部会における審議事項として、放射能調査専門部会においてはわが国およびその周辺の二放射能分布ならびにその影響の調査に関する事項を審議し、原子炉安全審査および原子炉安全基準の両専門部会においては原子炉の安全性の審査および一般的基準の審議を行い、原子力災害補償専門部会においては万一の核的災害に対する補償制度の検討を行う。また、核燃料、金属材料および再処理の各専門部会においてはそれぞれ核燃料の製錬、加工、検査、再処理等の問題を審議し、重水、原子力船および核融合の各専門部会においては、それぞれの分野について研究開発方針を検討する。さらにやや長期的な発電炉開発の基本構想を練るものとして動力炉調査ならびに核燃料経済の両専門部会があり、各方面で必要となる原子力関係の科学者、技術者の長期的な養成訓練計画を審議するものとして原子力関係科学者、技術者養成訓練専門部会がある。

3.試験研究計画

 試験研究計画の詳細は付表1(11ページ)に示すが、以下そのおもなるものの概要をのべる。
 なお、民間企業の試験研究としては補助金または委託費によって行われるもののみをとりあげた。

(1)基礎研究

 各種応用研究、試作研究等の基礎となる固体物理、核物理、分析化学、放射化学等の研究は従来に引き続き日本原子力研究所等で行われるが、本年度は日本原子力研究所において各エネルギー領域の中性子に対する原子炉材料の核物理的性質の研究、中性子回折による原子炉材料の固体物理的研究、核燃料および炉材料の分析化学的研究、核燃料の放射化学的研究等が行われる。

 この他放射化分析の研究は日本原子力研究所および東京工業試験所において行われ、放射線標準確立の研究が引き続き電気試験所において促進される。

(2)JRR−3に関する研究

 JRR−3に関しては33年度に日本原子力研究所において最終設計を完了し、その一部を発注した。34年度においては各製造業者との契約を完了し製作が開始される予定である。

 また、燃料の加工については、33年度において日本原子力研究所が各種研究設備の整備をほぼ終り、溶解、鋳造、圧延、スエージング、べ−タ焼入れ等の基礎的研究を開始したが、本年度においてはこれらの研究を促進する。

 民間企業においては31年度以来溶解、造塊、被覆に関する研究を続け、33年度においてほぼ完了したが、本年度は原子燃料公社のウラン精製還元中間試験工場で生産される金属ウランを使用して実際にJRR−3の燃料要素の製造研究を行う一方燃料棒のボンディング等の研究を行うものとする。さらに日本原子力研究所において年度末からJRR−2を利用して燃料の照射試験を行い、その結果によってはJRR−3の第1回の取換燃料から国産する予定である。

 なお、日本原子力研究所はJRR−3の不連続制御装置の試作を目標とした研究を本年度から開始する。

(3)ガス冷却型原子炉に関する研究

 ガス冷却型原子炉の熱効率上昇をはかる目的で、日本原子力研究所は33年産までに気体冷却材中の燃料棒フィンの形状と流動、伝熱などの関連を研究するため常圧の実験装置を製作し実験を開始したが、本年度はこの研究を促進する一方、さらに加圧高温(300度C)下の現象を研究するための実験ルーブの主要部分の設計製作を行う。

 また、ガス冷却型原子炉に必要な圧送機、熱交換器の設計製作の基礎データを得る目的で33年度に民間企業において研究が行われたが、本年度は冷却材炭酸ガスの精製を昨年度に引き続き民間企業において行い、これを完結せしめる。

 なおこの型に使用される燃料については、本年度は民間企業においてウランの溶解、鋳造、押し出し加工の研究ならびにウランクロム合金燃料棒の製造研究を行うとともに、33年度に製造の研究を行ったマグネシウム合金については本年度はその加工、検査に関する研究を実施する。

(4)水冷却型原子炉に関する研究

 水冷却型原子炉の伝熱と流動の基礎データを得るための研究は、33年度までに日本原子力研究所において放射線の影響のない場合について研究を進めてきたが、本年度は一歩を進めて2相流のボイド現象、放射線下の伝熱の研究を行う。さらに実用状態に近い条件下における伝熱、流動の現象を研究する目的で高温高圧水の伝熱、管路内非定常沸騰熱伝達等の研究が33年度から民間企業において開始せられたが、これらは本年度で一応完結する目標で研究を促進する。

 また、主としてこの型の原子炉に使用される酸化ウラン系の燃料については、酸化物粉末等の物理的、化学的性質を研究する目的で日本原子力研究所は33年度において機器の購入手続等を行ったが、本年度はこれらの機器の整備をまって研究に着手する。

 一方民間企業においては32年度以来各種の方法による酸化ウラン燃料体の製造研究が行われてきたが、本年度はこれらの研究を一応完結する目的で研究を促進する。被覆材としてのジルカロイ、ステンレス鋼等の製造加工の研究は従来から主として民間企業において行われ、33年度においてほぼ完結したものと見られる。

 なお、圧力容器、管路等に用いられる肉厚のステンレス鋼材については従来から民間企業において主としてその製造法の研究が行われてきたが、本年度は溶接、無漏洩加工等の研究を行う。

(5)増殖炉に関する研究

 将来、増殖型の実用炉を開発するため当面は日本原子力研究所において各型式の増殖炉の可能性を追求する。そのため

(イ)水均質炉
 この型の原子炉については、33年度までに日本原子力所究所において基礎的計算、予備的測定、スラリーの伝熱流動のテストループおよびエロージョン試験装置の発注、2領域型臨界集合体の設計、発注を行った。本年度はこの臨界集合体によって各種核的測定を行って設計の基礎的データを得る一方、テストループ、エロージョン試験装置によって流動、伝熱、エロージョンの研究を行う。
 この型の原子炉開発のキーポイントと見られているエロージョンについては、海外からの技術情報の収集に努め、国内で行う研究の結果と相まって本炉開発の今後の方針を検討する。

(ロ)半均質炉
 この型の原子炉については、2分割型実験装置を組み立て核的データを測定する一方、炉心燃料中の揮発性核分裂生成物の挙動の研究、燃料再処理の基礎的研究を行う。
 また燃料体についての基礎的研究は日本原子力研究所において行うが、その製造研究は日本原子力研究所からの委託により民間企業において行い、木年度中に日本原子力研究所においてインパイルテストを行うことを目標とする。

(ハ)高速炉
 この型の原子炉については、33年度に製作したブランケット集合体により核的データの測定を行い、理論的計算と比較する。
 一方、高速炉の冷却材として想定せられている液体金属の流動伝熱については、31年度から33年度まで民間企業において研究が行われたが、日本原子力研究所においてはさらに基礎的なデータを得るため昨年度に引き続き研究を行う。

(6)機器に関する研究

 原子力関係の各種機器、装置に関する研究は主として民間企業により早くから開始された。当初は各種カウンター類、フィルムバッジ等の放射線計測器が主であったが、これらは昭和33年度においてほぼ完了した。33年度においては燃料破損検出装置、エアモニター等の検出装置、キャンドモーターポンプ、各種弁類等の試作研究が民間企業において行われたが、本年度はこれらの研究の一部が促進される予定である。

 なお国立試験研究機関においては、放射線量測定用感光材料、放射性同位元素分析用干渉分光計等の研究が行われる。

(7)核燃料の精錬に関する研究

 原子燃料公社では、わが国に適した製鉄法を確立する目的で、エキサー法による精製還元の試験操業を行うほか、移動床式イオン交換装置の化学工学的研究、高純度ウラン化合物製造に関する研究ならびに金属ウラン加工用素材の製造および検査に関する研究を行う。

 また、民間企業においてTh−U233系原子炉のブランケットを目的とした高純度酸化トリウムの研究を行う。

(8)原子炉材料に関する研究

 原子炉に使用される減速材、反射材、構造材料等については昭和29年以来、黒鉛、重水、ステンレス鋼、ジルコニウム、アルミニウム、炭化ホウ素のセラミック材料、ボロン鋼、B10、ベリリウムおよび酸化ベリリウム、特殊コンクリート、ガラス、塗料等多くの材料につき主として民間企業、各国立試験研究機関の協力によって促進され、すでに国産化の見通しを得たものも少なくない。

 本年度はベリリウム等の一部の金属材料および炭化ホウ素等の非金属材料についての研究を引き続き促進するとともに重水製造についての基礎的研究を完了する。これらの材料の腐食、防食の研究は主として金属材料技術研究所がこれを行う。また、放射線損傷に関する研究は日本原子力研究所がCo60、JRR−1、JRR−2等を利用して行う。

 なお、近い将来において材料工学試験炉を設置する目的で、この型の原子炉についての調査、検討を開始する。

(9)燃料再処理に関する研究

 この分野については日本原子力研究所において溶媒抽出法、フツ化物分留法等基礎的な研究が開始された段階にある。34年度はこれらの研究を促進するとともに、特に溶媒抽出法のプロセスについて前処理、抽出、後処理、腐食、防食等の研究を行う。一方、これらの成果と海外情報とにより再処理試験装置の設計製作を開始する。

 原子燃料公社においては、再処理の技術的情報を収集し、かつ安全性、経済性の見地についても調査研究を進めるものとする。

(10)廃棄物処理に関する研究

 廃棄物処理については、昭和29年度からその基礎的な研究が各大学、東京工業試験所等において行われてきた。日本原子力研究所においては核分裂生成物の放射化学的研究、ルテニウムの化学的研究、廃棄物固定法等の基礎的研究を引き続き促進するとともに、33年度に完成した試験装置を利用してイオン交換膜処理、沈殿濃縮処理、廃気処理等の工業的操作条件の研究を行う。

(11)ウラン濃縮に関する研究

 将来わが国において低濃縮ウランを製造する可能性を探求する目的で、33年度からUF6に関する研究ならびに濃縮に適したウラン化合物の性質に関する研究が民間企業および理化学研究所において開始された。本年度はこれらの研究を促進する一方各種の方法によるウラン濃縮の可能性の検討を行う。

(12)核融合反応に関する研究

 核融合反応に関しては、昨年度から電気試験所ならびに民間企業においてプラズマの発生、測定の研究を開始したが、引き続き本年度もこれらの研究を継続し、プラズマの特性の解明に努力するとともにプラズマの発生ならびに測定に必要な機器装置については、民間企業において33年度に低インダクタンスコンデンサー、プラズマ観測用高速度カメラの試作研究を行ったが、本年度はプラズマの診断、発生装置の真空系統等プラズマの研究に必要な機器の研究を促進する。

(13)原子力船に関する研究

 原子力船に関する研究は、昭和32年度から運輸技術研究所において開始され、33年度においては動揺、振動、舶用原子炉の制御、原子力船の原子炉位置および付近構造等の研究が、同研究所および民間企業において行われた。

 本年度においては、以上の研究を引き続き促進するとともに原子力船に特に必要な補機、計器、波浪等による外力の原子炉に及ぼす影響等の研究を民間企業において開始する。

 なお、関係方面と協力して原子力船の経済性の調査、運航、出入港に関する関連法規等の検討を促進する。

(14)アイソトープの製造に関する研究

 日本原子力研究所は、昨年度Na24、K45等短寿命アイソトープの製造研究を行ったが、本年度はこれらの試験的製造を行い、一部を研究試料として外部の試用に供する。

 また、需要の多いP32、S35、I131等については、昨年度に引き続きターゲットの分離精製ならびに製造法の研究を進めるとともに、JRR−3の完成後生産を開始し得るよう本年度は製造装置のための予備装置を製作し、JRR−1およびJRR−2を利用して試験的製造を行う。

 なお、これらの試験的製造に並行してCo58、Ni65などの新しい核種の開発研究も行う。

(15)放射線の利用に関する研究

 アイソトープの利用に関する研究は、従来から国立試験研究機関ならびに日本原子力研究所において実施されてきたが、本年度も引き続き農業、工業、医療、土木等各方面の利用研究を促進する。

 なお、本年度は名古屋工業技術試験所のリニアアクセラレーター、ヴアンドグラーフ加速装置の運転を開始するほか日本原子力所究所の20MeVリニアアクセラレーターの運転を開始し、各研究機関のおもな照射施設も一応本年度において整備される予定である。

 また、本年度から農林省がCo60γ線照射圃場の建設を開始する。

(16)放射線障害の防止ならびに診断治療に関する研究

 放射線医学総合研究所、日本原子力研究所等において放射線防護、放射線による汚染除去等の研究を従来に引き続き行うほか、放射線医学総合研究所においては各種放射線の人体に及ぼす影響についてその線量の測定法の研究、その作用に関する基礎的研究ならびに人体に対する許容度の研究などについて総合的に調査研究を行い、さらに放射線障害の予防および診断治療について基礎的研究を行うとともに日本原子力研究所においては核燃料物質による内部被曝線量、中性子吸収線量の測定の研究を行い、放射線による障害の防止に万全を期する。

4.原子炉の設置計画

(1)日本原子力発電株式会社の導入する実用発電炉

 日本原子力発電株式会社の導入する実用発電炉については、数年にわたる慎重な調査、検討を経て本年当初に英国GEC社に内定のはこびとなったが、今後さらに検討を進め、本年半ばには契約を完了する見込である。この実用発電炉はわが国の原子力開発上重大な転機をもたらすべき性質のものであるから、その安全性、経済性等を慎重に審議して本炉導入の早期実現を図る。

(2)日本原子力研究所における計画

 日本原子力研究所においては一昨年完成したJRR−1により各種実験研究ならびに人員の養成訓練を行うほか次の計画を実施する。なおそのタイムスケジュールは第1表に示す。

(イ)JRR−2本体の組立、各系統の機能試験、重水および燃料の装入、零出力運転試験、全出力運転試験を年度前半に行い、後半は炉の運転特性等の試験を行い、これと並行して各種の実験を開始する。

(ロ)JRR−3については建屋工事を引き続き行い、炉の現地組立および据付を年度後半に開始する。

(ハ)動力試験炉については、各型式について検討を行い、昨年度末に沸騰水型を採用することに決定したが、本年度当初にこの契約を成立させ、年度後半には建屋および格納容器の建設に着手する。動力試験炉の完成は36年度末を目標とする。

第1表   原 子 炉 の 設 置 計 画


(3)その他の機関における計画

 関西方面に設置される予定の大学共同利用原子炉については、本年度中に敷地が決定され発注されるものとみられている。この他私立大学において教育訓練用原子炉の設置の計画がある。

 なお、教育訓練用原子炉を国産するため民間企業に補助金を交付してその国産化を図る。

 これらの計画については、その安全性、運転計画等を審議し、適当なものについてその設置の計画を認めるものとする。

5.核燃料の開発ならびに需給

(1)探鉱、採鉱

 通商産業省地質調査所は昭和31年度から3ヵ年計画をもってわが国の核原料資源の賦存が期待される地域約20万km2のうち約8万km2について探査を行ってきたが、残された約12万km2のうちさしあたり24,800km2の地域につき放射能強度分布概査を実施する。放射能異常地調査および鉱床調査については、上記3ヵ年計画により探査を行った地域から有望と考えられる調査地を選び地質鉱床概査、物理探査、地化学探査、構造試錐、検層等により鉱床の概要の調査に努める。

 原子燃料公社の探鉱は地表調査延約4,400日、試錐探鉱約17,000mおよび坑道探鉱約5,900mを実施するが、特に33年度までの調査の結果品位0.06%、U3O8として約140万トンの鉱量の賦存が想定されるに至った人形峠およびその周辺地区に重点を置くものとし、地表調査延約2,700日、試錐探鉱約15,000mを実施して第3紀層の広がりおよび鉱床の賦存範囲、品位等を調査するとともに坑道探鉱約5,300mを実施し鉱量および品位を把握する。

 さらに北上地区、鶴岡南方地区、岐阜県黒川鉱山、岡山県南部地区、防府北方地区、鹿児島県垂水鉱山のほか地質調査所の概査の結果有望とみられる地域については本年度は地表調査を組織的に行うとともに必要に応じて試錐探鉱および坑道探鉱を実施する。なお原子燃料公社は人形峠鉱山の採鉱計画を立案するため採掘方法の試験等を行う。

 また、民間企業の行う探鉱に対しては従来に引き続き探鉱奨励金を交付してその促進をはかるものとする。

(2)製 鉄

 原子燃料公社東海製錬所に鉱石処理能力1日3トン規模の粗製錬工業化試験設備を年度当初に完成させ運転を開始する。これにより人形峠鉱石を対象として破砕、酸浸出、ミキサーセトラ一装置による溶媒抽出、移動床式イオン交換装置によるウランの抽出に関する研究を行い、粗製錬方式の諸条件を検討する。

 本年1月に完成しすでに試験運転中の精製還元中間試験工場については精錬、還元、溶解、鋳造等に関する試験を行い、本格的な生産設備の設計および運転に必要な資料を収集するものとする。

 また試験工場の運転にともなって金属ウラン約8トンが生産される見込である。

(3)核燃料の需給

 34年度における核燃料の確定した需要量は第2表に示すとおりウラン鉱石720トン、ウラン精鉱約13トン、天然ウラン約12トン、酸化トリウム約2.5トン、20%濃縮ウラン28kgおよびその他の特殊核物質370gである。

 このほかに不確定の需要として民間企業における研究用としてウラン精鉱約3.5トン、天然ウラン約1トン、酸化トリウム約1.2トンおよび教育訓練用原子炉の燃料若干量が予想される。

 粗製錬工業化試験設備の原料とするウラン鉱石720トンには主として人形峠鉱山から採掘された鉱石を当てるものとする。酸化トリウムについても品質、数量等を勘案し、できるだけ国産に期待する。JRR−3初期装荷燃料用地金9.6トンのうち3トンは国際原子力機関から購入するが、残りの6.6トンについては原子燃料公社で生産される金属ウランをできる限り使用するものとする。

 国産に期待できないものについては2国政府間協定、その他の方法により海外からの入手に努める。

第2表  核燃料の需要


注 ウラン精鉱および20%濃縮ウランの数はそれぞれU3O8、U235 の量で示す。


6.アイソトープ利用および放射性廃棄物処理事業

(1)アイソトープの利用

 昭和34年度におけるアイソトープの需要推定量は第3表に示すとおりで、昭和33年度における需要量の約20%増、使用件数は約6,000件に達するものと考えられる。

第3表  主要アイソトープの需要推定量

 アイソトープの供給については、当面は従来から行われてきた関税免除の措置を継続するものとし、本年度においては、付表1に示すごとく(20べ−ジ)製造研究を行い、将来の需要増大に備えるものとする。

(2)放射性廃棄物処理事業

 放射性廃棄物の処理に関してはアイソトープの利用の進展にともなって放射性廃棄物の量が増加してきたので、本年度から日本放射性同位元素協会に対して補助金を交付して一括処理を行わしめる予定である。34年度はとりあえず日本原子力研究所および関西の2ヵ所に貯蔵施設を設けて放射性廃棄物の集荷貯蔵を行うこととし、処理廃棄の施設については今後逐次整備するものとする。

7.放射能調査

 わが国およびその周辺の放射能分布、生活環境の汚染度等につき調査し、国民生活への影響および今後の原子力の開発利用の推進に関する基礎資料を作成するため昨年度に引き続き大気、海洋、地表、動植物および食品の調査を行うほか新たに地表からのγ線および空気中のγ線の測定、人体の放射能の調査を本年度から行う。また、分析法の確立、測定器の整備充実を図り、精度の向上に努める。調査結果は取りまとめ各関係機関の利用に供する。

 本年度の実施計画を付表2(22ページ)に示す。

8.科学者、技術者の養成計画

 原子力関係科学者、技術者の養成訓練については従来からこれを重視し、昭和29年度以後33年度末まで約200名を海外に派遣して海外の技術を習得せしめるとともに、国内においてもアイソトープ研修所等により養成訓練の実をあげてきた。さらに長期的な視野に基づいて計画的な人材を養成するために、当委員会は現在原子力関係科学者、技術者育成計画を立案中であるが、さしあたり昭和34年度においては次の計画を実施する。

 なお、大学関係においては33年度に引き続き講座、学科等の新設、増設が行われる予定である。その詳細は付表3に示す。

(1)海外への留学生の派遣

 文部省関係を除き33年度においては約80名を原子力関係科学技術習得のため海外の研究機関に留学せしめたが、34年度においてもー般留学生70名のほか、国際原子力機関等のフェローシップにより約15名、合計85名を派遣するものとする。このため海外の諸機関との間に緊密な連絡をはかり諸外国の協力を求めるものとするが、特に34年度においては国内の養成訓練機関の充実とあいまってやや高度の知識を有する科学者、技術者の派遣ならびに長期留学生の派遣も考慮するものとする。

(2)国内における養成訓練

 34年度から日本原子力研究所内に原子炉研修所を設立し、高級課程(大学卒後5年程度、1年間コース)約10〜15名、一般課程(大学卒後2年程度、3〜6ヵ月コース)約15名の養成を行うものとする。またJRR−1を利用して短期講習(10日間)1回15名、年6回の研修を行う。同じく日本原子力研究所においてはJRR−1、Co60照射室等の諸施設を一般に開放し、また外部から技術者を受け入れて各種の研究に協力を求める等の措置を通じて原子力技術者の養成を期する。

 アイソトープの利用に関する技術者の養成については33年度に引き続きアイソトープ研修所において1回32名、年8回の一般研修(4週間)を行う。放射線障害防止に関しては放射線医学総合研究所において本年度後半に保健物理部門を主とする研修を実施する。

 また、民間企業等の主催する各種の講習会に対しては積極的に協力し、原子力科学技術の普及に努めるものとする。

(3)海外からの留学生の受入れ

 33年度にはユネスコ主催のアイソトープ講習会、国際原子力機関、コロンボ計画等による外国人研修生の研修を行ったが、本年度においても国際原子力機関トレーニングフェローとして約20名の受入れを行うほかコロンボ計画等による若干名の研修生を受け入れ、アイソトープ研修所ならびに国立試験研究機関および日本原子力研究所において約6ヵ月間の研修を行うものとする。

9.人員の拡充

 原子力研究開発の進展はそのための研究開発諸施設の整備状況に依存することはもちろん、これらの諸施設を駆使して研究開発に従事する科学者、技術者の人員ならびにその知識、技術水準に左右されることはいうまでもない。以上のごとき昭和34年度の事業を遂行するため、日本原子力研究所においては現在の750名を256名増員して1,006名とし、原子燃料公社においても313名から97名増員して410名とし、また放射線医学総合研究所においても現在の70名を163名に増員するものとする。さらに放射線障害防止等の保安事務、原子炉設置等の許認可事務、国際協力関係の事務等原子力行政事務の増大に即応して原子力局の人員を現在の87名から116名に増員し、原子力行政機構を改善強化するものとする。

10. 予 算

 以上34年度に果さるべき事業を実施するため必要な原子力予算は現金7,419,092千円、債務負担額3,567,000千円をあわせて10,986,092千円であり、その内訳は第4表のとおりである。

第4表 昭和34年皮(一般会計)原子力予算総表