国連放射線影響科学委員会提出報告について

 第10回国際連合総会の第550回本会議における提案にもとづいて人体および環境に対する放射線の影響に関する国際的調査研究を行うための科学委員会が設置されることとなったのは昭和30年12月のことであるが、これにもとづきすでに3回の会合が開かれたことは本誌においてもすでにその都度紹介してきたところである。

 このたびその第4回の会議が開催されることになったので、原子力委員会においてはこれに提出する報告論文についてかねてから関係方面と協議を進めていたが、10月5日開催された第39回定例委員会において提出する報告の抄録(提出報告書)について報告、了承された。

 以下にその報告抄録を紹介する。

国連放射線影響科学委員会第4回会議に提出する報告の抄録

1. フォールアウトおよび汚染物質中の Sr90,Cs137,Pu239の分析 Analysis of Sr90,Cs137 and Pu239 in Fallout and Contaminated Materials.

斉藤信房(東京大学)およびその協力者

 前回の国連への報告(Sr90の分析)の後、各種物質中のSr90,Cs137の量に関するデータが蓄積されたし、Pu239の地面付近の大気中の濃度のデータもえられたので、ここに日本での放射能調査に用いられているフォールアウトと汚染物質中のSr90,Cs137,Pu239の分析方法をまとめた。

1.Sr90とCs137の放射化学的分離

2.Sr90 とCs137の計測法

3.Pu239の放射化学的分離

2. 核爆発実験に起因する空気中の放射能の肺臓に与えられる線量の評価  Preliminary Estimate of the Dose Given to the Lungs by the Airborne Radioactivity Originated by the Nuclear Bomb Tests.

         道家忠義(立教大学)

 今まで核爆発によってできた放射性塵の肺臓に与える影響は研究されていなかったが、それは、その影響が微小であろうと考えられていたことと計算が困難なためであった。
 しかしこの問題の重要性にかんがみ、ここ3年間の平均値を算出した。その結果はこれが無視できない量に達していることが判明した。

3. 地表より人骨に至る将来のSr90レベルの推  A Measure of Future Sr90 Level from Earth Surface to Human Bone.

 檜山義夫(東京大学)およびその協力者

 地表に蓄積される放射性降下物について、その降下量と減衰率を考慮して将来の蓄積量を計算した。なお、動植物中のSr90の量の分析測定値から、人間がそれを食餌として摂取する場合について、食習慣によりSr90の摂取量が異なるから日本人の場合について計算を行った。さらに人骨への蓄積量を推定した。
 定められている人体における許容量から逆に地表にどれだけ放射性降下物が降ってもよいかを推算した。その結果現在ではまだ許容量に到達していないが、許容量として80mc/km2が考えられるので将来の核爆発実験のいかんによって許容量に達することは十分考慮される。

4. 放射線障害の緩和に関する最近の研究の概観  Supplemental Review of the Recent Researches on the Alleviation of Radiation Hazards.

 樋口助弘(東京慈恵医大)およびその協力者

1)放射線障害緩和に関する最近の研究を抄録し前回の報告に追加する。
2)チステーン、チュテアミンやその他のアミノ酸は現在でもなお放射線障害予防剤としてとり扱われている。
 佐藤はアミノ酸がその化学構造式から放射線障害に効果があるものとして、その作用機序を知るべく努力した。
 樋口、藤井は、チステーンを同一量使った場合放射線障害予防に内服は注射の1/2の効果があることを認めた。
 堀江はチステーン、ハイボー、コバルトクロロフィリンが廿日鼡にP32をNa2HP32O4の形で腹腔内注入した場合その障害緩和の効果限度を明らかにした。
 小林はX線による白血球減少症に対するチステーン、メチオニン併用効果を認めた。
 入江、早川、藤本等は dl−trans(or−cis)−2amino−cyclo−hexane−thiol−hydrochloride なる化学物質が放射線障害に効果的であることを報告した。
3)放射線による代謝の失調や栄養失調を早く回復させる薬剤
 山本その他は廿日鼡の実験でエチルアルコールがX線障害の回復を早めることを報告した。
 藤井は、放射線障害に対する蛋白の効果を述べた。
 樋口、野村は放射線障害に対する発酵乳の効果を臨床的に証明した。
 樋口その他はアドレノクロームAC17が放射線血液障害に対し治療的効果のあること、ことに血液を増すことを述べている。

5. ある種の放射性同位元素P32、Sr89、Ce144の少量頻回投与による廿日鼠の白血病発生に関する実験的研究   Experimental Studies on the Development of Leukemia in Mice with Frequent Administrations of Small Doses of Some Radioactive Isotopes(P32,Sr89,Ce144

 渡辺  進(広島大学)

 Leukemia と放射線との関係は研究されており、Leukemia の発生はX線(放射線量)と平行するといわれているが、この実験では動物にアイソトープを用い内部照射による影響を観察した。
 実験の結果はTableに示されている。

1. 1.0μcの高線量のP32投与ではLeukemiaの発生はない。
   P320.3〜0.5μc程度の投与では41.7%の高率で発生している。
2. 経静脈性投与が最も Leukemia の発生が高い。

6. コロイド状放射性燐によるコロイドアイソトープ障害による放射線障害の実験的研究
 Experimental Studies on Radiation Injury by Colloidal Radioisotope−Liver Injury by Colloidal Radioactive Chromic Phosphate CrP32O4

 三吉和夫、北村正、大月和夫、緒川桂之、
 三輪四郎(東京大学)

 放射線によって直接肝臓障害の現われることはまだ解明されていない。肝臓の放射線感受性は造血臓器のようなものに比べてずっと低いので、肝臓障害の所見は、照射後何ヵ月か後に初めて明らかとなる。
 そこでこの実験は、実験動物としてマウスを使用し、肝臓はコロイド状放射線燐の注射によって選択的に照射され、その効果を6ヵ月にわたって観察した。
 実験の結果による肝臓障害の所見は、

1.肝臓は内部照射により障害された。
2.肝臓障害を作るに必要な条件は、マウスの体重グラム当り一回照射0.75〜0.50mc CrP32O4(これは1.0〜10.0×104radの肝臓内部線量に相当)が観察に適当と思われる。

3.肝臓変化は注射後20日までは見られなく、それ以後に現われた。

7. 日本における放射学的データII
  地表の各種物質中の Sr90,Cs137,Pu239 の濃度
   Radiological Data in Japan II.

 檜山義夫(東京大学)編

 前回の国連提出のデータの改良したものを含む。おもに最近にえられたデータである。各種物質中のSr90,Cs137,Pu239のほかに、誘導生成物たとえば、Zn65,Cd113,Fe55も含んでいる。

1.雨水を濾過せず直接飲用とするものについて
2.降下物(precipitation)雨水+フォールアウトについて
3.表面水および沈積物
4.土壌
5.植物、豆類、果実、穀類
6.陸せい動物
7.〜8.淡水性動物と海水性動物
9.食品
10.人骨

 以上のものについて、gross activity,Sr90分析値などを測定別、品種別などで示した。

 なお、そのmax値などについても言及した。