原子力委員会参与会

第4回

〔日時〕昭和33年4月15日(火)14時〜17時

〔場所〕東京都千代田区永田町2の1総理官邸

〔出席者〕
  稲生、井上、大屋、岡野、高橋、中泉、倉田、山県、松根、
  伏見、駒形、三島、瀬藤各参与
  正力委員長、石川、兼重、菊池各委員
  吉田政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、法貴局次長、
  島村政策、藤波管理、堀助成各課長ほか担当官

〔議題〕

1. 核燃料物質の所有方式について
2. 対米英原子力協定について
3. 原子炉安全審査専門部会および重水専門部会について
4. 昭和33年度原子力開発利用基本計画について
5. その他

〔配布資料〕

1. 核燃料物質の所有方式について
2. 原子炉安全専門部会の改組について
3. 原子炉安全審査専門部会の設置について
4. 原子炉安全審査専門部会構成
5. 重水専門部会設置について
6. 核融合専門部会
7. 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律
8. 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部改正に関する法律案参照条文
9. 第3回参与会議事録

専門部会について

佐々木局長から原子炉安全審査、重水、核融合の各専門部会を設置するという委員会決定を資料により説明した。

石川委員;原子炉安全審査専門部会はメーカーからも専門家を入れて、具体的な原子炉の安全性について十分審議を行う。先日、京都大学の岡田教授にお会いしたが、「関西研究用原子炉の設置問題は場所よりも炉の問題の解決がさきだ。普通のswimming pool なら問題はないが、各大学からの注文で研究装置をたくさんつけたので、安全性を慎重に考慮せねばならぬ実情である。教授会で注文がでてもそれを全部きかないで適当に採択し、炉自身の問題をさきに片づけてほしい。」といっておいた。

規制法の改正について

佐々木局長;ウラン等原子炉の燃料になる物質は原子炉等規制法によってその製錬、加工および使用を規制されることとなった。ところが従来からある業者はウランを少量使用していたので、引き続いて使用が許されるよう内閣総理大臣に許可を申請してきた。ところがそのような使用は原子力の平和利用ではないので許可の規準に入っておらず許可のしようがない。取扱いに困っていたが、もともと少量を使用するものであり、種類を限定していけば使用の許可を要しないこととしても支障がおきないであろうという結論に達した。そこで規制法を改正し、特定の種類の核燃料物質を微量に使用する場合については規制法の許可を要しないことにしたらよいと考えている。お配りした資料に改正案が印刷してあるが、この案はきょう閣議を通過するはずである。国会の会期も残り少ないので特別国会に上程されることと思われる。

昭和33年度基本計画について

 佐々木局長;昭和33年度原子力開発利用基本計画は前回の参与会の席上案をお配りして御検討をお願いしていた。各方面からの御意見も参考にして案を改正したのがきょうお配りした資料である。原子力委員会にはまだかけていないので御意見があればおっしゃっていただきたい。(田宮担当官から主要な改正の箇所について説明。)

 石川委員;ABCCの仕事に積極的に協力せよというお話しが中泉先生からあったが、今年度は予算の関係でむずかしい。今後はお考えをとり入れていこうと考えている。

対米英原子力協定および核燃料の所有方式について

 佐々木局長;日米原子力一般協定は日本側の最終的要求も通り、ほぼ仮調印の段階にまできていたが、最後に日本が供給をうける濃縮ウランの量に関して問題が起きた。日本からは10年間に7トンを供給するように要求した。しかし米国と協定を結んだ諸外国における実例をみると、イタリアは20年間に7トン、ドイツは10年間に2.5トンという程度であるから、日本の要求をそのまま認めると米国の国会で濃縮ウランの量が問題になる可能性がある。そこでAECから日本で所要する濃縮ウランの量についていっそう詳しい資料をほしいといってきた。試験炉、研究炉の燃料についてはすでに提出したものでよいが、特に発電炉、舶用動力炉に関する資料がほしいといってきた。ところが、われわれのほうにも長期計画で考えた程度の見通ししかないので、発電炉の型式とか使用する燃料の詳細な計画をいまきめられない。また、政府がきめる性質のものか電力会社が考えて政府に認可を要求するものかという問題もあるので急にきめるわけにいかない。そこで濃縮ウランの要求量を減らし、需要の比較的に確定したものだけにしてAECに提出した。あとはAECが認めれば対米協定は片づくこととなる。日英動力協定はまだ免責条項が残っている。日本側としては英国から購入した燃料の安全性をどうやって立証するかという点と、第三者補償に関連して日本政府が賠償責任を持つならば核燃料の所有方式をどうするかということが問題であった。核燃料の所有方式を考えるため、自民党の科学技術特別委員会の皆さんと産業会議の首脳部と原電の安川さん、さらに原子力委員が集まり、先週のはじめに会議を開いた。結局、国民の考えを代表するものとして国会議員にまかせてほしいということになり、核燃料物質は当分は民間に所有を認めないこととし、同時に日英動力協定もすみやかに妥結にもっていきたいという方針を閣議決定しようということになり今朝の閣議にかけた。閣議の模様については大臣からあとでお話ししていただけると思う。自民党は今日12時に総務会を開き、核燃料物質は当分の間国有とすることおよび米、英との原子力協定を早急に締結することを党の方針として決定した。

 岡野参与;外国との原子力協定を国会に提出したが、国会の承認を得る前に会期がきれたときには次の国会に自然に上程されるものとなるのか。

 佐々木局長;その場合には、次の国会に再提出せねばならない。

 石川委員;今朝の閣議では大蔵省の反対によって核燃料の所有方式に関し結論をだすに至らなかった。

 瀬藤参与;大蔵省が反対するのは金のことだろうが、民間の資金を供託して核燃料を購入し、購入した核燃料の所有のみは国にさせるというような方法はとれないものか。

 佐々木局長;大蔵省が反対しているのは次の2点である。

(1)わが国で原子力発電の開発を促進するにはなんらかの形により国家が第三者損害賠償を行わねばならなくなると考えられるが、これに関連して、核燃料は国家が所有するときめておけば、国が補償する場合に筋が通りやすいという立論がなされてきた。しかし、核燃料の使用を規制する手段としてはすでに規制法があり、規制法によって今後もやっていけるから、こと新しく核燃料の所有権を問題にしなくてもよい。核燃料を国が持つことは第三者への国家補償に対する説明としてはすこしはよいが、それでなくてはというほどの必要性を持っていない。

(2)核燃料を国家が所有するものとして誰がどんな形でやるのか、特別会計をつくるのか民間の資金を集めるのかという具体的な方法がはっきりしない。資金を要するのはまださきのことであるとしても、ある程度の見通しをたてないと核燃料の国家所有についての是非は判断できない。

 以上の2点を大蔵省は問題にしている。前の問題点については、大蔵省が問題にする理由はわかるが、それぞれ長短のあることなので、国有にするのがよいかわるいか結論のだせるものではなく、結局ふみきるかどうかの問題である。後の問題はもうすこしまってきめたいと思う。資金は5年さきにいるのだからいまからこまかくきめなくてもよいし、はっきりきめようとするほど難かしい問題になる。そうかといって核燃料の所有形態をそれまできめないでおくというのでは困る。目下のところ、大蔵省の意見と党の意見とが対立した形となっており、閣議によってきまるのを待たねばならない。

 大屋参与;米国から日本が供給をうけようとする濃縮ウラン7トンについて問題がおきている。これは日本の計画が不備でAECが議会での説明に困るから問題となったもので、今度簡単な説明をAECにだすということが新聞に書いてあった。これはわたしの憶測にすぎないが、アメリカが軍事に使用しようとするPuの量が少なくなることを気にしているのではないか。

 佐々木局長;Puのことはあまり問題でないと思う。なぜならば、日本からアメリカが返還をうけたPuは軍事に使わないということを、本文にはいれないが交換公文には明文化することをアメリカが承諾している。
 ドイツ、イタリアがアメリカと協定を結ぶにあたっても、最初大きな計画でもっていったが、固まっていないものは落して確実な量で協定を締結している。日本だけの失態というほどの事がらではないと思う。日本が要求した濃縮ウランの量7トンは固まったものでないから、あらためて確実に必要と思われる量に縮小して要求を提出した。

 大屋参与;さしつかえのない範囲でこんど要求なさった濃縮ウランの量を教えていただきたい。

 石川委員;原電が2基目に入れると予想される濃縮ウラン型の発電炉まで考えた。これはPWRかBWR型で、出力150MWとして所要燃料は濃縮ウラン1.9トンとなる。このほか試験用動力炉申よび研究炉用の800kgを加えて2.7トンを要求した。外務省の松井課長からもお話しを聞きたい。

 松井外務省国際協力局第三課長;AECは研究用の濃縮ウラン800kgは問題なくやろうという。そのほかに動力炉1基分の2トン程度ならばさしつかえないといってきた。したがって今度こちらの要求した2.7トンならば問題なくまとまると思う。アメリカは日米一般協定がアメリカからおしつけた形ではなく日本の意向が反映した形で締結されるように気を配っている。日米協定では日本がアメリカと相談してつくる原子炉についてその所要燃料をアメリカが供給するというもので、20%濃縮ウランの供給量をきめておき、そのわく内で個々の細目取極めを行い、引渡しの時期、賃貸料、検査時期等具体的な事がらをきめることとなる。

 伏見参与;原子力研究所に設置予定の濃縮ウラン型試験年動力炉はどういう設置目的を考えているか。

 駒形参与;研究用原子炉と今後日本でも建設される実用動力炉とでは技術的にも違う面が多いので、試験用動力炉によって温度の高い炉を取り扱う技術の研究を行う考えである。

 伏見参与;動力炉をつくることだけでなく動かすことも研究するのですか。

 駒形参与;建設したのちには運転する時期があるのだから原研は両方を考えていく。

 伏見参与;あまり目標が大きすぎてねらいが定まらないようなことはないか。

 駒形参与;その点は十分注意していく。また、一つに目的をしぼることもできない。実際に研究をする場合にはいろいろ欲張りたくなろうが、ある程度でがまんせねばならぬこともあると思う。

(正力委員長出席)

核燃料の所有方式について

 正力委員長;核燃料の所有方式の問題については、燃料を国有にすれば炉も国有になるおそれがあるといって民間から反対の声が強かった。それに対してはわたしからそんなことはないといい、また今後大臣が代ってもそんなことはないと信ずる。民間から大屋さん、松根さん、橋本さんを招き国会議員と話した結果、とりあえず核燃料は国有とし、諸般の情勢が整備すれば民営にするということに考えが一致した。きょうの閣議で決定にもちこもうとしたが、大蔵省では損害のあったときに国家の損失が大きくなるということで国有に反対を主張してているので閣議で決定するに至らず、さらに意見を調整してはどうかという発言が官房長官からなされた。自民党としてはわたしどもの主張する国有論に全面的に賛成しているので、いずれは核燃料は当分国有にすることにおちつくと思う。

 大屋参与;国有の論に対してはわたしは反対の張本人のようになっているが、四囲の情勢からいって財界が我意ばかり通すことは不都合である。わたしどもとしてはこの際暫定的に賛成して、安川さんの仕事がうまくレールにのるようにしたいと考えている。大臣のお話を聞いて安心したが、次の大臣さらに次の大臣にもお考えの趣旨を伝えていってほしい。

参与の任命について

石川委員;参与のうち14名の方は3月26日に参与の任期が満了した。そのうち児玉さんを除いて参与に再任していただくことになり昨日発令した。参与の欠員が2名となったので新たに井上さんと湯川さんにお願いすることとなった。