国際原子力機関の第2回総会とその後の活動状況

  国際原子力機関(International Atomic Energy Agency,略号IAEA,以下本稿においては単に機関と略称することとする)は今年に入って第2回目の事業年度を迎えた。昨年は機関が発足したばかりで、もっぱら機構の整備に努力が向けられ、実質的な活動はほとんど見るべきものがなかったが、今年は、その機能を十分に発揮して存在の意義を高めるか否かの重大な時期であるように思われる。機関は昨年秋の第2回総会で1959年のための事業計画と予算を決定し、引き続き具体的な活動を開始しつつある。以下に第2回総会の状況とその後の活動状況を概観することとする。なお、わが国は第2回総会の開会直後、国産第1号炉用の天然ウラン3トンを機関から受け入れたい旨の要請を行い、機関の育成強化に積極的に協力する態度を示した。この日本の申入れは大多数の機関加盟国の歓迎を受け、機関の重要な仕事の一つとして現在処理されつつあるが、この件の詳細は別に述べる機会があると思われるので、今回は機関の活動状況を概括的に述べることとしたい。

1.第2回総会

 第2回総会は、昭和33年9月22日から10月4日までの13日間、オーストリアの首都ウィーンにおいて機関の加盟69ヵ国のうちアフガニスタン等の4ヵ国を除く65ヵ国の代表が出席して行われた。わが国からも古内オーストリア駐在大使を代表として参加した。また加盟国のほか国際連合事務局、ILO、FAO等の国際機関、EURATOM等の地域的国際機関および1CC等の民間国際団体の代表もオブザーバーとして出席した。

 会議は、本会議と三つの主要委員会とに分れて審議が進められたが、役員および各委員会のメンバーは次のとおり選出された。

本会議議長  インドネシア代表Mr.Sudjarwo

 〃 副議長  カナダ、キューバ、フィリッピン、タイ、トルコ、ソ連、アラブ連合、英国の8代表

総務委員会メンバー  本会議議長、副議長、ほかの二つの主要委員会の議長およびフランス、日本、ルーマニア、米国の各代表計15代表

事業計画、技術および予算委員会議長 スペイン代表Mr.Erice

行政、法規委員会委員長  インド代表Mr.Rajan

 (なお、最後の2委員会のメンバーは参加国全員である。)

 役員選挙の後、国際連合事務局代表から次の趣旨のステートメントが行われた。

 「機関の仕事は、国連憲章の目的と密接につながっており、国連の各機関はIAEAの発展に非常な関心を有している。したがって機関と国連との協力は不可欠かつ当然のことである。しかし、この協力を効果的ならしめるためには、常に相互の問題に細心の注意を払いフレキシブルな態度で共同計画を立案、実施し、相手側の存在意義を十分に認め合わねばならない。両者の協力はすでにorganizationの期間を過ぎて新しい段階に入っている。原子力をpower systemにどう取り入れるか等多くの経済問題が研究されねばならない。このうち純粋な原子力の問題は機関の技術者に本来関係するものであるが、他の形のエネルギーや全体としての経済発展に対する影響には国際連合としても特別の関心を有している。」

 次いで、事務局長から機関の第1年度における活動状況、1959年度以降の計画について次の要旨の説明が行われた。

 「機関の職員採用にあたっては国連および専門機関の援助を受け、特に科学分野において優秀、誠実な職員を採用した。

 また、スタッフの地域的配分の広範なことは国連の他の機関ではほとんど比肩し得ないものである。

 フェローシップは25ヵ国から251名の受入れが申し込まれ、132名の候補者がすでに選択されている。

 ラテンアメリカの訓練センターに必要な調査は米国のNorman Hilberry博士を団長とする専門家チームによって行われ、同チームはラテンアメリカ20ヵ国のうち17ヵ国を訪問した。

 機関のtechnical libraryも完成し、またradioactive samplesの標準化および異なる国のelectronic equipmentの比較のためのsmall laboratoryも設置された。

 ノルウェーのGunnar Randers氏をリーダーとする専門家パネルはradioisotopeの安全取扱のためのmanualの草案を作成し、理事会によって承認されれば機関のprojectに適用されるとともに、このような規則のない多くの国にパターンを提供することとなろう。

 特殊核分裂性物質の機関への提供に関する協定案は近く理事会で審議されることとなろう。

 機関の事務局のメンバー数名は第2回ジュネーブ会議に参加し、世界の科学者達と技術問題について有益な討議を行うことができた。機関は特定の目的を持つ問題や地域的に特殊な問題を取り扱うための科学、技術会議を推進するのに適していると思われる。また機関の科学能力は、前回の理事会で設立されたハイレベルの科学諮問委員会の任命によってさらに強化されることとなろう。この委員会は特に第2回ジュネーブ会議の成果を活用する方法を審議する予定である。

 機関のサービスは大きく二つに分けることができよう。第1は、個々の国または地域に対する直接的サービスたとえばフェローシップ、技術者の交換、コンサルタントチームの派遣、燃料の提供等であり、第2はすべての国に対するuniversalな性格のサービスである。

 保健、安全上の統一的な規則を設けることおよび原子力の軍事的利用を防止するための保障制度の設立はきわめて必要なことである。たとえば核原料物質の生産国がウランやトリウムの輸出をすべて機関に登録することに同意するというようなことが望まれる。

 二国間協定は暫定的、便宜的なものである。機関設立前はいざ知らず、すべての国は物質等の提供について機関をどんどん活用すべきである。かりに諸国が二国間協定を続ける必要を認めるとしても、統一的な保健、安全の確保措置と核生産物の流用、喪失に対する保障措置に従うべきである。」

 次に総会中に審議、決定されたおもな事項を示せば次のとおりである。

1.一般討論(議題11)

 一般討論は、総会における恒列の行事で、参加各国の代表がそれぞれ自国の原子力開発に関する方針や機関に対する要望その他の態度を表明することとなっている。第2回総会では9月24日(水)から26日(金)までの3日間にわたって三十余ヵ国の代表が順次立って発言を行った。そのおもなものを拾えば次のとおりである。

フランス代表(Mr.Couture)

 1959年は機関にとっては原子力の国際協力への寄与の度合を示すべきtest yearである。1959年度の事業計画および予算案では機関固有の活動分野が十分明らかにされているとはいえない。保障措置の実施は機関の重要な仕事であるが、せっかく加盟国から提供を申し出たウラン、トリウム等も受入れの要請がなく、また機関の保障措置適用の要請もないので機関はその憲章にもとづく管理権を行使できない状態である。保健、安全の問題も機関が最初に取り上げるべき重要なものである。他の専門機関や研究所等と協調して検討を開始すべきである。その他フェローシップ、アイソトープの利用、取扱、標準化、地域的訓練センター等にも力を入れるべきである。

ポーランド代表(Mr.Billig)

 ポーランドは1958年1月ソ連と協定を結び最初の原子炉をソ連から購入したが、さらにソ連の技術援助により国産原子炉の建設を目ざしている。その他東独、チェコ、ユーゴ等とも専門家の交換を行い、またフランス、英国等に留学生を派遣、インド、米国とも接触している。このように世界各国と関係を持つことを望んでいる。

 機関の計画には不必要なものがある。たとえば保障部局の設置であり、保障措置は機関による国際協力を拡大するためには廃止することが好ましい。機関はフェローシップ、シンポジウム、情報交換等に力を入れることを希望する。

日本代表(古内大使)

 今次総会は機関の歴史に新しい重要な段階を画するものである。日本は米、英両国と協定を結んで開発を進めているが、後進国はその原子力開発のために機関の援助と助言を求めるべき時期がきたものと思う。9月23日日本は国産第1号炉用の天然ウランの入手について機関の援助を正式に要請した。機関が二国間協定よりも良い条件で提供することを期待する。そうでなければ後進国は他の方法を求めざるをえず、機関の発展は害されるであろう。保障措置は機関の重要な任務である。日米、日英協定では保障措置の実施を将来機関に移すことを規定しており、日本は機関の体制が整えば直ちに実現したいと米国政府に申し入れてある。機関がすみやかに関係機構、スタッフを拡充することを希望する。その他予算に盛られた機関の事業計画を支持し、技術、訓練等の面でも機関の活動に協力したい。

スエーデン代表(Mr.Allard)

 他の専門機関との協調に努めるべきである。ただし不必要な重複は避けなければならない。

 機関がアイソトープの取扱のmanualを作成したことは有益であった。スエーデンはさらにアイソトープの輸送等に関して深い関心を持っている。

西独代表(Mr.Carstens)

 西独では七つの研究炉(うち六つは米、英から導入)が近く完成する。発電炉も米国の援助で15MWのものが建設される予定である。また1958年中にハンブルグで原子力船の研究炉が運転を開始する。

 機関の1959年度計画に賛成であるが、特に科学会議、シンポジウムの開催には賛成である。

 多くの機関特に地域的機関はIAEAとの協力を図らねばならない。特に第三者損害賠償の問題等には特に協力が必要である。

米国代表(Mr.McCone)

 米国は機関が原子力に関する国際協力の最も重要な機関としての役割を果すために全力を尽したい。日米協定の保障措置を機関に移譲したいという日本代表の発言を歓迎し、全面的に保証する。機関がその保障機構をすみやかに整備すべきであるという日本代表の要請を強く支持する。放射能防護の標準や規則の設定、第三者損害賠償の問題等は国際的なべースで取り扱われるべきである。またアイソトープの訓練、研究計画;放射性物質の輸送、取扱の国際的基準の設定;科学者訓練の中心機関となること;世界の科学、技術能力の利用の道を開くこと;原子力利用に関するコストの問題等に助言を与えること;原子燃料等の取扱や計測のサービスを行うこと;情報センターの役割を果すことたとえばジュネーブ会議のごときは機関の主催で行うべきである。これらの点は1959年度の予算には必ずしも盛り込まれていないが、今後機関が取り上げるべき問題である。

英国代表(Mr.Plowden)

 機関は他の国際機関との協調を保つべきだが、問題の鍵は加盟国の政策と国内行政上での調整にある。英国は機関を原子力平和利用の最高機関と考えている。機関の業務としては、第三者損害賠償をカバーする保険の問題、アイソトープの海陸空における輸送の規則、原子力船の運転の規則、廃棄物処理等の問題に関する活動に期待する。また情報の交換も必要であり、ジュネーブ会議は大きな成果をあげたが、今後はもっと新しい規模の特定された会議のほうが効果的であるからそのような specialized conferenceを機関の主催によって開くべきである。低開発国援助の面ではフェローシップや地域的訓練センターの設置に力を入れるべきで、小型原子炉が経済的になるにはなお時間がかかるから、そのような時期がきたときの準備を促進する方向で援助すべきである。さらに保障措置の実施は機関の憲章にもとづく義務であり、日本代表の指摘したごとく、保障関係スタッフの即時強化を強く支持する。

ソ連代表(Mr.Emelyanov)

 ソ連は9カ国と二国間協定を結んで諸種の援助を与えている。現在までに14,500人以上の留学生を受け入れ、機関のメンバーからも1958~59年度に50人を受け入れることに同意した。1959年度予算における機関の低開発国援助計画はなお十分でない。機関の主要メンバーが機関を有効に利用しようという意図がないことを示す結果がここに現れている。米国は5,000kgのウランを機関に提供したが、いまだ1件の引渡も行われず、引渡の条件すら決まっていない。機関から提供を受ける場合は値段が高くなるから、欲しい国は直接供給国から買うほうがよいという結果になる。ソ連は低開発国援助のためにlowest world priceでウランを提供する用意がある。機関を通じての供給は商業的利益にならないと思う。またあるメンバーは機関の保障措置を強調したが、それは機関を援助機関とするのではなくcontrol organにしようとするものである。ソ連はこのような機関のcontrolの機能を支持しない。

インド代表(Mr.Bhabha)

 機関は本質的に国際的な性格を有する仕事に重点を注ぐべきである。たとえばアイソトープおよび放射性物質の国際運送、廃棄物の空、河、深海への投棄の影響、原子力船の入港時の保健、安全の問題等は国際的な協力によってのみ処理し得る問題である。この意味で機関がアイソトープ取扱のmanualを作成したのはきわめて喜ばしい。そして各国が国際的に承認された基準に従うことが望ましい。

 技術援助は機関の任務のうちの一つに過ぎないことは憲章をちょっと気を付けて見ればわかる。機関がその任務を全うしようとするならば国連の要請を受けて核武装禁止の一翼をになうよう準備すべきである。国際協力の中心は何といっても国連である。機関は原子力平和利用における重要な仕事を国連により信託されるといういき方が望ましい。

2.1959年度事業計画および予算(議題12)

 総会の最も重要な仕事の一つである1959年度(1~12月)の事業計画および予算案の審議は、加盟国全員から成る事業計画、技術、予算委員会に付託され、9月27日(土)から10月2日(木)の午前まで6日間にわたって行われた。まずウクライナ代表の提案により、理事会提出案に対するgeneral commentが行われた。各国のgeneral commentのうちおもなものを挙げれば次のとおりである。

モロッコ代表

 中小型原子炉の利用方法に関する専門家のシンポジウムを開いてほしい。

チェコ代表

 機関はフェローシップ、地域別訓練センターの設置、情報の提供等後進国開発に重点を置くべきであるが、理事会案はこの点の具体的な方針が不明確である。

ソ連代表

 機関の資金使用はもっと重点的に行われるべきで、理事会案は総花的で不必要な活動まで予定している。たとえば機関のラボラトリーの建設は時期尚早でありもっと直接的な低開発国援助に資金を使用すべきである。

日本代表

 理事会案にはだいたいにおいて賛成であるが、特に廃棄物処理のための深海調査、地域的訓練センターの設置、地域別シンポジウムの開催等に特に関心を有している。

ウクライナ代表

 Standard radioactive sampleの配分、測定方法の標準化等は他の国際機関にまかせればよい。保障措置の部局を設けることは無意味である。機関の研究用の備品費50,000ドルとラボラトリー建設費400,000ドルは不要であり、削除すべきである。

英国代表

 機関は二つの主要任務を持っている。すなわち、世界のすべての国に共通の問題と低開発国の援助とである。したがって機関の活動は狭い分野に集中されるべきではない。機関が原子動力を直接提供するための技術団体であるとするならば、小型動力炉の入手はまだ不可能であるから、機関のすることは何もなくなってしまう。廃棄物処理等の研究を進めるためにもラボラトリーの建設は必要である。理事会案を承認し、機関が確固たる基礎の上に立って仕事を始めることを希望する。

メキシコ代表

 日本代表が発言した放射性廃棄物による海洋汚染の問題は重要だと思う。

南ア連邦代表

 機関の活動は初年度は広範にわたらなかったが、今回の予算約500万ドルに見合う計画はすでに広がっている。機関の活動をセレクトして効果的に行い、あまり多くのことにエネルギーを消耗しないことを望む。1959年度の前年度に対する予算の増加率は1960年度にも踏襲されるべきではない。

スペイン代表

 機関の権威を高める方法として二つ考えられる。第1には個々の国によって実施し得ないこと、たとえば技術者の交換、nuclear scienceの会合等を実施する.ことである。ただし機関の行政費はできるだけ制限すべきである。第2には恒久的な科学スタッフをなるべく少なくして、必要に応じ専門家を一時的に採用することである。この方法には低開発国からも優秀な科学者が提供され得るだろう。

スイス代表

 機関の活動を効果的ならしめるためにはスタッフの量よりも質の問題であり、事務局長にスタッフ選択の自由を与えるべきだ。会合の数を減らし、政治的な議論を避ければ、1959年度の総会、理事会のための予算75万ドルはもっと減らせるだろう。

 次いで第1章概説、第2章機関の事業計画および事務局の構成、第3章予算の順で各章ごとに審議が進められた。この間議論の焦点となったのは機関のラボラトリー建設に対するソ連の反対提案で、この問題をめぐり長時間にわたって賛否両論の応酬が行われた。ソ連の提案は機関のラボラトリー建設のため予算案に計上されている400,000ドル(これは分担金収入からではなく、寄付金収入をもってまかなうことになっている)の削除を要求するもので、その理由は機関の予算はもっと直接的な低開発国援助に振り向けられるべきで、もし機関がこのような設備を必要とするときには加盟国における既存の設備を利用すればよいというのである。これに対して英・米等の賛成国側は、ソ連の提案は機関の実力を弱めようとする政治的な意図によるものであり、機関が情報や資材を一方の国から他方の国へ移すための単なる仲介者であるならばラボラトリーは不必要であるが、日本代表が指摘したごとき海洋廃棄の調査等のより積極的な役割を果すためには当然研究のためのラボラトリーが必要であると反ばくした。結局メキシコ、ノルウェー、英国および米国の4カ国から、ラボラトリーの使用目的をアイソトープの標準の設定、計器の較正、機関の保障措置および保健、安全計画に関する測定と分析などに限定することを、一種の付帯決議とするという共同提案がなされ、採決の結果、この4ヵ国共同提案を採択した。そのほかspecial missionsの派遣費200,000ドルは1959年度は行政費に計上されているが、この方式は将来を拘束しない旨の付帯決議(チェコ提案)および予算の運用にあたっては総会中における加盟国の発言および第2回ジュネーブ会議で公にされた情報やcommentを考慮すべき旨の付帯決議(南ア連邦提案)が採択されたのみで、事業計画および予算額は理事会原案のまま採択された。そしてこの委員会決定は10月4日の本会議でそのまま承認され、機関の1959年度の事業計画と総額6,725,000ドルに上る予算とが決定した。この金額は前年度に比し約300万ドルの増加となっている。

 なお、以下に1959年度の機関の予算の内訳、定員および特別事業計画の概要を示す。

(1)予算内訳(単位ドル)

支出項目
 1958年予算
 1959年予算
 
 行政費支出
 
会議、調査団
1. 総会および理事会
300,000
749,000
2. 特別科学顧問パネル
51,500
3. Special missions
200,000
4. ゼミナール、科学会議等
100,000
100,000
 
事務局
5. 給  与
1,100,000
2,030,000
6. 臨時補助
(総会中のスタッフの不足を補うため)
390,000
100,000
7. コンサルタント
100,000
8. スタッフの経費
500,000
873,000
9. 旅   費
125,000
200,000
 
通常業務および機材
10. 雑費(通信、輸送、消耗品等)
440,000
304,000
11. 交際費
10,000
7,500
12. 器具費
400,000
110,000
13. 科学的、技術的器具費
50,000
14. 契約研究費
315,000
15. 契約印刷費
100,000
10,000
16. 図書購入費
25,000
 
  計
3,465,000
5,225,000
 
II  運転費支出
 
フェローシップ計画
250,000
経済、技術、研究援助計画
├1,100,000
協定による加盟国に対する計画
機関のラボラトリー建設に要する経費
400,000
 
  計
250,000
1,500,000
 
総  計
3,715,000
6,725,000
 
(以上のうち運転費は寄付金収入をもってまかなう。)


(2)定  員

(3)特別事業計画

① Special missions(予算200,000ドル)
 加盟国における原子力開発計画に関する経済的、科学的、技術的な調査を行うためのチーム、加盟国におけるアイソトープ利用の開発計画に関する援助を行うためのチーム、訓練研究用原子炉開発に関する助言を行うための専門家チーム、いくつかの目的を有する混合チーム、地域的訓練センター設備の調査のためのチーム等八つのmissionを派遣する。各チームのメンバーは平均5名である。チームの渡航費およびconsultants'feeは機関が負担し、滞在費および国内旅行費は受入れ国が負担する。

② Special small research contracts(予算150,000ドル)
 設備のcalibration,radioactive sampleの標準設定、機関の保障措置を実施するための研究、保健安全問題の研究,radioactive standardの設定等10ないし20の小規模の研究契約を諸研究所と結び研究を委託する。

③ 廃棄物処理に関する研究(予算165,000ドル)
 廃棄物処理に関する情報の収集、低開発国のための低レべルの廃棄物の安全な取扱方法の研究援助、海洋投棄に関する調査、国際河川への投棄に関する湖沼学的研究、異なる土壌におけるアイソトープの影響に関する情報の収集と評価等を行う。

④ ニつの主要会議の準備(予算50,000ドル)
 機関はジュネーブ会議を専門化したごとき相当大規模の会議を開くことを計画し、1960年度のテーマとしてアイソトープの医学的、生物学的利用とアイソトープの科学的、産業的利用の二つを取り上げている。そして1959年度からこの会議の準備にとりかかる。

 以上のほか、機関の事業には各種シンポジウムの開催、フェローシップ等1958年度から引き続き実施されているものもある。1959年度のシンポジウムは、radio-active isotope scanning,廃棄物処理、原子力の経済的利用、原子力の科学的データの整理等の問題が予定されている。

 また1959年度のフェローシップは機関の経費によるもの(typeI)がtraining fellowship100名、researchfellowship15名、計115名で、加盟国の経費によるもの(typeII)が128名と予定されている。

 なお、理事会案のほかに機関の事業計画の運用に関して次の三つの決議が行われた。

 これらはいずれも10月2日の事業計画、技術および予算委員会でポーランド代表から提案されたもので10月4日の本会議で採択された。

(1)低開発国援助のため理事会が次の検討を行うことを勧告し、第3回総会でその報告を求める。
 (a)個別的環境に適合する原子炉についての低開発国の需要の調査を始めること。
 (b)低開発国に適合する中小型原子炉の技術、経済性に関する継続的調査のための手段をとること。
 (c)上記により得られた情報を全加盟国に配布すること。
 (d)中小型原子炉の技術、利用を平均化するために技術者訓練について低開発国を援助すること

(2)事務局長に科学諮問委員会等と協議して1959年度の会議およびシンポジウムの計画を理事会へ提出することおよびこれらのシンポジウムがなるべく異なった場所で開かれることを勧告する。

(3)現在の研究所および他の情報源を機関が利用することおよびアイソトープの農業、医薬における利用に関する専門家訓練のためFAO、WHOその他の科学センターと協力することを理事会および事務局長に勧告する。

3.加盟国分担金の割当(議題14)

 第1回総会では、1958年度(1~12月)における各加盟国の分担率は、国連で採用された分担率をベースとして機関と国連との加盟国の差異を調整して定めるものとし、ただし、
 (a) 最高33 1/3%をこえないこと。
 (b) 最低0.04%を下らないこと。
 (c) 各加盟国の人口あたり分担金は最高割当国の人口あたり分担金をこえないこと。を条件とした。

 そしてこの方法に従って1958年度の仮割当率が定められ、この率は第2回総会において遡及的に調整されることとされた。

 第2回総会では、事業計画、技術、予算委員会中に分担金割当小委員会を設けて審議し、その報告を10月4日の本会議で承認した。

 まず、1958年度の分担率の調整が行われた。これは前回の仮分担率決定後ベルギー等9ヵ国が新たに機関の加盟国となったこと等の理由で、これによってわが国の1958年度分担率は、仮分担率では1.89であったが、1.82に修正され、金額にして、約65,500ドルから、約63,000ドルに減額された。

 次いで1959年度(1~12月)の仮分担率が定められた。

 この計算方法は最高限度が33 1/3%から、32.51%に変更されたほかは、前年度と同様となっている。わが国の1959年度仮分担率は1.84%と定められ、一方、1959年度の機関の行政費予算総額が5,225,000ドルであるから、金額にして約96,000ドルとなったわけである。

 ちなみにおもな国の仮分担率を挙げれば、米国32.51%、英国7.30%、ソ連13.05%、フランス5.33%、西独3.98%、イタリア6.94%となっている。

4.国連拡大技術援助計画への機関の参加可能性(議題16)

 機関と国連との協定第15条には、技術援助に関する活動およびサービスについての両者間の重複を避け、現在の体制内で効果的な協力を行うに必要な行動をとるべき旨がとりきめられている。

 この趣旨にもとづいて、第1回総会では理事会に対し、国連拡大技術援助計画(EPTA)への参加の可能性を検討することを勧告した。

 そこで理事会では検討の結果、機関はEPTAに参加すべきであり、このため事務局長に必要な権限を与えるという勧告案を作成し第2回総会に提出した。

 第2回総会では事業計画、技術、予算委員会にこの理事会勧告の審議を付託、その答申にもとづいて、機関は国連拡大技術援助計画に参加すべきであり、事務局長に機関を代表して参加のための必要な処置をとることを要請する旨の決議を行った。

5.一般資金への寄付金確保処置(確約会議の召集を含む)(議題17)

 第1回総会で低開発国の科学者、技術者訓練のために加盟国から機関の一般資金に対して寄付金の提供を行うべきことが要請され、この寄付金確保の方法について、理事会は第2回総会に勧告を行うべきことが決議された。理事会は1959年度における寄付金の確約を行うために本会議議長の司会のもとに全加盟国の特別委員会を第2回総会終了前に開くことを勧告し、総会は9月26日の本会議でこの理事会勧告を承認、決議した。この決議にもとづいて10月3日に確約会議(Pledging conference)が開かれ、多数の国がその寄付予定金額を申告し、計853,000ドルが一応確保されたが、そのおもな内訳は次のとおりである。なお、この寄付金を予定して、1959年度の予算中にフェローシップや機関のラボラトリー建設のために見積られている額は1,500,000ドルであるから、確約会議では予算全額の約束は確保されなかったわけである。しかし1958年度のフェローシップ予算250,000ドルに比べれば大幅な増加となっている。

(単位ドル)
 アルゼンチン
5,600
 ベルギー
10,000
 ブラジル
15,000
 カナダ
50,000
 チェコ
13,888
(ただし、crown貨による)
 フランス
35,000
 西  独
20,000
 イタリア
5,000
 日  本
20,000
 英  国
125,000
 米  国
 500,000
 アラブ連合
8,615

6.専門機関との関係(議題18)

 憲章第16条によって理事会は、総会の承認を得て、機関と国連その他関係機関との間の協定を締結する権限を与えられている。第1回総会では理事会に専門機関との協定交渉の権限を与え、各協定交渉妥結後の総会で承認を求めるべき旨を決議した。第1回総会以後第2回総会までの間に五つの専門機関との協定交渉が妥結して理事会から協定案が提出されたので、第2回総会ではこれを行政法規委員会に付託し審議の上、原案どおりこれを承認した。今回承認された協定は機関とInternational Labour Organization(ILO),Food and Agriculture Organization of the United Nations(FAO),World Health Organization(WHO),United Nations Educational Scientific and Cultural Organization(UNESCO)およびWorld Meteorological Organization(WMO)との間の五つの協定で、その内容はいずれもだいたい類似しており、概要次のとおりである。

(1)両機関は共通の問題について相互に協力し、定期的に協議する。また相手方が企画しまたは本質的な関心を持っている問題を取り上げるときは事前に協議する。
(2)総会、理事会、委員会等には相互に代表を出席させることができる。
(3)相互に情報を交換する。
(4)相手方の理事会等に議題を申し入れることができる。
(5)職員、資金の有効利用を図るため、また、施設やサービスの重複を避けるため相互に協議する。
(6)情報、統計の有効利用を図るため相互に協議する。
(7)職員の採用の争いを避け、むしろ相互に一時的または長期的べ-スでの職員の交換を図る。

7.理事国の選挙(議題23)

 理事国は憲章第6条によって技術先進国5ヵ国、地域別先進国5ヵ国、原料生産国2ヵ国、技術援助提供国1ヵ国と総会で選出される10ヵ国の計23ヵ国の代表で構成されることになっている。このうち総会選出理事国の任期は2年であるが、第1年度のみは半数を2年、他の半数を1年とし、以後毎年半数ずつの改選を行うこととなっている。第2回総会ではインドネシア、ペルー、アラブ連合、イタリア、グヮテマラの5ヵ国の任期が終るので改選が行われた結果、インドネシア、ペルー、アラブ連合(以上再選)、オランダ、ベネズエラが選出された。なお、総会選出以外の理事国は任期1年であるが、第2回総会前の理事会ですでに改選を終っているので、新理事会の構成メンバーは次のとおりとなった。

 技術先進国  カナダ、フランス、英国、米国、ソ連
 地域別先進国  ラテンアメリカ---ブラジル
 アフリカおよび中東---南ア連邦
 南アジア---インド
 東南アジアおよび太平洋---オーストラリア
 極東---日本
 原料生産国  ベルギー、ポーランド
 技術援助提供国  デンマーク
 総会選出国  アルゼンチン、韓国、パキスタン、ルーマニア、トルコ;
 インドネシア、オランダ、ペルー、アラブ連合、べネズエラ

 最後に第2回総会における全体の印象としては、後進諸国はもっぱら機関に対してフェローシップその他の援助を期待するのみで、機関の育成強化への積極的な意欲に乏しく、一方大国間では機関を原子力に関する広範な問題を処理する中心機関として育てようとする米、英等の考え方と機関は後進国の原子力開発に努めるべきで国際的な管理機構としての性格を持つべきではないとして機関の実力の強化に反対するソ連圏との間に根本的な意見の対立がみられ、機関の前途多難を思わせた。

2.総 会 以 後

1.総会後の新理事会は総会終了直後の10月6、7の両日第1回の会合を開いたが、おもな審議事は次のとおりである。

役員の選挙(議題1)

 新議長にはブラジルのBernardes,新副議長にはポーランドのBilligとパキスタンのAhmadが選ばれた。

委員会メンバーの改選(議題3)

 理事会には三つの委員会が設けられていた。すなわち、①専門機関との交渉に関する事務局長への助言の委員会、②恒久的本部の設定に関する事務局長への助言の委員会および③核物質等の供給のための協定に関する委員会である。しかし、①の委員会はその任務を終了したので解散することとなり、②の委員会のメンバーは理事国でなくなったイタリアが退いてオランダに代っただけで、あとは議長(または副議長)、アルゼンチン、カナダ、インド、日本、ルーマニアが再任された。③の委員会のメンバーは従来議長(または副議長)、ブラジル、インド、スエーデン、南ア連邦、ソ連、アラブ連合、英国および米国であったが、ブラジルとスエーデンに代ってカナダとポーランドが任命され、さらに機関に対し天然ウラン提供の申入れを行った日本を加えることにつき、必要な場合には出席を求めればよいという反対意見もあったが、アラブ連合等の強力な支持を受けて日本が新たにメンバーに加わることとなり、結局新メンバーは議長(または副議長)、カナダ、インド、ポーランド、南ア連邦、ソ連、アラブ連合、英国、米国および日本となった。

国連拡大技術援助計画(EPTA)にもとづく1959年度の機関の活動(議題6)

 第2回総会で機関のEPTAへの参加が承認されたが、事務局から1959年度の活動方針について次の説明が行われた。すなわち、国連の経済社会理事会でも、10月中に機関のEPTAへの参加が決定される予定であり、技術援助局(TAB)ではすでに1959年度に機関に対し、200,000ドルの資金提供を決定している。これは1959年初頭に機関の一般資金に繰り入れるこどができ、現在のところその大部分はフェローシップ44名分に使用することを考えている。なお、その使用方法は後日の理事会において最終的に決定されるであろう。

日本の天然ウラン提供援助の要請(議題7)

 へき頭日本代表から次の理事会で決定できるように事務局が必要なステップをとってくれることを希望した。そのあと南ア連邦、米国、英国等から日本の要請は機関にとってきわめて歓迎すべきものであり、機関が最善の努力をもって処理に当るべき旨の発言が行われた。しかしこの問題は今後における同様の要請に対するパターンとなる意味できわめて重要であるから慎重に検討すべきであるという英、米等の意見と、直ちに各国に入札の招請を行って問題が起ればそのつど処理すればよいというフランス、ソ連等の意見との両論があったが、結局英国代表の提案により

(1)事務局長は一定期限で提供国からのテンダーを要請すること。
(2)事務局長は日本と協議して協定案を作成すること。また随時核燃料物質の供給に関する委員会と協議すること。
(3)事務局長は協定案を固めて次の理事会に提案できるよう努力すること。

となった。

2.次の理事会は11月4日に行われ、もっぱら科学諮問委員会に関する事項を審議した。

 最高級の科学者をもって構成する科学諮問委員会の設置は昨年春の理事会当時からの懸案であって、恒久的機関とする案と随時臨時的に招請すれば足りるとする反対意見とがあって容易に定まらなかったものであるが、第2回総会直前の理事会に再度提案され、このときも理事会に直属せしめようとするチェコ案と事務局長および理事会に助言するという英国等の案との間に賛否両論が戦わされたが、結局英国等の共同提案が採択されてようやくその設立をみたものである。その構成は7名の有能な科学者から成り、任期は1年となっている。11月の理事会ではこの構成メンバーとして次の7名の指名が承認された。

   H.J.Bhabha(インド)
   Cockcroft(英国)
   Emelyanov(ソ連)
   Goldschmidt(フランス)
   Gross(ブラジル)
   Lewis(カナダ)
   I.I.Rabi(米国)

 委員会に対する諮問事項は理事会と事務局長とでそれぞれ定めることができるが、今回は理事会の諮問事項を定めず、11月中に事務局長から次の事項を諮問する旨が報告された。

(1)1959年度および次年度中の科学会議の計画
(2)水中の水素と酸素の同位元素の世界的分布の測定に関する案
(3)機関のラボラトリーの建設に関する案
(4)技術施設に対する機関の長期的需要
(5)追加的研究活動に関する機関への助言の要請

 この後、諮問委員会は11月13~15日の3日間ニューヨークにおいて最初の会合を行った。

3.本年に入って最初の理事会は1月7日から19日まで開かれた。この理事会では日本の天然ウラン提供援助の要請の問題に審議時間の約半分が費され、次の事項が決定された。

(1)日本の計画の承認

 核物質その他の確保について機関の援助を要請するときは、憲章第11条によりその計画について理事会の承認を受けなければならないこととなっている。日本が要請した天然ウランのインゴットまたはビレット3,000~3,200kgは、国産1号炉(JRR-3)用の燃料として使用する予定であり、日本からこの計画の内容を事務局に説明し、理事会は事務局の説明にもとづいてこれを承認した。

(2)提供国の決定

 事務局は日本の要請に応じて、天然ウラン金属の供給可能国に対し昨年12月11日を期限として入札の招請を行った。これに対し米国、ベルギーおよびカナダの3国が入札に参加し、開票の結果1kgあたり米国54.34ドル(FOB,Baltimore)、ベルギー34ドル(FOB,Antwerp)で、カナダは機関援助の趣旨から無償(カナダのいずれかの港湾渡し)とすることを申し出た。したがって機関への提供国はカナダと決定された。

(3)日本への提供価格

 日本への提供は憲章の規定により無償とすることはできないので、ベルギーの入札価格1kgあたり34ドルに機関の所要経費1kgあたり1.5ドルを加えて、1kgあたり35.5ドルと決定された。

 以上のほか、提供国たるカナダと機関との協定、日本と機関との協定も審議されたが、決定に至らず、2月中旬以降に特に理事会を開いて決定することとなった。

 その他の事項については審議の詳細はいまだ明らかでないので、おもな議題のみを挙げることとする。

技術援助計画の検討(議題2)

 1958年9月10日付でタイから機関に対してアイソトープの利用に関する技術援助の要請が出されている。これはバンコックの病院の設備を用いてアイソトープの医学的利用に関する技術援助を受けるため1959年2月から6ヵ月間専門家を派遣するよう機関に要請したものである。

 また1958年10月14日付でブラジルからアイソトープの標準設定に関する技術援助が要請されている。援助の内容は、設備のテスト、測定の方法、作業計画の作成等についてアイソトープ測定技術に詳しい物理学者、電気技術者および放射能防護やionization chamber技術に詳しい物理学者の計3名の3~4ヵ月間派遣を求めるものである。

 また、パキスタンからも研究用原子炉、gammairradiationおよびアイソトープの問題、health physicsについてそれぞれの専門家の派遣を要請している。

 これらの援助計画の妥当性を理事会で審議する。

1959~61年度の科学会議およびシンポジウムの計画(議題5)

 第2回総会での決議にもとづいて事務局は1959~61年度の科学会議およびシンポジウムの計画を科学諮問委員と協議の後理事会に提出することが要求されている。昨年11月科学諮問委員会がニューヨークで開かれ検討が行われ、ほぼ下表のような案が作成された。

4.以上は第2回総会とその後の理事会を通じてみた機関の活動状況であるが、このほか2月23日から第三者損害賠償問題に関する第1回のパネルがウィーンで開かれる予定であり、また本年度のフェローシップの申請の受付も2月中旬を期限として現在手続が進められている。