国際原子力機関の活動状況

本年度の実績と来年度の計画


 国際原子力機関の第2回総会は9月22日からオーストリアのウイーンにおいて開催され、わが国からは在オーストリア大使古内広雄氏が代表、松井佐七郎(在オーストリア大使館一等書記官)、向坊隆(東京大学助教授、前在米大使館一等書記官)の両氏が代表代理として参加した。この総会の状況は次号において紹介する予定であるが、以下に本年度における機関の活動状況ならびに来年度における事業計画について述べる。

1.1958年度の活動状況

 機関の初年度における主たる活動は、機関の広範な機能を十分に発揮しうるような事務局の整備充実に向けられた。現在の事務局の機構は第1図のとおりである。したがって、初期計画に盛り込まれた広範囲な活動のうちの一部が実施され、あるいは着手された段階にあるが、実質的な成果は来年度にまつべきであろう。以下に機関の各分野における活動状況を概略する。

 技術援助

 加盟国の原子力開発を援助するために、特別技術顧問団を派遣し、技術指導、開発計画に対する助言等を行わせることは機関の重要な使命の一つであるが、今年度はラテンアメリカに対して地域訓練センターの設置に関する調査団が派遣された。同調査団はすでに現地の調査を終え、報告書を作成中であるが、この結果が肯定的であれば、機関の援助による最初の地域訓練センターが実現するであろう。

 情報の交換と訓練

 今年度における主要な活動の一つは、機関のフェローシップ計画の実施であった。この資金として、加盟国からの任意拠出金25万ドルをあてることが第1回総会において承認された。候補者は、8月1日までに各加盟国政府によって推薦され、機関において選考されている。

 情報の収集

 今年6月末までに機関に寄贈された資料は4万件に達した。これらは今年末までに整理され、加盟国に対して各種の利益をもたらすであろう。

 原子炉の調査

 機関の原子炉援助計画を作成するにあたって、各加盟国内で建設され、運転されている原子炉に関する詳しい資料を集めることが必要であった。現在、各種原子炉に関する資料が収集され、事務局で整理されつつあるが、世界の原子炉表として出版配布する予定である。

 物質の提供

 現在までに第1表のとおり、各加盟国から物質が提供されており、6月末現在で機関に提供された核分裂性物質は、5,140kgに達した。これらの物質の受入れおよび供与に関する条件(値段を含む)は目下事務局で検討されつつある。

 その他

 今年度における機関の主たる活動状況は、だいたい前述のとおりであるが、このほか、安全保障、他の国際機関との関係、廃棄物処理、技術基準、保健等の諸問題について事務局および理事会で調査、検討された。しかし、最初にも述べたとおり具体的な成果が生れるのは来年度以降になるであろう。


 国際原子力機関の設置が最初に提唱されたのは、1953年12月8日、国連総会における米国大統領の演説によってであったが、この提案は、翌年12月の第9回総会において満場一致の支持を得た。その後8ヵ国グループによってこの機関の憲章草案作成に関する作業が進められた。 憲章草案は1956年9月23日、ニューヨークの国連本部に招集された国際会議に提出され、若干の修正を経た後10月26日可決され、その後の3ヵ月間に80ヵ国の代表によって署名された。次いで、わが国を含む18ヵ国による準備委員会が設置され、機関の初期計画と予算案の起草、その他諸種の準備作業を開始した。いっぽう憲章は、1957年7月29日、26ヵ国の批准書寄託とともに発効した。

 第1回の総会は、1957年10月1日ウィーンで開催され、同月23日幕を閉じるまでに、最初の理事会を構成し、これとともに機関の初年度計画および予算を決定し、機関の所在地をウィーンに定め、初代事務局長としてスターリング・コール氏を指名した。

  なお、憲章は26ヵ国の批准により発効したが、その後第1回総会の開催時には、加盟国は54ヵ国、閉会時には59ヵ国、本年6月30日現在66ヵ国となった。

 また初年度における理事国は次の22ヵ国であった。

 アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チェコスロバキア、フランス、グァテマラ、インド、インドネシア、イタリア、日本、韓国、パキスタン、ペルー、ポルトガル、ルーマニア、スウェーデン、トルコ、南ア連邦、ソ連、アラブ連合、英国、米国


2.1959年度事業計画と予算 

 1959年度計画と予算は、事務局によって作成された原案を理事会にかけて審議し、数回にわたる修正を経て9月23日から開かれた第2回総会に提出され、その承認を得た。これによると来年度予算総額は、672万5,000ドルに達するが、このうち、おもな事業計画を列記して、来年度機関の活動状況を概観することとしたい。

 特別調査団の派遣

 地域訓練センターの設置に関する調査、アイソトープ利用に関する技術指導、原子力の各国における実情調査等に関し、加盟国の要請により派遣するもので、専門家5人程度からなる8チームの派遣を予定している。これに要する予算は20万ドルである。このほか、加盟国の要請によっては、特定の技術的な問題についてコンサルタントの派遣を考慮しているが、これについては別に10万ドルを計上している。

 セミナール、各種科学会議の開催

 知識の交換と技術の交流をはかるために、シンポジウム、会議の開催は有効な手段であるが、来年度にはアイソトープスキャンニング、廃棄物処理、原子力の経済性等に関するシンポジウムの開催を予定している。これに要する経費として、10万ドルが認められた。

 委託契約研究

 本来機関の行うべき研究ではあるが、加盟国内の研究施設により実施することのできる研究は、極力これを利用する建前であるので、来年度においては、次の二つの研究をこれにより実施する予定である。

 1)較正法、標準化等に関する委託研究15万ドル

 2)深海における廃棄物処理に関する研究16万5千ドル

 フェローシップ計画と経済・技術・研究援助計画

 フェローシップ計画については、本年度の活動状況の項で述べたとおりであるが、来年度は、これが拡大

されるほか、各種の援助計画、たとえば研究用原子炉を含む研究施設の提供、共同購入等のために110万ドルが計上されている。

 機関の研究所建設

 標準化と目盛りの検定、適切な測定方法の確立、較正法の研究等は機関の重要な使命であるので、このために機関独自の研究所を建設することとなり、来年度予算中40万ドルがこのために計上された。

 以上主として予算面から見た項目を取り上げ、来年度の機関の主要な事業計画を概括したのであるが、わが国としては、機関による物資の供給に大きな期待をかけており、この面における機関の活動を強化し、かつ促進するために今次総会においては、天然ウラン3トンの購入を正式に機関に対して申し入れた。この申入れは、機関の活動を積極的に支持するものとしてウィーンにおいても大いに歓迎されている由である。これが実現すれば、わが国の原子力開発にとって、国際原子力機関はさらに身近なものとなるであろう。


第1表 国際原子力機関に提供された物質リスト


第1図 1959年度国際原子力機関機構図