原子力平和利用研究の紹介

 昭和31年度原子力平和利用研究のうち、株式会社科学研究所(岩瀬栄一)の実施した「カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究」(委託金額8,962千円)と同じく科学研究所(山崎文男)の実施した「携帯用電離箱式中性子測定器の試作研究」(補助金額2,910千円)の二つをえらんで紹介する。

カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究

 カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究を昭和30年から科学研究所(岩瀬栄一)に委託したので、その内容を紹介する。
 四弗化ウランをカルシウムで還元すれば、短時の白熱高温反応によってウラン金属が塊状で得られる。
 ウラン製造のこの根幹方式を修得することは、わが国の原子燃料対策面からきわめて重要である。
 この製造過程は次の三つに大別される。

(1)溶剤抽出による硝酸ウラニルの精製
(2)硝酸ウラニルから四弗化ウランの製造
(3)カルシウムによる四弗化ウランの還元

 これらの各過程について研究の結果を以下に述べる。

1. 溶剤抽出による硝酸ウラニルの精製
 年間1,000kgの硝酸ウラニルを精製する能力のある脈動充填塔(第1図および第2図参照)を用いて溶剤抽出とストリッピングとをそれぞれ連続的に試験した。塔の有効高さは1,600mm、内径30mmで、塔内には8×8×1mm3のステンレス鋼製ラシッヒ環を充填した。脈動発生装置で生じた脈動流は塔底から入り塔に供給される液は圧縮空気によって圧力槽からヘッドタンクに送られ、ヘッド一定のもとに流量を調節される。1l につきUO2(NO32 50gおよび硝酸6モルを含む水溶液を原液とし、これをT.B.P.ケロシン溶液(T.B.P.の容積濃度20%)で抽出し、この抽出液を純水でストリップした。脈動の条件は次のとおりである。

空筒当りの振幅   16mm以下
振  動  数   120サイクル/分以下
各液の流量比
抽出の場合    原液:T.B.P.液=1:1
ストリッピングの場合 T.B.P.液:ストリップ液=1:2.5
全回収率     96%

     第1図

第2図

 振幅および振動数を大きくするほど塔の性能は増す傾向にあるが、これらをあまりに大きくすると消費動力が増すほかに重液側廃液に軽液粒滴が随伴し、あるいは軽液側廃液に重液粒滴が随伴するという現象がおこり、さらに充填したラシッヒ環が踊るようになる。これらの障害は装置の構造を改良することによってある程度は防止できる。脈動の最適条件としては空筒当りの振幅5〜10mm、振動数70〜100サイクル/分であることを知った。また水または有機溶剤のいずれを連続相にしても分散相にしても操作に影響を与えない。塔に供給される両液の流量を増せば溢流点とよばれる状態に達する。この点での両液の流量の和はその際の振幅と振動数とによって異なるが、30〜42m3/m2hrの範囲にある。
 塔方式で物質移動を連続的に操作する場合に塔の性能を表わすHTU(Height of a Transfer Unit:1移動単位当りの充填の高さ)とよばれる長さの次元をもつ尺度がある。これが短いと塔の性能は良好なことになるが、抽出原液基準のHTUは実際操業条件下では0.3m前後であって振動数、振幅、流量、流量比などの影響を受けることが少ない。

2. 硝酸ウラニルから四弗化ウランの製造

精製した硝酸ウラニルから四弗化ウランを製造するには次の3種の方法を試みた。

(1)まず硝酸ウラニルを水に溶かし、過酸化水素で処理して過酸化ウラン水和物を沈殿させる。この沈殿のか焼によって得た三酸化ウランをさらに水素気流中で加熱還元して二酸化ウランとした後、弗酸を作用させて四弗化ウラン水和物の沈殿をつくり、これを脱水する(二酸化ウラン・弗酸法)。

(2)前述のようにして得た三酸化ウランに約450℃でフレオン(CF2Cl2)を作用させる(三酸化ウラン・フレオン法)。

(3)硝酸ウラニル水溶液を塩化第一錫で還元してウランを6価から4価の状態に移行し、これに弗酸を加えて四弗化ウラン水和物を沈殿させ、水洗後脱水する(錫還元湿式法)。

 このようにして得た四弗化ウランについて次のような分析を行った。採取した試料を蓚酸アンモニウム溶液(濃度約5%)で浸漬した後に残留するウランの量を測定し、また蒸溜水で浸漬して水溶性部分のウラン量および塩素量を測定した。第1表にこれらの結果を示す。
 反応の際に残存するウラン酸化物を製法に応じて二酸化ウランまたは八三酸化ウランと推定してこれらの%を知り、さらに弗化ウラニル、塩化ウラニルまたは四塩化ウランの%を算出し、全体を100とみなしてこれらの夾雑物をさし引いてかりに四弗化ウランの含量を推算すれば第2表のような結果を得る。
 二酸化ウランに弗酸を作用させて得た四弗化ウラン水和物を加熱脱水する際の温度が550℃(試料番号1)ならば製品中の四弗化ウランの含量は97.5%であるが、700℃(試料番号2)ならば減少して96.8%となった。
 三酸化ウランを石英管に詰めてフレオンを450℃で通過させる場合に、石英管の内径を23mmから45mmにして一度の処理量を約6倍に増すと弗化反応の進行は十分でなく、製品の四弗化ウラン含量は少ない(86%前後、第2表の試料番号5〜7参照)。よってまず450℃でフレオンを作用させた後に石英管から取り出して粉砕し、これをふたたび石英管に詰めて460〜470℃でさらにフレオンを作用させて十分に弗化を行った。その結果第2表の試料番号8〜11に見るように製品中の四弗化ウラン含量は96.2%にまで上昇した。

第1表

第2表


3. カルシウムによる四弗化ウランの還元

 第3図および第4図に反応器および加熱用外套を示す。この反応器の一度の最高処理能力は四弗化ウランとして約14kgで、得られる金属ウラン塊として約10kgである。反応器の底に弗化カルシウム製ルツボを入れ、それより上方の反応器の内側斜面は弗化カルシウムで内張りする。


第3図


第4図


第5図

 四弗化ウランの還元剤として用いるカルシウムは酸化カルシウムを減圧下でアルミニウムによって直接に還元し、さらに再蒸溜を行った製品である。これをけずって厚さ約0.2mm、幅約2mmで長さが約50mmの粗片または長さが4〜5mmの細片あるいはこれらの中間の長さのものにし、石油中に漬けて保存した。使用に際してはベンゼンついでエーテルで洗った。
 反応器に詰める以前に四弗化ウランとカルシウムとはアルゴン雰囲気中で機械的にかきまぜられるか(第5図)またはそれぞれを3等分(充填量が多いときには5等分)してから手早く別々にさじで混合する。充填後に反応器の蓋を閉じ、ポンプで減圧してアルゴンを流入する。このようにして反応混合物の粒間に存在する空気をアルゴンで洗い出す。四弗化ウランとカルシウムとの間の激しい発熱反応は石炭ガスの長い炎を反用いて始動させたが、これに約30分先だって反応器の外側を囲むニクロム線に通電し(8kW)反応開始後もこの電気的加熱を約10分間つづけた(時には約60分にもおよんだことがある)。ただし後述の第4表実験番号11ではこの加熱を全然省略した。
 高温の熔融ウラン金属が空気に触れると酸化その他の変化を受け、スラッグと金属との分離が悪くなるので反応器の蓋を開き常圧のもとで着火して反応が始動したらなるべくすみやかに(通常約30秒以内)蓋を閉じポンプをはたらかして減圧のまま放冷するかまたはアルゴン気流中で放冷する。
 反応物質の性状、反応量、混合方法、充填度、反応器内の雰囲気などとともに金属ウラン塊の収率を第3表に示した。これらの実験で用いこたカルシウムの量は

UF4+2Ca→U+2CaF2

 なる反応式から計算した理論量の17〜21%過剰である。
 二酸化ウラン・弗酸法でつくった四弗化ウランの場合にその脱水処理を550℃で行ったものではウラン塊の収率が86%であった(第3表実験番号1)。しかし四弗化ウランの脱水を700℃で行い、その装入量を実験番号1の2倍以上にした場合にはウラン塊の収率は58%に減少した(実験番号2)。四弗化ウランの蒿比重は実験番号2では実験番号1より大きかったが、四弗化ウランの純度は第2表に示したように低下していたためにウラン塊収率の減少をきたしたのであろう。四弗化ウランの脱水に際して過度の高温は避けるべきであると考えられる。
 錫還元湿式法の四弗化ウラン水和物を600℃で脱水した場合の還元成績は第3表実験番号3に示したようにウラン塊の収率として不良ではないが、四弗化ウラン製造の際に錫を完全に除去することが困難であってウラン中に錫が合金として存在する可能性があると推定される。
 次に三酸化ウラン・フレオン法の四弗化ウランについて行った還元実験を述べる。内径23mmの石英管を使用し三酸化ウランにフレオンを作用させて得た四弗化ウランから出発してこれにさじを用いて細かいカルシウム(混合量は理論量の21%増し)を人手でまぜ、小型反応器(容量四弗化ウラン3kg用)内で還元を行えばウラン塊収率は83%で比較的高い(実験番号4)。しかし内径45mmの石英管を使用し三酸化ウランにフレオンを作用させて得た四弗化ウラン(弗化温度450℃)では、還元反応器を大型(容量四弗化ウラン12kg)、カルシウムの混合量を理論量の15〜16%増しという条件に限定してカルシウム片の大きさ、反応物質の混合方法(機械的または人手)および還元反応始動後ポンプで減圧するまでの経過時間を種々に変えても実験番号5〜7に示すようにウラン塊の収率は60〜63%で高くはなく、スラッグ中に残るウランがかなりに多い。このおもなる原因は四弗化ウランの純度が86%前後(第2表参照)で、他の形のウラン化合物をかなりに夾雑することにあろう。よってフレオン処理を繰り返えし弗化反応を完結させて得た四弗化ウランを用い、これに混合する還元剤であるカルシウムの量を変えて還元実験を試みた(第4表)。
 用いたカルシウム片は中間の大きさであった。この際四弗化ウランとカルシウムとはそれぞれを3等分してさじで別々によく混合して反応器に順次に詰めた。第4表に見るようにウラン塊収率は高く、カルシウムがある程度以上に過剰な場合には生じるウラン塊は理論量に近い。したがって還元の際に用いるカルシウムを理論量より過剰にすることはスラッグと金属との分離をよくしてウランを一つの塊に集めるのに有効である。
 なお第6図は実験番号2で得たウラン塊の縦断面を示す。図の下部はルツボの底にたまった部分であり、上部はスラッグと接する部分で巣があり、スラッグの巻き込みが見られる。第7図は還元反応の結果金属ウランおよびスラッグの生成した状態を実験番号5について示したものである。反応始動後ポンプで減圧するまでに3時間を経過させたのでスラッグは静かに放冷されて内部の乱れが少なく帯状構造が認められる。スラッグの濃緑黒色部の一部をとって分析した結果U3O8として4.5%のウランが混在していることを知った。生成したスラッグは通常はかたくてこれからウランを回収するに当って粉砕に困難を感じる。しかるにカルシウムの装入量を理論量の44%以上過剰にすると生成したスラッグを空気中に放置した場合に風化して微粉となる。これはスラッグの弗化カルシウム中に混在する酸化カルシウムが水分と炭酸ガスを吸収して水酸化カルシウムと炭酸カルシウムに変化して自然風化が起るためで、スラッグ中のウランを回収するのに特にそれを粉砕する必要がないことになる。
 得られたウラン塊を真空中で1回熔解すれば比重は18.8〜18.9、ビッカース硬度値300以下となり、鋳塊の健全なことを示すが、熔解炉の型式が傾注式である限り、反応容器で還元の際に金属ウラン塊中に巻き込まれたスラッグを1回の熔解で完全に除去することは困難なようである。



第6図

第7図

第3表

第4表


携帯用電離箱式中性子測定器の試作研究

1. 研究の目的
 他の放射線測定器と違って中性子の測定器は種類が少ない。本研究の目的は、熱中性子用測定器として硼素を被覆した電極をもつ電離箱の試作研究を行い、それを携帯用として中性子測定の簡易化、人体防御等に役だてることである。

2. 研究の内容
 硼素被覆型電離箱を製作するとき第一に問題となるのは硼素の被覆方法であるが、これを蒸着法で行うことに成功した。これはグラファイト棒に溝を掘り、そのなかに硼素を充填し、大電流を通して非常な高温を得る方法によった。中性子の測定を行う際には多くの場合多量のγ線が存在するところで行わなければならないので、γ線の影響をできるだけ小さくするため、電極間隔その他について試験を行った。作成した電離箱についてBF3計数管と比較して効率等の検討を行った。

3. 研究結果

(1)硼素の真空蒸着
 電離箱の電極面に硼素を塗布する方法として真空蒸着法を採用した。硼素を蒸着した例が今まで少ないのは、その融点が2,300℃ということからわかるように、硼素の蒸気圧を蒸着に適するまでに高めるには非常な高温にしなければならないからである。一方そのような高温では硼素は種々の金属と反応するため、容器の材質が限定されてくる。種々な基礎的実験で蒸着を試みた後、高純度の黒鉛棒に溝をつくり、ここに硼素を充填し電流で加熱することにより硼素の蒸着を行うことができた。
 長さ3cm、断面積4×4mm2の高純度の黒鉛棒の中央にボート型に溝を掘り、その中に金属硼素の粉末を十分圧縮しながら充填する。不純物による中性子の吸収等を避けるため金属硼素は99.9%のものを使用した。1回に充填できる硼素の量は約30mgである。硼素を充填した黒鉛棒をさらに40mmφの黒鉛棒で支え、接触部分の抵抗が高くならないように両側から黒鉛棒を十分押してやり、硼素を充填した黒鉛棒を堅くはさむ。この加熱部分を熱の遮蔽物で包み、ベルジャーの中に入れて真空に引く。黒鉛棒には交流を約300Aまで供給できる。温度の測定には熱遮蔽物の側面に穴をあけ、光高温計を使用して硼素を充填した黒鉛棒の温度を測定した。黒鉛棒の部分を第1図に示す。


第1図黒鉛棒の部分


第2図 電流−温度関係曲線

 蒸着を行うに先だって、黒鉛棒に流す電流を徐々に増してやり、温度が約2,300℃になると硼素が融解し始めるが、粉末状態で熱が伝わりにくいため、完全に融解させるには黒鉛棒を約2,500℃くらいまで加熱しなければならない。硼素粉末をいったん融解させないでただちに蒸着を行うと、充填された硼素の一部分だけが特に高温になったり、粉末の一部が直接電離箱の電極面に付着したりしてきれいな蒸着面を得ることができない。硼素を融解した後、電離箱の電極に使用するアルミニウム円板を黒鉛棒の上部に置き、1,700〜1,800℃の温度で十分ガス出しをした後蒸着を行う。蒸着を行うときの真空度は約10-3mmHgである。黒鉛棒に電流を流したときの電流と温度の関係を第2図に示す。ここで 2,100℃ 近辺では30分間蒸着を行ってもアルミニウムの表面にやっと見分けられるくらいの蒸着物が付着する程度である。黒鉛棒の温度が2,200℃以上から急に蒸着量が増してくる。温度が2,300℃から2,400℃になると短時間で相当量の蒸着が認められる。黒鉛棒の温度を2,500℃以上にすると棒自身の蒸発がおこり、蒸着中に折れるようなことがあるので好ましくない。普通蒸着は2,300℃の近辺で行った。この温度で硼素を充填せず同じ操作をやっても炭素の蒸着物は認めることができない。
 硼素膜の厚さは、硼素が熱中性子を吸収する割合、B(n、α)Liの反応によって生じたα粒子、Li粒子の硼素膜内における吸収等を考慮して決定される。この厚さは硼素を被覆した電極を平行に幾枚かかさね合わせて使用する場合には、熱中性子の吸収を考慮して電極の枚数が多くなるにしたがって薄くしなければならない。上記反応によって生じたα粒子の硼素中における飛程は0.7mg/cm2であるから、硼素膜を1枚使用したとき、厚さをこれ以上にしても中性子がむだに吸収されるだけで無意味である。試作した電離箱は硼素膜が20枚使用してあり、この場合に最もよくα粒子、Li粒子に電離箱中で電離をおこさせる厚さを計算から求めると0.4mg/cm2となる。1回に蒸着できる量は約0.1〜0.2mg/cm2であるから、同じ操作を何回か繰り返して所定の厚さを得る。

(2)電離箱
 中性子の測定は通常強いγ線の存在するところで行われる場合が多い。このため中性子用測定器は中性子に対する効率が良いとともにγ線の影響を受けることが少ないことが望ましい。理想的にはγ線の影響を受けることのないγ線補償型電離箱が望まれるが、第1段階としてγ線の影響を少なくするため、電離箱の有効体積をできるだけ小さくするようにした。一方B(n、α)Liの反応によって生じる反跳Liおよびα粒子はそれぞれ一定の飛程を持っているため、硼素を被覆した電極の間隔をむやみに短くすることはできない。この電極間の距離を中性子に対する効率を落さないで実際どのくらいまで短くするかを知るため、次のような実験を行った。まず電極間の距離は一定に保ち、電離箱内に封入してある空気の圧力を変化させて中性子に対する効率がどのように変化するかを調べた。この結果を第3図に示す。このときの電極の間隔は9.6mmにとった。B(n、α)Liの反応によって生ずるおもなグループのα粒子の飛程が9.6mmになるときの空気の圧力は約610mmHgであるが、図からわかるように約半分の飛程の300mmHg近辺から中性子に対する効率はあまり変っていない。この結果中性子に対する効率が封入気体の圧力すなわち封入気体の気圧を一定にしたときの電極間の距離によって急激に変化しないこと、主グループのα線の飛程距離の約1/2まで電極間隔を縮めても実際に中性子を検出する効率に大きな影響をおよぼさないこと等がわかる。
 試作した電離箱の構造の略図を第4図に示す。直径8cmのアルミニウムの円板に硼素を蒸着させ、全部で11枚かさね合わせる。この11枚のうち5枚は直流増幅器の入力側に接続する集電荷用電極で、他の6枚は電圧印加用電極で互違いに組み合わされている。さきに電離箱内の気圧を変化させて中性子の効率の変化を調べた実験をもとにして、電極間隔は5mmにとった。高圧印加用電極、集電荷用電極はそれぞれ電離箱の底部に固定された3本の柱により支えられている。絶縁物にはポリスチレンのモールドしたものを使用している。電離箱にかける電圧は、直流増幅器の2段目の増幅器の第二格子に電圧を与えるために使用している電池22.5Vを電極に印加する電圧電源用として併用している。封入気体としてアルゴンガスと乾燥した空気を使用してみたが、特に著しい違いは認められなかった。携帯用にするためには測定器が軽いということも一つの条件になるが、一気圧の乾燥空気を使用すれば、ガスを封入する際電離箱を真空に引く必要もなくなり、それだけ軽く作製できるので、封入気体には一気圧の空気を使用することにした。
 電離箱内で生じた電離電流は、ポリスチレンのモールドによって絶縁されたリードをとおり前置増幅器に入る。電離箱の印加電圧に対する電離電流の特性曲線を第5図に示す。



第3図 電離箱内の空気の圧力と中性子に対する効率との関係曲線

第4図 携帯用電離箱式中性子測定器断面図


第5図 電離電流-印加電圧特性曲線

(3)直流増幅器
 電離箱内に生じた電離電流を測定するため、電池を電源に使用した直流増幅器を試作した。主として参考にしたのはSchedeの回路で、これはZeutoの回路を改良したものである。初段の増幅器として電位差計用真空管7502を使い、グリッドリーク抵抗として1012Ωの値のものを使用した。普通直流増幅器は交流部分の饋環を完全にするため高抵抗に並列に数pf程度のコンデンサを入れるが、このコンデンサの絶縁は1015Ω以上が要求されるので、しばしば絶縁不良のため雑音の原因になりやすい。これは高抵抗を封じ込んであるガラスの表面の一部にアカダックを塗り、内部の抵抗との間に容量を持たせれば、特にコンデンサを使用する必要がないことがわかった。電離箱内の硼素の被覆面積は大きいほどよいが、これを大きくすると直流増幅器の入力側の容量が増すため時定数が大きくなり好ましくない。電極を10枚使用したときの入力容量は約65pfであった。初段の増幅器は電離箱の後部に組み込み、乾燥剤を入れて湿気を防ぎ、気密にし、光の入らないようにした。この初段の増幅器はケーブルコネクタによって領段の増幅器に接続する。必要の時はケーブルによって両者を接続することもできる。増幅器の零点変動は10-14A以下である。

4. 得られた成果
 硼素の蒸着は蒸着温度によって非常に影響を受ける。実験の結果、黒鉛棒の温度を約2,200℃から2,300℃のあたりに保って蒸着を行えばよいことがわかった。
 電離箱の絶縁物にはすべてポリスチレンを使用し、直流増幅器の各接点に注意を払って雑音レベルの低い増幅器が得られた。官流増幅器には100%環回路を使用して安定した増幅度と長い直線性を得ることができた。増幅器の感度はフルスケールで5×10-13Aである。中性子源としてサイクロトロンで加速した重水素イオンをベリリウムのターゲットに当て、反応によって生ずる速中性子をパラフィンで減速したものおよびRa−Be(Ra100mc)から出る中性子を使用して試作した硼素被覆型電離箱の性能試験を行った。BF3計数管式の測定器と比較を行い、この結果熱中性子に対する感度は1n/cm2/secの中性子束に対して、約3×10-15Aの感度をもつ。5日間(24hr/day)にわたって熱中性子を受けた場合、0.3remの線量を生じる中性子束は600n/cm2/secで、このとき電離箱には1.8×10-12Aの電流が流れるから容易に中性子束の許容限度を検出することができる。