原子力委員会

昭和34年度原子力予算の委員会決定

 昭和34年度の原子力関係予算が8月22日開催の原子力委員会定例会議において決定された。明年度の原子力開発の規模を決定する予算については7月ごろから原子力局および各省庁からの要求に対し説明を聴取するなどして慎重な審議をかさねた後、歳出予算114億、ほかに債務負担行為8億に調整したものである。またかねてから検討が加えられていたウラン製錬技術の導入について民間の製錬事業の企業化に直結するものは、当分の間差し控えることを適当と考える旨発表された。

昭和34年度原子力予算の委員会決定

総額114億円余にのぼる


 昭和34年度原子力予算については、原子力局および各省庁からの要求総額233億(現金分)に対し慎重な検討をかさねていたが、8月22日開催の第32回原子力委員会定例会議において以下のように委員会としての調整結果を決定した。

 

昭和34年度原子力関係予算見積方針

原子力委員会

 わが国における原子力の研究開発は、昭和29年度以来逐年増加する財政支出とこれに呼応した関係各方面の研究開発意欲と相まって、今日ようやくその創生期を脱し、研究基盤の確立を見つつあるが、今後もその手綱をゆるめず、なおいっそう基礎研究の充実に意を用いるとともに、従来つちかった基盤をもとに研究成果の応用化、実用化に努め、産業、文化の各分野において原子力の平和利用を強力に展開しなければならない。
 この目的を達するため、34年度において何よりも必要なことは、各研究開発機関における人材の充実であり、この点については予算の見積りに当って特段の意を用いた。しかしながら、他方わが国で原子力の研究開発を進めるに当っては、その遅れをとりもどすに急なあまりいたずらに先進諸国の成果を追って相互に有機的な関連性のない研究を任意に進めることは許されず、長期にわたるわが国原子力開発利用の方針に沿って計画的、組織的に研究開発を進める必要があり、このため予算の見積りに当っては、思い切った調整を行うこととした。
 それにもかかわらず34年度原子力予算の総額は前年度の約78億円に比し約36億円(46%)の増となったが、これは前述のようにわが国における原子力の研究開発が現実に進展してきた当然の結果であり、世界の主要国が莫大な原子力予算によって発電、船舶等の実用化に努力し、後進諸国もまたこれを追って原子力開発利用の推進に邁進している実情を思い合わせて、この見積りが今日のわが国にとって適切なものであることを確信するとともにこの見積りが確保せられることを望むものである。
 なお、建設事業に対する債務負抱行為分が著しく減少したため、現金予算と国庫債務負担行為額との合計においては、33年度は112億円に対し、34年度は122億円となり大差はない。

(1)原子力行政機構の強化等
 放射線障害防止、国際協力、日本原子力研究所および原子燃料公社の監督、関係行政機関の原子力に関する行政事務の総合調整、各種の調査、原子力知識の普及および研究成果の発表等に関する事務を強力かつ円滑に行うため必要な予算措置を講ずるとともに、従来の原子力局の定員を大幅に増加し、これに呼応して、原子力行政機構についても抜本的な改善強化を図るため、原子力局を発展的に解消し、新たに科学技術庁の外局として原子力庁を新設する。

(2)人員の充実および人材の養成
(イ)人員の充実
 日本原子力研究所、原子燃料公社、放射線医学総合研究所の研究開発業務を本格的に行うため、人員を大幅に充実する。
(ロ)人材の養成
 引き続き海外に留学生を派遣するほか、アイソトープ研修所を拡充し、原子炉研修所を発足させて研修を開始する等技術者の養成訓練をさらに強化する。

(3)国際協力の強化
 国際原子力機関の活動に積極的に参加するとともに、各種国際会議への参加、調査員の派遣、海外からの専門家の招へい、海外留学生の受入、在外アタッシェの活動強化等を通じ、海外との連けいを強化する。

(4)原子炉の開発および関連研究の推進
(イ)ウォーターボイラー型原子炉によって実験研究を続行する。
(ロ)CP−5型原子炉を本格的に稼働させる。
(ハ)国産1号炉の現地据付組立を開始する。
(ニ)動力試験炉の建屋建設を開始し、海外において製作される炉本体の受入体制を整備する。
(ホ)将来の目標である増殖炉に関する各種の試験研究を日本原子力研究所を中心として本格化する。
(ヘ)原子炉およびこれに関連する機器材料の国産体制を強化するため、国立および民間における試験研究機関の試験研究を促進する。

(5)核燃料対策の促進
(イ)核原料の探鉱等
 地質調査所および原子燃料公社の行う核原料の概査および精査を組織的に行うとともに、探鉱奨励金による民間の成果にも期待する。特に人形峠鉱山は鉱況が優勢であり、すでに相当量の推定鉱量を確認したが、今後も重点的に採鉱を行うほか、企業化について確実な見通しを得次第、開発の準備に着手する。
(ロ)製錬に関する試験研究
 原子燃料公社が33年度に完成予定の精製還元中間試験設備の運転により金属ウランを生産する。
 また原子燃料公社が33年度に建設を完了し、各種試験を開始する粗製錬の試験設備については、引き続いて運転を行い、関係各機関における分担研究と相まって、製錬方式の決定、設計資料の収集を図る。
(ハ)加工等の研究
 核燃料の加工、検査、再処理および廃葉物処理については、日本原子力研究所、原子燃料公社等における研究を促進する。
(ニ)特殊核物質特別会計の新設
 米国との協定にもとづいて政府が行う核燃料物質の賃借または購入等に関する経理を一般会計と区分して行うため、特殊核物質特別会計を設置し、その経理の円滑化を図る。

(6)核融合反応の研究の推進
 核融合反応に関する研究は、大学におけるもののほか、通商産業省電気試験所、科学研究所、若干の企業等において始められた基礎研究をその特徴に応じ、それぞれの機関において継続するとともに、将来におけるその発展統合に備え、相互の連絡を緊密にするため日本原子力研究所に連絡会を設ける。

(7)原子力船の研究の推進
 振動、動揺、動特性、遮蔽等原子力船に特有の問題についての基礎研究を運輸技術研究所、民間企業等において推進する。

(8)放射線利用および障害対策の推進
(イ)放射能調査
 従来行ってきた放射能調査特に地方衛生研究所の調査の強化を図るほか新たに人体臓器および尿中の放射性元素の分析、深海の放射能調査を行うとともに特殊地点調査として水戸地方気象台において放射能を調査する。さらに海外の要請に応じ気象庁の放射能資料センターの機能を強化し国際協力に資する。
(ロ)国立研究機関等における研究
 国立試験研究機関については継続研究の十分な遂行を図るとともに障害防止法施行にともない必要な施設の改造を最重点としてとりあげ、進んでガンマフィールドの新設をはじめ、研究施設の整備を図る。また民間における研究に関しては委託費、補助金の交付を行ってこれを推進する。
(ハ)障害防止法の施行
 障害防止の万全を期するため放射線検査官による事業所への立入検査の強化に重点を置くとともに放射線障害防止に関する技術基準の斉一を図るため放射線審議会の活動を強化する。
(ニ)廃棄物処理対策
 個々の研究所等が廃棄物の処理施設を設けることは著しく不経済であるので中央に廃棄物処理機関を設け、これに補助を与える。
(ホ)放射線医学総合研究所の研究等
 33年度において研究棟、X線棟、管理棟が完成するので、34年度は病院、加速器関係施設の建設に着手し、研究部門ならびに診療部門の施設を充実する。また東海村に分室を設け、中性子線照射による生物の実験研究を開始するほか、養成訓練業務をも開始する。

昭和34年度(一般会計)原子力予算総表


日本原子力研究所に必要な経費


原子燃料公社に必要な経費

放射線医学総合研究所に必要な経費

国立試験研究機関の試験研究に必要な経費

1.原子燃料に関する研究

2.原子炉材料に関する研究

3.原子力船に関する研究

4.核融合に関する研究

5.放射線測定等に関する研究

6.障害防止に関する研究

7.放射線の利用に関する研究



試験研究の補助及び委託に必要な経費

核原料物質の探鉱助成に必要な経費

放射能測定調査研究に必要な経費

特殊核物質の購入等に必要な経費

放射性廃棄物の処理対策に必要な経費

原子力技術者の海外派遣に必要な経費

原子力委員会に必要な経費

放射線審議会に必要な経費

原子力庁の一般行政に必要な経費

関係各省庁における行政費

1.国際協力に必要な経費

2.放射線障害防止に関する経費

3.原子力利用の調査等に必要な経費

4.鉱山保安対策に必要な経費

5.放射線の利用に必要な経費

6.核原料物質開発に必要な経費

7.核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する経費

8.図書購入等に必要な経費