原子力委員会

発電用原子炉開発のための長期計画(案)について

 原子力委員会は、わが国における原子力開発利用の長期にわたる基本的かつ総合的な指針を与えるものとして、昨年9月6日「原子力開発利用長期基本計画」を内定した。当時は、海外で原子力発電が実用段階に達すると考えられ、また型式等に関する見通しも樹て難い時期であり、わが国の原子力研究開発も長期にわたる年次計画を設定するのは妥当でないと考えられていた。したがって、内定計画には具体的な年次は示されなかったが、その後の客観情勢の変化はいちじるしく、本年11月1日には日本原子力発電株式会社が発足する段取りともなって、わが国の原子力開発利用はいよいよ具体的な成果の期待される時期となってきた。そこで、原子力委員会はさきの内定計画のうち発電用原子炉の研究開発に関連する部分をとりあげて具体的な長期計画の策定を急ぎ、下記のような「発電用原子炉開発のための長期計画(案)」を取りまとめて各界の意見を徴することとした。

発電用原子炉開発のための 長期計画(案)

(原子力開発利用長期基本計画−その1)

32.10.5
原子力委員会

は し が き

 産業の発展と人口の増加、生活水準の向上にともない世界のエネルギー需要は増大の一途をたどりつつあり、石炭、石油等のいわゆる化石燃料によっては、今世紀の終りごろにはエネルギー需要をまかないきれない事態になることが憂慮されている。
 原子力の平和利用、特に原子力発電の開発はこの問題の大きな解決策であり、それ故に将来の人類の文明をかけた大事業であって、各国のこの問題に対する態度の真剣さも、ここにその大きな理由がある。
 もとより原子力発電は単にエネルギー需給という観点のみでなく、さらに進んで化石燃料の温存ならびに高度利用、産業技術水準の向上、ひいては産業構造の変革をもたらす可能性をも有するものであることはいうをまたない。
 わが国は産業が高度に発達している反面、化石燃料の埋蔵量が先進諸国に比べて貧弱な結果英国およびユーラトム諸国とならんで、特に初めに述べた傾向が強いと予測されているから、原子力発電への期待は各国に比べて一段と強いものがある。
 当委員会は原子力発電について、主として国内における技術の研究開発、原子力発電の経済性およびエネルギー輸入に要する所要外貨削減という見地から詳細な検討を行った結果本計画を得た。
 この計画を遂行するにあたっては、国際原子力機関をはじめとして、諸外国との密接な国際協力が必要であり、国内においても、大学等における基礎研究をはじめとし、日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関、民間企業等による研究開発の促進はもちろん、原子力の平和利用の特殊性から見て、放射線障害防止に関する諸対策等についても遺漏なきよう考慮しなくてはならない。

目    次

  はしがき

 1. 目   的

 2.計画の概要

 3.わが国のエネルギー事情からみた原子力発電の必要性

(1)長期エネルギー需給見通し
(2)長期電力需給見通し
(3)原子力発電の必要性

4.原子力発電の原価

5.開発の規模

(1)開発の目標
(2)原子炉の型式

6.原子炉の研究開発

(1)研究炉の設置計画
(2)実用発電炉の国産化計画
(3)増殖型発電炉開発のための動力試験炉計画

7.核 燃 料

(1)核燃料の需給
(2)核燃料研究開発計画

8.研究開発の分担

(1)日本原子力研究所
(2)原子燃料公社
(3)国立試験研究機関
(4)民間企業

9.所要資金

10.外貨収支

  参考資料

1.エネルギー事情
 (1)長期エネルギー供給見通し
 (2)長期電力需給見通し

2.原子力発電原価
 (1)原子力発電と新鋭火力発電の原価比較
 (2)将来の原子力発電原価の低下傾向

3.研究開発計画
 (1)コールダーホール改良型発電所の国産化の見通し
 (2)動力炉研究開発計画
 (3)核燃料研究開発計画

4.核 燃 料
 (1)核燃料の需給
   (i)需要量算出のための前堤条件
   (ii)需要量の算定
   (iii)供給量の算定
 (2)研究炉および動力試験炉の燃料所要量

5.所要資金
  (1)原子力発電所建設費
  (2)初期装荷燃料に要する資金
  (3)開連設備投資
   (i)核燃料製造設備
   (ii)黒鉛製造設備
  (4)原子力発電所開発の総所要資金
   (i)火力発電所開発の総所要資金との比較
   (ii)国民総生産との比較

6.外貨収支
  (1)原子力発電所要外貨
  (2)原子力発電と火力発電の所要外貨の比較
   (i)火力発電所要外貨
   (ii)所要外貨の比較

1. 目 的
 わが国の原子力の開発も昭和29年開始以来すでに4年目をむかえ、着々と体制が整いつつあり、いよいよその成果の結実期に入らんとしている。
 当委員会は、わが国における原子力の研究・開発および利用について、長期にわたる基本的かつ総合的な目標、方針等を設定することにより、原子力の平和利用を計画的かつ効率的に推進することを目的として、昭和31年9月、原子力開発利用長期基本計画を内定したが、この計画のうち、原子力発電に関連する部分、すなわち、わが国における原子力発電の目標ならびにこれを達成するための研究開発計画等を、具体的かつ詳細に決定することにより、この分野における開発の目標を設定することが、本計画の目的である。
 したがって、本計画は目下検討中の原子力船開発計画、技術者の養成計画、アイソトープの利用計画等とあいまって、原子力開発利用長期基本計画を構成し、わが国の原子力の研究開発および利用の長期的な指針となるものである。

 2.計画の概要
 わが国のエネルギー事情に関しては、将来輸入エネルギーが大幅に増大する傾向にあると指摘されている。すなわち、現在24%である輸入エネルギー比率が、昭和50年度には47%を占めるにいたるが、このうち火力発電用重油の輸入は、原子力発電が行われなければ、現在の約20倍の多きに達し、しかもこの傾向は将来ますます激しさを加えるであろう。
 一方、原子力発電の外貨収支に及ぼす影響を検討した結果、原子力発電はその初期段階では、設備の輸入依存率が高いので火力発電に比べて必ずしも有利ではないが、長期的には有利になると推定される。 ついで原子力発電の発電原価を現在ならびに近い将来にわたって検討した結果、昭和37〜38年度ごろにおいて在来型の火力発電とすでに原価的に匹敵し、最新鋭の重油専焼発電所の発電原価と比較しても、ほぼ昭和41年度ごろには対等となり、それ以後は原子力発電が原価的に有利になるという結論を得た。
 以上の認識のもとに昭和40年度以降に建設される火力発電設備のうち、主として産炭地以外のものを原子力発電で行うことを想定し、また昭和40年度までは主として原子力発電技術の培養という見地から約60万kWの原子力発電設備を建設することとして、昭和45年度までに累計送電端出力約300万kWの原子力発電所を設置するという目標を設定した。
 さらにわが国の現段階では、以上の開発規模にもとづく原子力発電設備のうち、開発の初期段階に建設されるものは、海外から導入することはやむを得ないとしても、でき得る限り、すみやかに実用発電炉を国産し、将来はわが国で開発された技術による増殖型発電炉を原子力発電計画に役立たせることをねらいとして、研究炉の設置計画をはじめ、各種の研究開発計画を設定し、また核燃料の需給をも算定した。
 以上検討の結果、この目標は各方面の一致した協力があれば、わが国の技術水準より見て到達することは不可能ではないと考える。なお、この計画に要する所要資金は国民総生産の規模からみて、必ずしも過大ではないのでこの目標の達成は可能であろうとの結論に達した。

 3.わが国のエネルギー事情からみた原子力発電の必要性

(1)長期エネルギー需給見通し
 わが国のエネルギー需要は、将来ますます増大する傾向にあるが、これに対して、水力、石炭、石油等国内のいわゆる在来エネルギー源の賦存状況は、必ずしも楽観を許さず、今日すでに総エネルギー需要量は国内供給力を上まわり、相当量の重油が輸入されているが、この傾向は今後ますます増大する見通しである。すなわち経済企画庁の試算によれば、昭和50年度におけるわが国の総エネルギー需要量は石炭換算で約2.5億トンに達するが、これに対して国内出炭量を現在より約2,000万トン増加して、7,200万トンとし、水力の開発を経済的に採算のとれる限度まで行って約2,300万kWとし、さらにその他の燃料の増産を見込んでも、もし原子力発電が行われなければ総エネルギー需要量の約47%に相当する石炭換算約1.2億トンの不足を来たすことになり、この分は重油等輸入エネルギー源に依存せざるを得ないことになるとされている。〔参考資料1−(1)〕
 一方、石炭、石油等の在来エネルギー源の価格は開発炭層の深部化、人件費の上昇、世界的な需要増等の理由により漸騰の傾向にあることは、いなめないところであろう。

(2)長期電力需給見通し
 電力の需要も当然今後増加していくと考えられるが、経済企画庁の試算によれば、送電端需要電力量は、昭和31年度における約620億kWhから45年度には1,520億kWhとなり、さらに50年度においては1,910億kWhに達する。
 これにたいし、一応原子力発電を考慮の外において計画された電源開発の規模によれば、電気事業では50年度までの20年間に、約3,140万kWを開発するが、このうち水力は主として負荷のピーク部分を分担するよう経済的に有利な地点が選ばれ、50年度までに約1,500万kWを完成する。
 火力は負荷のベース部分を分担し、約1,630万kWを完成するが、25万kW以上の高能率設備が中心となる。〔参考資料1−(2)〕
 また火力発電量にみあう火力用燃料所要量は石炭換算で、昭和37年度の860万トンから45年度には3,390万トン、50年度には4,530万トンとなり、それぞれ総エネルギー需要量の14%および16%を占めるにいたるが、このうち国内炭に依存できる量は45〜50年度を通じて各年度2,000万トン前後と考えられ、したがって昭和50年度において約2,500万トンは重油等の輸入エネルギー源に依存せざるを得ないことになる。〔参考資料1−(2)〕

(3)原子力発電の必要性
 以上のごとく、原子力発電を行わなければ、火力用燃料所要量は昭和50年度では昭和31年度の5倍強となり、そのうち輸入燃料は約20倍となる。さらにまた在来エネルギー源による発電原価の低下は、今後望み薄であるのに対して、後述のごとく原子力発電は、ほぼ経済ベースに近づいており、今後は技術的進歩とともに一層発電原価が低下していくと期待され、また原子力発電開発に要する外貨は、火力発電の場合に比して将来はかなり少額にとどまる。
 したがって、輸入エネルギーへの外貨支払を削減し、わが国のエネルギー需給を安定させ、さらに低コストのエネルギー源の確保を計り、産業の発展に資するためには、原子力発電を比較的早期に実用化することが必要かつ適切であると考える。

 4.原子力発電の原価
 初期段階におけるコールダーホール改良型の発電原価を、新鋭火力発電所と比較すると原子力発電はkWh当り4円40銭ないし4円75銭であるのに対し、石炭だき発電所では3円85銭ないし4円35銭、重油専焼発電所では3円50銭ないし4円であって、初期の段階においても原価的に原子力は石炭だきの火力とコンパラブルになり得るものとみられる。〔参考資料2-(1)〕

 なお原子力発電の場合は一般的に発展の余地が大きく、将来、発電原価が相当

第1図 コールダーホール原子力発電所および
    新鋭火力発電所発電原価(円/kWh:Net)


大幅に低下することは当然予想されるところであって、コールダーホール改良型についてのだいたいの傾向は、第1図のとおりである。〔参考資料2−(2)〕
 一方、火力発電の場合は、将来技術的改良による建設費の大幅な値下りはほとんど期待できず、またその燃料費についても将来低下することは期待し難い。
  したがって原子力発電は原価的に昭和37年度 ごろにおいてすでに在来の火力と匹敵し、昭和40年度ないし42年度ごろにおいては、最新鋭の重油専焼火力とも十分コンパラブルになり、それ以後は原子力発電の方が有利になると見ることができる。
 なお、濃縮ウラン型あるいは将来実用化が期待される増殖型発電炉は、その発電原価が第1図の発電原価の幅に入るか、さらにこれより低減するにいたってはじめて実用化されるのであって、その時期については現在明確に決定し難いが、いずれにせよ実用原子力発電所は昭和40年代の当初において、重油専焼火力とコンパラブルであり、それ以後はむしろ発電原価の点より見ても有利になる傾向にある。


 5.開発の規模

(1)開発の目標
 上述のようなわが国の輸入エネルギー依存度の増大の傾向と原子力発電原価の低下の傾向とを考えあわせると、わが国においてできるだけすみやかに原子力発電の開発をすすめるべしという結論に達する。
 しかしながら原子力発電所の建設には約4ヵ年間を要し、33年度に着手しても、37年度以降ようやく送電を開始するにすぎない。またわが国の産業界も原子力発電に関する経験がないので、実用原子力発電所を国産化するにはある程度の期間を要する。さらに現在水火力からなるわが国の電力系統のうち、石炭、重油だきの火力発電所の建設を原子力発電に置き換え、しかも高い設備利用率で運転できるようにするにはおのずからその開発の規模およびテンポには限度がある。
 しかるに前述のごとく原子力発電原価は、最新鋭の重油専焼火力の原価に比しても、だいたい昭和41年度ごろからコンパラブルになる。さらに、後述のように昭和44年度前後からは原子力発電をおこなうに要する所要外貨量は、同様規模の重油専焼火力に要する外貨量を下回るにいたる。
 したがって、ほぼ昭和40年度以降は輸入エネルギー依存度の増大を防遏するため火力発電所のかなりの部分を原子力発電に置き換えることは、原価的にみてもまた外貨収支の上からみても可能かつ必要である。この計画においては、以上の認識を基礎として、昭和41年度から45年度中に主として産炭地以外の地域に建設を予定されている火力発電(送電端出力225万kW)をすべて原子力発電に置き換えることとする。
 なお41〜45年度中、225万kWの原子力発電開発を大部分国内技術によって行い、またその建設、運転要員の養成等を行うためには、40年度以前にも相当規模の開発を行う必要がある。本計画は以上の諸点を考慮して、第1表に示すごとくなだらかなテンポで開発を行うこととし、昭和45年度までに累計315万kWの原子力発電を開発することを目標とする。
 さらに45年度以後においても電力需要の増大と発電原価の低下を考慮し、第1表のごときテンポで原子力発電の開発を行うものとした。

第1表 原子力発電開発規模



(2)原子炉の型式
 実用発電炉として、選択の対象となり得るのは、現在のところ英国のコールダーホール改良型と、米国の加圧水型および沸騰水型である。これらの各型式の優劣については多くの議論があるが、

(1)コールダーホール型の発電炉については、運転実績があること。
(2)燃料の入手が比較的容易であること。
(3)国産化が比較的容易であること。

等の理由から、開発の初期段階にはコールダーホール改良型を採用することが妥当であると考える。
 なお、使用済燃料の再処理の経済性および国内産業界に国産化の目標を与えるという見地から、原子力発電の容量が約150万kWに達する昭和42年度ごろまでは天然ウラン型の開発を主体とすべきであろう。
 なお、濃縮ウラン型発電炉についても、米国における完成時期の前後から、試験的な意味においても実用的な意味においても相当規模が導入されること、ならびに昭和45年ごろからは、増殖型発電炉が計画に織り込まれることが予想される。

 6.原子炉の研究開発

(1)研究炉の設置計画
 各種の基礎研究、材料試験、工学試験等を行うための研究炉は原子力の研究開発に不可欠のものであるが、その設置計画は第2表のとおりとした。
 表中、JRR−3までは、さきに当委員会が決定し、すでに完成もしくは目下進行中の計画であるが、材料工学試験炉については、原子炉ならびにこれに使用する機器材料の国産の進展にともない必要となるので、JRR−3の完成に引きつづいて設置するものとする。
 これらの研究炉の使用目的は第3表のとおりである。

第2表 研究炉設置計画


第3表 研究炉の使用目的

(2)実用発電炉の国産化計画
 初期段階における実用発電炉、すなわち、コールダーホール改良型の発電炉は、当初は海外よりの輸入に多くを依存せざるを得ないが、わが国の技術水準より見て、原子炉本体および熱交換器を除いたタービン発電機以降は、輸入する第1号炉から原則的には国産が可能であると見ることができるが、さらに将来輸入比率を削減するためには、日本原子力研究所、国立試験研究機関、民間企業等の各機関において、炉本体、計測制御機器材料等の各種研究を強力に促進する必要があり〔参考資料3−(2)〕、さらに必要に応じて、技術導入等の処置を講ずることも考えられる。なお初期における輸入比率は、ほぼ40%とし、その後における国産化の傾向を第2図のごとく見た。〔参考資料3−(1)〕
 濃縮ウラン型の発電炉についても、ほぼコールダーホール型と同様な方法で国産化を促進する必要があるが、濃縮ウラン型発電炉の各型式の優劣が世界的に明らかになるまでは、主として一般的、共通的な研究を促進することが適当であろう。〔参考資料3−(2)〕

第2図 国産化の傾向

(3)増殖型発電炉開発のための動力試験炉計画
 さきに述べた実用発電炉の国産計画と平行して、わが国の原子力開発の究極的な目標の一つとして、独自の技術による動力炉を建設するための計画を促進する必要がある。
 この動力炉の型式については、燃料サイクルと世界的な技術の進歩の方向との見地から増殖型を選ぶことが妥当であると考えられるが、この型の開発には相当長期間を要すると思われるので、ほぼ昭和45年度ごろからこの型の発電炉が実用されることを目標とする。
 最終的に電気出力100MW程度の増殖型動力炉を建設するための計画ならびにその所要資金の概算を第4表に示すが、電気出力5〜10MW程度の動力試験炉までは、熱中性子型ならびに高速中性子型を平行的に開発することが必要であると考える。
 増殖炉の理論ならびに技術については、世界的に見てもまだ研究段階にあるので、わが国においてこの型の実用発電炉を開発することは、日本原子力研究所を中心とする各方面の協力と一致した努力が必要であるが、この型が実用化すれば、わが国の核燃料の需給状態が飛躍的に好転することが予想される。
 なお、増殖炉に関する技術のうち主として熱伝導、動特性、燃料要素等に関する技術の開発を促進し、あわせて原子力船に関する技術の開発に資するために、電力出力10〜15MW程度の濃縮ウラン水冷却型の動力試験炉1基を日本原子力研究所に設置することが必要であろう。
 これらの動力試験炉の設置目的は第5表のとおりである。

第4表 動力試験炉設計計画


第5表 動力試験炉の設置目的


 7.核  燃  料

(1)核燃料の需給
 この計画にもとづく核燃料の需要量を正確に算出することは、特に計画の後半期における発電炉の型式を正確に予想することが困難であるために不可能である。しかしながら所要資金、外貨収支等を試算し、核燃料の開発のおよその規模を推定するための必要から、一応天然ウランのみでこの計画を達成する場合を仮定してその需給を試算した。
 天然ウランの需要量は、初期装荷燃料および取換量をあわせて、昭和40年度には金属ウランとして700トン、45年度には1,750トンに達する。〔参考資料4−(1)〕
 これに対して国内鉱石の産出予想は開発がきわめて初期段階であるため推定が非常に困難であるが、一応現在埋蔵量が比較的正確に判明している地点のみを対象として年間金属ウラン換算150トン程度と考えたが、この量は試算の便宜上の数字であって、開発の進展とともに大幅に増加すべきものである。
 したがって原子力発電計画の進展にともなって、増大する燃料はその大部分を海外よりの輸入に依存せざるを得ないことになるが、この場合外貨収支の改善、国内技術水準の向上等の見地から主として精鉱の形で輸入し、国内で製錬加工することが必要であろう。
 このための抽出、精製、加工等の設備は精製、加工の部門については昭和42年度ごろには約年産金属ウランとして1,500トンに達する。〔参考資料5−(3)〕
 また濃縮ウランについては、現段階では国内で生産する計画が樹て難いので、その供給は全面的に海外に依存せざるを得ない。その将来性にかんがみ、ウラン濃縮技術の開発には積極的に努力するものとする。

(2)核燃料研究開発計画
 このように大量な核燃料を主として国内で精製、加工するための技術を開発し、あわせて将来実用化が予想される各種の燃料要素に関する技術、ウラン濃縮の研究、使用済燃料の再処理技術等を研究開発する必要があることはいうまでもない。
 この場合この分野に関する技術は世界的に見てもまだ発展段階にあるので、急速に進展する原子力発電の規模にテンポをあわせて、技術を研究開発することは、相当に努力を要すると思われる。
 したがって原子燃料公社、日本原子力研究所、国立試験研究機関、民間企業等がそれぞれの分野において特色ある研究を促進し、大学等における基礎的な研究とあいまって整々と無駄なく開発を促進すべきである。〔参考資料3−(3)〕
 なお、核燃料資源の探鉱、開発はわが国の原子力平和利用を遂行する上の重大な事業であるから、原子燃料公社、国立試験研究機関を中心として積極的に探査、開発をすすめるとともに、民間の協力を大いに期待し、将来国産鉱石により核燃料の供給が増大し、外貨収支をさらに改善することを目標とする。

 8.研究開発の分担
 実用発電炉ならびに増殖型発電炉、さらに核燃料に関する研究開発計画を促進するにあたっては、立ち遅れたわが国の現状から各方面の一致協力した努力が必要であることはいうをまたない。この場合もとより技術の外延的基礎的な部分についてはある程度重複した研究が行われることは研究開発の本質上必要不可欠なことであるが、反面研究を効率的に促進するためには、それぞれの機関の特色に応じた研究開発計画が必要であり、この計画にもとづき各機関が密接な連絡をとりつつ開発を進めてこそはじめて原子力の研究開発という大事業が無駄なく効果的に達成し得ることになる。
 このような考えにもとづいて、日本原子力研究所、原子燃料公社、国立試験研究機関ならびに民間企業に期待するそれぞれの役割を集約すると下記のごとくなる。なお大学における基礎的研究が必要であることはいうをまたない。

(1)日本原子力研究所

(1)原子力利用に関する基礎的な研究を行うことにより大学等における研究とあいまって、わが国の原子力に関する技術水準を向上せしめること。
(2)原子力に関する工学的な研究のうち主として一般的共通的な問題の研究を促進することにより学界と産業界とのかけ橋的役割を果し、わが国における原子力産業技術を向上せしめること。
(3)各種の研究炉、動力試験炉を駆使してこれらの原子炉を使用しなければ不可能な実験研究を行うこと。
(4)原子力開発の基本計画において必要とされる型式の原子炉を設計し、建設することによって、わが国独自の原子炉製作技術を開発すること。
(5)各種の施設を開放し、各界に利用せしめるとともに研究者、技術者の養成を行うこと。

(2)原子燃料公社

(1)核燃料資源の探鉱開発を行うこと。
(2)核燃料の製錬加工を行うこと。
(3)核燃料の再処理ならびに廃棄物の処理を行うこと。
(4)以上に関する試験研究を行うこと。

(3)国立試験研究機関

(1)原子力に関する工学的な研究のうち、主として核燃料ならびに材料に関する研究を行うこと。
(2)核燃料資源の探査を行うこと。
(3)放射線等の標準に関する研究を行うこと。
(4)その他各機関の特色を発揮するごとき分野における関連試験研究を行うこと。

(4)民 間 企 業

(1)主として実用発電炉ならびに機器、材料に関する研究開発を行うこと。
(2)核燃料に関する研究開発のうち主として探鉱、加工に関する開発を行うこと。

 9.所 要 資 金
 原子力発電所は同じ出力の火力発電所に比較していっそう多額の建設費を要するという事情があり、また将来大規模に原子力発電が実用化されるに至った時期においてはいくつかの新しい産業分野が原子力関連産業として成立することとなる。昭和45年度までに315万kWの開発規模で原子力発電を開発するための所要資金を算定すれば、原子力発電所の建設費および核燃料の製錬加工設備等の関連産業の設備投資は昭和50年度で約1,200億円となり、これに対して同一規模の火力発電所の建設費およびタンカー、港湾設備等の設備投資は約700億円となる。したがって原子力発電計画の妥当性を判断する場合には、所要設備資金の調達規模が国民経済上に及ぼす影響についても一考する必要がある。〔参考資料5−(4)〕
 最近の数年間における全産業の設備投資額は国民総生産に対しておおむね18%の額に相当し、電力総工事資金は国民総生産に対し約1.7%、全産業設備投資に対して約8%前後に当っている。
 今後の国民総生産の延びは昭和37年度までは年率6.5%の増加と考えられているので、37年度には13兆416億円に達することとなる。その後の昭和50年度までの増加率をかりに年率5%程度と考えるならば、各年度の国民総生産は40年度に約15兆円、45年度に約20兆円、50年度に約25兆円程度の水準に達するはずである。
 他方火力発電に代って原子力発電を開発することによって所要設備資金の増加する額は昭和40年度で約350億円、45、50の各年度でそれぞれ約680億円、550億円であるが、以上のような推論よりこれを検討すれば、昭和40、45、50の各年度において国民総生産の0.2〜0.3%に相当し、全産業設備投資の1.3〜1.9%に相当する。この比率は最近まで総工事資金の国民総生産および全産業設備投資の比率実績に比較すればかなり低い数値となっている。〔参考資料5−(4)〕
 原子力発電による所要設備資金の増加が国民経済におよぼす影響を考えるには、将来の資本蓄積のテンポあるいは資金投下より発電設備として稼働するに至るまでの期間が長いこと等考慮すべき点がさらにあるが、以上の推論によれば、原子力発電の実施にともなって増加する所要設備資金の額は、将来の国民総生産および全産業の設備資金投下量との釣合いからみてさほど大きなものとは思われず、昭和45年度までに315万kWという原子力開発計画に対しての否定的な結論はでてこない。
 原子力開発に必要な資金としてはさらに研究開発に要する設備資金ならびに経費を考慮に入れるべきであるが、6.ならびに7.においてのべたごとくに研究炉設置計画、実用発電炉国産化計画、動力試験炉計画および核燃料研究開発計画を遂行するために必要となる資金を概算すれば、昭和40年度ならびに45年度においてそれぞれ60億円程度と想定される。しかしながらこの金額は原子力発電によって増加する所要設備資金の額に比較して両年度ともかなり少額であるので、以上の所論にはさして影響を及ぼさぬもの、と考えられる。

 10.外 貨 収 支
 本計画が外貨面に及ぼす影響を同一規模の火力発電と比較して検討すると第3図および第4図のとおり、当初約10年間は原子力発電の所要外貨は火力よりも多額であるが、昭和44年度ごろからは逆に火力の方が所要外貨が増加し、昭和50年度までは火力の場合約2億ドル、原子力の場合、約1億ドルとなる。
 毎年度の所要外貨を累計すれば、原子力発電の実施によって昭和43年度までは約1.7億ドルを余計に必要とするが、さらに50年度までみれば逆に約1.6億ドル節約しうることになる。
 昭和50年度の所要外貨を45年度に比較すれば火力発電による所要外貨はこの間に約2.2倍となるが、原子力によるならば所要外貨は約1.3倍になるにすぎない。さらに将来は原子力発電がますます多く外貨の節約に貢献することとなろう。
 以上の結果長い目でみれば原子力発電を行うことによって巨額の外貨の節約を期待することができる。

第3図 原子力発電および火力発電の所要外貨


第4図 原子力発電外貨節約量