昭和33年度原子力平和利用研究
委託費に係る研究の概要


11月1日決定分7件の紹介


 昭和33年度の原子力平和利用研究委託費に係る試験研究の概要は以下のとおりである。

  (注)  ①被交付者     ②委託費交付額
      ③研究期間

二重温度交換法による重水の製造に関する研究

     ①昭和電工(株)     ②10,999,176円
     ③33.11.1.~34.10.31.

目 的:本研究は昨年度の研究に引き続き原子力開発の進展にともない、要請される重水の経済的量産方式と考えられる二重温度交換法による重水製造の基礎技術を確立しようとするものである。

内 容:(イ)二重温度交換法(H2S-H2O系)装置を連続運転し、将来の工業化に対しての基礎条件を把握するために物質収支、熱収支等の総合的結果を検討する。(2)二重温度交換法(H2O-H2系)は昨年度の触媒の研究に引き続き、水素の水中あるいは触媒表面への拡散速度を大きくするために、この反応を促進するための高圧、超攪拌、触媒の懸濁法等の基礎的諸条件の研究を行う。

核融合を目的とした超高温プラズマに関する研究

     ①三菱原子力工業(株)     ②7,477,800円
     ③33.11.1.~34.10.31.

目 的:三相低周波溶接機の原理を利用した実験装置により高温プラズマの特性を研究し、この制御技術を習得して核融合反応実用化の基礎資料をうる。

内 容:(1)大形環状放電管を作り、この製作を通じて設計および工作、真空技術、重水素封入技術の研究を行う。(2)100kW高周波発振器、100kJ衝撃電流発生装置を使用し、プラズマの予備加熱を行う。(3)小形環状放電装置を作り、高能率主電力注入方法の研究を行う。

大電流環状放電による超高温プラズマに関する研究

     ①東京芝浦電気(株)     ② 6,996,000円
     ③33.11.1.~34.10.31.

 目 的:(1)大容量短絡発電機、衝撃大電流発生器および高周波電流発生装置を併用して大電流を環状に放電せしめ、重水素の核融合反応に必要な超高温プラズマを発生させる。(2)次いで種々の条件を変化せしめて、超高温の発生におよぼす影響を観測する。

内 容:(1)ドーナツ形放電管内に重水素を充填し、これを誘導ピンチ形プラズマによって超高温に加熱する。(2)放電電圧および電流をオッシログラフにより観測し、また中性子の検出を行う。(3)高速度カメラにより、放電路直径の時間的変化を調べる。(2)以上の測定値と放電管の形状、封入気体圧力との関係を求め、超高温の発生に必要な条件を見出す。

核融合超高温プラズマの発生並びに観測に関する研究

     ①神戸工業(株)     ②1,995,118円
     ③33.11.1.~34.10.31.

目 的:中性子の発生状況を定量的に測定し、核融合反応の発生装置の設計資料をうる。

内 容:液体シンチレータ、光電子増倍管、高速度シンクロスコープ、高電圧電源等から成る中性子測定装置を試作し、中性子の発生をシンクロスコープで観測する。

超高温プラズマ現象の測定に関する研究

     ①理化学研究所     ②2,976,493円
     ③33.11.1.~34.7.31.

目 的:比較的起りやすい高温プラズマを捕えて、その物理的、電気的諸性質を精細に測定し、プラズマをいかに発生させ、いかに保存するかの研究を行う。

内 容:(1)低圧大容量電解蓄電器により、放電電流50kA程度の高温プラズマをうる方法および装置の研究を行う。(2)上記により発生したプラズマの特性を、種々の方法によって測定する研究を行う。

天然ガスおよびアセチレンの放射線照射による重合、縮合反応の促進に関する研究

     ①理化学研究所     ②6,764,513円
     ③33.11.1.~34.3.31.

目 的:天然ガス中のメタンおよびカーバイドから得られるアセチレンは、合成化学用原料として重要な ものであり、種々研究がすすめられているが、この研究においては、これらの重合、縮合反応への放射線照射について、種々の照射条件下での生成物を検討し、将来の有用な重縮合生成物の低コスト生産に資せんとするものである。

内 容:まず純粋メタンについて、その一定量をα線等の放射線源装入のガラス容器に封入し、一定時間照射反応後、生成物を回収して質量分析計により定性定量する。照射条件を種々変えて、照射エネルギーと反応生成物との相関関係について研究する。次いで本邦産出の天然ガスおよびカーバイドから得られたアセチレンにつき上記のごとき実験をし、さらには反応容器の大型化、連続化について検討する。

放射線によるビニル系高分子のグラフト共重合の研究

     ①理化学研究所     ②5,008,420円
     ③33.11.1.~34.3.31.

目 的:グラフト共重合体の製造に際して、放射線照射を利用すると、通常の方法に比較して容易に反応を起させることができるので、この方法によってビニル系プラスチックスの機械的、電気的、熱的性質の改善を図るとともにその反応メカニズムについて研究する。

内 容:(1)ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等にアクリロニトリル、スチレン等のビニルモノマーをグラフト共重合させ、これらを最もよくグラフトさせる反応条件を見出す。(2)反応過程を粘度測定や分光学的測定によって分析し、反応過程の解明につとめる。 また照射による分解生成ガスを、ガスクロマトグラフィによって分析する。(3)得られたグラフト共重合物の機械的、熱的、電気的、その他種々の物理化学的性質を調べ、X線、赤外線分光等による構造解析を行う。(4)以上の測定結果から分子論的に反応機構を追求し、将来の放射線化学の発展に寄与する法則を見出したい。