原子力委員会参与会

第2回

日時 昭和33年2月20日(木)午後2時〜5時

場所 東京会館

出席者

  稲生、大屋、久留島、瀬藤、高橋、田中、中泉、伏見、松根、三島、山県、脇村各参与
  正力委員長、石川、有沢、兼重、菊池各委員、藤岡前委員
  吉田政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、
  島村政策課長、井上、亘理各調査官、藤波管理課長ほか担当官

議題

1.核燃料の所有方式について
2.その他

配布資料

(1)核原料物質および核燃料物質の所有方式
(2)「核原料、核燃料流通機構」図
(3)放射線障害防止基本法(案)
(4)第1回参与会議事録

議事内容

 正力委員長:こんど菊池先生に原子力委員をお願いした。菊池先生に委員になっていただくことは各方面で非常に評判がよく喜んでいる。

 菊池委員:よろしくお願いします。

 正力委員長:核燃料は原子燃料公社だけにまかせるべきではなく、民間にも所有させるべきだという声が民間にある。この民間の主張には同感されるところがあって、せっかく民間に原子炉を買おうという空気があるのに、もしも政府だけが核燃料を所有するとなればいろいろ懸念が生ずるのももっともである。しかし外国との原子力協定には免責条項がともなうので、この点も考慮せねばならない。私見としては、どんな形としても国家だけにやらせてはだめだと思う。今度の核燃料の問題は重大だが、私どもも問題の眼目をよく承知しているので、民間で懸念なさるのは杷憂にすぎないと思う。しかし問題の起ってきたこの機会に皆さんの御意見を承りたい。

 島村課長:諸外国では核原料物質や核燃料物質の所有権は政府がもっている。今までの日本の法規としては、日本の原子力の利用は平和目的に限られている関係から、炉を設置して核燃料を使用することを認められたものが核燃料を所有することはさしつかえないという法体系で進んできた。なぜこの考えを直さねばならぬかというと、核燃料の輸入先が全部厳重な規制をやっているので、日本だけが規制をゆるめても実状にそわない面がでてくる。早い話が、米国から濃縮ウランを買おうとすれば、これは政府所有を前提とせねばならない。さらに、燃料公社によって核燃料の管理は一元的に行おうという考えが一部には前からあったので、それが米国、英国との協定ともからんで問題になってきたものである。(資料1および2を説明)

 A、B両案のうちどちらをとるべきかの判断をくだす基準として両案の利害得失を資料に示してある。このほかに、両方の案においてそれぞれどの程度の金額の予算措置が必要であるかということも判断のよりどころとなる。これに関して、長期計画に示される原子力発電の開発テンポに従って、その半分を天然ウラン型で開発するとすれば、昭和40年度以降毎年100〜150億円の予算が天然ウラン燃料を政府所有とするために必要となり、昭和50年度までの累計では約1,500億円に達する。この金額だけA案はB案よりも多額の予算措置を必要とすることになる。A案でもB案でも濃縮ウランは全部政府が所有するわけであるが、その所要予算額は昭和50年度までに約1,500億円となる。

 案、AB案のうちどちらかでなければならぬというきめ手はなく、いくつかの長所、短所を比較してどちらがいっそう好ましいかという問題になる。いろいろな見方がでてこようかと思うので、皆様におはかりしてよい案をとりたい。

 大屋参与:この問題は複雑であって二つに分けて考えてほしい。(1)対英協定を結んで最高額のない無制限の賠償を引きうけることの是非、(2)免責条項の問題に便乗して燃料の国有をも片づけてしまおうとする態度の是非の二つについて意見をのべたい。

 最初の問題については、原子炉は十分の安全性を見込んでから設置するのだから、大きな原子炉災害はおこるものではない。この点を素人にもうまくわからせねばならぬ段階である。また、英国に対しては、無制限の賠償を日本が負担せねばならぬようなら協定を結ばないという方針でやってほしい。つぎに、いま免責条項の問題が起った時期に核燃料の国有問題もいっしょに片づけようというのは何か割り切れない。一利一害のある問題で世の中が変れば国有もいいかと思うが、原子力発電は民間でやったほうがいいということになっているのに、核燃料を国有にするのは民営で電気事業をやるという大元を乱すことになる。

 田中参与:天然ウラン型の発電炉を中心にしての御意見と思うが、もしも、低濃縮または濃縮ウランの型式が比校的多く使われるようになったら御意見は変りますか。

 大屋参与:米国が濃縮ウランを国有ときめているのは軍事目的がからんでいるからだ。原子炉の事故のときは燃料の欠陥か炉の所有者の責任かがわからないことが多いから、炉と燃料とは所有者を同一にしていこうという考えが米国にあるときいている。将来原子力発電がさかんになったならば、アメリカも燃料の民間所有をみとめるように変るのがあたりまえだと思う。そこで今の状態から推して、永久に濃縮ウランは国有にせねばならぬと考えるのはどうかと思う。

 松根参与:原子力発電にともなって考えられる事故としては、炉の欠陥、運転のミス、燃料の欠陥等が考えられる。原因のいかんにかかわらず第三者のこうむった災害で民間が負担できない額は政府が補償しないと原子力発電を推進できない。天然ウラン燃料の国有論は補償問題に関連して起ってきたようであるが、燃料を国有にしなければ補償できないというのならば炉も国有にしないとおかしくなる。軍事目的に関連して、核燃料を国有にするというのならばよいが、第三者補償があるからという理由で国有にするというのは反対である。政府の予算で核燃料を調達し炉に供給するのと、民間の手でやるのとどっちが楽に自由にやれるか容易に想像がつこう。今度安川さんが英国から天然ウラン型の原子炉を買うことに関連してこの問題も早急にきめる必要が生ずるかと思うが、私はもうすこし慎重に考えたい。

 伏見参与:民営の方針によって原電がつくられたが、しぶしぶそうなったのか民営という筋を通しておやりになったのか。筋を通してやったものなら核燃料について国有を主張なさるのはおかしいと思う。

 正力委員長:筋を通してやったものである。

 瀬藤参与:なるべく民間に創意工夫を発揮させるようにしたい。核燃料の所有方式の問題を免責条項と結びつけることに対しては松根さんと同様に反対する。濃縮ウランも、低濃縮のものは民間で所有できるよう外国に交渉するほうがよい。外国で国有にしていても、日本では国有にすると自由な活動が望めないと思う。国有にする燃料の範囲をできるだけ狭くしたい。

 石川委員:照射済燃料の再処理も民間でやらせたほうがよいとお考えですか。

 瀬藤参与:厳重な規制の下で民間の創意工夫が生かせるような方法でやれないかと思っている。

 石川委員:照射済燃料の再処理は、相当大規模な設備でないと引き合わないという問題がある。

 正力委員長:原子力発電は採算の見通しがはっきりしてくるにつれて民間が積極的に立ち上り、その結果原電ができた。この意欲を今後も生かしていきたい。安川さんが英国から帰ったらいろいろ事情を聞いて最後の決定をしたい。いずれにせよわれわれは民間でやりたいという気持は十分わかっている。国有論には軍事面への利用ということもいわれるが、とりあえず国有ということを考えているにすぎず、将来も民営ではいかんという考えではない。

 久留島参与:正力さんが大臣の間はいいが、大臣が変ったときに方針も変るようでは困る。

 伏見参与:一番大切なのは原子炉の事故を起さないことである。この点からはA、B両案のどちらがすぐれているかということも考えてほしい。

 有沢委員:核燃料の所有方式と免責条項とを関連づけるなというお話しであったが、それには疑問がある。日英協定の免責条項が問題を生じているが、これをのめないとすれば英国との協定は成立しないこととなり、わが国の原子力の発展をさまたげるおそれがある。日英協定の免責条項の問題は米国との研究協定における免責条項とは異なり、日本が要求される補償の金額は英国の法廷がきめるので、国の面目からいっても深刻な問題であり、それだけに苦慮している。

 大屋参与:そういうふうにつきつめるといろいろ考えざるを得ない。しかし、英国の法廷でべら棒な金額をおしつけてくるとは常識では考えられない。日本が免責条項をどうしても納得しない態度をとり、英国が協定を結ばないつもりかといってきたら、そのときの最終的な態度を決定するには、もうすこし時間をかしてほしい。安川さんが帰ってくれば、安川さんから英国のメーカーに、メーカーからAEAにという筋で交渉することも考えられよう。日米協定では免責条項に問題はなく、原子力船の開発とも関連があるから、日英協定よりも締結を急ぐべきである。また、カナダとの協定も早く締結して精鉱を輸入できるようにしたい。

 有沢委員:日米協定は、今国会にかけて成立させる方針である。カナダとの協定も急いでいる。

 伏見参与:日本の賠償金額を法廷がきめるというのはどういういきさつか。

 有沢委員:英国から、法律上の一つのタイトルとして免責条項を挿入してほしいといっている。その免責条項の結果として日本が英国の法廷のきめた金額だけを賠償せねばならぬことが考えられる。これは実際に起ることは少ないだろうが、事実としては考えておかざるを得ない。原子炉の事故が起った際に、災害をこうむった日本の第三者が英国に提訴すると英国のコモンローにより、英国の法廷はこれをとりあげざるを得ない。日本側の勝訴はまず望めないが、万一勝訴となった場合はそれだけの賠償をAEAが払わねばならず、それをさらに日本がAEAに支払うことになる。

 石川委員:原子燃料公社法をつくったときに、将来核燃料は独占的に燃料公社に取り扱わせようという考えが一部にあり、国会議員も頭の中にそのような考え方をもっている。核燃料の所有方式は安川さんからも話をきき、時間の余裕をみて慎重に検討したい。検討の結果国有がよいという結論になることも考えられるが。

 正力委員長:国会の情勢をも考えて善処したい。また国有は内閣全体の問題でそう簡単に国有にできるものではない。

 田中参与:ウィンズケールの事故があったので英国が免責条項をあわてて持ち出したのではないかと思われる。事故の原因調査委員会の報告書ではウィグナーリリースの間違いで燃料の欠陥とはいっていない。しかし燃料の組成が不均一であったことも考えられるので、日本が燃料を買う際には検査のやり方が大切である。

 佐々木局長:もしもウィンズケールの事故の原因がウィグナーリリースにあるとすれば、ウィンズケール炉はPu生産炉であるのに対し、発電用原子炉はより高温だから、ウィグナーリリースは不必要となり問題は起らない。また発電炉は空気冷却ではなくて、炭酸ガス冷却である。これらの点があるから、今度英国から導入する発電炉はウィンズケールの炉と同様に危険だと考えられては困る。

 田中参与:今度英国から導入する発電炉もウィグナーリリースは必要である。

 佐々木局長:コールダーホール原子炉とは違って、改良型発電炉では必要ない。

 島村課長:英国が免責条項を協定の本文中に入れるように言いだしたのはウィンズケールの事故があったからだろうという観測は当っているかも知れない。しかし英国がそういっているわけではない。

 藤岡前委員:前回の参与会にも御挨拶したがいよいよウィーンに赴任することとなった。原子力委員としては十分な働きもできず遺憾に思っているが、皆様の御後援で勤めさせていただいた。今後も場所が違ってもいっそうの御支援をお願いしたい。ウィーンにいらっしゃるときはぜひお立ちよりください。

 島村課長:資料3により放射線障害防止基本法(案)を御説明したい。昨年4月の国会で、衆議院科学技術振興対策特別委員会において、放射線障害防止法に附帯決議がつけられた。それは、今度の国会に放射線全般の障害防止に関する法律案を提出するようにというもので、をの趣旨により、各省の管理下にある放射線全般を対象とした基準をつくるために放射線審議会を総理府に置くというのがこの基本法の内容である。目下、各省の意見を聴取しており、それによって多少変更をみるかも知れない。

 中泉参与:外来放射線のことも考えているか。

 島村課長:核爆発による外来の放射線を取り締まるわけにいかないが、外来放射線をも入れて大気の汚染に関してある程度の仕事をすることにしている。

 中泉参与:第3条では「放射線を発生する物を取り扱う従業者及び国民」となっているが、受ける放射線量に関する許容量が違うので、これは「放射能を発生する物を取り扱う管理下にある従業者及び管理下にある国民」とすべきである。

 田中参与:「放射線障害」というのは遺伝をも含めた障害を意味しているか。

 島村課長:含んでいると考えるべきだが、中泉先生に御意見をお聞きしたい。

 中泉参与:趣旨としてはそうであろうが、実際問題としては遺伝学者が資料を示してくれないと不可能である。

 佐々木局長:このくらいの案でよいとわれわれには思われるが、まだ各省には反対がある。