原子力関係科学者、技術者に関するアンケートについて

目   次


はしがき

〔1〕原子力関係科学者、技術者に関するアンケート実施要領、回答状祝および集計方法

1.アンケート実施要領
2.アンケート回答状況および集計方法

〔2〕原子力関係科学者、技術者に関するアンケート集計結果の概要

1.原子力関係科学者、技術者の現状
(1)原子力関係科学者、技術者の総数
(2)原子力関係科学者、技術者専門別構成
(3)原子力関係科学者、技術者養成実績
(4)原子力関係科学者、技術者の不足数

2.将来の原子力関係科学者、技術者
(1)将来の原子力関係科学者、技術者必要人員
(2)原子力関係科学者、技術者の養成および教育の見通し
  (イ)原子力関係科学者、技術者の養成見通し
  (ロ)大学における原子力関係科学者、技術者教育制度について

はしがき

 原子力研究開発の進展にともない、各国とも原子力関係科学者、技術者の不足に悩んでおり、わが国においても原子力の木格的な開発利用が進むにつれ多数の、かつ高度の知識技術水準をもつ科学者、技術者を必要とすることが予想されている。

 かかる事態にかんがみ、原子力委員会においては原子力関係科学者、技術者養成計画策定の基礎資料を得ることを目標に、昨年8月アンケートを実施した。以下は本アンケートの集計結果の概要である。なお本アンケートの集計結果の詳細はさきに設置を決定した原子力関係科学者、技術者養成訓練専門部会において検討の上、養成計画策定の参考資料とする予定である。

〔1〕 原子力関係科学者、技術者に関するアンケート実施要領、回答状況および集計方法

1.アンケート実施要領

 まずアンケートの調査対象は、民間企業、国公立試験研究機関および大学(学部ごと、付置研究所を含む)とし、調査範囲はこれら諸機関において原子力関係の業務(大学における教育および研究を含む)に従事している科学者、技術者とした。この場合原子力関係とは原子力の研究、開発ならびに利用(アイソトープの利用を含む)の業務およびこれら業務に必要な機器材料等(ただし、たとえば顕微鏡、化学天秤等一般的共通的なものを除く)に関する業務を指す。

 科学者、技術者とは原則として旧制専門学校卒以上の学歴を有するものに限るが、それ以外のもので旧制専門学校卒と同等またはそれ以上の業務に従事しているものを含む。また大学においては教授、助教授、講師および助手のうち当該大学の本務者のみをいう。

 なお調査方法としては各調査対象機関ごとに調査票を送付し記入を求めたが、特に重要と思われるものについては聴取調査を併用した。

2.アンケート回答状況および集計方法

 本アンケートは表1−1のとおり民間企業580社、国公立試験研究機関56機関、大学383機関、合計1,019機関に調査票を送付し回答を求めたが、回答数の合計は699で、全体としての回答率は68.6%にとどまった。ただし回答数のうち約1/3は当面原子力関係科学者、技術者をもつ計画がないと回答してきている。

表1−1 アンケート照会先、回答状況

(1)現在原子力関係科学者、技術者をもっていると回答してきたものおよび将来これら科学者、技術者をもつ計画があると回答してきたもの。
(2)当面原子力関係科学者、技術者をもつ計画がないと回答してきたもの。
なお大学欄の数字は学部、短期大学、付置研究所の数を示す。

 なおアンケートの集計にあたっては、現在原子力関係科学者、技術者をもっているか、または将来これら科学者、技術者をもつと回答してきたもののみをとりあげ、(ただし大学については上記のごとき回答を寄せたもののうち短期大学2を含むが、分類上煩雑となるので割愛した)調査各項目については当該項目に回答してきた数字を集計した。したがって各項目ごとの回答数は当然異なっている場合が多い。日本原子力研究所および原子燃料公社はいずれも国公立試験研究機関の項に含まれている。

 また原子力関係科学者、技術者の専門別内訳については民間企業および国公立試験研究機関にあっては大学における履修学部により、大学にあっては現在または将来所属する学部によりそれぞれ分類した。

〔2〕 原子力関係科学者、技術者に関するアンケート暮計結果の概要

1.原子力関係科学者、技術者の現状

(1)原子力関係科学者、技術者の総数

 昭和33年3月末現在における原子力関係科学者、技術者の総数は、表2−1にみられるとおり、民間企業、国公立試験研究機関および大学を通じて合計6,321名となっている。

表2−1 原子力関係科学者、技術者現在人員
       総括表   (昭和33年3月未現在)

 これら機関における原子力関係科学者、技術者をも含めた全体の科学者、技術者数は、民間企業的65,000名、国公立試験研究機関約6,000名、大学約16,000名となっているので、そのうちに占める原子力関係科学者、技術者の比率は民間企業3.8%、国公立試験研究機関18.5%、大学16.7%となっている。原子力関係プロパーの日本原子力研究所、原子燃料公社等を含む国公立試験研究機関の比率が最も高いのは当然であるが、大学の比率もほぼこれに比肩している。しかしながら大学における原子力関係科学者、技術者のうちには原子力関係以外の専門があり、従属的に原子力関係の研究をしている科学者、技術者が約75%を占めているので、絶対数および全体の科学者、技術者中に占める比率が大きくなっているといえる。これに対して民間企業においてはなお全体の科学者、技術者のうちきわめてわずかの部分しか原子力関係の業務に従事しておらず、国公立試験所究機関および大学に比して相対的に原子力関係科学者、技術者は少ないといえよう。ただし民間企業においてもその業務内容によってはかなりの科学者、技術者を原子力関係の業務に従事せしめているものもあることはいうまでもない。

(2)原子力関係科学者、技術者専門別構成

 昭和33年3月末現在における原子力関係科学者、技術者の専門別構成は表2−2にみられるとおり総数6,321名の21.2%が理学関係、43.9%が工学関係、7.9%が農学関係、18.5%が医学関係、残り8.5%がその他という構成になっている。

表2-2 原子力関係科学者、技術者現在人員総括表   (昭和33年3月未現在)

(注)上表で構成比とは民間企業、国公立試験研究機関、大学についてそれぞれの人員の合計に対する専門別の比率を示す。   (1)付置研究所の人員を示す。

 これを機関種類別にみると民間企業では工学関係が圧倒的に大きな比重を占め、これに理学関係がついでいる。なお農学、医学関係の比率はきわめて低い。国公立試験研究機関についても工学関係、理学関係が同様に比較的大きな比重を占める反面、農学、医学関係も相当な比率を占めている。大学については医学関係が最も大きな比率を占めていることが特徴で、これにつぎ理学、工学、農学関係の順となっている。これは民間企業では現場作業ないしこれに付随する試験研究的な色彩が本来濃く、そのため工学系統の占める比率が高いと考えられ、また原子力関係の現状では基礎的な試験研究も企業において相当分担しなければならない点から理学系統が相当な比率を占めているものと考えられ、医学関係の少ないのは民間の病院等を調査の対象にしていない点と、将来では当然必要とする保健物理関係の人員が現状では民間の原子力施設で稼働しているものがほとんどないので計上されていないためと考えられる。また農学関係の低率なのは醸造、林業、食品等の企業においてはなおRI等の利用度が低いためと推定される。国公立試験研究機関については試験研究分野が各方面にわたっているため各専門に大差なく分布しているものと考えられる。また大学については医学関係が特に多いのは医学部等で本来の研究の手段として従属的にRI利用等を研究しているためと考えられる。なお大学について工学関係が理学関係よりむしろ低率なのは特に民間企業におけるこの二つの関係部門の比率と比べ注目に値する。

(3)原子力関係科学者、技術者養成実績

 昭和33年6月末現在までに原研、アイソトープ研修所、大学、原電、国立試験研究機関、海外等に派遣または出向させて養成した原子力関係科学者技術者数は表2−3に示すとおり総数1,230名で、現在の原子力関係科学者、技術者に対し19.4%を占め、それぞれの機関種類別に見ると民間企業23.1%、国公立試験研究機関29.5%、大学12.0%となり、大学関係がきわめて低く、国公立試験研究機関が特に高い。

 養成方法別に見るとアイソトープ研修所と海外への派遣が特に多く、前者についてはアイソトープ利用が比較的早くから、かつ広範に行われていたため、これの取扱技術を習得した者が多いことを示し、これに対し後者については原子炉等を初めとし原子力関係の研究開発には高度の技術知識を必要とするので先進諸国において訓練を受ける科学者、技術者が多いためと考えられる。

 また昭和32年度大学における原子力関係の学生数は総数753名でその内訳は表2−4のとおりである。なお学部学生は昭和33年3月卒業者の卒業論文のテーマにより、また大学院学生は昭和32年度における専攻によって調査した。したがってこの各学生数は定員ではなく、毎年これだけの学生が卒業していくものとは考えられない点に注意を要する。なお専門別では理学関係が圧倒的に多く、医学関係が特に低い。

表2−3  原子力関係科学者、技術者養成実績総括表 (昭和33年6月末まで)

表2−4  原子力関係学生数(昭和32年度)


(4)原子力関係科学者、技術者の不足数

 昭和33年3月末現在における原子力関係科学者、技術者の不足人員は総数2,164名で、これを現在の原子力関係科学者、技術者の数と対比すると、総数では現在人員の34.3%が不足しており、機関種類別では大学関係の42.1%が最も大きく、民間企業、国公立試験研究機関では大差なくともに30%である。

 表2−5についてみると、工学関係の不足数が最も大きいにもかかわらず現在の原子力関係の学生数はさきの表2−4にみられるとおり、理学関係が圧倒的に多いという結果がでており、もちろん現在の不足人員をこれから大学を卒業する新人で満たし得る性質のものとは考えられないが注目に値する点である。特に工学関係については民間企業で不足の度合が著しく、大学教官の不足人員は反対に理学関係が多いという特徴を示している。

表2−5 原子力関係科学者、技術者不足人員総括表(昭和33年3月未現在)

2.将来の原子力関係科学者、技術者

(1)将来の原子力関係科学者、技術者必要人員

 将来、原子力関係業務が拡大するにつれて、当然これに従事する科学者、技術者も増加することが予測されるが、昭和37年3月末現在において予想される原子力関係科学者、技術者の必要人員を集計すると表2−6のとおり合計7,951名に達する。

表2−6 原子力関係科学者、技術者必要人員総括表(昭和37年3月末現在)


 しかしながらこの数字はなにぶんにも将来の予想であるので回答者の主観的判断が混入することは避けられず、それ自体に大きな意味をもたせることは危険であろう。

 なおここで昭和33年3月末現在の人員数と対比すると全体としては26%弱の増大にすぎないが、これは回答数が昭和37年についてはかなり少なくなっているためとみられる。それにもかかわらず国公立試験研究機関においては33〜37年中に原子力関係科学者、技術者数が2倍以上に増大するものと予想されており、民間企業においても30%程度の増加を予想している。ただし民間企業について表2−6にかかげた130社そのものの33年3月末人員数は1,639名なので、この間の増加はやはり2倍近いものとなる。同様に大学143機関そのものの33年3月末の人員は1,828名なので、この間の増加は約1.3倍にすぎない。

 また将来の必要人員の専門別構成をみると表2−7のとおりで、昭和33年3月末の専門別構成に比し全体としては工学関係の比重が増加し、農学関係、医学関係の比重は低下し、理学関係では変化がない。部門別には、民間企業においては将来の現場作業の開始を見込んでますます工学関係の比重が高まっており、他はいずれも低下している。国公立試験研究機関についてはウエイトの大きい日本原子力研究所が回答を寄せていないので必ずしもあるべき姿を示していないと思われるが、一応理学関係、工学関係の比重が増加するといえよう。なお大学についても同様に理学、工学関係の比重が増し、その他に分類されている付置研究所における原子力関係科学者、技術者もその研究内容は理学、工学関係のものが多いとみられている。

表2−7 原子力関係科学者、技術者必要人員専門別総括表(昭和37年3月末現在)

(2)原子力関係科学者、技術者の養成および教育の見通し

 (イ)原子力関係科学者、技術者の養成見通し

 次に将来の原子力関係科学者、技術者の必要人員を確保するための養成見通しをみると、表2−8のとおり民間企業および国公立試験研究機関のみで150社(所)が合計1,814名を昭和37年度までに養成しょうとしている。この養成人員を昭和33年6月までに養成を受けた人員約900名に加えると、37年度においてなんらかの原子力関係の養成を受けた延人員は約2,700名となり、同年におけるこれら機関の原子力関係科学者、技術者必要人員の約60%に達することになる。

表2−8 原子力関係科学者、技術者養成見通し
(民間企業、国公立試験研究機関のみ、昭和37年度まで)

 また養成内容別には依然アイソトープ研修所と海外への派遣の比率が高く、アイソトープの取扱のごとく比較的簡単な技術については国内で修得し、高度の原子力関係知識技術水準の獲得のためこは海外への派遣に依存するという形が看取される。しかしながら日本原子力研究所については、原研派遣または出向、原子炉研修所、アイソトープ研修所において養成を受けることを期待している人員が871名に達し、全体の養成予定人員の48%にものぼっていることからも明らかなように、今後原子力関係科学者、技術者の養成に当って果すべき彼割はきわめて大きいことに注意すべきであろう。

(ロ)大学における原子力関係科学者、技術者教育制度について

 また民間企業および国公立試験研究機関の大学における原子力関係科学者、技術者の教育制度についての要望をみるに、表2−9にみられるとおり、大学学部内に専門学科(たとえば原子核工学科等)を設けるべきであるとの要望が最も強く過半数を占めており、大学院における専攻とすべきであるという要望は比較的少ないことが注目される。

表2−9 大学における原子力関係科学者、技術者教育制度ついての要望

 民間企業ならびに国公立試験研究機関にこの要望があるが、これに対し、大学においては学科の新設計画は表2−10のとおりで特に工学関係において学科の新設が多いことが認められる。なお既設の学科内に講座を新設する場合と新設学科内の講座数は同じく表2−10に示すとおり経計214講座に達し、大学院のみにおいて養成する計画であると回答のあったのは2学部にすぎない。なおこれら大学において養成される学生の昭和37年度までの増加数は表2−11に示すとおりで、学科の新設数とともに学生の数でも工学関係が多く、民間企業等における原子力関係科学者、技術者の専門別の不足人員あるいぼ昭和37年度におけるその必要人員に対応する傾向を示してきている。なお表2−10ならびに表2−11はともに将来にわたる計画あるいは予想であって、その数字自体に特に意味をもたせることは注意すべきであろう。

表2−10 大学における昭和37年度までの原子力関係新設学科、講座数

注1.新設講座数のうち講座制をとらない大学ならびに付置研究所は教授1名を1講座と算定した。
注2.新設講座中には新設学科に設置される講座も含む。

表2−11昭和37年度までの原子力関係学生増加数