原子力委員会参与会

第 7 回

日 時 昭和32年8月22日(木)午後2時〜5時

場 所 東京会館

出席者

 稲生、大屋、菊池、倉田、瀬藤、中泉、三島、脇村、安川、岡野、高橋、

 大来、宮崎(代松井)、緒方(代村上)、朝田 各参与

 正力委員長、石川、藤岡、有沢 各委員

 吉田政務次官、篠原事務次官、佐々木局長、

 法貴局次長、島村政策課長、井上、亘理 各課査官、

 荒木調査、藤波管理 各課長、ほか担当官

配布資料

 1.「発電を目的とする実用原子炉の導入について」(委員会決定)

 2.同上の「説明資料」

 3.昭和33年度原子力予算見積方針(案)

 4.昭和33年度原子力予算概算額

 5.第6回参与会議事録

議 題

 1.動力炉受入体制について

 2.昭和33年度原子力予算について

 3.その他

議事内容

 原子力委員会は海外から最初に導入する実用発電炉の受入体制に関してその大体の方針を決定し、8月5日委員会声明を発表した。この点に関し資料1および2に基づき、島村課長から委員会声明文ならびに説明資料の内容を説明した。

 石川委員:受入体制のその後の経過は正力委員長が御出席になってからお話しすることとしたい。

 島村課長:原子力委員会は大学関係を除いて関係各省の予算をすべて取りまとめる任務をもっている。7月なかばから関係各省の要求する予算についてヒヤリングをしたが、おおよその見当がつく段階に達したので、御報告をし御意見を承りたい。「予算見積方針(案)」(配布資料3)はヒヤリングをやっている間に事務担当局で考えたもので、まだ委員の目を通していないが、御意見を伺って今後に役立たせたい。(「配布資料3」を朗読。)予算の概算額(配布資料4)は合計172億円になっている。最初に各方面から要求された額は300億円にのぼり、その間、重複する点や実行の可能性という点からぜひ必要なものを拾い、172億円となった。これは更に御意見をきき調整することが可能である。原研の予算はそのうち103億円を占めている。施設の整備、人員を定員1千名とすることなどがその内容で、その際実験用動力炉の費用として25億円みている。そのうち21億円は債務負担で、現金の支出は少なくなる。留学生は今までは1年程度の短期の派遣を考えていたが、33年度からはもっと長期間の派遣をもおりこみたい。核燃料物質の購入費は、協定が改訂されて購入することを前提として計上した。文部省関係のスイミングプール原子炉の燃料も入っている。

 松井(外務省:宮崎参与代理):留学生について、国別とかもうすこし詳しくお話し願いたい。アメリカからの濃縮ウランのみを考えているようだが、天然ウランに関してはどう考えているか。また、「関係各省における原子力関係行政費」1億4千万円についてももうすこし詳しく話してほしい。

 島村課長:留学生関係は派遣にともなって必要とされる渡航費、滞在費、授業料等で、どこの国に何名向けるという具体的な計画はまだできていない。「核燃料物質の購入に必要な経費」というのは33年度中に購入を必要とする燃料の購入代金、取替用代金、特殊核分裂性物質の代金若干が含まれている。天然ウランの代金は32年度においては原研の予算に含まれており、33年度においても、カナダから輸入を予定しているものは原子燃料公社が精鉱でいれるということから、燃料公社の一般鉱石買上費と一緒に計上している。「関係各省における原子力関係行政費」は各省の行政と関連して利用開発を計るもの、図書費等が入る。外務省関係では、国際原子力機関に入る分担費が大きな額で、あとは雑多なものである。

 〔正力委員長出席〕

 大屋参与:在外公館に駐在している人に非常にお世話になっているが、大使館の人をもだいぶ酷使している。在外公館にいる人を活動さすために費用を相当組んでいるか。

 島村課長:相当と思われる額を「関係各省における原子力関係行政費」に考えている。これはアタッシェの資料購入費、現地での旅費等をおりこんでいる。ただし、原子力関係のアタッシェだけをよくするようなことはなかなかできない。その点潤沢な経費は御期待いただけないと思うが、新しくそういった金額を計上してある。

 瀬藤参与:予算は大学関係を除いたものということだが・・・。

 島村課長:原子力委員会が生れたときの国会の附帯決議で、原子力委員会がやる予算の調整には大学の原子力関係の経費は除かれるという ことになっている。大学に属さない文部省関係の研究機関(具体的には国立遺伝学研究所)の予算は入っている。

 瀬藤参与:人員の養成は十分にやってほしいが、電気、機械方面の勉強をしてきた人を採用してわれわれが養成しているという現状を考えてほしい。

 佐々木局長:文部省で原子力関係の予算を出すときは事前に原子力委員会に説明して大蔵省に出すことになっている。その間粗漏のないようにしているが、向うは省全体の予算との釣合いもあり、原子力だけつっ走るわけにいかないという事情もある。

 藤岡委員:この点については、在外研究部門、国内の原子力研究という二つの問題にわけて考えられるが、両方とも原子力委員会がタッチできないというのは何とかならないかと思う。海外留学生の方は31年度には文部省の予算がなく、原子力予算の方からだした。32年度からは別個に要求するということで、32年度は5名程度の在外研究者がいっている。国内の原子力研究についてはぜひもっと文部省と原子力委員会とが一緒に考え一般の人々の意見も伺って大学での研究のあり方について考えていくべく努力している。

 村上(文部省:緒方参与代理):文部省としては原子力にもいろいろの分野があるので行政計画がたてにくく、原子力委員会や原子力局とも相談して技術者の所要数を早くつかみたいと考えている。33年度予算は目下文部省で作業中で、こまかいことはいえないが、大体技術者の講座の充実にまず力をそそぎたい。昨年五つの大学に講座が設けられたが、33年度もその五つの大学の充実を期し、多くの大学に手を広げるようなことはしたくない。33年度には大学学部の原子核工学科のコースも考えるべきだと思われるが、どこの大学に設けるべきかについては目下大学や学識経験者の意見もきいてきめたいと考えている。

 瀬藤参与:来年度はそうすると原子核工学科が生れるかもしれないわけだが、ぜひ必要だということにしてほしい。

 朝田参与:原研で購入する実験用動力炉の購入費は25億円、うち債務負担行為分21億円ということだが、これは今まで考えていたものよりはすくないがどういう理由からか。

 島村課長:運輸省のこれに関する要求は40億円であった。すくないようだといわれるが、これは炉の本体のみの費用である。4億円を手付金として33年度中に支出する必要があるが、炉の建設は34〜35年度にまたがって行われ、33年度に必要な金額は25億円とみている。

 三島参与:核燃料に関する方針ははっきりかいてあり、精錬は燃料公社関係ではっきり線を出し予算も十分とっているが、加工の方はごく簡単に書いてあるので軽い意味で予算もすくないのではないかと思われる。燃料には純ウランも酸化ウランもあるのでいろいろではあるが、加工に関する共通的な問題を対象に勉強しておかねばならないと思う。燃料公社と民間とが精錬をするたてまえであるが、原研に予算が組まれているので、民間にはあまり金が出ていないと聞いている。この点はどうか。もう一つはウランの棒がまだ入っていないので設備が遊ぶであろうということだったが、フランスからも1トン輸入できそうななりゆきである。原研のみに頼ると加工を急ぐ場合には間に合わなくなる恐れがある。民間の会社にも相当の補助をして協力してやらねばならない。

 島村課長:三島先生の御指摘のとおり、加工の問題は重視せねばならない。原研と民間との研究テーマが重複するのでペンディングにしているというのではない。原研の研究と民間の研究とは重複したものとは考えていないので民間にも引きつづきお願いせねばならない。燃料公社は33年度に加工に手をのばすまでにはいかないが、将来はやるので、決して無関心ではならないと思っている。大きな問題であって民間、原研、公社で加工の問題をどうするか考えていただかねばならない。今まではウラン棒の入手も見通しがなかったが、御指摘のように入る見通しとなったので研究態勢を整えていきたい。

 三島参与:燃料の専門部会ができているが、燃料加工のコミッティーを作ってそろそろ取りかかってほしい。アメリカでも冶金関係の調査に出掛けても秘密だとして見せなかったといわれていたが、最近は加工の関係で見せる事柄もあるということで、その辺も御調査願って専門家を派遣することも考えてやっていくと良い案ができるのではないか。

 予算関係の議事を以上で終り、受入体制に関して正力委員長から報告があった。

 正力委員長:この前の参与会で御賛成を得た原子炉の受入については、それに反対する理由は「急いで買う必要はない。もし買うとすれば民間の会社でなく特殊会社を作ってやらせよう。」というのが閣僚の中の根強い反対根拠であった。社会党は質問書を持ってきて、公社でやってはどうかという意見を示した。閣内では、いろいろと折衝した結果、昨日河野氏と完全に意見が一致した。結局この前の参与会で申し上げたようにきまったので御安心願いたい。来週の経済関係閣僚懇談会には私も出席して、その席上できまれば翌27日の閣議で決定することとなる。だいぶ新聞を賑わしたので国民が良く理解してくれる結果となり、私としてはもっけの幸いである。こまかい点では問題が残っているが、どうきまっても民間でやるという原則は動かない。準備委員会、発起人会は誰が見ても立派と思われる人を選びたい。新聞にこれまでのったことでも何でも御質問があれば承りたい。

 大屋参与:大臣の受入体制に関する問題の経過のお話につき一言感想を申し述べたい。大臣の根強い御主張により、あの難問題に結論を得たことに対し民間人は深い敬意を表する。一番大きな問題は民営か官営かということで、3割の政府資金は入るが、大部分は民間によるもので結構なことである。試験をうまくやり遂げるかどうかが大きな問題で、この難しい大事業をやり遂げるには官民の力を結集していかねばならず、この点喜びにたえない。国営か民営かにはいろいろ議論があるが、日本と外国では生い立ちが根本から違っており、日本は平和利用によるのだから兵器を考える外国と違って国営でやる必要はなく、今の経済の態勢から民間が中心となるのが当然である。開銀などを通じて相当な融資を受けるからという声もあるが、借金をしてもその利息を払うのだから、官営とせねばならぬという論拠は考えられない。大臣の御尽力により民営でスタートを切ることができたのに対し、民間人として御礼を申し上げたい。

 正力委員長:役員の人選は事前に政府の了解を経ねばならないということは、私がいい出した。それは大きな原子炉を運営するのだから、政府が干渉をするというのではないが、あらかじめ了解を得る必要があると思われる。出資は政府関係3割、民間7割となっており、3割は電発が15%、原研が15%となっている。これも電発が50%以上という声が強かったが、私の考えでは東電、関電なみにしたいというものである。原研は最初考えていなかったが、役員を出すが株を持たないというのではあまり値打ちがないので出資を希望した。大蔵省が承知することを希望している。昨日の新聞に3分の1ずつと出ていたがそうではなく3割対7割でいく。人事の点は私情を離れて妥当なものにしたいと考えている。

 岡野参与:大臣のお話を次のように解釈してよろしいか。政府と議会は新会社に関心は持っているが、経営には干渉しない。第二に、原研は株主総会がないが、新会社が株主総会を置くことはまだ決まっていないのか。私の希望では商法上の法人として、民間が相当のパーセンテージを持つのだから、原研と違って株主総会を開き、多くの株主の意見を反映したいと考える。

 正力委員長:純然たる民間の会社で、商法上の株式会社を考えている。政府は普通の会社に対する以上の干渉はしない。ただ関心は持つ。

 安川参与:私どもと関連があることで大臣にお願いしたい。原研が動力炉導入には研究的立場からぜひ参画したいという考えを持っているが、原研を特殊法人と規定している法文を常識的に見ると出資ができそうにないので、研究的な態度で参画したいということのみを申し上げた。出資を決していやがるわけでなく、15%の出資を割り当てられたことはありがたいことである。もちろん原研には15%の出資をする金があるわけではなく、これは大蔵省にお願いせねばならない。33年度の予算で目下苦労しており、大蔵省でこれがどう削られるかは覚悟せねばならない問題である。それに関して、33年度予算と動力炉関係のものとは別枠でお願いしたい。

 正力委員長:来年度の予算は緊縮予算だといっており、なかなか難しいことが予想されるので、皆様の御協力を得たい。

 脇村参与:私は参与会に加えていただいているが、今まで時期尚早という発言をしてきており、若干このような問題をおくらせたのではないかという感想をもっている。日本の民間工業力水準と輸入される工業水準とのギャップが大きくて無駄になることをおそれていたが、その後の1年で、石川委員の御努力や皆様の研究も行きとどき、民間の研究体制もできてきたので、今となってみると数ヵ月まえの情勢とはすっかり違ってきたのではないかと思う。私は経済ベースに最初からかならずのるということには疑念をもっているが、将来は経済ベースにのることは確信している。今着手するか来年するかということは、数年後を考えると、より多くのデータが得られ、より多くの人員を養成できるという点から、多少の冒険はあっても今すぐ着手する方がよいと考える。たまたま閣内および一部の人々には時期尚早論があるが、従来の経過を知らないという点からそう言われたのではないかと思われる。人事の問題では政府が事前の了解を与えるということであるが、政府がもしどうしても人を出したいというならば、10人のうち3人は政府が推薦をする、しかしこの人々は日々の経営には干渉せず、大きなことにのみ発言するということにしたい。

 正力委員長:ただ今のお話はご尤もで、その御希望の線にそうのが本当だと思う。学界の人の御賛同を得たことを非常に感謝している。

 有沢委員:政府の了解を経るというのは非常に消極的なものと考えている。動力協定には日本政府もしくは日本政府のオーソライズドパーソンとなっており、その意味からも政府の了解は必要である。

 松井(外務省:宮崎参与代理):新会社は暫定的なものだということだが、動力協定は10年間有効だといわれ燃料の供結は20年間を保証するといわれている。この間の事情に問題はないか。

 正力委員長:「暫定」というのはその会社がずっと原子炉を次々に開発するというのではなく、最初の原子炉だけを建設し、原子炉に関心を持つ者が集って研究するという意味の「暫定」である。今に電力会社が一つずつ原子炉を持つようになるだろうということは考えられる。

 大屋参与:参与会発足当時は学界と意見の違うことがあった。国家の金が動力炉に出ると研究方面の金が無くなると心配された。民間の金で全部やるというならば学界でも満足されるのだが、3割でも政府の金が出るならばそれだけ心配となるわけで、研究面には予算上の影響を及ぼさぬようにしたい。

 瀬藤参与:うまいことをするために甘い物にアリが集まるように民間の態度を考えているようだが、それは誤解である。

 正力委員長:河野氏は損がいくから民間がやる場合には損を電力料金にかぶせてくると思うといってきた。説得した結果損がいかないことはわかったらしいが、次に民間がうまい汁を吸うということをいってきたものである。

 大屋参与:AECが二つほど政府の金で原子炉を建設することを決定した。国営論者はアメリカも国営でやるではないかといいだしたが、これは間違いで国営でやらねばソ連やイギリスに負けるというためであり、いわば民間の金が出ないので政府がやるというものである。これは民間でやるという日本の現状とは違ったものである。

 正力委員長:動力炉の導入時期を延ばそうという議論にはイギリスから買うとアメリカの感情を害しはせぬかということがかなり有力な議論であった。

 安川参与:私も時期尚早という意見を以前は持っていた。原研で動力試験炉を入れて準催してから動力炉をという案を考えたが、どれもこれも行き詰まってしまう。今の原研の組識では10〜20万kWの大規模な炉を入れるならば行き詰まることはわかりきっているので、英国型炉を原研で導入することは考えないことにした。

 大来参与:カナダに行った時、萩原大使にお会いし、大使からカナダの原子力開発に注目するように話してくれということであった。カナダの研究も相当進んでいるようで、アメリカやイギリスには見られない長所もあるようだ。

 正力委員長:小坂善太郎氏もイギリスからの導入を待てということをいっていた。われわれが体面とか行きがかりで英国型の導入に固執するようなことを新聞に書かれたので困った。われわれは原子力開発を順調に進めたい考えから事を運んできたものである。

 大屋参与:カナダの原子力がいいということはわれわれが行った時もそういわれていた。カナダでは天然ウランを燃料とし、重水を使った原子炉を研究しているが、問題が生じた結果技術的に行き詰まり、設計を変えねばならぬというところまできている。その点イギリスの方が進んでいると思う。

 石川委員:ヤンキーというアメリカの会社が建設中のアメリカのPWR型原子炉は安全であるとある雑誌に書いてあった。その理由として四つほどあげていたうちの最後に、人の住んでいるところから4千フィート離れているから安全だと書いてあったが、これは危いから離れているので、結局安全でないということになる。

 正力委員長:先般の日米原子力産業合同会議で、アメリカの産業会議から来た連中が、なぜ日本はイギリスから原子炉を買うのかと質問するので、イギリスの原子炉の方が安いからと答えたら、相手は納得していた。アメリカの原子炉は現在では安いとはいえない。イギリスから先に動力炉を導入するといえば、アメリカに刺激を与えることになるのは当然だが、現在の情勢で原子炉の導入をためらうならば原子力開発の進路を抑えることになるので、私個人としては、どうしてもやらねばという信念でやってきた。問題は大蔵省が原子力の基礎研究に向ける予算をへらさないで、動力炉に金を出してくれるかどうかということである。