日米・日英原子力一般協定の解説

そのおもな内容と問題点


 さる6月16日調印された日米・日英原子力一般協定は、本誌においても前月号(Vol.3, No.6,4ページ)においてその全文(日米協定にあっては交換公文および覚書を含む。)を紹介したが、本号においてはその主要な点の解説をかかげることとした。前号参照のうえお読みいただきたい。

 日米原子力一般協定は前文、本文12カ条、交換公文および覚書から成り、日英原子力一般協定は本文11カ条から成っている。両協定の有効期間はいずれも10年である。両協定の内容は実質的には大きな差異はなく、おもな点を説明すれば次のとおりである。

1.協力の範囲
 両当事国政府は、原子力の平和利用を促進するために、情報、資材等の交換その他種々の方法で協力することが規定されている。
 まず日米協定では

(1)研究用、試験動力用、実験動力用及び動力用の原子炉の開発、利用、その保健上及び安全上の問題や、各分野におけるアイソトープの利用などに関する情報の交換を行うこと(第3条)。

(2)研究用として必要なU−235、プルトニウム、天然ウラン、重水等の重要資材が商業ベーシスで入手できないときは、政府ベーシスで交換されること(第5条A項)。

(3)研究用以上に多量の天然ウラン、重水等(たとえば発電炉用の重水)が商業ベーシスで入手できないときも、政府ベーシスで提供され得ること(第8条)。

(4)研究用施設を相互の利用に供すること(第5条B項)。

などが規定されている。
 次に日英協定では、第1条に協力の範囲及び方法が列記されており、

(1)情報の交換を行うこと((a)、(b)項)。

(2)英国原子力公社が日本への原子炉の入手((c)項)や、その運転のための燃料の入手((d)項)、使用済燃料の再処理((e)項)及び日本における燃料の製造や再処理の施設の建設について援助すること((f)項)。

(3)英国原子力公社が日本の学生や技術者の訓練のための施設の利用を援助すること((h)項)。などが規定されている。また情報交換の場合の条件、たとえば商業的価値ある情報の交換は商業ベーシスによることなどが第2条に定められている。

 なお、いずれの協定においても、秘密資料の交換や、それを伴う資材等の提供は行われないこととなっている(日米協定第2条B項、日英協定第1条(a)、(b)項、第2条(1)項)。これはこれらの協定がその標題のとおり両国の軍事目的とは全く無関係であるからである。

2.燃料の入手
 米国原子力委員会または英国原子力公社は、日本に建設される原子炉の運転のために必要な燃料を供する。現実には、主として米国からは濃縮ウラン、英国からは天然ウランの燃料が提供されることとなるわけであるが、まず、日米協定では、協定の有効期間中に日本に燃料として提供される濃縮ウランの限度量が明記されている。この濃縮ウランの量は含有されるU−235で計算して2,700kgであるが、使用後米国政府に返還されたり米国政府の承認を得て第三国または国際機関に移転された濃縮ウラン中の量はこの枠から外される(第7条A項)。この2,700kgは、米国がさきに西独、フランス、イタリア等の諸国と締結した原子力一般協定の場合等にならって定められたもので、研究用原子炉及び実験動力用原子炉に必要なものとして800kgのほかに、動力用1基分として1,900kgを見込んだものである。ただしわが国は協定の有効期間中に必ずこれだけの量を購入または賃借しなければならないという義務はなく、また逆にわが国の原子力開発が現在の予想以上に進展した場合には増量することももちろん可能である。この濃縮ウランは協定本文の規定上は米国原子力委員会が日本政府に「売却又は賃貸」することとなっているが(第7条A項)、現在の米国の政策のもとでは動力炉用の濃縮ウランは「売却のみ」が可能であることが交換公文第2項にうたわれている。なお、提供される濃縮ウランは普通20%までの濃縮であるが(第7条A項)、一部は材料試験用原子炉用として90%までの高濃縮として提供を受けることができる(第7条C項)。
 これに対し日英協定では、協定に従って日本が英国から入手した原子炉の運転に必要な燃料の供給を保証する(第3条(1)(a)項)ほか、他の原子炉(たとえば国産炉)用の燃料も個々に合意される限度で供給される(第3条(1)(b)項)と規定されているのみで、数量は明記されていない。
 これらの燃料供給の条件としては、両協定とも全同様の規定があり、

(1)使用済燃料の再処理は米国原子力委員会や英国原子力公社が承認する施設で行われねばならないこと(日米協定第7条E項、日英協定第3条(2)(c)項)。

(2)上記の施設に引き渡すまでは、特別の場合を除き、使用済燃料の形状及び内容を変更してはならないこと(日米協定第7条E項、日英協定第3条(2)(d)項)。が定められている。なお、日米協定では購入した濃縮ウランは米国での民間所有が認められる時までは、日本政府がその所有権を保持すべきことが要求されているが(第7条D項)、日英協定にはこのような規定はない。

 またいわゆる免責条項も燃料の供給に関する条件の一つと考えることができよう。免責条項とは、協定により提供された燃料の生産、加工、所有、占有等原因のいかんを問わないすべての責任(日英協定の場合は第三者に対する責任のみ)について、燃料の引渡後は、日本政府が米国政府又は英国政府若しくは英国公社に対しその責任を免れさせ、かつ損害を与えないようにするという規定で、日米協定では第7条H項に、日英協定では第8条(2)項に規定されている。

3.副産物の処分
 協定に従って提供された物質や設備の使用から生ずるプルトニウムその他の副産物の処分に関して両協定とも規定が設けられている。まず、これらの副産物はわが国における平和的目的に使用することができる(日米協定第7条F項、日英協定第6条本文、(a)項)。もし日本の利用計画による需要をこえる余剰分が生じた場合には、日英協定によれば、まず英国公社が指定する貯蔵所に寄託し(第6条(c)(i)項)、次に日本側がその処分を希望するときは公社にその購入優先権が認められ(第6条(c)(ii)項)、さらに英国政府の了解を得て他の国又は国際機関に移転することができる(第6条(c)(iii)項)。日米協定によれば、提供された物質を「燃料」とする原子炉で生産されたものについては、まず米国政府の購入優先権が認められ、次に第三国または国際機関に移転することができることとなっているが、(第7条F項)たとえば米国から入手した重水を国産燃料で運転する炉に使用した場合はこの規定の適用はない。
 以上により米国や英国に買い戻された副産物(プルトニウム等)は、米国や英国でも平和目的にのみ使用されることが明らかにされている(日米協定覚書、日英協定第6条(c)(ii)項)。

4.保障措置および国際原子力機関との関係
 「保障措置」とは、協定によって提供された物質や設備が軍事目的に転用されていないかどうかを確めるために、それらの物質等が使用される施設の設計を審査したり、その使用または貯蔵されている場所に査察員を派遣して計測を行ったり、その操作記録の保持、提出を要求することである。日米協定においては米国政府が、日英協定においては英国政府がこの保障措置を実施する権利を有する旨が規定されている(日米協定第9条、日英協定第5条)。この保障措置の対象となる物質等の範囲については、協定により提供された物質や設備のみならず、これらの物質や設備の使用により生じたプルトニウムその他の副産物に関しても適用されることとなっている。すなわち、日米協定によれば、協定により提供された原料物質、特殊核物質その他の物質や原子炉その他の設備、装置のいずれかにおいて使用され、それから回収され、又はその使用の結果生産される原料物質又は特殊核物質に関して適用される(第9条B2項)。
 いっぽう日英協定によれば、回収され若しくは副産物として生産された特殊核分裂性物質(第5条(a)(i)項)や核分裂性物質(第5条(a)(ii)項)に適用される旨が規定されているが、これらの物質について定義が設けられており(第10条)、協定に従って供給された燃料その他の資材又は設備の使用から一又は二以上の処理により生ずる原料物質や特殊核物質をいうこととなっている。このように両協定の表現は異なるが、実体的には全く同一で、要するに協定により提供された物質、設備等の使用により生じた副産物について幾代にもわたって保障措置が適用されるという趣旨である。この点は協定交渉の過程において最も問題となったところであり、わが国としてはその範囲を極力狭くすることを希望した。ところが、国際原子力機関憲章第12条にも、機関が物質、設備等を加盟国に提供した場合や、加盟国の要請があった場合には、機関が設計審査や査察等の保障措置を実施することが規定されている。その対象となる物質の範囲は、日英協定第5条の規定と同様の字句が使用されており、表現上必ずしも明確ではないが、幾代もの副産物に及ぶというのが現在における解釈であるとされた。そこでわが国としても国際通念に従うことはやむを得ないとしてこれを受諾したわけである。なお、この保障措置は平和利用の確保を図るためにのみ行われるもので、査察等によって知り得た産業上の情報等をみだりに漏洩してはならないことが明示されている(日米協定交換公文第4項、日英協定第5条(a)(i)、(ii)項)。

 前述のように国際原子力機関においても保障措置を実施し得ることが同憲章に規定されているが、日米、日英両協定とも、協定による保障措置を将来国際原子力機関によって実施してもらうため、両国政府が協議を行う旨が規定されている(日米協定第11条(a)項、日英協定第4条)。これはわが国にとってきわめて重要な規定である。わが国としては米国や英国という特定国の保障措置を受けるよりも国際機関によって実施してもらうほうが好ましいことはいうまでもない。国際原子力機関は発足後日も浅く、現在のところ保障措置を実施できる体制が十分整備されていないが、わが国において発電用原子炉が運転を開始する数年後には機関の準備も進んでいるであろうから、協定による保障措置が実際にはほとんど機関によって実施されるようになることが期待される。

5.そ の 他
 その他協定中には、協定により提供された物質等をみだりに国外に移転しないこと等に対する日本政府の約束(日米協定第12条、日英協定第10条)、協定に使用される字句の定義(日米協定第12条、日英協定第10条)や協定の廃棄に関する事項(日米協定第9条B5項、第11条(b)項、日英協定第11条(2)、(3)項) が規定されている。また協定の適用に関する問題について両国政府は随時協議を行うこととなっている(日米協定交換公文第7項、日英協定第9条)。