日本原子力研究所動力試験炉調査員報告書


 さる4月15日に帰国した日本原子力研究所動力試験炉調査員による報告書の全文を以下に紹介する。

- 目次 -

1.概況
2.契約の方式について
3.燃料の問題
4.設計、製作、建設上の問題点
5.炉の特性
6.試験実験の種類と計装
7.運転保守の経験
8.タービン
9.船への応用
10.安全性の問題
11.Critical assembly
12.Cost downの努力
13.結論

動力試験炉調査員
 原研副理事長 嵯峨根遼吉 原研研究員 望月 恵一
 運輸技研所長 中田 金市 原研研究員 都甲 泰正
 原電建設部長 辻本 進 


1 概況

(米国における軽水炉開発の態度と現状)
 1942年12月2日、シカゴ大学の蹴球場の観覧席の下で、フェルミ博士が世界最初の原子炉の作動に成功したのは実に有名である。しかしいっぽうでは、このフェルミの天然ウラン黒鉛炉に対しほとんど競争的に、戦時中から濃縮ウラン軽水炉の研究がコロンビア大学のダニング博士のグループによって行われていたのである。これは、調査員の一人が直接ダニング博士から聞いた話であるが、このように米国軽水炉の歴史は、すでに戦争中からはじまっていたのである。
 日本原子力研究所の動力試験炉調査員の一行は、2月末から4月中旬にいたる間、米国各地の国立研究所、原子炉製造会社およびいわゆるコンサルタントの会社を歴訪し、動力試験炉購入の第一段階としての原子力研究所の要求の概略説明その他の意見交換を行うと同時に、こんご動力試験炉委員会あるいは日本原子力研究所、原子力委員会、関係官庁その他と討論審議すべき事項の参考資料を収集すべく努力してきたのである。この前者の諸項については、5月2日開催の動力試験炉委員会その他において大略承認を得、さらにこれを米国各社に再確認のため書面として郵送ずみである。
 したがってこの報告書においては、後者の参考資料について略述することとする。
 今回はきわめて具体的な導入計画をもっていたので、先方各社はすこぶる熱心で、そのため大量の資料がえられた。
 さて、軽水炉の歴史をかえりみるに、第二次世界大戦後、米国海軍は原子力潜水艦用の原子炉として小型で出力の大きい軽水炉を採用した。このようにして有名なノーチラス、スケートその他が出現したのである。すなわち米国では、軽水炉はすでに実用になっており、しかも約2年に近い満足すべき経験を得ているのである。さらに空母用の大きさのものがシッピングポートで目下試験中であることもよく知られている。
 いっぽうこの軍事用原子炉の経験を、民事用の目的に利用する動きはここ数年来行われているが、軍事用にくらべれば比較的最近のことである。しかも米国における現在の火力発電原価は、7ミル程度、とくに工業地帯、たとえばピッツバーグ周辺では4ミルを下まわる傾向にあるだけにかならずしも近い将来における米国内での実用を目指しているわけではなかった。むしろいよいよ民事にも使えるという大きな期待から、はなばなしく計画を立てたきらいすらあり、これの再検討が行われて、昨年ごろから漸次原子力産業から脱落する会社もあらわれているとつたえられている。
 しかし、一流メーカー筋では会社の面目もあり、政府の補助にたよらず、会社だけの責任による大きな計画をいくつか発表し、米国の原子力発電は間もなく実用の域にはいると予想されていたのであった。
 ところがここに一つの重大な不運が軽水炉の発達過程に起った。すなわち初期における計画はほとんどウラン金属を燃料とする計画であったが、ウラン金属と水との化学反応がきわめて活発であることから、軽水炉として金属燃料を使用する場合には、燃料に些少の欠陥の生ずるたびに一刻をあらそって原子炉を停止する必要があり、これは実用炉としては重大な悪条件である。しかもこれが判然として方向転換を開始したのは1956年秋、今からやっと1年か1年半以前のことであった。
 結論的には、現在では軽水炉は酸化ウラン燃料を使用する以外にないということに到達し、これは世界的に認められたのである。
 このようにして従来の米国大型実用炉計画のほとんど全部は、昨年秋、再検討が行われ、その結果経済計算を修正して、値上げせざるを得ないことがわかった。その理由の一つの重大な因子が燃料の問題にあると思われる。
 さて、従来とも米国における実用炉開発は、その方針として米国AECの補助のもとに各メーカー独自の計画を提出させ、AECはたんに無意味な重複をさけるように指導してきた。それだけにそれぞれの会社の発意独創によるもの、あるいは幾多の学者の発案を会社が実施するものなど、きわめて多種多様の原子炉が並行的に試験されつつある。
 しかしそれらのなかでもちかい将来において、確実に安全に作動する型式としてはPWR(加圧水型原子炉)およびBWR(沸騰水型原子炉)の2種にかぎられ、この両者ともに燃料関係をのぞいては10年ちかくの歴史があるだけに、根本問題はほとんど解かれているといってよいであろう。
 換言すれば経済性を云々しなければ、きわめて信頼度の高いものが米国海軍用として実動中であると想像される。
 ここで米国原子炉計画の一つの特色があらわれてきた。すなわち経済性を問題にさえしなければ、米国の軽水炉はすでにほとんど完成にちかくしかも一両年の試験に合格したと見てよい。しかるに海軍用としてはほとんど経済性を度外視して信頼度を要求する。民間用としては、信頼度も大切であるが経済性も無規できない。すなわち今後の発達の方向が二つに分れてきたのである。
 このようにして米国の実用炉の研究は海軍艦船用の研究から独立せざるを得なくなった。しかも米国内の実用炉に対する要求は前述のとおりかならずしもちかい将来にはない。
 かくして十分資力のある大メーカーのみが、10年ないし20年の計画として取り入れる形となったのは当然であるようである。
 焦点をPWRおよびBWRにしぼれば、最近の大きな進歩としては、(A)安定性の研究が進んだこと(B)BWRから従来の設計予想の2、3倍の熱出力が得られたことであろう。
 (A)はPWRに平気で部分的の沸騰を許す方向になり、(B)はBWRの熱出力をさらに上げようとする方向にむかっている。
 従来のPWRといえば2,000psiに耐える耐圧容器を、BWRといえば600〜1,000psiの容器を使うのが常識であったが、今後は漸次両者が近づく傾向が予期される。
 したがって将来はそのどの辺に落ち着こうとも、たとえば比出力を増加するために、PWRだからといって沸騰を考えないわけには行かず、BWRだからといって強制循環に注意をはらわないわけにはいかなくなった。
 従来、熱交換器のように、PWRのみに使われるもの、自由表面からの蒸発の問題とか、あるいは気水分離器といったBWR特有のものも無くはないが、最近にいたって両者に共通のものが非常にたくさんあることになった。
 したがって、フォート・ベルボアーのAPPR−1担当の士官もいっているように、「米国陸軍が将来BWR採用と決定しても、PWRである現在の APPR−1で1年訓練したものにさらにBWRで2ヵ月訓練をほどこせば十分である」ということは正しいと考えられる。

2 契約の方式について
 今回発注を予定される動力試験炉について、日本原子力研究所は、建物をのぞいてはいわゆるターン・キイー・コントラクトを希望し、原子力プラントとして建設、設備等が終了し、試験を十分に行った上で引渡しを受けることを望んでいる。
 実際には契約上いくつかの方法があり、それぞれ一長一短がある。
 予算面からみると従来の例にならい、全プラントとして一環のものをこのさい注文し、建物は後にするという趣旨になっているが、これらの点も検討を要する。

 たとえば、ある製造業者から購入するとしても、
 1)Product selling   3)Project selling
 2)System selling    4)Turn key selling
 の4通りが考えられる。

 さらにちかごろの米国では、製造業者からはこのようなTurn key selling を受けることは少なく、いわゆるコンサルタントが各製造業者から製品を買い集め、適時に適所に搬入して建設組立を完了し、建物を含めた原子力プラント一括を請負うのが通例になりつつある。
 もちろん相当の部分は日本の下請者が米国業者の指図にしたがって製作すると期待されるので、契約自体はかなり厄介なものになるであろう。
 さらに契約にあたっては、各部品の材料加工等に対する Guarantee Warrantee などのほか、Perfbrmanceに対する Guarantee などまでもはいってくるので複雑になる。

 このほか工場渡しより現地到着までの輸送および保険の問題があり、組立ておよび試験に関する契約、さらに保守運転員の訓練についての取りきめも含まれねばならない。

3 燃料の問題
 いかなる燃料要素を使うかは、原子炉としていちばん大切な問題である。この点前述のとおり、軽水炉の場合においては数年前に考えられていた金属系のものは、今後は使われない傾向になった。すなわち、その理由は、被覆金属の小孔やひびができた場合、ウラン金属と水が活発な化学反応を示すというので具合が悪いのである。
 このようにして今日では、軽水動力炉はほとんどみな酸化物燃料を使用するということに決っている。
 現在最も有望と考えられているペレット系の酸化物燃料についての困難は、酸化物の熱伝導度の小さいことに起因する。水冷されている被覆金属の外側表面温度は500〜600°Fであっても、中心軸付近での温度は4,500°Fを越すこともあり、試験の結果往々にして中心部が溶融して中心軸に縦孔を生ずるとか、相当な中心部分が再結晶する等のことが使用温度での試験でさえもいくつか見出されている。このようにして燃料の直径は1/2″か3/8″程度にきまり、しかもだんだん細くなる傾向にあると思われる。
 さらにたびかさなる熱サイクルの結果、酸化物ペレットが半径方向にいくつか割れたり、ときには十数個に亀裂を生ずる等、はたして酸化物燃料が現在考えられている程度の使用温度でうまくいくか否かは、なお一両年の試験所究が必要であるときいている。
 次に、いかにこの酸化物燃料を改良していくかはいく通りかの方向が考えられる。その第一はさらに高温で使用できること、第二は現在7,000〜10,000MWD/Tといわれている燃焼率をさらに10,000MWD/T以上というように延長すること、(機械故障や変形なく)第三には、燃料製作費、再処理費を低廉にすること等の方向にむかってなされている。
 第一については、ペレットの熱伝導を増し、中心軸付近の温度を下げる努力がはらわれ、第二、第三については、ペレットの製法、加工法、被覆材料の選択等により努力がはらわれている。
 いっぽうには、粉末冶金の技術による板状の酸化物燃料も目下使用されているが、大型発電炉といったものには使用されないと思われる。

4 設計、製作、建設上の問題点
 軽水炉の設計の現状はまず概略の設計を行い、それにそって製作を開始しながら、詳細設計を行っていき、最後にウランの濃縮度で調整をとるといった場合が多い。
 しかも最近動きだしたAPPR−1、シッピングポートPWR 等はそれほどたくさんの実験設備、計測装置はついておらず、現在までのところでは動力を出すのに忙しく、主として、原子炉の特性試験、コンポーネントの特性寿命試験あるいは運転保守の経験を得ることに重点がおかれ、炉物理的な問題の測定、研究は大部分 Critical assemblyにゆずっている。
 本来ならば設計上経済性の最良になるように Optimization が大切な工学的研究になるのであるが各種のparameter による Optimum は flat peakになることが多いようである。
 製作や、建設上の問題については経済性改善の動きの一部として考えられるものであり、数多い注文をこなしてからはじめて得られるものだけに、順次経験をつむにつれて完成の域に近づくものと推測される。

5 炉の特性
 ここで問題にしている軽水炉、すなわち、PWRおよびBWRはそれぞれ大きな負の温度係数、あるいは負の気泡係数をもち、制御および動特性の面からみればすこぶる優秀な型式のものである。
 両者ともほとんど制御棒を調整しないでも、大きなしかも急激な負荷の変動に即応できるとされている。
 今後の方向としては、冷却が一様にいくこと、中性子密度が平均化されること等が動力炉本来の重大関心事であるので、これらの点につき種々の努力がはらわれている。

 最近の実験結果中、炉の特性として注目すべき点は
 (1)APPR−1(PWR型)では、優秀な動特性を示したこと。
 (2)EBWR(BWR型)およびヴァレシトスBWR
 で長期安定運転が行われ、設計定格の3倍近くの出力が得られたことである。しかしてその安定性については、両者とも原子炉開発過程のごく初期におそれられていた「沸騰による不安定さの増加」といったことは実験的に大した問題にならぬことが判明した。

6 試験実験の種類と計装
 動力試験炉としてはいかなる経験が得られ、いかなる実験が行えるように用意すべきかということはきわめて重要なことである。
 われわれは、米国における稼働中のAPPR−1、EBWR、ヴァレシトスBWR等につき、この点とくに注意して調査した。シッピングポートPWRは、日本原子力研究所で考えている動力試験炉としてはすこし大型すぎるが、これについてもいろいろの点を調べた。
 アイダホの BORAX さらに SPERT も、試験炉の一種と考えられるので、これらに関して聴取した。
 計装については、たとえば、一次系の放射線強度の漸増とか、各部の中性子束、温度、流量等の測定は、比較的少数の測定装置で行われている。
 この点をいままでの運転経過から見ると、状態はそれぞれの炉により異なり、たとえば APPR−1 では臨界から全出力になるまでは多少試験が行われたようであるが、一度全出力になると、ときどきこまかな修理をするために停止する程度で、主眼は全出力近くの保守運転試験、各コンポーネントの運転寿命試験あるいは燃料の照射および焼損の試験等で長期連続運転により得られる経験を重視している。したがって実験専用の計装はほとんどないといえる程度である。
 シッピングポートでは目下尖頭負荷発電所として使用され、昼間のみ運転し、夜間休止といった運転方法を、ここしばらく継続している。その目的は、炉および燃料に対するサイクル試験を長期継続的に行うことにある。
 このようにして、これらの炉では、長期連続運転に必要なもの以外の計装は比較的少ない。
 いっぽう、EBWR あるいは VBWR 等では、炉の特性試験が比較的多く行われており、上記の炉よりはいくぶん多く計装されているが、それほどに多いとは思われない。
 要するに、炉物理的な測定研究は大部分 Criticalassembly で行い、試験炉は主として工学的データをとり、実地の経験を得ることに使われている。

 アイダホの炉は、故意に各種の事故を起させてみて試験をしているので、このような実験は日本原子力研究所に入れる動力試験炉に期待することは無理である。

7 運転保守の経験
 われわれが調査した動力試験炉については、出力はいつも設計値以上に出せることがわかり、とくにBWR系統では2倍ないし3倍と大幅に設計値を上まわって動力が発生し得ることが実証された。特性についても、いずれの炉も負荷変動に対し満足すべき即応性を示しており、作動も安定である。
 このような炉についていままで実際に故障および緊急停止を経験したそれぞれの場合についてきいたところでは、その原因はほとんどいわゆる Conventional parts にかぎられており、それぞれの場合について聞いたところでは建設時からとかく炉の部分にのみ注意が集中され過ぎる傾向があることを示している。
 こまかいながら大切な一次系の洩れは、大小の差こそあれ、完全には免かれ得ぬところで、主としてバルブ付近で起る。
 一次系の水の放射線強度の漸増はAPPR−1をのぞいては案外少なく、とくにEBWRの一次系の水からくる蒸気がたいした放射能をおびず、最高出力での運転中でもタービンの付近に平気で人が近づける程度であった。
 ただし、出力が非常に大きいものでは、水中の酸素からできる16Nの放射能がきいてくることは見逃せない。
 ただし16Nは、7秒の半減期を持っているので、停止後しばらくすれば問題はない。要するに、一次冷却水の純度さえよければBWRといえども、普通の使用状況ではタービンに残る放射能は大したことにはならない。
 ただし、BORAX で経験したように燃料が一度破損すると馬鹿にできない程度に放射能がタービンにまでおよぶことは確かである。このような場合に対する考慮は是非必要である。

8 タービン
 原子炉用タービンについては現在のところ、飽和蒸気が使われている。しかも蒸気条件の悪いものなので一昔前のタービンに近く、したがって材料面等では、とくに難しいことも少なく水滴でたたかれやすいブレードの箇所にはステライトを臘付けする程度である。ただし、放射能がタービン側に行かないようにする意味も加わって、湿分分離器に十分注意をはらう必要があり、その目的で外部分離器を使ったり溝つき羽根やクロスオーバー分離器を使っている。これらの点は、現在日本ではあまり使われていないだけに注意すべきことがでてきている。

 こまかい設計上の問題としては、とくに BWR 用タービンは放射能汚染がひどくならないように、小孔や割れ目ができるだけ少ないように設計すると称している。これとても BORAX−IVや VBWR 等いずれも、中古タービンを使用している。したがって上述の設計上の注意ははらわれてないのであるが、そのために、とくに放射線強度が上って、保守に苦労したということはないようである。もっともこれらの米国の例では発電自体には重要性をおかず、2次的または3次的に考えており、炉の出力とつりあいのとれぬものすらあり、発電経験を重視する日本原子力研究所の場合は異なるものである。

9 船への応用
 原子力商船の問題は、世界各国とも勉強の段階であるといってよい。
 すなわち、現在の計画がただちに、現実の商船を駆逐して、原子力商船の時代に置き換えるという見込はぜんぜんたっていない。時期については発電の場合よりだいぶおそくなる見込みといってよいであろう。
 米国においては、すでに NSサバンナ号の建造に着手し、次にくるものとしてT−5タンカーの計画がある。いずれも米国の prestige としての計画で、原子力商船の経済的優位をただちに予想しているわけではない。
 英国においては、目下論議の最中で、一説には特殊のガス冷却炉がよいといわれている。
 経済性の議論としては、原子力商船が一船商船と対抗するには、
 (イ)長航海 (ロ)高速 (ハ)保守修理が安価に短時間にできること (ニ)資本費の安いこと等の条件が要求される。
 PWRあるいはBWRを利用したときの米国での経済計算によると、三、四の専門家のそれぞれ独自の計算が、燃料費および資本費ともなかなか一般商船に追いつき得ないという結論である。
 この際、一般商船の使用する石炭または重油の価格が比較として問題になるが、日本の場合についても、これら燃料の価格は船の場合には外国なみの場合が多く、国内発電の燃料が外国に対し格段の差があるのときわめて対照的である。
 原子力商船用として、とくに試験すべき問題としては
 (イ)遮蔽 (ロ)ローリング、ピッチングおよびスラミング等による炉の特性および機械的強度への影響 (ハ)衝突、坐礁、その他の対策である。別途航海中、港湾中などでの緊急時予想および対策が問題のようである。
 船の操作上の要求として「急激な負荷変動を行い得るか」については、各メーカーとも PWR あるいはBWRであれば自信がある様子である。
 かくして原子力船への第一歩は、たぶん見込みのあるPWRまたはBWRにより要求どおりの蒸気が得られるかといった発電炉とまったくどうようなものが最初にくることとなる。

10 安全性の問題
 炉の特性の項で述べたように軽水炉には本来の大きな負の温度係数または気泡係数を持っているので、なんらかの理由により炉の出力が増大し温度が上昇すれば自動的に炉の出力がヘリ、この点から本質的な安全性があるといってよいであろう。
 さりとて膨大なエネルギーが比較的小さな容積にたくわえられているだけに万一のことにそなえ、いわゆるコンテーナーを採用するのが通例である。これが各種の写真にみられる印象的な丸屋板の建物である。一定の基準にしたがって設計されたこの種の建物は、緊急の場合、万一炉から放射性のガスあるいは水蒸気が放出されたと仮定しても、自由に外界に放出することなく、予定の圧力以下でこの建物内に適当な期間とじこめるしくみであり、この種の建物は適当な注意により、漏洩を定められた基準値以下にするように十分注意して製作されるはずである。
 日本特有の地震対策については、軽水炉は英国型の炉に比較して各段に小型であるだけに容易に補強され、耐震構造設計という面からは問題が少ないと考える。この点は米国海軍潜水艦用の場合は、はるかに強い振動ないしは加速に耐えることが要求されていると了解される。
 PWRおよびBWR両者に共通に注意すべき点は、炉内の冷却水の放射化の問題である。水の純度が十分よい場合には問題はないが、不純物として混入する金属粉あるいは溶解された不純物が炉内で中性子照射を受けて放射性をおびる。しかも長期連続運転するにしたがってさらにその強度が増大する可能性がある。いわゆる放射線強度の漸増の問題である。
 とくにBWRの場合には、炉内冷却水から蒸発した蒸気がそのままタービン側へくるために運転中のタービン付近はγ線強度が強くなり、保守員が近よりにくい場合も考えられる。
 実際での経験では、いわゆる気水分離器を一度使って蒸気から水を取り去った程度で、すでに十分目的を達した EBWR の場合等、全出力運転中でも、平気にタービンに近よってよい程度である。
  PWRの場合には一度熱が交換器を通るため、冷却水からの蒸気が直接タービンには行かない点安心だともいえるが、実は一次冷却水系が完全にいつでも漏洩皆無というわけには行かない。やはり一次冷却水の放射線強度の漸増は重要な問題である。事実クォート・ベルポアのAPPR−1では、運転開始後1年以上になっても、まだ放射線強度漸増が続き心配されている。もっともこの場合では、たぶん原因は、燃料要素の一部にコバルトの合金が使用されており、コバルトが水中に不純物としてなんらかの形ではいる結果と解釈されている。
 平常運転においては BWR でも PWR でも、水の純度さえ十分であればよいという結論であるが、一度、燃料要素の被覆材に穴でもあいた場合を想定すれば、アイダホの実験でもわかるようにプラント、コンポーネント各部が相当に放射能が強くなり注意を要する。
 BWRでひところ心配された出力振動については、いままでの試験では主として大気圧下の軽水炉で起り、炉内圧力が高い時はほとんど振動がなくなり、さらに燃料が金属系でなく酸化物系のときにはいっそう振動が起らないと報告されている。

11 Critical assembly

 軽水炉の開発においては最初 Subcritical assemblyを用いて各国立研究所が炉物理的な定数を求めた。
 最近は軽水原子炉に対し、米国内外での購買が始められるにつれて、各国立研究所だけでなく、各メーカーも Critical assembly を設けるようになった。
 すなわち開発の順序は、まず Subcritical またはCritical assembly を用いて、炉物理的問題を確認し、ついで動力試験炉を作り、それにより各種の経験をへてのち、大型実用炉の製作にかかるというのである。
 われわれの訪問したメーカーではすべてこの Critical assembly を設け勉強していた。
 Critical assembly においては、目的とする炉の実際の燃料棒を使うか、あるいはそれに近い基準となるべき濃縮度と構造を持った燃料棒を使う。出力はだいたい1/100Wから100Wまでである。温度効果を見るために約30kVAの電熱器を付加しているものもある。圧力は大気圧で試験をしている。結論として、動力試験炉の開発と将来同種の炉の開発のためには、Critical assembly を設けて基本的実験をすることが必要である。

12 Cost down の努力
 上述のごとく、米国型動力炉としての議論を PWR および BWR の二種類の原子炉に限定すれば、現在この両者ともすでに信頼性のある安全な炉として完成されており、米国において三、四の純民間資本による発電所建設計画が進行中である。しかし、これらにはそれ相応の予期する目的があるので、そのまま日本にもってきたのでは、実用発電炉としてはたして建設直後から経済性の優位を期待できるかどうかは疑問である。
 要するに海軍用として完成した動力炉を発電用の目的で経済的になるようにするために、さらにいっそうの努力を必要としていると思われる。いな改善の余地が数多く見えているのである。
 その実際的問題としては三種類の方向への努力が要求されるであろう。
1.さらに高能率を得るための設計
2.燃料関係の改善ひいては蒸気条件の改善
3.建設費低下への努力

1.改良設計については
中性子束分布の平均化、出力の平均化、冷却効力の一様化、熱除去の能率化、各種のいわゆるOptimization の努力とさらに PWR と BWR とが相互に近よりつつあるとき、いかなるあたりが最高能率を示すかという問題が重要である。

2.燃料関係としては
(1)燃料自体の加工費の低減
(2)再処理費の低減
(3)燃焼率の増加
(4)いわゆる燃料サイクルとしての改善
(5)燃料自体の仕様の改善、使用温度の上昇、変形、故障等の絶滅
(6)燃料使用法の改善
等主として材料の改善と加工処理法の改善にたよるものである。しかしこれが完成のあかつきには、まず動力試験炉において実際的試験が要求されることであろう。
 これに付随して、出口温度の上昇あるいは蒸気条件の改善による発電熱効率の上昇となり、場合によってはいわゆる Nuclear super−heater を作って、なおいっそうの能率化が期待される。

3.建設費の低廉化では
(1)なるべく標準規格の部品を使用して、漸次マスプロに近づけること。
(2)建設費低下を目指して設計を再検討する。
(3)特殊建設用機器を導入する。
等のことが考えられる。

13 結輪
 以上述べたところを要約すれば、軽水炉は、PWR、BWRともに安定に作動して、比出力を増大しており、きわめて優秀な特性を示している。運転保守についてもとくに苦労していることはない。さらに、軽水炉は本質的な安全性を有しており、放射線強度の問題も予期以上に少ないようであるが、万一にそなえ設けられるコンテーナーなどの設計建設にはとくに注意をはらい、安全性を十二分なものとすべきである。
 動力試験炉の計装については、あまり多くを要求すべきではなく、炉物理的な基本問題は別に Critical assembly により研究すべきであり、原子力商船の開発についても特有の問題もあるが、初期の段階においては、発電炉の問題と類似のものが多い。以上のように米国の軽水炉は海軍艦船用として一応完成していると考えられるので、今後さらに燃料の問題等を改善し経済性を高めることに成功すれば、大型発電炉も、それほど遠くない将来に実用の域に到達するものと思われる。
 したがって現在の時点において、わが国が、この型の炉の導入の第一歩に着手することは十分意義のあることであり、今回導入される日本原子力研究所の動力試験炉は、たんに原子力発電の実地経験を得るにとどまらず、技術的な面から今後の改良点につき日本としても十分な理解と判断力を持ち、さらに一歩進んでこれらの改善研究試験を行うためにも有用な道具として使われるものと期待される。
 このようにして、本調査員一同の意見としては、今回導入される動力試験炉の型式は上述のような状況であり、漸次両者が近づきつつある実情が認められているので、PWR型であろうとBWR型であろうと、ほとんど同様に有効なものであると考えられる。したがって動力試験炉としての選択にはPWR型かBWR型かの決定は、たいして重要性を持っていないと結論されるのである。

衆議院科学技術振興対策特別委員会委員(33.7.4現在)

参議院商工委員会委員(33.7.4 現在)