第4章 耐震設計関係

4.1 耐震設計上の問題

 実際に耐震設計をする場合の問題点としては、結局今のところ英国型の特徴的な構造体をなしている内部のグラファイト・パイルをどういうふうに耐震的にするかということにいちばん大きな問題がある。この点に重点をおいて研究を進めた。この場合に問題になるのは、地震時にグラファイト・パイルの損傷、撓み、残留変形といったようなものをどこまで認めるかということで、このことはある程度議論しておく必要があると思われる。
 次にグラファイト・パイルのそういう問題をいろいろ考えるためには、次の三つの点を明らかにする必要がある。

1.ピュアーなグラファイト・パイルが力を受けた場合に、力と変形の関係がどうなるかということを実際の英国型のもので知るということが一つの判断資料になる。これは建築研究所担当の実験結果からある程度想像できるのではないかと思われる。

2.グラファイト・パイルを補強する場合、次にどういう力と変形の関係になっていくかということを調べる必要がある。補強法としてはキイで固めた場合と外から補強わくをつけて固めた場合と二つの場合があって、それぞれ調べておく必要がある。

3.また、外からの地震動に対してグラファイト・パイルにどんな振動が起るかということが問題になる。それには構造全体の減衰性すなわちグラファイト・パイル自身の減衰性、それを支えている支持構造物の減衰性および地盤による減衰性等が関係してくる。

4.2 グラファイト・パイル耐震化の方策

 グラファイト・パイルの耐震化について、調査研究の結果あるいは耐震実験の結果から次のような方策が提案された。

1.グラファイト・パイル自身を固める。たとえばキイを水平方向だけでなしに、縦の方向に対しても入れるような強化法が考えられる。それからスプリングで上下をしめるという方法も提案された。

2.外周からパイルを補強する。これにはプレッシャーベッセル内のグラファイト・パイルの周囲に補強構造物を作って、パイルを固める方法が提案された。

3.あるいは積極的に消震法をとる。これはグラファイト・パイルを固めるという方法でなく、グラファイト・パイルに震力が入らないようにつり下げるか、あるいはスプリング的に支えることにより消震を考えようとするものである。

 以上それぞれの方法で各ディメンションがどういうふうになっていくかということについても検討した。実際の設計ではそれぞれがたがいに関連することになるので、総合的に剛性強度を考えて方策をたてる必要がある。

4.3 耐震化の実施案

1.消 震 法
(1)グラファイト・パイルに震力が入らなければ、パイルの耐震化は一挙に解決する。
(2)このためにはプレッシャーベッセル全体を長周期支持物で支えるか、またはパイルだけをベッセル内でつり下げる。
 などの提案がなされ、ある程度数字的検討が行われたが、いずれにしても相対変位が問題になり、検討を要する事項も多く、かつ現在の英国型をかなり変更することになる。

2.パイル強化法
 現在の英国型は水平方向にタイルおよびガーターによってある程度固めているが、さらに耐震的にグラファイト・パイル自身を固める方法としては、タイル、ガーターを増強しただけでは不十分で、水平タイルを厚くするとともにブロックの縦方向の相対変位を阻止するために側面にもキーを入れ、さらに外周バンドの外に上下に締め付けることも効果的であろうとの意見が提出された。
 グラファイト・パイルの側面にキーを入れる場合には、計算上からはキーの幅1cm、ブロックへの食込深さ0.5cm程度でも十分であろうとの資料が出されている。
 これらの方法もグラファイト・パイルそのものの設計を一部分変更することになる。

3.外部補強法
(1)バイオロジカル・シールディングから直接支える方法:バイオロジカル・シールディングはオーバーストレングスであるから、これから直接にグラファイト・パイルやダイヤグリッドを支えれば十分耐震性が期待できる。ただし、プレッシャーベッセルを貫通する部分の処置および熱応力の処理には考案を要する。

(2)グラファイトパイルの外周に補強わくを作る方法:どの方法は現状を大きく変更せず、比較的実施しやすい方法であろうとの想定のもとに、以下4.4に述べるごとく具体的設計を行い、各部ディメンションを検討した。この場合参考までにプレッシャーベッセルの振動、熱応力およびベッセルを支持する構造部分の振動、熱応力についても検討した。

4.4 内部補強わくおよびベッセル支持構造物の設計

1.設計条件
  設計震度 (静的)
    水平方向 0.6
    上下方向 0.3
 設計重量
 グラファイト・パイル、 ダイヤグリッド }3,000ton
 プレッシャーベッセル   1,000ton
 許容応力度
  日本建築基準法に準拠
  鋼材 { 2,400kg/cm:地震時、1,600kg/cm:常時
  (ただし温度条件等による低下を若干見込んだ)

2.シェル形構造法
 まずグラファイト・パイルを補強する鋼製の補強わくをシェルで作って、それをダイヤグリッドに固定し、プレッシャーベッセルとともにシリンダー状のスカートの上にのせるというような方針で設計を行った。地震力のみを対象とすれば、一応内部シェル3cm厚、支持シェル5cm厚のディメンションで、鋼材のトン数も内部シェル100トン以内くらいに納まる。静的震度0.6をかけたときの変形も0.5〜3cmの範囲に納まるという結果を得た。

3.トラス形構造法
 前述のシェルの代りにトラスを使って、グラファイト・パイルを補強する鋼製のわくを用い、またプレッシャーベッセル全体を支える脚もトラスによる場合の検討を別に行った。これもシェル形と同じく内部トラスは100トン以内の鋼材量で納まり、頂部の変形も3cm程度に納まるということが結果として出た。
 すなわち、シェル、トラスいずれの場合も内部補強構造は静的震度0.6に対し、変形を3cm程度におさえれば100トン程度の鋼材量を要するという結果を得たのである。

4.内部補強構造物とグラファイト・パイルの連結方法
 以上の内部補強わくは設計可能としても、次に問題になるのはグラファイト・パイルと補強構造物との連繋をどうするかということである。常時においては熱応力をさけ、地震時には内部に大きなすきまがでないように中のグラファイト・パイルを押さえていなければならない。これについてもいろいろなアイデアが提示され、検討された。たとえば補強構造物とグラファイト・パイルとの間に、グラファイト球をたくさん入れておくというアイデア、くさびを入れて締めておくというアイデアあるいはバネを入れて締めておくというような各アイデアが出された。

5.プレッシャーベッセルおよび支持構造物の熱応力、地震時応力
(1)熱 応 力
 ベッセルと支持構造物の結合点における熱応力をさけるためにスライドしうる構造法をとれば、地震時の処理が困難である。したがって支持構造物とプレッシャーベッセルが完全に結合された場合の熱応力を温度差200℃に対して検討したが、局部応力はベッセルで200kg/cm2、支持構造物で600kg/cm2程度の増加が予想される。

(2)ベッセルの地震時応力
 ベッセルの地震時応力はきわめて複雑で短期間に解析することは困難であるが、現在の知識で概算するとベッセルの厚さ7.5cmの場合、最大応力は上記応力度に最大100kg/cm2程度が加算されることが予想される。