原子力委員会参与会

第 8 回

日 時 昭和32年9月24日(火)午後2時〜5時

場 所 内閣総理大臣官邸

出席者

 稲生、大屋、瀬藤、田中、中泉、松根、三島 安川、岡野、高橋、

 大来(代武藤)、緒方(代岡野)、朝田各参与

 正力委員長、石川、藤岡、兼重各委員

 青田政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、島村政策課長、

 井上、亘理両調査官、荒木調査、堀助成各課長、ほか担当官

配布資料
1.英米両国との協定交渉に当っての原子力委員会の意向概要
2.国際原子力機関の第1年度の事業計画と予算に関する準備委員会の報告書(草案)
3.1957年6月24日付ハマーショルド国連事務総長発外務大臣あて公信第PO131/221号(仮訳)
4.実用発電炉の受入主体について(閣議了解)
5.日本原子力発電株式会社設立準備委員名簿
6.日本原子力発電株式会社発起人名簿
7.日本原子力発電株式会社役員推薦候補者
8.第7回参与会議事録

議 題
1.長期計画について
2.英米との一般協定について
3.国際原子力機関について
4.動力炉受入体制について
5.その他

議事内容
 石川委員:委員長の御出席をいただくまで、さきに「国際原子力機関について」という議題で御説明申しあげる。10月1日から4週間にわたって国際原子力機関の会議がウィーンで開かれる。昨年秋ニューヨークに81ヵ国が集まって機関の規約に署名する会議を行った。日本を含む70ヵ国が会議の最終日である10月26日に署名、調印し、日本は国会の承認をも得て批准書を米政府に寄託し、米、英、ソ連、フランス、カナダを含む18ヵ国が批准書を米政府に寄託したので憲章は発効を見た。今度はまず調印を終った国によって準備委員会ができ、今後何をやるかの方針をきめ、だいたいそれでよいとなれば、小委員会を作って論議をすることとなる。今度の会議で議題にのぼる大きな問題としては、事務局長の選出、機関の事務局に何人いれるか、その人選および待遇ならびに農業方面の放射性同位元素利用の会議など国連の下部機構との連絡等の問題がある。なお、理事国の選挙も大きな問題で、23ヵ国が理事国となるが、そのうち日本を含めて13ヵ国が決定しており、残りの10ヵ国を選出することとなる。第1年度の予算の決定、中共を機関に加えるか否かの問題も起ってくると思う。イタリアの原子力委員の1人に会うが、イタリアは民間で原子炉を導入しようとしているので、その模様を聞いてみるつもりである。イギリスではメーカーが仕事をたくさん控えており、バブコックが熱心なだけで、他のメーカーは日本の注文をとりたいという意欲が少ないようである。大使館から英国側に話すように頼んである。

 田中参与:地震の問題は日本でもいろいろ考えているのだろうが、どういうふうになっているか。

 石川委員:委員会としてこういう点を考慮してほしいと項目にして英国に示してある。この次に英国に調査団が行くときは、地震の専門家を入れて調べてきたい。

 佐々木局長:一般協定の問題に移りたい。一般協定の問題は昨年の暮からでてきた問題であったが、当時は客観情勢が揃わなかったので条文の研究に止まっていた。最近、受入体制も決ったので、具体的交渉に入ろうという段階になった。できれば来月の臨時国会に間に合うように米英両国と交渉し調印を済ませたいと考えている。英国に対してはだいたい交渉がついており、24日に外務省の役人が連絡に行き、あまり日数をかけずに交渉がまとまる見込である。英国との交渉がすみ次第米国に行く予定で、その間、米国とは予備交渉をしておく。この問題に関する委員会の意向は資料1のごとくである。
 まず、「1.秘密の情報は受けない。」というのは、商業上の秘密をも受けないというのでなく商業上の秘密は有償で受けることを考えている。ここでいうのは、こちらから秘密情報を提供してほしいと要求するのには国内に秘密保護法のようなものを作る必要が生ずるので、それをさけるためである。「2.協定の内容は可及的国際原子力機関の規約にのっとる。」というのは、一番の問題点であって、国際原子力機関ができるので、協定の内容はその憲章の線にできるだけ近づけたいということで、特に補償の問題、インスペクターやPuの処理の問題等に関して重要となる。国際原子力機関が発足し実際に活動しうる態勢になったときは、自動的に機関の憲章とすりかえて実施できることを考えている。「3.購入炉に対する燃料供給の確保を計る措置を講ずる」というのは、英国から買った原子炉の燃料の供給は、英国のメーカーと日本の使用者との話しあいで燃料の量、質等をきめるが、英国から買った炉でなくても、日本で設計して英国でその設計を承認してくれるならば、英国から燃料を供給してくれるようにつっこんでみる。「4.Puは将来わが国において平和目的に利用できるようにする。」というのは、将来ブリーダーにも利用できることを希望しているものである。

 正力委員長出席。

 佐々木局長:私の話をいったん中止し、大臣から受入体制についてお話を願うことにする。

 正力委員長:受入体制の経過を簡単にお話する。ご承知のとおり、今度新会社ができて、英国から実用の発電炉を買う体制になった。一両年でここまで進んだことは、まことに御同慶にたえない。これは昨年ヒントンがきて、経済ベースにあうといったのが話のおこりである。当時、米国からフォックスの一行も日本にきていたので、フォックスに米国の事情をただしたところ、「英国のことはわからないが、米国に関してはまだ経済ベースにあわない。」という返答であった。ヒントンの言によれば、「小さい炉ではだめだが、英国の10万kWの原子炉(価格150億円)ならば経済ベースにあう」ということであった。これにもとづいて原子力委員会で調査団を派遣することを決定した。一本松氏は米国一辺倒で英国には行きたがらなかったが、私は米国一辺倒の人が行かねば本当の調査にならないと思って、一本松氏の派遣に賛成であった。当時は専門家も経済ベースに合うことを疑っており、ヒントンの言明にもかかわらず、なかなか信じないような状態であった。訪英調査団が英国に行ってみると英国の言うとおりだということがわかり、石川委員の報告は、15万kWを2基買おうというものであった。その時、民間から自分の手で原子炉を導入しようという人がでてきた。原研も、今の組織では大型の炉を入れて思うように研究するわけにはいかないから、ほかで買って導入してくれれば、それに協力したいといった。電発も自分で原子力発電をしたいといいだした。私は丁度また大臣になり、日本のこういう情勢ではめいめいが力をあわせてやらねばならないと思った。電発の総裁にも会ってみたが、電発が原子力発電はまだ経済ベースにあわないというのは、原子力の研究が足りないのだとよく話した。九電力であうといっているのに電発ではあわないというが、これは電発は調査団に加わっていなかったから古い資料で計算した結果高くなってしまったものと考えられる。電発があっちこっちであわないというものだから、河野氏はそんなにあわないものなら電発でといいだした。私は河野氏と喧嘩をするのかといわれたが、私としてはもちろん喧嘩をするつもりはなく、ただ主張はまげられなかった。原研も積極的に協力していきたいというのだから、できれば原研も入れて株も持たせたいと考えた。河野氏とよく話しあった結果、河野氏は特殊会社案はゆずるが、電発の出資比率を50%にしたいといった。そういうことでは民営にならないので、私はあくまで民営という主張を貫いた。ただ、少なくとも役員の人選は政府の許可を得るようにせねばならないと私から発言した。こういう考えを河野氏も納得したが、問題の解決を延ばそうとする空気があり、準備委員会をつくってそこでもう一度ねり直すということで実際には引き延ばそうとする考えがあった。もってのほかと思ったので、総理によく話し、納得してもらった。電発15%、原研15%、民間70%という出資比率の案がでたが、大蔵省から原研の出資には異議がでて、これは取りやめた。そこで電発を20%とする案を私からのべると大蔵、通産の両省は了解し、経済閣僚懇談会にはその案でだしてくれということであった。河野氏は、電発30%、公募30%、九電力およびメーカー40%でならすぐにまとまるといったが、私が電発の30%はいかんといったら河野氏は快く応じた。さらに私から、九電力だけで40%にし、メーカーは公募に入れてくれというとなかなか承知しなかったが、それも結局まとまった。通産大臣がまたきて、九電力としては責任をもってやれないから、九電力の出資は50%にしてくれといってきた。私は、九電力が中心となる案には賛成だが、新会社は皆が一緒になってやるもので、挙国一致してやるには九電力のみが50%ではいけない、河野氏が賛成しても私は賛成しないといった。九電力の出資比率が40%になったことに対しては九電力は当初反対していたが、その後承認してくれた。新会社の社長は、九電力から出してはいけないので、安川さんを煩わすこととなった。以上のような成りゆきで新会社の誕生へと事は円滑に運んでいるが、電発も原研も満足し、九電力も満足する妥当な受入体制ができたことを喜んでいる。

 大臣閣議に出席のため退席。

 佐々木局長:受入体制の問題を片づけて、一般協定の問題に入りたい。

 以下、佐々木局長から資料4.(閣議了解)について説明があり、さらに新会社の設立準備委員会、発起人会が開かれ、11月1日に新会社の発足を目指して事務手続きが進行している模様につき説明があった。

 瀬藤参与:新会社の資本金について話していただきたい。

 島村課長:新会社の授権資本は40億円で、とりあえずその1/4に相当する10万株を発行する。1株の額面は1万円となる。株式の割当は、だいたい閣議了解の線に沿って、電発20%、九電力42%、おもな機器メーカーと設立準備委員の個人としての引受け分が8%、その他一般公募分が30%となっている。

 佐々木局長:さきほどに引き続き協定の問題について議事を進めたい。5.に、「使用済燃料でわが国で使用せず相手国へ引き渡したPuは相手国においても平和的にのみ使用する。」となっている。使用済燃料は日本ではその利用は平和目的に限るということになっているが、当初は使用済燃料は全部相手国に譲渡し、相手国で再処理して使うことが考えられる。この場合、相手国でも平和的にのみ使ってほしいという考えである。文章でのみ平和的にといっても保証できないではないかという意見があったが、もしも相手国が約束に反してPuを非平和的な用途に使用した場合には条約違反ということで国際信義上からいろいろ問題にすることもできるし、将来は国際原子力機関に再処理燃料を預託すればいつでも日本で引き出して使えることが考えられるので、第三国でも平和目的以外には使えないことになると思われ、希望としては現在から5.に示すような条文が一般協定に入ってくることが望まれる。わが国でPuができるのは5年さきになるから、それまでには国際原子力機関ができるだろうという考えもある。なお、米国では買う値段を区別しており、平和利用の場合は高価に買うので、その場合厄介な問題がおこることも考えられる。6.に「燃料の再処理は将来わが国でもできるようにする。」となっている。この点は、英国は援助しようといっているが、米国は必ずしもそういうことになっていないので、このようにしていきたい。一般協定についてはほかにもいろいろ問題があるが、ここにのせたのは国会でも一番問題になった点である。

 稲生参与:(資料1の6.に)再処理のことが書いてあるが、燃料要素のことはどうか。日本でつくれるようになるのか。

 荒木課長:日本がつくっても構わない。先方で秘密情報だとしないかぎり、製法がわかればつくるのは日本の自由である。商業上の秘密である場合には、それぞれの場合に応じて交渉することになる。

 田中参与:ウラニウム233の方は考えないのか。

 佐々木局長:ここではわかりよいように入れなかったが、特殊核分裂性物質に入っている。

 大屋参与:アイゼソハウアー大統領が昨年暮にPuの値段を発表した時の声明で、買い上げたPuは平和目的にのみ使用するとのべている。それを今日本で明文化しようとしていることになるが、大統領がすでにのべたのだから、なにも条文にしなくても結果は同じではないか。

佐々木局長:AECの連中もそういうことをいっている。軍事用と平和用とで値段を別にして買うからよいではないかといってきたが、とにかく明文化することを納得させた。明文化したものをさらに保証できるかということを問題にしている。

 大屋参与:米国からみれば、日本でできるPuは米国で使うPu全体のほんの一部分にすぎず、さして問題として騒ぐ気がしないだろう。それを取りあげて問題とし、大統領の言明では信用できないから明文化するというのなら、双務協定も信用できないということになる。日本は勝手なことばかりいっているといわれないか。

 藤岡委員:これはぜひ明文化を最後まで要求しようというのではなく、日本側はこういう気持でいるということであり、何か外国でPuを使用する目的を監視する方法はないかと考えているわけである。

 松根参与:濃縮ウランを米国から借りるという考えはないか。

 佐々木局長:借りるのは研究のみに限り、他は全部買う方式で押しきるつもりだ。どうしても借りて延べ払いで払わねばということなら、政府は独立の会計を作り、政府対民間の貸し借りでやっていくことが考えられる。

 石川委員:世界銀行から金を借りることも考えられる。

 松根参与:借りることにすれば、燃料の確保等に問題が少なくなると思うが。

 石川委員:使用済燃料の評価等の問題がおこる。

 松根参与:米国の意向はどうか。

 佐々木局長:研究用には12kgを貸そうという。実用炉の燃料は売ろうといっている。

 島村課長:米国は国内には貸しているが、国外には売るといっている。finance として金を貸すことは考えているが、ウランを貸すことは考えていない。

 大屋参与:借りるのは嫌だ売ってくれといったのは日本である。米国は燃えた後の燃料は返せとか、Puはくれとかいっていたが、これは貸したものについてはいいやすいが、売ったものについてはいいにくい。日本がぜひ燃料は買い取るようにしたいといいだしたので、米国も譲った形になったが、それから考えると、商業的な炉の燃料は売るが研究用の燃料は貸すというのが米国の考えだとするのは飛躍していると思う。日本が借りた方がよいといえば米国は再考するだろう。

 松根参与:米国が売りたいのは濃縮ウランではなく機械の方だから、燃料については借りるのと買うのと両方を考えた方が便利である。

 荒木課長:この問題は、まず日本側が買取にすることを主張したものである。国会で自民、社会両党から借りると永久にひも付きになるから買った方がよいという発言があり、燃料購入の予算をとったもので、今ここで買取は困るから貸してくれと方向を変えると、今までのいきさつから妙なことになるのではないかと思う。もう一つは協定に関連した問題で、今、英国、米国と一般協定を結ぼうということになっているが、国際原子力機関ができればそれにのりうつるという考えがある。すなわち、国際原子力機関に燃料を貸与する形でその燃料を日本の支配権のもとにおこうというものである。その際、ウランが外国から借りたものであったならば、めんどうなことにならないかと考えられるわけである。

 岡野(文部省:緒方参与代理):一般協定の年限はどうなっているか。一般協定は、日本でも濃縮ウランをつくれるようになったときに、それをつくって使うこともできるのか。

 藤岡委員:一般協定の年限は10年である。ただし燃料の供給契約は双方の考えで延長できることになっている。また、日本で製造法ができたならばもちろん日本でつくって使ってもよい。

 大屋参与:協定に入れる燃料の値段はどう考えているか。fixed price ならばすこし高くすることを英国ではいっている。

 石川委員:sliding scaleでいくつもりである。

 佐々木局長:次にカナダの問題に移る。カナダから協定の案を送ってきた。9月中旬に交渉に入りたいというのがこちらの意向であったが、カナダの担当官がウィーン会議に出席中なので、のびていたものである。案によると燃料関係は7ヵ条からなり、定義が明確になった。内容は炉から始まり一般協定と同様なものを考えてきている。これでは燃料をもらっただけで同じ制約をうけるようなので、さらに検討をかさねながら交渉に入りたい。今までに燃料だけの協定は例がなかったこともあって、英、米の案や国際原子力機関の案と似たものをよこしている。われわれとしては商業上の取引のように考えたかったものである。カナダは現在1962年まで米国にウランを供給するという契約を結んでいるが、それまででもすこしくらいなら日本に供給することが可能である。

 島村課長:長期計画という項目が議題に入っているが、資料を用意するひまがなく、10日くらい後にお送りすることとしたい。資料がお手もとに届けばご検討をお願いし、この次の参与会にお諮りしたい。長期計画は一応昨年9月6日に内定したのであるが、動力炉を受け入れることの是非をめぐる問題も長期計画の観点から検討されねばならないので、このような考えから、その後も引き続き検討していたものである。なにぶん広範囲の問題であり、近くお送りする案も発電炉を開発するための問題に重点をおいたもので、次には原子力船の開発、技術者の養成といった項目で補足し、昨年度の長期計画を具体的に見直したものとしたい。