第3章 耐震実験関係

3.1 耐震実験の経緯
 英国型動力炉の地震対策につき、日本側より英国に対して仕様書原案の提出や設計上の提案を行う際、その裏付けとなる資料もしくは英国に提示する資料を得るためには、解析困難な事項に対しては実験的研究が必要である。本委員会は前回の討議の際、次表のごとき所要の実験テーマとその time table を立案したが、同表中太線の部分は現在までに日本原子力研究所において実施された実験を示す。

実験テーマの time table

 表中1.の地震動の観測に関しては、東京大学地震研究所に依頼して建設予定地である東海村の候補地において地震特性の観測、常時微動の測定を行った。また2.(a)の地盤については同じく地震研究所に依頼して地震探鉱を行い、さらに候補地でボーリングを実施し地盤の状況を調査するとともにJRR−1の地耐力試験から砂れき層の地盤係数を推定した。これらの詳細は本報告書の第2章に述べられている。
 次に3.の pressure vessel および supporting systemについては、fix する場合について東京大学工学部建築学科武藤研究室で担当し、振動実験および静的加力試験により pile の振動性状、変形性、耐力等を実験的に究明した。
 さらに4.(b)のgraphite pile の振動実験については建設省建築研究所において担当し、graphite blockの1/2サイズのものを tile で結合して、すきまがない場合およびある場合の振動実験ならびに pile の静的加力試験を行った。
 なお、4.(c)の補強法について早稲田大学が担当し、かご形に補強した場合について graphite をせっこうに置き換え、補強構造物の動的性質を静的試験と比較しつつ明らかにした。
 以下3.2〜3.4に掲げたのは、11月14日の第3回小委員会までの実験結果で、資料として報告されたものの概要である。これらの耐震実験はなお引き続き行われている。





3.2 グラファイト・パイルの耐震性に関する実験建築研究所担当

(資料2−2−1)

 この実験は原子炉のコアーであるグラファイト・パイルそのものがいかなる力学的性状をもっているかを実験的に調べて、その耐震性を追究することを目的として行ったものである。
 実験は振動および静的加力の2種類について次のごとき内容のものを行った。

1.パイルの振動試験
(1)グラファイトブロック間にすきまのないパイルブロックは原型の1/2、タイルおよびキイ−キイウェイの結合は昭和電工株式会社の推定型により、1層当り10個×10個、3段積(1m×1m×1m)のモデレーター部分につき、その周囲にレフレクター部分のある場合とない場合(いずれも水平バンド締め)に対して強制振動試験を行った。
 この場合は、いずれも最大加速度(パイル底面で)480gal まで全然異常がなかった。

(2)グラファイトブロック間にすきまのあるパイル(1)と同様のブロックとタイルであるが、ブロック間に1.6mmのすきまを設けた。モデレーター部分のみについて、1層当り5個×6個、3段積(水平バンド締め)に対して強制振動を与えた。
 この場合は、底面加速度 280gal、上面加速度460gal 程度でパイルがおどりだし、最大はそれぞれ350、680gal まで試験した結果、ブロックおよびタイルのエッジ部が損傷した。この動的耐力は次の静的実験結果とだいたい符合する。

2.パイルの静的加力試験
(1)グラファイトブロック間にすきまのあるパイル1.の(2)と同じブロック、タイルを用い、1層当り3個×3個で1層および3層ならびに1層当り3個×6個で3層の試験体につき、加力と変形の関係を求めた。
 パイルの各層に等加力を行ったが、最下層ブロックの回転抵抗が失われて最大耐力に達した。各層の変形剛性、耐力は下層ほど大きくなる。タイル部分をバンドで締めつけると耐力は1.3〜1.4倍、剛性は2倍程度増大し、有効である。またキイ−キイウェイの組合せ方はブロック凹、タイル凸の型式が有効であることがわかった。

(2)原型とほぼ同じ寸法効果をもつ単一ブロックについて、キイ−キイウェイの組合せや形状が耐力、剛性に及ぼす影響を実験した。この場合についても前項と同様の結果を得た。なお水平キイの有効性も確かめられた。

3.所見
(1)英国型グラファイト・パイルのモデレーター部分は、その後判明したところによると本実験に用いた積層法と異なり、ブロックの上にタイルが重なる柱状体の集合であり、ブロックおよびタイル部のキイ−キイウェイの結合は浅く、かつブロック間にすきまがあるので、その水平力に対する剛性は突付部のタイル間の摩擦力すなわち周辺のバンドの締付効果に関係する。しかしバンドの締付力は大きくなくかつ効果が内部まで有効であるかどうかは疑わしいから、その耐力、剛性は小さいものと考えられる。

(2)グラファイト・パイル自体を固めるためには、次の方法が考えられる。

イ)円周の水平バンドの張力を大きくする。
ロ)モデレーターおよびレフレクターの部分を全般にわたって上下方向に締めつける。
ハ)レフレクター部分のブロックにキイ−キイウェイおよび水平方向のキイ(やとい)を用いる。
ニ)モデレーター部分のタイル厚を大きくするとともに、キイ−キイウェイの形状寸法はたとえば昭電推定の型式に改め、またブロック間に水平のキイ(やとい)を入れる。上記の補強方法によってパイル自体に相当大きな耐力と剛性を与えることができると考えられる。なお、これらについてはさらに実大寸法のものについて実験を行う必要があると考える。

3.3 グラファイト・パイル支持構造物の震力に関する振動実験 東京大学担当

(資料2−1−1)

 この実験はグラファイト・パイルおよびダイヤグリッドを支持する構造部分すなわち円筒型スカートあるいはA字型支柱に加わる震力に関する研究である。
 振動模型は第5図のように支持構造物を4本の鋼製支柱におきかえ、グラファイトブロックのかわりに寸法が実物の1/5の木製ブロックすなわち4cm×4cm×12cmの直方体のものを主として使用した。


第5図

 実験は弾性的に支持された型わく内に木製ブロック模型を入れて(a)自由振動および(b)強制振動による実験を行い、模型の振動周期、減衰比、共振曲線等を求めた。ブロックのつめ方としては(イ)ブロック間にすきまのないもの(ロ)すきまのあるものおよび(ハ)タイルを入れたもの等を作って比較検討した。第6図、第7図にそれらの一例を示す。

ブロック型わく底面の振動記録
 第6図 自由振動記録


以上のようにして種々の場合の振動性、有効重量を調べたが、ブロックの層数、すきまの有無等によって振動性は複雑をきわめる。原則的には(イ)すべりやロッキングを伴う振動状態と(ロ)全体が比較的一体として振動する状態との双方がある。

(イ)の場合には、支持構造体に与えるパイルの質量効果は100%以下である。

第7図 共振曲線

(ロ)の場合には、質量効果は100%以上である。実際のものでパイルの外周に補強構造物を設けた場合にはほとんどすきまがなく、比較的一体として振動するものに近いと考えられるから、支持構造物の検討にあたってはパイル重量をある程度(たとえば20〜30%)割増しして考える必要があるものとの結論をえた。

〔参考〕 ブロックの有効重量
 型わく内のブロックの重量が増せば支持構造物の振動周期は大きくなるが、これはブロックの増加が支持構造物に質量効果を与え、慣性力すなわち震力を増すからである。この現象に着眼すると、周期の変動を追求することによってブロックの与える質量効果したがって震力効果を明らかにすることができ、支持構造物の設計震力の推定に役だたせることができる。
 力学的に考えて、ベッセル内のブロックがベッセルと一体になって振動するような場合には、ブロックの質量効果は100%そのものである。一方高架水槽のようにベッセルの中に入れられた水が容器と全く別個の振動をするような場合には(普通の場合で)水の質量効果は100%以下であり相当小さくなる。原子炉の場合にはベッセル内のブロックがどのような振動をするか、100%の質量効果を与えるのか、あるいは小さくなるのか、またブロックが弾性的にかみ合ってベッセルと連成振動を行って100%以上となるのか、これを明らかにすることが設計の指針を得る上に重要と考え有効重量を算出してみた。
 いま一質点系の振動体として、ベッセル(型わくに弾性支柱がついたもの)だけのときの周期T0、有効重量W0に対してブロックの重量WBが加わったときの周期T、そのときの有効重量をW0+αWBとすると周期は有効重量の平方根に比例してつぎの関係にある。


3.4 かご形に補強したグラファイト・パイルの振動および静的実験 早稲田大学担当

(資料2−3−1〜3)

 実験の目標としては

i)動力学的振動のものを静力学的に設計計算するための目安を求めること。
ii)地震のような不規則雑多な振動に対しては、この場合炉体の変形を最小限にする強敵な補強が望ましいことであり、それにはかごで周辺を囲うのが簡単で有効であると考えこの実験に着手した。

 第8図のごとくグラファイト・パイルの部分を実物の約1/5のせっこうブロックで造り、その外側を第1段階として鋼製かごで補強して振動時および静的加力時におけるかごの各部材の最大応力および変位を実測した。振動時の最大加速度は約0.7gであり、静的実験における水平加力は250kgwである。応力測定は電気抵抗歪計および電磁 oscillograph を使用し、変位は電磁微動計によった。


第8図

 この実験によって動的加力によりかごに働く応力と静的加力によるそれとを比較し、実物設計における静的計算法の目安を得るとともに、かご形補強の場合のブロックとかごのすきまにスポンジおよび木片を挿入し、それらの変化による前記かご応力の変化を測定し、パッキングによる支持法を研究した。
 この結果、静的実験におけるかごの斜材応力および変位は動的実験の場合よりも全体的に大きくなっている(動的応力は静的の60〜70%、変位は動的0.35mm、静的3mm)。またパッキングの相違については、木片を挿入した場合はかごの各部材の応力が比較的一様であるが、スポンジを入れた場合は多少応力分布が局所的になり、パッキングが全くない場合には一部の部材に極端に大きな応力が働くことになる。したがって実物設計に当ってはこの部分のパッキングについて十分考慮の必要があると思われる。なお、図に見られるごとく補強かご上部につば状の部分があり(Reflectorに相当する部分に設ける計画)、これは上下の押えと横への変形および主として横力を支えると思われる斜材からの tension にもきくように考えられたものであるが、かごのみの静的実験の場合につばを有するものとないものについての結果では、ないものの各部応力および変位が有るものに比して全体に大きく、つばが有効に働いていることを示した。動的実験は約2週間続けたのであるが、その後においてもせっこうの損傷はほとんど見られなかった。
 これまでの実験結果によれば、補強かごの設計に当ってはその内部のパイルに作用する地震力よりも小さい力で静的に計算できる可能性が予想される。
 この実験は予備的に行われたもので、今後せっこう部分を実状にもっと類似させ(ブロック間の間げきを作り、タイルを設け、下部にポールベアリングを入れる等)、あるいは補強かごをさらに弱いもの(たとえばアルミニウム製または鉛製のもの)に変えて実験を行う計画である。
 なお、この実験結果の力学的見地から、実物相当のものについてかごを設計してみると鉄量約60〜80tになる。