実用発電炉受入体制に関するその後の経緯について

 海外より早急に実用発電炉を導入せんとする原子力委員会の方針に基づき、その受入体制に関し各方面からそれぞれの主張がなされてきたが、原子力委員会はこの問題につき慎重に検討を重ねた結果、8月5日、「発電を目的とする実用原子炉の導入について」と題する声明を発表するに至った。その内容は本誌前号4ページに掲載したとおりであって、その大網は次のような内容のものであった。

1. 実用発電炉を可及的すみやかに導入してわが国の原子力開発を促進することが必要である。

2. 受入主体としては、当面九電力会社、電源開発株式会社、その他関係業界の協力による新しい会社が適当である。

3. 従って、早急に新会社設立のための設立準備委員会を設けるべきである。

4. 導入すべき実用発電炉の型式、出力、導入時期および相手方等具体的な事項については、適当な時期に調査団を派遣し、その結果をまって経済的、技術的に十分検討の上決定すべきである。

5. 新会社による実用発電炉の建設に当っては、極力民間資金を活用し、日本原子力研究所は新会社と密接な協力体制をとり、必要な援助を行うとともに動力炉の国産化に寄与するよう努めることが妥当である。

 この声明によって受入体制に関するおおよその方針は決定をみたのであるが、実用発電炉を受け入れる新会社の性格、政府関係ならびに民間からの出資比率、人事問題、政府の監督権等具体的事項については、同日までには関係各省庁間の意見の一致をみるに至らず、決定は後日に持ち越された。ことに原子力委員会が民間会社を主体とする受入体制を考えているのに対して、河野経済企画庁長官は実用発電炉の導入は時期尚早ではないかという疑問をいだくとともに特殊法人による受入れを主張し、両者の意見が対立することとなった。政府としては早急に閣内の意見を取りまとめることが必要となり、8月6日経済関係閣僚懇談会を開き、その後も政府、与党内において意見の調整につとめた。その結果、一万田蔵相は「国家財政上から見ても民間による受入れが望ましく、正力構想を支持する。」(8月6日記者会見)とし、前尾通産相も「動力炉受入れは原則として民営でやるべきだと思う。」(8月13日記者会見)と語った。また、自民党内の空気も、既に5月16日に「当面の原子力政策」として党議決定したところに基づき、更にまた従来慎重論を唱えてきた学界が経済採算にのるものならばという前提で、民間方式による導入に賛成するに至ったという点も考えられて「実用規模の動力炉の運営は民間方式によるべきである。」という意見が党内の多数を占めるに至った。この間にあって正力国務相も8月9日「人事については法律にはよらないが、政府の同意をうるようにしたい。」と述べ、河野長官も8月10日「正力構想には妥協しないが、党の裁定には従う。」という新しい線を示すに至ったので両者の歩みよりの糸口が見いだされることとなった。更に数次の交渉を経て両者の意見は、「受入体制は民間の新会社とし、これにたいし政府がある程度の監督権をもつ。」ということで大体の調整を見るに至り、問題は受入れ会社に対する出資比率にしぼられてきた。この点に関し自民党は8月21日5者(大野副総裁、川島幹事長、砂田総務会長、佐藤栄作氏、河野長官)会談を行い、更に同日、河野長官と正力国務相との間で意見の交換が行われた結果、政府系30%、民間系70%の出資比率で新会社を作るという点で意見の一致を見、この線に沿って閣議了解を求めるという段階に到達した。しかしながら、この問題を討議した8月26日の経済関係閣僚懇談会では、なお閣僚間に種々意見の不一致や疑問点が見出されたため、結論を出すには至らなかった。出資比率に関しては、河野長官が「政府系の30%は電発だけで、原研の出資は考えていない。また民間系の70%のうち30%は公募、残り40%を九電力その他にしたい。」と述べた考えと、正力国務相の「電発、原研がそれぞれ15%、東電、関電もそれぞれ15%、残り40%は七電力と電機メーカーと公募分とに分け、公募の比率は15〜20%に押えたい」とする考えとが依然として食い違っていた。更にこの点に関しては、原研の役員は受入会社の発起人にはなれるが受入会社の役員を兼ねることはできないという問題があり、一方原研が受入会社に出資することには大蔵省が反対の意向を示した。かくして更に意見の調整が必要となったが、8月27日河野長官が正力国務相に示した提案により、「出資比率を政府(電発)20%九電力40%、公募40%とし、一部業界が独占的に受入会社を支配することのないようにする。」という線で両者の意見が一致し、政府内の意見も若干の態度保留を除いて一致するに至った。他方この出資比率に関しては、受入会社を構成する電力会社側から強い不満が示され、自民党の総務会では8月30日政府に対する要望事項において、「政府は出資比率その他について民間関係業界とも十分懇談して新会社の円滑な発足を図ること。政府は企業経営面の干渉をできるだけ避けること。」等の諸点を決定した。これらの意見を考慮した結果、政府は9月3日の閣議で受入会社設立の問題に関し、次のとおり閣議了解を行った。


 実用発電炉の受入主体について(閣議了解)

                    32. 9. 3

 当面の実用発電炉の受入主体に関し、次のとおり了解する。

1. 実用発電炉受入のため、あらたに「原子力発電株式会社」(仮称。以下「受入会社」という。)を設立するものとし、このため設立準備委員会をすみやかに発足せしめるものとする。

2. 受入会社の資本金は、さし当り必要最少限度の額(10億円程度)にとどめるものとする。

3. 政府は、将来その必要があると認める場合は、受入会社について法的措置を加えることがあるものとする。

4. 受入会社に対する出資は、政府関係(電源開発株式会社)20%、民間80%とし、民間の内訳はおおむね九電力会社40%、その他一般40%の比率を目途とし、一部業界が独占的に受入会社を支配することのないよう措置するものとする。

5. 受入会社の役員人事については、あらかじめ政府の了解を経るものとする。すなわち、閣議了解では、問題の出資比率は「電発20%、民間80%とし、民間の内訳は九電力40%、その他一般40%の比率を目途とする。」と幅をもたせた表現となり、民間への具体的な配分は設立準備委員会にまかせることになった。「また「公募」でなく「その他一般40%」という表現により、電機メーカー等電力会社以外の一般業界からも広く発起人会に参加できるようにした。出資比率に関し反対を明らかにしていた九電力側も、閣議了解が民間側の比率に含みを持たせていることと電機メーカーが発起人になれる措置がとられたことから、9月4日の社長会議で原子力発電会社に参加する態度をまとめた。

 上述の閣議了解により、設立準備委員会の発足が急がれることとなったが、9月3日正力国務相は設立準備委員会の世話人として、電気事業連合会会長菅禮之助、電発総裁内海清温、経団連会長石坂泰三、日商会頭足立正、原研理事長安川第五郎の5氏を選び、河野企画庁長官、前尾通産相の了解を得た。世話人会は、設立準備委員の人選も含めて今後の新会社の進め方をまかされることとなったが、9月5日の初会合において、別記名簿に示すごとき設立準備委員を決定し、同時に同委員会のオブザーバーとして、大蔵、通産、経企、科学技術等関係各省庁担当局長および石川原子力委員の参加を決め正力国務相に申し入れた。

 今後は、発起人会を作って新会社の社長を選び、政府の了解を経て、10月には新会社が発足し、11月に調査団を海外に派遣することが目指される模様である。


原子力発電株式会社設立準備委員名簿

管   禮之助   東京電力会長

太田垣  士郎   関西電力社長

井上  五郎     中部電力社長

内海  清温     電源開発総裁

石坂  泰三     東京芝浦電気社長

植村  甲午郎   経済団体連合会副社長

足立   正     日本商工会議所会頭

杉   道助     大阪商工会議所会頭

太田 利三郎   日本開発銀行総裁

大屋   敦     日本原子力産業会議副会長

安川 第五郎   日本原子力研究所理事長

久留島 秀三郎  同和鉱業社長

茅   誠司     日本学術会議会長

岩田  宙造    元法相

河合  良成    小松製作所社長