原子力委員会参与会

第10回

日時 昭和32年11月21日(木)午後2時〜5時

場所 第三公邸

出席者

稲生、大屋、茅、菊池、児玉、瀬藤、田中、中泉、伏見、
岡野、高橋、大来、朝田各参与
石川、藤岡、有沢、兼重各委員
関係省庁 通産省宮本物資調整課長、公益事業局後藤管理官、
文部省村上情報室長
佐々木原子力局長、法貴局次長、島村政策課長、荒木調査課長、
藤波管理課長、ほか担当官
日本原子力研究所 駒形理事長、嵯峨根副理事長、木村理事、今泉監事
原子燃料公社 今井理事

議題

 (1)石川委員帰朝報告
 (2)その他

配布資料

 第9回参与会議事録

議事内容

 石川委員:今回の旅行は、10月28日まで開催が予定されていた国際原子力機関の会議に出席することが第一の目的であった。28日閉会の予定が24日になり、26日から欧州の各国を歴訪した。
 今度の国際原子力機関第1回総会は昨年秋の創立会議に参加した82ヵ国のうち国会の承認をうけた59ヵ国(会議開催中に加わったフィンランドを含む)が正式に出席し、他の国はオブザーバーとして代表を送った。
 第1回総会の目的は理事国の選出と準備委員会の報告書の討議採択であり、主催国オーストリアの相当な方が議長となって10月1日から開かれた。
 まず理事国を10ヵ国選挙し、理事国の数は23ヵ国となった。日本はすでに理事国として決定した13ヵ国に入っている。新しく選挙された理事国には1年と2年の任期があり、その区別は選挙によった。
 ついで委任状の審査があり、中国とハンガリーが問題になった。中国は中共との関係があり、ハンガリーは動乱後の政府を正式な政府とみなすかどうかが議論されたが、米国から問題にしなくてもよいとの仲裁案がでて、米国案どおり裁決された。
 準備委員会での決定を審議するのにいくつかの委員会を開き討議したのちに総会にかけた。会費割当の委員会もあり、今後加入する国のあることも考えて100%の割当は行わないことになり、日本は全体の1.89%に相当する約8万ドルを割り当てられた。全体の金額は約400万ドルである。さらに今後の原子力機関の運営についても会議を開いた。ソ連圏諸国から中共を参加させようという動きがあったが、中共が国連に加盟していないという理由で否決された。 ニューヨークで開かれた準備委員会の案を採択するとき、賛否を挙手で示し、その結果多数の意見を採用するとして決をとるときには、それまで反対の意見をもっていたものもそろって挙手をしていた。これは民主主義的な思想の現れと感心した。
 日本の代表として「日本はいままでも各国の助けを借りてやってきた。これからもりっぱにやっていきたい。」という岸首相からのメッセージを読みあげた。日本からの注文としては、早く安全規準を世界的に決めてほしいこと、機関から核燃料の提供をうけた国に対する管理の内容、フォールアウトの資料の公開、また、各国に核燃料を提供するには将来までも永続するような形で提供してほしいということなどをのべた。
 日本はカナダとともに特別総会の副議長に選出され、原子力問題では世界の注目の的となっていることを感じた。国際原子力機関の事務局長にはスターリング・コール米代表が選出された。事務局長の下に次長を数人おくことになっており、この次の総会で決めるはずである。
 事務局はウィーンにおかれる。国際原子力機関は国連と連絡をとり原子力問題についてはprimaryの責任をもつということになったが、国連には従来から原子力に関連のある分野を受け持つ下部機構があり、それらとの仕事の分担が今後一つの問題となる。事務局の人はウィーンで外交官の特権を与えられ、日本からも候補者をだしている。ウィーンは物価が安いという利点がある。職員は職務上知り得たことを話してはいけないのはもちろんだが、日本人から職員として採用される場合問題は語学だ。ドイツ語といってもちょっと変ったものらしい。日本からだすには技術者の方がよいと思う。むこうには商社もないし、頼るのは公使館だけで車は1台、人員は4名にすぎない。理事は駐オーストリア公使の古内さんにお願いするが、アタッシェを置く必要があると思う。
 来年は9月22日に総会を開く予定であるが、まだ人も集まらず、事務所も決っていないので、それまでにどの程度仕事ができるか疑問である。世界の主要な発進国を除くと原子力関係の法規が制定されている国はまれであって、せっかく国際原子力機関ができてもお客さんの方の態勢が整っていないという点もあり、機関が満足に動きだすのはかなりあとのこととなるであろう。
 原子力機関の総会を終ってまずイタリアにいった。イタリアにはまだ原子力関係の法律はできていない。小さな物理実験の装置をもっている。イタリア南部に15万kWの原子力発電所を造る計画をもっており、先月いっぱいに米・英・加・仏の各メーカーにinvitationをだし、それによって、具体化するつもりらしい。イタリアは南部に電源が少ないようである。
 ドイツの原子力開発の態勢は進み方がにぶっているような印象を行く前からもっていたが、行ってみるとはたしてそうであった。これは連邦政府と州との関係が、連邦よりも州が強いような状況にあるのが原因で、ドイツの原子力法は州に対してあまり強制的なことをしないのをたてまえにしている。
 ユーラトムはまだベルギーが調印しておらず、ルクセンブルグも遠からず調印するという段階である。事務所の設置箇所も未定で、今のところ歩みがおそいようである。もっともドイツで聞いたところでは、大丈夫順調にいくといっていた。
 スイスは国民投票による意法改正をまたなければ原子力法を制定することができない国情にある。現在はスイスには原子力委員会はなく、民間会社がチューリッヒから20マイルの田舎にスイミングプール炉を設け、天然ウラン重水型の原子炉を造っている。山の中のことであり、水の処理をどう考えているかを聞いたが、因っているようだ。地理的に近いドイツから排水に関して苦情がでたようだ。ジュネーブ市近郊にはセルンがあり、250億電子ボルトのプロトンシンクロトロンを建設中で、これは、完成すれば世界最大の原子核破壊装置となる。
 ノルウェーでは2万kWの炉の建設を考えているようだ。
 スエーデンでは中立的な態度を原子力の開発に際しても心がけている。機械などで自国内では製造できないものは地下工場に設けて保護している。
 以上の国々の一般的な印象としては、法律もないのにやっている国もあって、いわば中学生が器用さからラジオをいじって造ってみているのに似ていると思った。放射線防御のための安全装置などはあぶないものだ。それともう一つ技術者の少ないことが感ぜられた。特にスイスは少ないようである。
 イギリスに行くと、ウインズケール原子炉が事故を起したところで、日本の世論に対する影響を気にしていた。プラウデン卿が国会に呼ばれ事故原因調査委員会ができたが、部内者のみの委員会で調査したのではだめだという非難が野党から起った。しかしウインズケール原子炉の調査は軍機にふれることがあるという理由でその非難はおさまった。調査の結果発表されたところでは、事故の原因は操作員のあやまりで組織上の欠陥もあったということであるが、単にグラファイトのウィグナーリリースという操作の失敗だけでなく、なにか軍事上の秘密の仕事をしていたのではないかという声もある。コールダーホールにも行って来た。今度で3度目である。ウインズケールの事故を意に介せず働いていた。プラウデン卿は、「ウインズケールのような事故はコールダーホールにはない。しかし人のやることだから全然なにもないと保証はできない。」といっていた。バークレーの15万kW発電炉の工事をみてきた。完成後は85%の負荷率を考えている。ドーンレイは発電が最大の目的ではなく、濃縮燃料を使って増殖の試験をする炉である。材料試験炉もかたわらにもち、化学工場も併設し、合計2千万ポンドをつぎこんで研究のためのセンターとするものである。
 欧州の各国とも日本との情報交換はぜひやりたいといっており、ドイツは協定を作ってそれを実現したいといっていた。

 瀬藤参与:イタリアは英国の四つのグループの一つと発電炉を購入する契約を結んだというが。

 石川委員:それは信じられない。

 岡野参与:英国は2千万ポンドをドーンレイにつぎこむというが、資金使用上の監督の程度や、へんぴな場所にそのような設備を造ることに対して問題がおきないかということを機会があれば確かめてほしい。

 大屋参与:日英協定できめたことと国際原子力機関できめたこととがくいちがっていたらどうなるか。

 石川委員:日本の初めの案では、国際原子力機関できめたことをそのまま英国との協定にもちこむという考えであったが、英国の考えはそうでなく、相違がでたときに、おたがいに話しあっていこうとするものである。国際原子力機関の精神にもとづいて、当事者がきめていくのが一番よいと考えている。