原子力平和利用研究の紹介


 原子力平和利用研究費補助金を交付されて行われた研究で、終了認定の行われたもののうち、放射線計測用磁電管型計数管の試作に関する研究東京芝浦電気、昭和31年度、補助金額1,180,000円)を以下に紹介する。

放射線計測用磁電管型計数管の試作に関する研究

1.緒言

 105c/s以下の十進計数を行う電子管には、計数放電管としていわゆるデカトロン、真空計数管としてはE1Tなどが現在用いられている。これ以上の高速度の計数には、従来は二進のフリップフロップ回路を使った真空管の組合せがおもに用いられていたが、この目的のために近来マグネトロン型計数管が開発されて、原子物理実験、たとえばシンチレーションカウンタの計数用などをはじめとして、周波数計その他の高速度計数装置に使用されようとしているので、昭和31年度の原子力平和利用研究費補助金の交付を受けてこの試作研究を行った。以下にその結果を報告する。

2.動作機構

 この計数管の原理は1947年にスエーデンのAlfenとRomanusによって発表されており、その後これを発展させたマグネトロン型計数管とその応用については海外で多くの発表がある。まずこの計数管の基礎的な動作機構を簡単に説明する。

 一般に電界と直角の方向に磁界の存在する二極管で陰極から電子が出ると、電界による加速と磁界による軌道彎曲の作用のために、トロコイド形の軌道をえがき、全体として等電位面の方向に運動する性質がある。マグネトロン型計数管は電子のこの性質を利用したものである。この計数管は使用の便宜上ほぼ受信管と同じ大きさと電極電圧とを持った真空管で、第1図はその管内電極の横断面の横型図である。図に示してあるように、酸化物陰極を中心として同軸的に配列した10個のスペードと称する電極と1個のアノードとからなり、これらの電極には100V程度の直流電圧が印加してある。この真空管を電極の軸と平行の方向の350ガウス程度の磁界中に入れておく。磁界が十分に強いときは、アノードとスペードへ一様に電圧をかけただけでは、陰極から放出された電子は陰極のまわりをトロコイド状の軌道をとってまわるだけで、アノードやスペードへは到達しない。しかしたとえば0番のスペードの電位を下げ0に近づけると、等電位面は図に示す形となり、電子は等電位面の方向にその軌道がまがって進み、この電子流の大部分はアノードに入り、一部は0番スペードに入るようになる。管内または管外でスペードに適当な値の抵抗を接続しておくと、スぺード電流のため0番スペードの電位はほとんど0となり、いったんこの状態になれば、0番スペードの電位を外部から強制的に0に下げ続けなくても、自然にほぼ0電位に保たれ、電子流もその位置に保持される。このような状態にすれば以後電子流を順次にスペードを転移させて計数を行うことができる。計数しようとする負のパルス電圧をアノードに印加すると等電位面は第1図(b)のようになり、電子が1番スペードに入ってその電位を下げ、電子流の大部分は1番と2番のスペードの間を通ってアノードに入り、電子流が円周の1/10だけ転移したことになる。電子流が転移する早さやこれに必要なパルス電圧の高さは、スペード回路の抵抗とこれに並列に存在する静電容量とによっておもに定まる。このようにパルス電圧により電子流を順次に電極を移動させることが計数管の基本動作である。

第1図 1個のスぺードの電位を0としたときの電位分布と電子流

3.M7503

 M7503は以上にのべた基礎的の動作機構をほとんどそのまま用いた計数管である。十進計数には10個のスペードのうちの1個から出力信号を取り出して次の桁の計数回路に入れるようにすればよい。アノードの端には第2図に示すような花形の付属電極をつけ、その内面に螢光体を塗っておき、アノードに10個の穴をあけておいて電子流の小部分がこの穴を通って螢光面にあたるようにしてある。この蛍光を管の上方から見て、電子流の停止位置を知ることができる。磁界を与えるには円筒状の永久磁石を用いた。磁界の方向と電極の軸とは合致していないと各スペードの特性が不揃いとなるので、接着剤を使って永久磁石と真空管との相対位置を適当に固着してある。アノードに印加するパルス電圧の高さと幅には適当な値があり、過大ならば1個のパルスで電子流は1個より多くの電極を転移し、過小ならば全然転移しなくなる。

 M7503と真空管使用の計数回路とを並列に働かせて計数を行い、両方の計数結果を比較した実験によると、試作完成後のM7503は0.4×106c/s程度の最大計数速度をもっており、二重パルスの分解能は0.7μs程度である。M7503は構造が比較的簡単であることが特長であるが、安定動作をするときのパルス電圧に対する要求が厳しい欠点がある。おそい計数と早い計数とともに使うためにはパルス幅が±0.05μs内に保つことが必要であり、保守用に計数管を入れ換えて使うことを考えると、パルス幅に対する要求はこれ以上に厳しくすることを要する。この点から考えてM7503は実用向というよりもむしろ次にのべるM7504, M7505のための基礎実験用とみるべきであろう。

第2図 M7503の電樹上端の横断面

4.M7504,M7505

 入力パルスを加えるアノードと電子流をうけとるアノードの部分とは必ずしも同一である必要はなく、アノードを分けて、入力パルスを入れるグリッドと電子流をうけとるターゲットとの二つにしても動作は変らないはずである。このようにすると、出力にスペード電流より大きい電流をとり出すことができて便利である。スペード回路の静電容量が小さくなれば最大計数速度は大きくなると考えられるが、上にしるしたような構造にするとスペードから出力をとる必要がないので、スペード抵抗を管内に封入することができて有利である。このような考慮により、スペード抵抗自蔵でグリッドとターゲットのある計数管を試作してみたが、適当な条件で動作させたときは最大計数速度は上るが、動作か臨界的となり、M7503より入力パルスに対する要求が厳しくなってほとんど実用性がなかった。パルスに対する安定性を増すためには、グリッドを1個おきに5個ずつ接続して2群に分け、入力パルスが交互に別の群のグリッドに入るようにして、パルス幅にかかわらず電子流の転移が1個のパルスに対しては1偶のスペードになる方法を試みた。グリッドは板状でもよく動作するがグリッド電流を少なくするためにグリッドの制御作用を多少犠牲にして棒状のグリッドを試みた。これらの実験結果にもとづいてグリッドを2群に分けて管内で

おのおの接続し26脚のステムを使ってスペードとターゲットの全部に引き出し線をつけた型をM7505,これと同じ電極でスペード抵抗10個を管内に自蔵する16脚ステムの型をM7504として試作した。第3図はこれらの計数管の電極の横断面である。ターゲットをL状にまげてスペードに組み合わせてあるのは、ターゲットへ電流がはいりやすくするためである

 M7504とM7505はスペード抵抗の有無を除いては電極は同じであるから静電特性は同じである。

第3図 M7504,M7505の電極横断面


 M7505は管外各スペードへ100kΩずつの抵抗をつけて使用したときの最大計数速度は1.3×l06 c/s程度で、これは入力パルス電圧の波形や配線の長さなどで多少ちがってくる。M7504は実験に用いたパルス発生および計数装置の能力以上の最大計数速度を持っているため正確に測定できなかったが、M7505よりは非常にはやく、自動転移周波数から想像すると4×l06 c/s以上の最大計数速度があると考えられる。第4図はM7504,M7505の計数速度の測定に使用した前置フリップフロップ回路である。実験によるとこの回路に使う真空管はなるべく相互コンダクタンスの高いものがよく、低いとパルス波形が乱れて結果がよくない。

第4図 M7504,M7505用の前置フリップフロップ回路


 M7504,M7505は前述したようにグリッドを2群に分けて入力パルスを交互に与える方法がよいが、このときはパルス幅の変化に対しては動作は非常に安定で、パルス幅が大きくなって、1スペード以上に電子流が転移することはない。M7504,M7505で計数を表示するには、(1)各ターゲットに小さい継電器をつけておき、電子流がはいったときこれを働かせて表示灯やグローチューブを持つ他の回路を制御する方法、(2)スペード電圧は100V程度に保ち、ターゲット電圧を200V以上にあげ、ターゲットに接続した抵抗に並列にグローチューブをつけておいて、電子流がはいったときに100V以上の電圧降下が抵抗におこるようにしておいてグローチューブを点灯する方法、(3)第5図に示すような回路によってグローチューブを点灯する方法などがある。M7504, M7505はスペード電圧が100Vのとき、どれかのターゲットの電圧が60V以下に下がると動作が不安定になりはじめるし、またスペード電圧よりターゲット電圧を高くすると最大計数速度が下がるので、計数を表示する方法を採用するときは注意を要する。

第5図 M7504,M7505の表示回路

 第1表は以上にのべた3種の計数管の代表的な動作例などを示したもので、第6図はこれらの外観で、永久磁石を固着しない前の外観も示してある。第7図はこれらの計数管の実験に使った静特性試験装置と動作特性試験装置である。

第1表

第6図 M7503,M7504,M7505の外観および永久磁石を除いた真空管の写真

第7図 静特性試験装置(左側)と動作特性試験装置(正面)

5.結言

 3種のマグネトロン型計数管の試作および試験結果について述べた。このうちグリッドを有するM7505,M7504は計数速度もはやく動作も安定であるから、現在多く用いられている真空管計数回路に代って使用すれば回路も簡単となり保守も容易となろう。また、十進以下任意の進数にも使えるので特殊の用途も考えられる。重量が従来の真空管に比べて重いとか、磁界が漏洩するなどの使用上の不便もあるが、計数がはやい特長はこれらを補って余りあると思う。寿命については、M7503を600c/sで連続計数した場合と自動転移させた場合とではともに2,500時間を越して計数上の性能はほとんど変化なく、十分に実用しうるものと考えられる。なお試作3種類のうち現在はM7505だけに需要があるため、これは商品として生産、販売されている。