原子力関係留学生報告


ハーウェル原子炉学校第11期(6週間コース)について

 本稿は昭和32年度原子力留学生として、イギリスのハーウェル原子炉学校の第11期コースに東京電力の池亀亮、住友電気工業の西山厚の両氏とともに留学した日立製作所日立工場原子力開発部原子力課の江幡健夫氏の出張報告の一部である。
 ハーウェル原子炉学校についてはさきに昭和31年度原子力留学生としてこれに参加した福永、寺西両氏の報告書を紹介した(Vol.2 No.9.52ページ)が、今回の第11期コースは6週間という短縮コースで、前回の場合と種々異なった点もあるように考えられ、また今後こういったコースに参加する機会も考えられるので紹介することとした。
 なお同氏の報告書に若干の手を加え表現を改めたところもあることを付記し、同氏の御了承を得たい。

1.研究、研修の内容と成果

 第11期Harwell Reactor Schoolは今までのコースと異なり、その期間がわずか6週間に短縮された特殊なコースであるうえに、今までのコースに含まれていなかったRadio Isotopeや制御計測に関する講義が大幅におりこまれたため、一つ一つの講義時間はかなり圧迫されている。講義内容を分類別に時間数によって示すと次のとおりである。

物理学   23時間  30.3%
工学    20    26.3
制御計測  12    15.8
冶金材料   7     9.2
化学     4     5.3
その他    10    13.1
合計    76    100.0

このほか、次のような見学ならびに実験が行われた。

〔見学〕
 BEPO,DIMPLE,ZEPHYR,PLUTO,LIDOの各原子炉のほかCADET(Transistor Electronic DigitalAutomatic Computorの略称で、Electronicsの実験装置)。Health Physics Divisionなど。

〔実験〕
 BEPOによるMechanical Oscillator,Simulator,遮蔽実験、Geiger Counter,GraphiteのSlowing Down Lengthの測定、水の沸騰実験、Burn−Outの実験、GraphiteのDiffusion Lengthの測定、Manipulatorの実技など。
 学生は総数65名、海外留学生は日本から3名(注、東京電力池亀亮、住友電気工業西山厚および日立製作所江幡健夫の各氏)のほか、ドイツから2名(AEGおよびHamburgische Electricitatswerke A.G.からそれぞれ1名)、フランスから1名(St.Gobian,Chauny and Cirey)、オランダから1名(Provinciale Lin−burgsche Elektriciteits)の計7名で、他の58名が英国人である。
 英国入学生の出身会社をみると、Vickers Armstrong 4,Lloyd’s Register of Shipping4,Rolls Royce4,CEA 3,English Electric Co.3,Hawker Siddeley Nuclear Power Co.3,Atomic Power Constructions Ltd.2,Kennedy and Donkin2のほか、De Havilland Engine Co.,Whessoe Ltd.,Honeywell−Brown Ltd.,AEI−John Tompson,CA Parsonsなどから各1名、さらにRoyal Military College of ScienceやSouth East London Technical Collegeなどの教師やRisley,DounreayのUK AEAのスタッフなど年令、専門ともに多岐多様で、今回のコースの目的も専門的な知識の教授よりも、一般校的な常識の把握にあるように見うけられた。
 講義内容も時間数が制限されているため、概論的なものが多く、全く初歩から始まって問題点のピックアップ程度に終る講義が大部分を占め、むしろコースの後半になって行われた実際の原子炉の見学およびそれを使っての実験に大きな意義があったといえる。
 今回は期間の短縮のためもあって、こうした方面にも恵まれているとはいえないようであるが、BEPOを用いてのOscillatorおよびShieldの実験、規模こそ小さいがGraphiteのSlowing Down LengthおよびDiffusion Lengthの測定等日常手をつけにくい実験を行ったことはわれわれにとって貴重な経験であった。
 また見学についても、わずかにWater Boiler Reactor 1基しか現存しないわれわれにとっては一般見学者と同様の程度の見学でも得るところは少なくなく、特に希望して見学の機会を得たPLUTOの場合は、それが建設中であったために、各機器、配管の裏面までも見ることができ、非常に興味の深いものがあった。
 Calder Hallの見学はHarwell Reactor Schoolのスケジュールにはなかったのであるが特に大使館の村田アタッシェにお願いして日本人留学生3名だけで出かけた。Calder Hallはもはや英国の観光地の一つのような感を受けるほど見学者が多く、毎週数百人がおしよせているとのことで、そのため案内も非常にそつがなく手慣れたものであるが、それだけにまた技術的に何ものかをつかもうと意気込んで行ったわれわれには、若干り質問に対する解答を得たのみで物足りなさ を感じた。
 また丁度B−Stationの建設途上でもあり、その見学をさせてくれるよう申し出たが、目的を果し得なかった。
 以上の成果をまとめてみると、講義よりは見学や実験に得るところが多かったと考える。もっとも語学力のいかんがこの成果に大きく影響することは当然で、もっと語学能力があれば、たとい講義自体が予期するほどのことがなくても質問によって相当程度カバーできたのではないかと思う。

2.今後の留学生に対する注意、感想
 今回の留学はわずか6週間という短期間であったが、短期間なりの感想を羅列して御参考に供したいと思う。

(1)語学力の問題
 第一にあげねばならぬのは、当然語学力の問題である。1ヵ年あるいはそれ以上の留学の場合には、その期間の一部を語学力の修得に専念するということも可能であろうが、短期間の場合にはそうした余裕がない。
 もう一つの問題は聴講のむずかしさである。いわゆるInternational Courseであるとはいえ、学生の9割が英国人で占められる今回のような構成では、講義も海外留学生を特別扱いするようなことは皆無であって、英国人のペースて進められていくのもやむを得ないことである。
 たとい一対一の会話にかなりの自信がもてたとしてもspeedyな講義をマスターするということは決して容易なことではない。講義内容が技術的な問題であり、数式を用いたり、グラフを用いる機会が比較的多いということは、これらがInternationalな表現法を採用しているために内容の理解に大きな助けとなったことは非常な幸いであった。
 聴講がむずかしかったもう一つの理由は、講義の範囲が原子力全般にわたっていたことにもよると思われる。今回のコースの目的が前述したように一般的常識の把捏にあったのでやむを得ないことではあるが、小生の場合を例にとるならば、工学あるいは制御計測の講義が興味深かったのに対して化学とか冶金の講義はTechnical Term自体が耳慣れないために予期したほどの成果があげられなかった。
 こうしたことから結論づけると今後の留学生、特に講義を聞くことが主体となる場合には、英語のHearing に最大の努力を傾注すべきだと思う。そしてその練習も単に一般会話の修得ということではなしに数式や数字の英語による表現法などにも熟達しておく必要があると痛感した。ささいなことのようにも考えられるが、特に短期間の場合には予備知識のあるなしによって少なくとも初めの半月間の効果には雲泥の差がついてしまう。
 こちらから話すことはたといそれが正確な英語になっていなくても相手側は理解してくれるので、文法的な誤りなどを気にせずに話すことに積極的であれば、それほどの不便を感ずることはないと考えられる。

(2)留学生間の交流の問題
 このことは在英村田氏の御配慮でわれわれは非常に恵まれた境遇にあり、深く感謝している。Harwellに出頭する前にHarwell Reacactor Schoolの卒業生な含めた在英原子力留学生6氏と懇談する機会を得、その後もほぼ1月ごとにおたがいの交流をはかるための懇談会を催しておられ、われわれ学生にとっては非常に有意義な会合であった。アメリカへの留学の場合は、その広大な土地のためになかなか1ヵ所に集まることはむずかしいようであるが、今後の留学生にもぜひこうしたおたがいの連絡を密にするような計画に協力されるようお勧めしたいと思う。

3.その他参考事項

(1)AERE Reprtの件
 Unclassifyされたものは原子力局にあるようであるが、これらのListがHMSOから出ている。月刊の分は、すでに入手しておられる方も多いと思われるが、小生滞英中に、Annual Cumulation発刊の話を聞き、直接HMSOに交渉したところ、予定より少しおくれて9月ごろに出版されるとのことであった。念のため次に書名をしるしておく。

UK AEA List of Publications
Available to the Public
Annual Cumulation

(2)Classified Reportの件
 Classifyされたものは、その入手もなみたいていではなく、在英留学生諸氏の中には種々苦心をしておられる方もあるが、もっとも可能性のあるのはHarwell研究所員となるか、研究所内に友人を作ることかと思われる。
 このことはもっと長期間滞在しておられる方々が詳しいと思うが、Harwell Reactor Schoolでは入手できなくても、Harwell研究所内の図書館には当然Classifyされたものもあるはずであるから、今後の留学生の中からHarwell研究所員として渡英される方が出ることを切望する。
 村田氏からのお話では、現在のところ日本から研究所に入所することは困難であるが、DorsetにHarwell研究所が拡張されたときには可能性も出てくるのではないかとのことで、留学生担当の関係官庁の方々にも御努力なお願いする次第である。