核燃料開発に対する考え方

長期計画の前提として委員会決定

 原子力委員会においてはさきにわが国における原子力開発利用の長期にわたる基本的かつ総合的な指針を与えるものとして、昭和31年9月6日「原子力開発利用長期基本計画」を内定し、その後さらにこの内定計画のうち特に発電用原子炉の研究開発に関する部分の具体的な長期計画として32年12月18日「発電用原子炉開発のための長期計画」を決定した。これはいわばさきの内定計画の一部をなすものであり、したがって、これにつづいて原子力平和利用の他の各分野、すなわち核燃料、原子力船、科学者・技術者の養成、アイソトープ利用等のおのおのについて長期計画を策定することになっている。これらの各長期計画が完成してはじめて長期基本計画が完結することになる。

 原子力委員会は、このうち核燃料に関して専門部会を設けて検討をかさねてきたが、技術的にも、経済的にもまだ不確実な要素も多く定量的な長期計画として決定する段階にはいたっていない。しかしながら核燃料開発に対する原子力委員会の考え方をとりまとめることは現段階においても必要であるとして、原子力委員会においては以下のような「核燃料開発に対する考え方」をさる33年12月24日決定した。これはいわば核燃料開発利用長期計画の前提となるべき性質のものである。

核燃料開発に対する考え方

昭和33年12月24日
原子力委員会

まえがき

 原子力平和利用、特に動力源としての原子力利用を進めるにあたって、原子炉の設計、築造等の技術の開発とともに核燃料資源の確保ならびにその有効利用の方策が重視されねばならないことはいうをまたない。このため原子力開発の先進国においては、国内の核燃料資源開発に力を注ぐとともに、たとえば合同開発機関等の組織を通じて広く海外資源の確保にのりだしており、また核燃料の製錬、加工ならびに使用済燃料再処理の技術開発に努力していることは周知のとおりである。さらに核燃料資源の有効かつ高度利用ならびにエネルギー・コストの低減をはかるため、核燃料開発の重点の一つが燃料を再使用するための技術を確立することに向けられていることは世界的なすう勢といえる。

 わが国は、石炭、石油等の在来エネルギー資源の賦存が貧弱で、エネルギー・コストの最も高い国の一つであり、輸入エネルギーへの依存度も急速に増大しつつある。したがってわが国において原子力発電の果す役割および意義はきわめて大きいので、当委員会は昨年12月原子力開発利用長期基本計画の一環として、「発電用原子炉開発のための長期計画」を策定して、発電用原子炉に必要な核燃料については次のような方針を決定した。

(イ) 核燃料を確保するため極力国内資源の開発に努力すべきであるが、現状においては核燃料資源の大部分を海外に依存せざるをえない見通しのため、外貨収支の改善、国内技術水準の向上等の見地から主として核燃料を精鉱の形で輸入し、国内で製錬、加工することが必要であろう。

(ロ) さらに長期的な計画としては、低濃縮ウランの将来性にかんがみ、新しいウラン濃縮技術の研究に積極的に努力する一方、プルトニウム再使用の技術を確立するため燃料再処理、プルトニウム冶金等の技術を促進し、またトリウムについてはトリウムを使用する原子炉の発展と関連せしめつつ、その製錬、冶金等の技術の研究を進めるべきである。

 以上のごとき核燃料についての従来の方針にもとづき、核燃料資源の有効、高度利用、特に燃料サイクルの見地からわが国における核燃料政策のあり方を明らかにした長期にわたる計画を策定することは当委員会に課せられた使命であり、現に専門部会を設けて検討を進めているが、今日においては世界自勺にみても燃料を再使用するための技術は確立されておらず、またその細部についての経済性も考察すべき資料に乏しく、定量的な計画の策定にはなお若干の日時を必要とすると考えられる。しかしながら核燃料に関する考え方をとりまとめることは現段階においてもなお必要と考えて、ここに長期計画策定の前提として「核燃料開発に対する考え方」を明らかにした次第である。

〔1〕 国内ウラン資源の開発

1.探鉱

 わが国のウラン資源の探鉱は、国内におけるその賦存状況を可及的すみやかに明らかにするという基本方針にもとづき全国的規模において放射能強度分布概査、放射能異常地調査および鉱床調査等の基礎的概査を通商産業省地質調査所が担当し、この結果さらに詳細な調査の意義が認められた地域に対しては原子燃料公社が鉱床精査を行い、鉱床の分布、鉱石の品位ならびに鉱量等を確認するという方策をとってきた。

 地質調査所ならびに原子燃料公社による核原料の概査および精査は相互の連繋を重視しつつ今後も合理的に行うべきである。また民間企業の探鉱を促進するため引き続き探鉱費補助金を交付して奨励するものとする。

 なお新しい放射能異常地点の発見、通報は従来どおり各方面に期待するものとする。

(1)通商産業省地質調査所による概査

 通商産業省地質調査所は、全国のウラン鉱床の所在を経括的につきとめるため、昭和31年度に始まる3ヵ年計画をもってわが国における酸性火成岩地帯のうち約8万平方キロメートノレを重点的にとりあげ、概査を行ってきた。この概査はほぼ順調に進行しており、計画年度内に完了する見通しであるが、当初予想していなかった地域においてもつぎつぎとウラン鉱床を胚胎する地区が発見されており、このためさらに約12万平方キロメートルの範囲にわたって概査を行う必要が認められる。

 概査は、エアボーンおよびカーボーンを主とする比較的広範囲な地帯に関する放射能強度分布調査ならびに異常地点の確認とその分布範囲の調査を目的とする放射能異常地調査ならびに地質構造および鉱床形式の概要等を解明するための鉱床調査を内容とし、概査に続く精査および企業化調査を経て採鉱を可能とする態勢を確立するための基礎資料の収集を目的とするものであり、できるだけ早期に完了せしめる必要がある。したがって今後行う必衰がある約12万平方キロメートルの範囲を対象とする地質調査所の概査は昭和34年度に始まる新しい計画によって行い、これによってわが国のウラン資源の全国的な概査を可及的すみやかに終了するものとする。

(2)原子燃料公社による探鉱

 (イ)精査

 原子燃料公社は昭和31年度以降中国地方の倉吉鉱山、人形峠鉱山等に重点をおいて精査を実施した。特に人形峠鉱山の一部においては鉱床の賦存の範囲および規模等について詳細な精査が行われており、現在企業化調査も進行中で、必要に応じて採鉱を実施しうる態勢が整っている。

今後原子燃料公社は、さらに全国の有望鉱床の開発を促進するため地質調査所の調査によって相当強度の異常を確認した地点を中心として、引き続き精査を積極的に実施するものとする。精査の内容としては主として試料の採取、鉱床の胚胎状況等に関し測量をともなう調査を行い、さらに必要と認めた場合は地質構造や鉱床分布状況調査のための試錐あるいは物理探鉱、化学探鉱などを併用するものとする。

 (ロ)企業化調査

  精査の結果にもとづき、さらに鉱床の分布状況、鉱石の品位、鉱量等採鉱に移るに必要な資料を得るために行う企業化調査は、採鉱を実施する主体が行うことが望ましい。したがって原子燃料公社は、特に原子燃料公社による企業化調査が適当であると考えられる地点について実施するものとする。

(3)民間企業による探鉱

  原子燃料公社による精査、企業化調査と並行して民間企業による探鉱を促進するため、放射能異常が発見された有望地区のうち民間企業がみずからの手で探鉱を推進することを希望するものに対しては、審査の上探鉱費補助金を引き続き交付するものとする。

2.採鉱

(1)民間企業による採鉱

 将来はウラン資源の採鉱は私企業の長所を活用して経済的、能率的に行い、原子燃料公社の採鉱はその補完的意味において行われることを理想とする。

 したがって民間企業による採鉱を積極的ならしめるため、採鉱されたウラン鉱石に対しては原子燃料公社において買上げを保証するものとする。買上げ保証の対象となる鉱石の品位、親格、買上げ価格、買上げ実施の期間等に関しては、昭和32年6月に原子力委員会が決定した鉱石買上げの条件に準拠するものとする。

なお、原子燃料公社の所有する鉱区に関しては精査あるいは企業化調査によって得られた結果を公開するものとする。これらの鉱区につき希望するものがあれば資源を合理的に開発する能力等を審査の上採鉱を民間企業に行わせることを原則とするが、採掘権の譲渡等の条件は、原子燃料公社が探鉱に投入した費用を回収しうることを前提とし、採鉱の結果得らるべき利益を勘案して原子燃料公社と民間の希望者との間で協議の上とりきめるものとする。

(2)原子燃料公社による採鉱

  原子燃料公社は、
(イ) 鉱区が錯雑していて個々に採鉱を行うことによっては経済的な開発が困難なもの
(ロ) 鉱石の種類、埋蔵量等からみて原子燃料公社による他鉱区との総合的な開発が経済上有利なもの
等のうち、原子燃料公社の鉱石買上げ価格等に見合う経費で採鉱しうる見込がある鉱区について採鉱を行うものとする。この見地からさしあたり人形陣地区は将来採算にのると期待されており、また鉱区の状況等原子燃料公社による採鉱が適当であろうと認められるので、事業化の見通しが確実となり次第採鉱に着手する。

〔2〕ウラン燃料製造技術の開発

1.粗製錬

 粗製錬の技術は鉱石の種類に応じて異なり、特にわが国においては貧鉱の処理も必要であるということから先進諸国の技術にのみ依存することは困難と考えられるので、国産鉱石に適した技術を開発する必要がある。この見地から従来、ウラン鉱の選鉱、国産貧鉱の溶媒抽出、塩素化による乾式製錬等の研究を行ってきたが、さらに工程の簡略化、新溶媒の応用、その他国産鉱石に適した新技術の開発を促進するものとする。

 粗製錬の事業は主として民間企業によって行われることを期待する。この場合粗製錬所は山元もしくは地区別に建設されると予想されるが、個々の民間企業によっては経済的操業が困難なものもあるので、これらについては鉱石処理上の条件を勘案して原子燃料公社が粗製錬所を建設し、処理するものとする。

2.精製錬

 「発電用原子炉開発のための長期計画」では、国内で製錬、加工した燃料要素の需要がある程度大量に発生するのは昭和38年以降と予想し、その量は昭和38年度に第2基目の実用発電炉が建設されたとした場合、その初期装荷量(約250トン)を見込んで約300トン(燃料要素換算)とみられている。

 したがって製錬、成型加工等に要する期間を見込めば、上記の需要量に対応する生産設備の建設に若手すべき時期は昭和35年ごろと考えられるが、第2基目として濃縮ウランを使用する発電炉が選ばれる場合には、さらにこの時期はおくれるものと考えられる。

 しかし、本格的な生産設備の建設に至るまでの段階においても、ウラン精製錬に関する研究開発に力を注ぐことの必要なことはいうまでもない。

 この見地から従来国立試験研究機関、民間企業等において溶融塩電解迭、カルシウム還元法等の研究を行ってきたが、さらに原子燃料公社においては米国オークリッジ国立研究所において開発中の技術を導入し、現在日産30キログラムの規模のパイロットプラントを建設中である。今後この完成を待ち、精鉱から金属まで一貫した精製錬試験を実施し、その成果は原則として公開するものとする。

 なお、本格的な生産設備を建設する場合はわが国における将来の天然ウラン需要量等からある程度の規制が必要と考えられるので、原子燃料公社および民間企業における研究成果を吟味し、それぞれの事業計画を検討の上、時期、規模等具体的な精製錬事業に対する方針を決定するものとする。

3.ウラン濃縮

 低濃縮ウラン燃料を使用する動力炉の将来性にかんがみ、わが国においてもウラン濃縮の技術を開発する必要がある。

 しかしながら在来方式によるものは経済性の見地からわが国情に必ずしも適するとは考えられないので、濃縮に有利な性質をもった新ウラン化合物、新しい濃縮法等わが国に適した濃縮技術の研究を強力に促進する。

 なお将来ウラン濃縮を事業化する場合には安全保障の見地ならびに濃縮ウランが各国において政府の管理を受けている現状にかんがみ、原則として原子燃料公社において行わしめるものとする。

4.加  工

 天然ウラン、濃縮ウランいずれの場合も、核燃料の設計、加工の良否は原子炉の安全性、経済性に重要な関連をもつので、これらの加工の技術の開発は強力に推進されるべきである。

 これらの研究のうち核燃料の物理学的、化学的、冶金学的研究等の基礎的研究および新型式の燃料要素釆の基礎および応用研究は日本原子力研究所を中心に実施し将来の発展に備えるものとする。

 また核燃料の鋳造、圧延、成型、被覆および被覆材の製造技術ならびに燃料要素の組立等に関する製造技術の開発は、さしあたり主として民間企業に期待するものとするが、将来新型式の燃料要素系の研究の進展のいかんによってはその工業化のための試験工場を日本原子力研究所もしくぼ原子燃料公社に設置することも考慮する必要があろう。

 なお民間企業で核燃料の加工を事業化する場合にはできるかぎり共同して開発する体制をとることが望ましい。

 天然ウラン燃料の加工については、従来から民間企業の技術を開発してきたが、当面国産1号炉の所要燃料要素の加工を目標に引き続きその技術を確立し、さらに導入が考慮されている天然ウラン・ガス冷却型発電炉の燃料要素についても民間企業において可及的すみやかに国産化を図るよう措置するものとする。

 濃縮ウラン燃料の加工についてはここ当分の間は主としてセラミック系燃料等の加工を中心に民間企業の技術の確立を図り、将来の濃縮ウラン型動力炉の実用化に備えるものとする。なお、燃料要素の開発にあたっては、原子炉による照射試験等を必要とするので、このため日本原子力研究所の各種研究炉、試験炉等を利用しうるよう措置をとるものとする。

5.検  査

 原子力災害に対しては災害補償制度の確立が要望されているが、何よりもまず原子炉の安全性を確保し、公衆の被害を防止するためには、原子力事故の原因の一つとなる瑕疵のある核燃料が使用されることを未然に防止する必要があるので、核燃料についての国家検査制度を確立することを目標とし、必要な場合は原子炉等規制法の改正等を考慮するものとする。

 なお国家検査制度の実施に際してはできうれば原子燃料公社の活用を考慮するものとする。

 このため核燃料検査に関する海外事情の調査、国内における研究等の成果をまって早急に検査方法、検査基準および検査技術の確立をはかるものとする。

〔3〕 核燃料有効利用のための技術開発

1.再処理

 わが国における再処理技術はいまだ確立されておらず再処理の経済性も明らかでないので、研究炉、試験炉の使用済燃料をはじめ、当面再処理を必要とする燃料は海外において再処理を行うはかはない。しかしながら原子燃料需給の円滑な回転と外貨負担の軽減等経済上の観点からみれば、将来は使用済燃料の再処理はわが国みずからの手で行い、プルトニウムおよび減損ウランはふたたび核燃料として利用することを極力考慮すべきである。使用済燃料再処理の事業は原子炉等規制法の定めるところにより原子燃料公社が担当することになるが、その事業を開始する時期は再処理の経済的最小規模とわが国で再処理を要する燃料の量との関連において決定することが必要であり、その時期に備えてすみやかに再処理技術の研究を促進し、さしあたり国産1号炉の使用済燃料を用い再処理を研究するための試験設備の設置を考慮するものとする。

 また使用済燃料を再処理した結果生ずる減損ウランは、将来はプルトニウムを添加してふたたび核燃料として利用するか高速中性子増括炉のブランケットに使用する等の可能性が考えられるので、核燃料として利用するための研究を日本原子力研究所を中心に推進すべきである。

 なお使用済燃料の再処理にともなって副生する放射性廃棄物の処理についても、将来の再処理事業に備えて、日本原子力研究所を中心にその処理方法につき研究を行う。

2.プルトニウム

 「発電用原子炉開発のための長期計画」によれば将来わが国内に建設されるべき発電炉の中で生成するプルトニウムは相当な量に達することが予想されている。このプルトニウムの有効利用を図るためプルトニウム添加燃料を使用した動力炉ならびに高速中性子増殖炉を開発する必要があり、そのためにはプルトニウム系燃料に関する研究を促進せしむることが重要である。

 しかしながらプルトニウムについての研究はわが国では最近ようやくその緒についた段階にあるので、さしあたり対米一般協定により供与されるプルトニウムにより、日本原子力研究所等において物理的、化学的な基礎研究を促進する。

 これらの研究とあいまって、逐次プルトニウムの冶金、加工等の技術の開発を図り、プルトニウム系燃料に関する技術を可及的すみやかに確立するものとする。

3.トリウム

 核燃料物質としてのトリウムについては、今後におけるトリウムを使用する原子炉の開発と関連せしめつつ、その利用技術を開発すべきである。当面は日本原子力研究所において進行中の熱中性子増殖試験炉の研究に必要なトリウム系燃料の製造、加工等の研究を行うはか、トリウムの合金弄およびセラミック系燃料等に関する基礎的な研究をあわせて進めるものとする。

 トリウムの買上保証等の措置はトリウムを使用する原子炉の実用化の見通しが明らかになった段階において考慮する。

〔4〕 核燃料の開発体制

1.原子燃料公社の役割

 原子燃料公社は原子力基本法および原子燃料公社法によって、その設立の目的が明らかにされており、またその具体的業務範囲も法律によって定められているように、わが国の核燃料開発の中核的国家機関である。

 このような核燃料開発のための国家機関を必要としたゆえんは、諸外国のように軍事上の目的からではなくもっぱら原子力平和利用を急速に行うためには民間企業のみでは不十分で、国自体として強力に進める必要があるとの判断によったものである。

 したがって原子燃料公社が実際に事業を行う対象は、民間企業の果しえない部門に重点がおかれるべきであり、その意味においては原子燃料公社の役割は中核的機関といいながら事業によっては先駆的な面と、補完的な面とがあるといえよう。

 ウラン探鉱のごときは、従来の経過を見ても、地質調査所および原子燃料公社のような国家機関によって初めて総合的に行われ得たものであり、将来は民間企業によって行われることが望ましいが、おそらくは今後も原子燃料公社は探鉱についてわが国の中心機関としての役割を果すであろうと考えられる。

 製錬、加工等については、いまだ試験研究の段階であり、原子燃料公社は東海村に製錬の中間プラントを建設し、先駆的役割を果しつつある。しかしながらさいわいに民間企業における研究の熱意および企業化への努力はめざましいものがあるので、将来これらの事業化については、原子燃料公社は民間企業の活動を総合的に見守って、要すればその補完的な機能を果す立場に立つことが適当であろう。

 つぎに使用済燃料の再処理は原子炉等規制法の定めるように、原子燃料公社にのみ認められた事業であり、将来必要となればウラン濃縮の事業もまたこれに準ずるものと考える。

 従来一部に原子燃料公社は事業体であって研究は行わないとするような意見も見受けられたが、原子燃料公社による事業化が予定される部門については、そのための研究が当然原子燃料公社において行われねばならない。核燃料開発の現状から見るとき、今日ただちに事業化を必要とするものはいまだ少ないと思われるが、調査、研究は他の機関の協力のもとに大いに促進する必要があると考える。

 なお、原子燃料公社の国家的性格から、国内産ウラン鉱石の買上げも公社が行うものであり、核燃料の国家管理、国家検査等についても、将来実施の必要な時期に至った場合、原子燃料公社の果すべき任務は大きいものと思われる。

2.各種機関の協力体制

 核燃料の研究、開発について、わが国では基礎的な研究と応用的な研究とが同時に開始されるような事情にある。その上、今後は民間企業において海外から製造に直結した技術を導入することも必要となると考えられるので、これらの各段階の技術が相互に関連を保ちつつ、将来わが国独自の技術にまで発展することを図らねばならない。

 このため、原子燃料公社、日本原子力研究所、各種試験研究機関、民間企業、大学等との間に研究協力の場をつくる必要があるが、特に大学における基礎的、学術的な研究と、その他の機関における研究との総合的かつ緊密な連繋を図ることが重要である。

あ と が き

 以上、核燃料開発に対する当委員会の考え方を述べたが、この考え方を推進するためには、特に諸外国との関係について付言する必要があろう。

 わが国における原子力研究の進展は、先進諸国に比べて十数年の遅れがあるとみられているにもかかわらず「発電周原子炉開発のための長期計画」に示したごとく、エネルギー需給の長期見通しでは、将来輸入燃料はますます増大するので、比較的早期に原子力発電を開発することが望まれており、この立ちおくれを取りもどす手段として、諸外国においてすでに開発された技術ならびに設備を導入することが必要となる場合が多い。

 すなわち、初期においては先進諸国における原子力の研究開発と異なり、わが国の原子炉の設置は核燃料の製造技術等の研究開発に先行して行われることとなるので、そのため海外から導入した原子炉に使用される燃料要素等についての製造技術も、これら原子炉に付随して導入することを考慮しなければならないと思われる。

 この場合、原子炉の開発がわが国の将来のエネルギー事情に大きく影響することにかんがみ、導入されるべき技術がわが国の原子力開発の基本方針に合致するのでなければならぬことはいうまでもない。

 将来わが国が必要とする核燃料を確保するために国内資源の開発に努力することはいうをまたないが、当面核燃料の大部分は海外からの供給にまたねばならないのでこの場合は外貨節約等の見地から精鉱の形で輸入して、国内で製錬することが望ましい。

 このため国際原子力機関ならびに核原料の産出国との間に協定等を通じて海外資源の供給が受けられるよう考慮すべきである。