資料

原子燃料公社昭和31年度業務報告書

 昭和31年度における原子燃料公社の業務報告書は、7月19日(金)開催された第28回原子力委員会定例会議に資料として提出され、原子燃料公社発足以来、32年3月31日までに行った業務について報告、丁承された。以下にその報告書を資料として掲載する。ただし、一部省略または表示方法の変更をした部分があるが、御了承を得たい。

目次

1. 業務の概況
2. 核厚料物質の開発の状況
3. 核原料物質の生産(加工を含む)の状況
4. 建物、構築物及び機械設備の建設及び改修の概況
5. 業務組織の概要及び職員の状況
6. 財務の概況

1. 業務の概況

(1)公社設立の経過

 原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とをはかり、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与する目的のもとに原子力基本法が制定され、これに基づき原子力研究所と原子燃料公社とが設置されることになった。原子燃料公社は核原料物質の開発及び核燃料物質の生産並びにこれらの物質の管理を総合的かつ効率的に行い、原子力の開発及び利用の促進に寄与することを目的としているが、昭和31年5月4日原子燃料公社法の制定をみ、同7月19日理事長となるべき者に高橋幸三郎、監事となるべき者に宮原幸三郎、村田八千穂の指名があり、翌7月20日総理大臣官邸で第1回設立委員会を開催した。
 つづいて同8月7日電気工業会館で第2回設立委員会を開催し、同月10日設立委員長篠原登より理事長となるべき者高橋幸三郎に設立事務の引きつぎを行った。また理事長高橋幸三郎、副理事長原玉重、理事豊島陞、佐藤源郎、今井美材、監事宮原幸三郎、村田八千穂のつそれぞれ任命があり、一方政府出資金1千万円を受け入れたので、東京法務局日本橋出張所へ登記の申請を行って原子燃料公社は設立された。

(2)31年度業務の概要

 昭和31年度における原子燃料公社の事業は、ウラン鉱の探鉱に重点を置き、開発及び製錬については昭和32年度以降に作業に着手しうるよう準備を行うことであった。
 探鉱に関しては工業技術院地質調査所が昭和29年および30年の両年度にわたって実施した基礎調査の結果有望地域とみとめられた鳥取県倉吉地区、鳥取、岡山県境の人形峠地区、および岡山県倉敷北部の三吉鉱山等の各地区において次のような探鉱作業を実施し、開発への基礎方針の樹立につとめた。
 まず既知鉱床については、坑道内及び地表の鉱床精置、トレンチ、ピット、試錐、坑道掘進の諸探鉱作業を行って鉱床の地表での拡がり並びに地下への連続状況を探った。同時にこれらの探鉱作業に伴って綿密な放射能測定検層を行って、鉱床と放射能強度の関係を詳細に観測し、両面からウラン鉱床としての価値判定に必要な資料を収集整備した。また一方においては既知鉱床の周囲の鉱床地帯には平行鉱脈その他の類似鉱床の存在の可能性が予想されるので、これらの未知の鉱床探査のため、電気探鉱、トレンチ、試錐を行い、また倉吉地区の一部においては試験的にヘリコプターを使用して空中放射能探査(エアボーン)を実施した。
 倉吉地区については昭和31年10日20日倉吉出張所を設立して本格的探鉱に着手するとともに、鳥取県三朝所在の岡山大学付属温泉研究所に、探鉱期間中採取した鉱石試料の分析を依頼した。本地区のウラン鉱床には歩谷(ウラン鉱床発見の端緒となった旧小鴨金山の鉱床を営む)、円谷、よころ谷並びに広瀬の緒鉱床があり、これら鉱床を含む東北方向の延長4,000m、幅500m程度の地帯は、鉱床開発の有望地帯として一般に期待されていたところで、空中探査を含む多角的探鉱を実施した。その成果は次年度につづく探鉱作業の進捗に俟つべきものが多いが、特に円谷鉱床の有望性が確認された。
 人形峠地区は、ウラン鉱床が発見された県境地区から東方に広く分布していることが判明して来たので、県境地区におけるトレンチ、ピット、試錐による探鉱及び坑道探鉱を実地したほか、東方の夜次、赤和瀬両地区についても一部地表探査を行ってウランの存在を確認した。詳細は今後の十分な探鉱の結果判明するはずであるが、国内ウラン資源として鉱量が大きく、また鉱床が若い水成岩中の水平鉱層であるので、今後の選鉱、製錬の技術の研究と相って開発が可能であると考えられる。
 三吉鉱山の鉱区一帯には多数の平行鉱脈の露頭があり坑道探鉱がわずかに行われたものがすくなくないが、31年10月公社駐在員事務所を設置して、おもに試錐及び坑道探鉱を行った結果、2号鉱脈が今後の探鉱価値を備えるものと判定され、現鉱区内における今後の探鉱方針が確立された。
 上記各地区の探鉱作業のほかに、新しく地質調査所の行った検査のあとを受け岡山県下及び宮城県気仙沼市付近数筒所において鉱床精査を行った結果、その中3〜4筒所において今後積極的な探鉱をすすめる必要を認めた。
 なお車北、中部及び四国地方においてウラン、トリウム鉱を目的とする72件(総面積2,164,902アール)の試掘権の出願を申請し、鉱区の取得につとめるとともに将来の開発準備態勢の整備に努めた。
 製錬については中間精錬施設を昭和32年度に設計、据付し運転を開始できるように、昭和31年度においては設計データの整備につとめるとともに鉱物の分析及び鑑定のために必要な鉱石試験所の建設計画を樹立した。
 なお、中間施設及び鉱石試験所の敷地については、茨城県勝田市及び那珂湊市所在の面積360万坪におよぶ米軍演習地(国有財産)内に候補地を選定しそれぞれ関係官庁を通じてその使用方を折衝したが不調となり、ついで勝田市及び東海村に跨る第2候補地を選定したが不調に終り、更にその後勝田市内の第3候補地中西半分の農耕地1.7万坪について認可を申請したが、32年3月9日上記地区についても承認し難い旨返答があり、爾来茨城県にも協力を求め目下極力物色中である。

2. 核原料物質の開発の状況

 昭和31年度における原子燃料公社の業務はウラン鉱の探鉱に重点を置いたが、これを地区別及び作業類別に成果を見ると下記のごとくで、また、探鉱の結果にもとづき別表のように72鉱区の試掘鉱区を出願し、開発の準備を行った。

A 地区別探鉱状況及びその成果

(1)倉吉地区及び人形峠地区

 探鉱実施にあたっては、既知鉱床の探鉱とこれに並行して新鉱床探査の諸作業を地区別に随時行っな。すなわち鉱床精査、トレンチ、ピット、物理探鉱等の地表探鉱により地表分布を探査するとともに、試錐、坑道、掘進により地下探鉱を行った。一方岡山大学三朝温泉研究所に分析を委嘱して探鉱期間中採取した試料分析業務の円滑化を計り、鉱床内部の品位分布の正確かつ迅速な把握に努めた。
 また他面ウラン鉱山の探鉱、開発の進展に伴って問題とされる放射能障害の予防及び治療に備えるため同温泉研究所森永、梅本両教授を嘱託して具体的緒施策の検討に着手した。

倉吉地区
 倉吉地区は倉吉市街の南方4〜8km 小鴨川、竹田川の両地域に跨る地帯である。
 地質は黒雲母花崗岩を主とし、これに貫入する半花崗岩、安山岩、ペグマタイト、石英、斑岩、リソイダイト、ふん岩等から成っている。鉱床は歩谷、円谷、ヨコロ谷、広瀬等に散在しており、いずれも組粒の黒雲母花崗岩を母岩する熱水性合ウラン鉱脈及び鉱染鉱床である。

(イ)ヨコロ谷地区は大小の鉱染鉱床が不規則に散在しているので具体的な探鉱方針の樹立に必要な野外データを取得すべく広範囲にわたる地表精査、トレンチ及び試錐を実施し、また電気探鉱を行い、同特にすみやかに地下の状況を探知する必要上最初から坑道探鉱をも実施した。
 電気探鉱の結果本地域の比抵抗ならびに自然電位の分布状況を知り得たで、これにより滞在する未知鉱床の胚胎可能地域がおおむね判定され、更にこれにもとづき、トレンチ調査の結果若干の朝露頭が発見された。
 坑道探鉱は露頭部より直接鏈押探鉱ならびに立入坑道を掘進し予定総延長150mを達成したが、鉱床は一定の方向性をもって仲延せず不規則形の鉱染鉱床が不規制に断続することが判明したので次年度に続く探鉱方針を慎重に検討中である。
 試錐は路頭部付近を中心に4本、総延長144mを達成して鉱染鉱床の下部への伸延状況をおおむ船判断し得た。

(ロ)歩谷鉱床は旧小鴨金山の鏈押坑道その他総延長250m余が主体をなすものであるがこれの上盤側すなわち西側に2本の平行脈があることがわかった。トレンチは第一上盤鏈に対して実施し、露頭追跡の結果60mの連続性が確認された。これら諸探査の結果と旧坑内の状況から勘案して小鴨鉱脈の下部への連続性は相当程度確実視されるにいたったので、旧鉱の鉱脈の下部30mを目標としで歩谷口より斜め立入れ225mの堀進に着手し、本年度内に40mを計画どおり完成した。

(ハ)広瀬鉱床は地質調査所のカーボーンによって発見された黒雲母花崗岩に介在する塊状鉱床であるが、露頭部の探鉱作業の一助として約3mの坑道探鉱を実施した。現在まだ鉱床の実態を把握するにいたっていないが、周囲には放射能異常地、旧坑等の存在が知られているので、次年度の探鉱方針を検討中である。

(ニ)円谷鉱床は31年7月、公社発足にわずかに先立って地質調査所員により発見された新鉱床であるが、その露頭部の掘下りを行い地質精査の結果モリブデン鉱をともなう注目すべき鉱脈であることが判明した。ついでその水平分布を確かめるためトレンチを実施した結果、露頭延長約500mを確認した。試錐は露頭付近において、鉱脈下部を探るべく2本、合計140mを達成し、いずれも地表下50m付近において着鉱した。坑内探鉱は露頭部より直接鏈押坑道を開設し、本年度における予定延長100mを達成したが、切羽の鉱況は優勢で、鉱脈はなお堅実に水平的にもまたした部へ向っても伸延するものとみなされる。
 したがって、次年度には30m下の地並において立入及び鏈押坑道を掘進すれば鉱床下部の状況が把握されて有効な成果をあげ得るものと信じられている。

人形峠地区

 人形峠は倉吉市街地、県境、夜次両地区の東南直距離16km、鳥取、岡山両県の県境をなす峠で中国背梁山脈の屋根の一部にあたる。昭和30年11月12日地質調査所のカーボーン調査班により峠のやや西寄りの鳥取県側の県道地割において放射能異常が初めて発見でされ、これが今日のウラン鉱床発見の端緒となった。地質調査所の検査に引きつづき同所の協力のもとに探査をすすめたところ、ウラン鉱床の母体である人形峠層は県境地点より東方の夜次、赤和瀬方面へ広く分布することが判明してきた。同層は第三紀中新〜鮮新統のものと考えられ、標高720〜750mの間にほぼ水平に広く分布し、基盤花崗岩を不整合に被覆し、最下部は1〜3mの基底礫岩層からその上部は頁岩、砂岩の互層及び泥岩層から成る。ウラン鉱は礫岩層に集中しており、探鉱の対象となる。
 人形峠地区は当初県境地区の地表精査、トレンチ、ピット、試錐から着手し、東方夜次地区の一部にもトレンチ、ピット作業を行ったところ鉱床の分布面積は短時間の間に著しく拡大し、さらに赤和瀬地区にも賦存していることが知られるにいたった。
 試維及び坑道探鉱は県境地区において実施され、試維は垂直方向に4本、総延長178mを終了し、いずれも基底礫岩層を確認している。
 坑道探鉱は県境地区において水平坑道3本、計300mを行い、さらに追加工事200mをも実施した。
 県境地区におけるウランの含有状況、鉱量の算定等開発計画の樹立に必要な基礎的数字等は、31年度の作業量に数倍する今後の探鉱作業の結果に俟つべきものである。県境地区のほか、さらに夜次、赤和瀬両地区の鉱床についてはその一部を確認したばかりであるが鉱床の全般的のひろがりは相当に広大であることが推定され、したがって人形峠地域全域の埋蔵量は今後十分な探鉱を行えば発見当時の予想に比して格段の大きな数量に達することが予想される。

(2)三吉鉱山

 三吉鉱山は倉敷市街地の北方3.5kmの地点に位置し、従来タングステン鉱床として大正年間から数回にわたって、採掘されていたが、たまたま2坑において岡山大学逸見助教授により、本邦最初の鉱脈型鉱床中のウラン鉱物として砒銅ウラン鉱が発見された。
 鉱山付近の地質は古生層とこれに貫入接触した花崗岩とから成り、鉱床はグライゼン化作用をともなう気成鉱脈で多数の平行細脈群がら成るが、これ等の中で2坑、17坑などは比較的優勢な鉱脈である。
 当鉱山における探鉱は現在坑道探鉱及びボーリング探鉱を主としたが、坑道探鉱はまず17坑について昨年10月20日から着手し、当初の予定量100mに追加分10mを加え完了した。17坑はかって優勢な石英脈露頭から鏈押坑道5mを掘進していたものの鏈先を今回さらに追跡したのであるが、次第に脈勢衰えて掘進の何値を失った。一方坑口付近は高カウントを表示し、砒銅ウラン鉱を相当量含む箇所があったので、坑口から10mの地点で西方へ7m立入坑道を掘進したところ、相当の高カウント部が発見されたので、次年度にはこの異常部の追跡に作業を集中する。
 試錐探鉱は2坑下部の鉱況をさぐるため3点について行った。その結果いずれも着脈し、鉱脈の存在が認められた。

B 作業類別探鉱状況及びその成果

(1)鉱床精査及びトレンチ




(2)科学探鉱


(3)試  錐(一部省略)


(4) 坑道探鉱(一部省略)



C 昭和31年度試掘出願鉱区


3. 核燃料物質の生産(加工を含む)の状況

 核燃料物質の生産、加工を行う製錬工場については、業務の概況の項に述べたごとく、その敷地の選定に終始したので、予定の建設にとりかかることができず、予算に承認された債務負担を行わなかった。また、年度末にいたり英国原子力公社と中間プラントの試科としての鉱石の輸入についての交渉を始め、進行中である。

4. 建物、構築物及び機械設備の建設及び改修の概況

 本年度における主要調達物件は次のとおりである。

1.構築物の建設      375,546円

2.機械及び装置その他 33,455,764円

(1)機械及び装置   18,647,279円

(2)工具、器具、備品 8,204,985円

(3)車両運搬具    6,603,500円

5. 業務組織の概要及び職員の状況

(昭和32年3月31日現在)

(1)組織別人員表

役 員 7名

     理事長1、副理事長1、理事3、監事2

職 員 93名

     企画室4

    総務部37(総務課23、経理課9、調達課5)

    探鉱部23(探鉱計画課7、精査課7、科学

          探鉱課5、試験鑑定課4)

    製錬準備室12(製錬準備課12)

    開発準備室4(開発準備課4)

     倉吉出張所13

(2)31年度人員増減状況



6.財務の概況

    貸借対照表

    損益計算書