原子力委員会

東海大学原子炉の設置に関する
原子炉安全審査専門部会の答申


 原子力委員会の原子炉安全審査専門部会は、かねてから審査をすすめていた東海大学原子炉の設置に関して原子力委員会に答申を行った。この答申に関連して松前衆議院議員から質問が提出されこれに対して答弁が行われた。なお原子力委員会専門部会は12月に入ってから関西大学原子炉をはじめ種々の答申を行っているが、これらについては来月号にゆずり、本号においては専門部会の審議状況を総括して紹介した。なお第2回目の原子力年報(昭和32年夏)が12月10日発表された。

東海大学原子炉の設置に関する原子炉安全審査専門部会の答申

安全性の確保に疑問


 原子力委員会原子炉安全審査専門部会においては、東海大学に設置が計画されている原子炉の安全性について、昭和33年6月18日以来、同部会に設けられた第1小委員会を中心に審査を行ってきた(本号8ページ原子力委員会専門部会の審議状況のうち原子炉安全審査専門部会の項参照)が、一応の結論を得たので、11月11日付で同専門部会の失木部会長から原子力委員会三本委員長あて、次のような審査結果の報告が行われた。なおこれに対しては原子力委員会においても慎重な審議が進められており、いずれ結論がだされる予定である。


昭和33年11月11日    

   原子力委員会

   委員長三木武夫殿

原子炉安全審査専門部会    

部会長 矢木  栄    

東海大学原子炉の設置について

 当部会は標記の件に関する安全性について昭和33年6月18日以来審査を行ってきましたが、一応の結論を得ましたので、別紙のとおり御報告致します。

審査結果

 東海大学が学校教育用の目的をもって、湯沸し型軽水均質炉(ノースアメリカン製L一77型)10W1基を東京都渋谷区代々木富ヶ谷1431同大学工学部内に設置することについて、当部会が原子炉設置許可申請書により審査を行った結果の意見は、下記のとおりである。

1.原子炉設置に関する安全性に対する基本的考え方

 原子炉はいまだ完全な装置になっているとはいえず、特に日本にあっては、まだ設置例も運転例も少ないときであるので、その設置についてはきわめて慎重に取り扱うべきである。

 まず、原子炉の設置場所(立地条件)は、炉の型式、出力および設計上の安全対策によっても異なるが、普通民家などからある程度の隔離距離があることが望ましい。特に日本にあっては民家密集地域は、原子炉の設置に適応するような立地条件にある場合が少ないので、原子炉はかかる場所を避げることが望ましい。

 また原子炉の管理についても相当の高度の技術的、科学的背景(水準)を持つ必要がある。この技術的水準とは、技術的、科学的理解の程度とそれを有する人の数との両者を考慮して評価されるものである。さらに原子炉の管理については、これにたえる経済的能力を保有することも必要である。

 原子炉設置の安全性は、以上の諸点を総合勘案して決めらるべきものであろう。

2.東海大学の原子炉設置に関する安全性

(a)原子炉設置位置は、一般民家との問最短25m、大学校舎との問最短7mのきわめて狭隘な位置にある。このため、完全地下式にて原子炉を格納し、管理、運転する計画であり、安全性の確保が計られているが、校内学生、近隣一般人等に対して立入制限等の管理を行うには、民家および校舎にあまりにも近接した距離にあると認められる。
 また廃水を流す下水は、一般民家の裏庭等を開渠にて貫流し、さらに上水道管の上部を流れている場所がある。このため、排水中の放射性物質濃度は、許容量の1/10以下を常に確保するよう、イオン交換樹脂による処理、十分な容量を持つ廃水槽を下水よりも低位置に設置すること等の設備をして安全性の確保が計られているが原子炉を設置するための民家密集地域の下水設備として望ましい状態にないものと認められる。

(b)原子炉施設

1.原子炉

設置しようとする原子炉は、ウォーターボイラー型10W(ノースアメリカン製L-77型)で、
当部会は、この安全性につき次のように確認を行った。

(1)ノースアメリカン社は、1958年1月17日付で米国原子力委員会あて、米国原子力法にもとづく、L一77型原子炉の建設許可の申請を行った。

(2)米国原子力委員会は上記申請に対し、1958年5月1日付で建設、運転および所有することの許可を行った。

(3)東海大学からの申請および説明書は、上記(1)の申請の内容にもとづいて作成、記述されたものである。

(4)本原子炉は、

(イ)低出力であること。

(ロ)超過反応が小さいこと。

(ハ)負の温度係数が大きいこと。

(ニ)反応度制御について特別な問題がないこと。

(ホ)反応度の自動調整機構があること。

(ヘ)再結合器の能力に十分な余裕があること。

(ト)遮蔽の能力は適当であること。

等の特長のため、原子炉の暴走、放射性物質の大量散布等に対して原子炉自体の安全度はきわめて高いものと認められる。

2.付属施設

上記L-77型原子炉は、東海大学が計画、設計、工事を行う原子炉格納施設(燃料貯蔵施設を含む。)、廃棄物処理施設および放射線管理施設を付加して運転されることになるが、これら付属施設の計画については、安全性の確保が計られていると認められる。なお、当部会が問題とした点は下記のとおりである。

(1)原子炉格納施設は、当初半地下式であったが、これを完全地下式に改めた。このため、

(イ)大学周囲の民家一帯が大火に襲われた場合

(ロ)炉室内に気体状放射性物質が漏出した場合

(ハ)校内学生、近隣一般人等に対して立入制限等の管理を行う場合

等につき、安全性の確保は、半地下式の場合よりも高められたと認められるが、反面

(イ)放射性物質の地下水混入のおそれをなくするため、き裂防止、防水等を通常の場合よりも十分に行うこと。

(ロ)近接して校舎があるので、踏切り工事等を慎重に行うこと。

が必要であると考えられる。このため建設費がかさむことが予想されるが、現在の建設費計上額は廷坪あたり約10万円で、このような工事に対して少額のきらいがある。

しかしながら、現位置において、原子炉の安全性を確保するためには、建設費増嵩に拘泥することなく設計および工事を実施しなければならないと認められる。

(2)廃棄物処理施設は、当初計画を改めて、排水の処理につき、廃水貯水槽を増加し、イオン交換による処理装置を設置することとした。水原子炉は、正常運転時にあっては放射性廃水を流すことはなく、また原子炉で照射生成されたアイソトープの処理および原子炉の事故時における放射性の廃水を考慮しても、本原子炉は低出力であるため、現計画にて、下水への放射性物質の放出を常に許容量の1/10以下に確保するに十分な施設と認められる。(なお、本原子炉に付帯してアイソトープ実験室の計画があるが、ここに持ち込まれるアイソトープに関する排水については検討を行わなかった。)

(3)以上付属施設の計画は、安全性を確保することができる施設と認められるが、気体、液体および固体状の放射性物質の取扱、廃棄が公衆になんらの災害も及ぼさないことが確保されるためには、単に施設の計画、設計が十分でありその工事が確実に行われるだけでなく、放射線量等の適確な測定、装置および計器の適切な維持、事故等の適切な処置等その運営、管理が施設に応じて十分でなければならない。なかんずく本原子炉の設置場所は民家密集地域であり、また民家および一般校舎ときわめて密接しており、そこからの廃水を流す下水は、一部分一般民家の裏庭等を開渠で流れ、上水道管の上部を流れている場所があり、原子炉設置の条件としては必ずしも望ましいものではないので、その安全性を確保するためには、上述の運営管理にあたる人々が量的にも質的にも普通以上に充実している必要があると認められる。

(c)管理能力

東海大学が現位置にL-77型原子炉を設置し、運転する上において安全性の確保の観点から必要な管理能力については、当部会は次のような確認を行った。

(1)東海大学は本年4月の当初申請以来、当部会の審査に並行して再三申請書の改正、追加を行ってきているが、

(イ)申請書記載内容に明確を欠いている点がある。

(ロ)原子力主任教授が空席であり、他に原子力関係の専任教授がいない。

(2)原子炉の運営管理については、そのための指導的役割を果すべき人々が必要であると考えられるが、申請の原子炉運営委員会は原子力関係教授もなく、また客員教授がこの面で果すべき職責の程度が明らかでない。

(3)また現在のわが国においてしかも現位置に設置されるL-77型原子炉の運営管理については、相当高度の技術的水準を持つことが必要であろうと考えられるが、この点について現在の東海大学の量的、質的構成は十分であるとは認められない。

(4)以上の諸点から東海大学の原子炉管理の現計画は、十分であるとは認められない。

3.結び

 以上の設置場所、原子炉施設、管理能力に対する当部会の確認を総合すると、東海大学がL-77型原子炉を渋谷区代々木富ヶ谷1431に設置し、運転することについて現段階では安全性の確保は必ずしも十分であるとは認められない。

審議経過