原子力委員会参与会

第3回


日時 昭和33年3月20日(木)午後2時〜5時

場所 東京都千代田区丸の内3の14 東京会館

出席者

稲生、大屋、倉田(代)、久留島、児玉、駒形、瀬藤、高橋、田中、中泉、
伏見、三島、宮崎、安川各参与
正力委員長、石川、兼重、菊池各委員
吉田政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、法貴局次長、島村政策課長、
井上調査官、荒木調査課長、藤波管理課長

議題

1.訪英調査団帰国報告
2.昭和33年度原子力開発利用基本計画(案)について
3.その他

配布資料

1.昭和33年度原子力開発利用基本計画(案)
2.第2回参与会議事録

訪英調査団の調査結果

 石川委員:日本原子力発電(株)から訪英調査団が本年1月に派遣され、コールダーホール改良型発電炉の調査という大任を果してこのほど帰国した。調査の結果を団長として渡英された安川参与からお開きしたい。

 安川参与:コールダーホール改良型発電炉の地震対策と安全性の検討を眼目として、22名の団員をつれていった。うち6名は武藤教授を班長とする地震班である。英国には発電用原子炉の建設を引き受けるグループが五つあるが、そのうち二つは日本と折衝する意思がなく、AElとJohn Thompsonのグループ、English Electric と Babcock & Wilcox のグループならびにGeneral Electric を中心としたグループの三つを相手にして討論した。日本から持っていった関東大震災のフイルムも見せて地震の状況を認識させ、日本での地震対策の研究成果をも伝えたところ、積極的にこちらの注文を聞いて設計にとり入れるという態度を見せてきた。その結果地震対策としては、武藤教授以下の地震班が満足するような結論が得られた。地震の問題も含めた一般の安全度についても討論した。現在の英国の原子炉でも安全度を軽視した設備をしているのではないが、さらに装置を加え、万一の場合はシャットダウンが確実にできるようにし、以後は原子炉が使えなくなってもまわりの民衆に迷惑がかからぬように考えている。
 以上のように安全度も見きわめがついたので、その他の条件も入れた full specification の作製にとりかかり、まとまった結果を3グループに渡して帰国した。その specification にもとづいたtender が3グループから7月末までに提出されることになっている。

 伏見参与:Windscale 原子炉で起ったような事故に対しては、机上では対策がたてられるだろうが、実際の設計において日本の考えを入れられるのか。

 安川参与:地震の問題については武藤さんでないと専門的な知識はないが交捗の結果こちらの意見が向うによく反映され、耐震構造に地霞班の意見が相当はいることとなった。一般安全度も emergency shut downの考えは日本から持ちだしたことで、tender に反映されることと思う。
 Windscale 原子炉とは性格が違うので同一に危険視するのはおかしいが、地震にあって duct が破れると大さな災害の起る可能性がある。この対策に万全を期し、地震班の満足する結果をえた。
 日本側の注文をどの程度に入れた tender が来るかはその時にならねばわからない。また、提出されたtender だけでわからなけれぱさらに詳細な設計を要求する。tender が来てから2〜3ヵ月のうちに発注すればよいので、その間に皆様の御意見を聞きたい。
 Tender というのは見積書であって、設計図面やそれにもとづく建設費を含んでいるはずである。

 伏見参与:Tender を出させるには手数料が必要か。

 安川参与:その必要はない。

 田中参与:スペックは耐震構造のみについて出したのか。

 安川参与:全部について出した。こちらで出したスペックについて AEA はもっとおおざっぱなものでよいのではないかといっていたが、できるだけ注文をつけるという意味で細かいものを出した。

 三島参与:燃料の天然ウランは炉の購入が決定してから手配するのか。

 安川参与:燃料と炉はいっしょのものであるから、燃料についてもだいたいの見当をつけておきたいという方針で相当つっこんで討論した。原電の福田常務から御報告申しあげる。

 福田原電常務:燃料について AEA と何度も話しあった。AEA はわれわれが燃料の供給を確保したいというのに対して十分責任をもって供給しようといっている。英国から今度導入する炉に関するかぎり、新しい進歩した燃料要素ができればそれも供給しよう、また日本で燃料を国産するのにも協力しようといっている。照射済燃料は英国に送り返すことを原則としているが、国際原子力機関に再処理を委託してもよいし日本にやらせてもよいといっている。
 AEAの proposal によれば燃料の契約は次の3段階にわけてやろうといっている。

(1)英国のメーカーから炉を購入することにつき、letter of intent にサインする場合。(7月に tender がでて2〜3ヵ月のうちに検討して letter of intent にサインする。)

(2)炉の購入契約を正式にむすんだ時期。これはletter of intent にサインし、メーカーがきまって設計上の事項もきまり、最終的に契約が完了する時期である。

(3)燃料を必要とする時期の1年前。このときには燃料の価格や年間の供給量等具体的な事がらをきめようという。
 われわれも以上のような AEA の考え方でよいと思っている。
 燃料の契約期間は10年で、その後に延長してもよいといっている。当初の燃料所要量は、150MW あたり250トンで、それに1割の予備を加えたものを初めに供給し、そのほか年間の取替量を供給しようといっている。
 燃料の入手が必要なのはまだ3年後で、現在は炉の購入も正式にきまっていない状況であるが、燃料の価格は当分2万ポンド以下でということを聞いている。燃料を必要とする前年にはっきりした値段で契約することになっている。
 燃料の燃焼度は3,000MWDだということであるがその保証方法に問題が残っている。燃焼度が3,000MWDに達しないときにも燃料の欠陥による場合と運転のあやまりによる場合等が考えられる。そのときの保証の仕方が問題なので、tender がでてきたら交渉した上で取りきめねばならない。
 使用済燃料は3,000MWD燃えたものは最低5,000ポンドで引きとるといっている。

 伏見参与:ウィグナーリリースはどのくらいの間隔でやるか。

 福田常務:購入する発電炉は炉内の温度が高く、最高410℃ぐらいである。したがってウィグナー効果の程度も低く、あるメーカーはウィグナーリリースはまず不必要だというし、他のメーカーは5〜6年に1度といっている。いずれにせよ炉の構造と関係があり、設計が決定せねばきまらない。

参与の改任

 佐々木局長:現在参与をお願いしている25名の方のうち、古くから参与をお願いしている14名の方については、参与の任期が3月26日までとなっている。その後も再任をお願いしたい。ただし児玉参与は京大教授をおやめになったことからかねがね誰かと代りたいこということであったので、こんど任期がきれるところで代っていただくことになる。参与から委員になってもらった菊池先生と児玉先生の後任として、湯川先生に参与になっていただくことの御内諾を得た。あと1名は人選中である。

 児玉参与:昨年8月に京大をやめ会社にはいった。仕事のこともあり、京大に迷惑をかけてもという気持から辞意を表明してきたが、これで参与をやめさせていただきたい。

昭和33年度基本計画

 佐々木局長:お手もとに33年度基本計画(案)をお渡してある。これは予算できまったことをもととして33年度中にやることを具体的にならべたもので、原子力基本法にもとづいて毎年度つくることとなっている。まだ原子力委員会にははかっていないが、参与会でまず検討していただくほうが本筋と思う。

 石川委員:来月中旬には総理のもとに提出せねばならぬので、今月中ぐらいに御意見を承りたい。

 佐々木局長:33年度基本計画の骨子をお話しする。
 まず、放射線障害防止に万全を期し、原子力の実用化を促進するという見地から放射線障害防止の技術的基準を確立し、原子力賠償責任保険および第三者損害補償を含めた一連の制度を確立する。
 核燃料の管理方式は大屋参与からも御注文がでており、いろいろな角度から検討して決定したい。
 さらに、原子力委員会の専門部会を充実して原子力政策の実施にいっそう遺憾なきを期そうと考えている。すなわち、原子炉そのものの安全性と原子炉の設置計画全般からみた安全性とを区別して考えるという見地から既存の原子炉安全部会を二つにわけて、原子炉安全部会および安全基準部会とする。原子力船専門部会も継続する。放射能調査専門部会は fall out の調査に力をそそぐが対象とする分野が法律上確定していないのでこの点をまず中心として審議する。燃料加工部会は従来の原子燃料部会を改組したもので、製錬のほか加工の部面をも研究し、燃料要素の検査技術の確立を目標の一つとしている。以上は継続または改組する専門部会である。このほか次の部会を新設する。核融合、燃料経済、災害補償の各専門部会で、それぞれの問題を検討する。重水の製造法が進歩してきたので新しい視野から重水の製造を検討することとなり、重水専門部会を設ける。増殖炉専門部会でほ増殖炉のほかに将来性の考えられる原子炉型式について問題点をとりあげる。金属材料専門部会では金属材料の国産化の問題を検討する。以上は専門部会の名称等もいまだ案の段階であるが、これらの専門部会には委員がそれぞれ参画し、参与の方にも担当していただくこととなる。

 駒形参与:専門部会を充実する御趣旨は結構であるが、それぞれの問題に関する全般的な方針、計画、authorization 等をとりあげるべきで具体的な調査はそれぞれ担当するところでやるようにほっきり区別してほしい。

 兼重委員:今のお話しはわたしどもも心得ているつもりである。たとえば金属材料の部会では金属材料の国産化に関し研究分野をどこに任せるかというようなことを検討するのであって、このような趣旨を一般に考えている。いままでは専門部会においてごくこみいった問題を検討していただき、長期の計画などに関する御意見を聞くことが少なかったので、その点今後は不十分なことのないように考えている。

(正力委員長出席)
 正力委員長:参与の方々に御留任をお頼みしたそうでよろしくお願いする。原子力委員会は、目下米英両国との動力協定締結の問題を検討中である。対米動力協定の交渉はほぼ妥結に近づいた。英国との動力協定も安川参与が行ってこられ、原子炉の安全性も安心できる程度とわかったので、これも今国会に上提したい。対米、対英協定の締結によって原子力の問題は一歩前進することとなる。核燃料を国有にするかしないかの問題もこの次の原子力委員会で決定したいと思っている。

 宮崎参与:基本計画(案)の3頁において「カナダをはじめ諸外国」となっているが、これは具体的に国名を書く必要があるのか。

 島村政策課長:国会では限定された国ではなくどこの国とでも多角的に協定を結んでいきたいという考えがなされている。

 宮崎参与:できれば「必要ある諸外国」といれてほしい。

 中泉参与:安全性の問題が重視されてきてたいへん喜ばしいが、もの足りない点が一つある。日本は原爆の被爆者のいる国として世界でただ一つの国である。被爆によって起った障害は原子力の平和利用にともなって起るのと同じ性質のものと考えられるが、日本はその被爆者に対してたいした研究をやっていない。貴重な研究資料をもっているのであるから、それを無にせぬように政府の力により研究を進めるべきである。被爆後12年を経過しているが、後発症状の問題もあり、被爆したために起る異常でなく被爆しなくても人間の成長に応じて起る変化が被爆によってどう影響されるかも重要な研究課題である。動物が放射能を多くうけると老化現象が促進されて早く年をとる。人間でもこれが現われてくると考えられる。重要な問題がたくさん残っているから、日本においても国家の力でABCC と同程度の研究ができるようにしてほしい。

 正力委員長:まことにごもっともである。

 伏見参与:学術会議で原子炉やその他の施設の安全性がおもに問題とされているので、その立場から意見を二、三申しあげる。
 今度の基本計画では安全性を研究する二つの部会をつくられるそうであるが、同じようなことを希望していた。いままで原子力委員会で安全問題をどう取り扱ってきたのかを知らないので経過を御報告願いたい。動力炉が導入されてくると hazard report の審査が必要となるので、審査が十分にできるように原子力委員会で考えていってほしい。また保健物理学者のような医学者を養成しておきたいという声があるので、これについてもお考えを聞きたい。

 佐々木局長:保健物理学者の養成は放射線医学総合研究所との関連において適当な策を講じたい。

 大屋参与:原子炉の設置が認可されても地元の反対によって建設できない場合が考えられる。公平に考えてある基準にかなう建設計画であるならば、地元の反対ばかりを聞いていられないと思うが。

 佐々木局長:地元の賛成ということも重要な立地条件として考え、多方面の観点から原子炉の設置を許可したい。まず地元の了解がついてから問題をすすめたい。

 大屋参与:水火力の発電設備の建設は認可されることを前提としてさきに地元との交渉を行っている。原子力の場合は常識にはずれた反対も考えられる。その際に主務官庁の認可を得ているということで問題が有利になることもあろう。原子炉設置の許可を得たから何が何でもたちのけというのではないが、原子力には特殊事情があるので考えてほしい。三島参与:補助金の交付をうけた民間の企業や国立研究機関がいろいろなテーマの研究をしているが、研究発表のほかに、実際に工場におもむいて質疑応答する機会をもてば有意義な勉強ができると思われるので、これを専門部会の仕事としてやってほしい。

 石川委員:わたしも同じ考えをもっているので、できるだけ御趣旨にそうようにする。

 田中参与:Fall out の問題はだんだん重要となってきた。33年度予算においては放射能調査に要する経費として3,600万円が支出されることになっているが、この程度の金額で少なくはないか。

 佐々木局長:前年度からみると仕事の範囲も深さも拡大できると思う。

 島村政策課長:前年度に比較すると予算額の増加率に比して仕事のなかみはいっそう充実できると思う。
 予算の額は特別の機械の代金とか消耗品費などで、人件費は調査を実際に行う各機関から直接でるから3,600万円に含まれていない。実際に放射能調査に使える金はもっと多額になる。

 中泉参与:ほうぼうの機関で放射能調査の研究にたずさわっているが、なにか中心的な機関で総合して重複しないようにやってほしい。

 佐々木局長:現在は原子力委員会の下にfall out の専門部会がある。専門部会に各省から集まって放射能調査の計画をたて、具体的な対策は厚生省でやる。調査結果のとりまとめや判断は原子力委員会がやるように考えている。将来は放射線医学総合研究所を充実し、重点を移していくようにすればどうかと考えている。

 伏見参与:放射線障害防止の基準として、いままでは原子炉などの施設から外部にもれる放射能が許容量の1/10ということであった。たとえば川の上流にいくつかの施設がある場合に下流では放射性物質が多くなることが考えられる。このような場合にはどう考えていくか。

 島村政策課長:原子炉等規制法では事業者が廃棄する放射性物質の量を許容量の1/10と規制しているが、おっしゃるような場合に一般国民に害があるかどうかを見はっている法律はいまのところない。しかし厚生省では生活環境汚染防止法(仮称)の制定を考えており、これによって一般公衆への放射能の障害も予防できると思う。