放射能調査専門部会の活動状況

 放射能調査の総合推進に関して調査審議するため昨年7月原子力委員会に放射能調査専門部会が設置されたが、その開催日誌ならびに最近の活動状況を紹介する。

1.放射能調査専門部会の開催記録

 昨年7月専門部会設置以来本年1月までに7回の会議が開かれたが、そのおもな議事内容は次のとおりである。

第1回(昭和32年7月24日)
 放射能調査専門部会が設けられた経緯、任務ならびに専門部会運営規程について説明があり、部会長として都築正男氏、部会長代行として檜山義夫氏を選出し、また幹事として原子力局亘理、鈴木および別府の3氏を決定した。
 ついで議題に入り、国連放射線影響科学委員会に提出する資料について、放射能調査のための測定分析方法について、放射能影響の実状に関する現状分析とPRについて、それぞれ検討を行った。

第2回(8月14月)
 前回に引き続いて国連放射線影響科学委員会提出論文の説明と審議、昭和33年度放射能調査計画について説明と審議、放射能調査の現状分析とPRについての放討、Sr90の測定試料の配分についての報告が行われた。

第3回(10月22日)
 国連事務局から送付された国連放射線影響科学委員会の最終報告草案の紹介、審議があり、この件について日本学術会議放射線影響調査特別委員会に協力を求めることに決定、また各章について責任委員を決めた。ついで放射能調査連絡会において作製した放射能測定法についての検討が行われた。

第4回(10月31日)
 国連最終報告草案各章ごとについての審議が行われ、前回決定された各責任の委員から検討結果の発表があり、11月15日までに草案に対するわが国の意見書をとりまとめることに決定した。

第5回(11月26日)
 国連科学委員会最終報告草案に対するわが国の意見書のとりまとについて審議された。(なおこの意見書は科学技術庁原子力局においてとりまとめ、印刷のうえ12月18日外務省を通じて送付された。)
 ついで、前記最終報告草案の第CD章のAnnex1および3の検討と、同じく科学委員会から送付されてきたSr90測定試料の配分についての検討が行われた。

第6回(12月26日)
 前回に引き続き最終報告草案第CD章のAnnex2および5ならびに第G章のAnnexの紹介審議と、第4回国連科学委員会に提出すべき追加資料の審議決定が行われた。ついで第2回の専門部会において決議された放射能調査に関するPRの一つとして「放射能調査に関する現状報告書」を作成することを決議した。

第7回(昭和33年1月14日)
 本年7月以降、国連科学委員会の機構の変更が予想されるので、これに対する検討があったのち、最終報告草案第H章の審議が行われた。終ってPRとして放射能調査報告書に関する具体的内容についての検放討が行われた。


2.国連科学委員会最終報告草案について

 1958年7月の国連総会に提出すべき放射線影響委員会の最終報告草案(1957年10月1日作成)は10月中旬外務省に到着し、これについて第3回、第4回の放射能調査専門部会において審議された意見を科学技術庁原子力局においてとりまとめ、外務省を通じて提出した。草案の内容は次のとおりである。

第 A 章  序言
第 B 章  総論
第CD章  放射線学的資料
第 E 章  細胞放射線生物学
第 F 章  放射線の身体的影響
第 G 章  放射線の遺伝的影響

その後第CD章のAnnex1、2、3、5と第G章のAnnexおよび第H章(結論および勧告)が逐次送付されてきたので、第5回以後の専門部会において逐次審議されているが、その意見は1月27日以降ニューヨークで開かれている第4回国連科学委員会に提出される予定である。


3.国連放射線影響科学委員会提出報告について(追加)

 1月27日からニューヨークにおいて開催されている第4回国連科学委員会に、わが国から10篇の報告が提出されている。そのうちの7篇については、本誌第2巻第11号18ペ−ジ以下において、すでに、その抄録を紹介済みであるが、追加の3篇について、ここに概略紹介する。

(8)人体に対する放射能影響検出の高感度の一方法
   A Sensitive Method for Detecting the Effect of Radialion upon the Human Body.
     本川弘一(東北大学)、古賀良彦(同)およびその協力者

 従来の放射能の物理的測定方法は、生物学に適用できず、生物学的方法は、人体に適用困難であり、現在用いられている血液学的方法も感度不十分であるので、電気的閃光の方法による限の網膜の反応によって検出して、その電気的閾線を決定しようとするものである。
 実験方法としては、銀の電極を、前額とこめかみに接着し、12ボルトの電池により操作する。通常、5ボルト1,000オームから始め、被実験者の答をプラス、マイナスの符号で記録する。被実験者が疲労していないときを選ぶことが特に必要である。放射線源としては、エックス線またはラジウムを用いる。
 放射線障害と単なる生理現象とを区別するため、エックス線取扱者群と普通の学生群についていわゆる閃光指数を比較したところ、前者は平均2.5であったのに対して、後者にはそれ以上のものはなかった。
 放射能影響の持続日数は、50ミリレントゲン瞬間照射の場合、急性数日、慢性10日以上であった。最大急性影響と1ミリレントゲンから50ミリレントゲンの間の照射の対数との間には、ほとんど直線的関係が認められた。

(9)食物および骨の中のストロンチウム90の将来の集積の算定
  An Enumeration of Future Sr90 in Foods and Bone.
    檜山義夫(東京大学)

 今回の国連への最初の報告(地表より人骨に至る将来のSr90レベルの推算)の補訂ともなるものであり、地表における放射性降下物の蓄積を前報告において200mc/km2としたのを、320mc/km2と訂正し、また、食物と人骨中の将来のSr90の集積を過大評価していたのを改めるものである。理論的考察以外に日本人が1日に摂取するSr90の量について敍述している。
 日本の全人口をその食習慣に従って、つぎの五つの範疇に分けて検討した。

 1.雨水を飲用とするもの
 2.玄米を常食とするもの
 3.通常の地方住民
 4.七分搗米を常食とするもの
 5.通常の郊外居住者

(10)日本における人工放射能によるSr90の地表面への蓄積量と無限γ線外部照射量の推定について
   The Estimation of the Amount of Sr90 Deposition and the External Infinite γ Dose in Japan due to Man−Made.
     三宅泰雄(東京教育大学)

 核実験で生じた人工放射性物質Sr90の地表面への蓄積量および無限γ線量の計算を行った。Sr90の量の推定は1954年5月以来毎日の雨とfall outの全放射能の観測値にもとづき、その値をそれぞれ核分裂1年後の値に換算し、Hunter−Ballouの表にもとづいてSr90の含量を計算した。成層圏からゆっくりおちている古い核分裂生成物の影響は、成層願および対流圏における塵挨の滞留期間をそれぞれ5年および2ヵ月と仮定して計算した。筆者らの計算は、アメリカ原子力委員会の計算値および日本における化学分析によるSr90の毎月の値とよく一致を見た。
 地上1mにおける無限γ線量の計算は、上記の場合と同様に成層圏からのfall outを考慮に入れて計算した。


4.第4回国連科学委員会について

 第4回国連科学委員会は1月27日から3月7日までニューヨークの国連本部で開かれ、これには日本側代表として、都築、檜山、田島の3氏を出席させることが、昨年12月27日開催の第50回原子力委員会の会議で決定され、その後森脇大五郎氏の出席が追加決定された。今回の科学委員会のおもな審議事項は次の二点である。

(1)人体に対する放射線の影響についての審議
(2)科学委員会において作成された最終報告草案の審議


5.Sr90の標準試料について

 国連放射線影響科学委員会は第3回の会議において、各国の調整資料の比較を可能とするためSr90の標準試料を作り、これを各国に配布してその分析結果を比較検討すること (cross−cheking)に決定した。配布される試料は次の8種額である。

(1)milk ash
(2)animal bone ash
(3)artificial human bone ash
(4)calcium phosphate(control sample)
(5)vegetation ash
(6)aqueous solution of mixed fission products
(7)soil
(8)Sr−90 standard solution

 以上のうち(1)、(3)、(4)、(8)はすでに届いており、放射能調査専門部会において決定したところにより担当の専門機関に配布、分析を依頼している。