原子力委員会参与会

第6回

日時 昭和32年7月25日(木)午後2時20分〜5時30分

場所 第三公邸

出席者

大屋、茅、菊池、倉田、瀬藤、中泉、伏見、松根、三島、山県、脇村、
岡野、高橋、大来、宮崎、緒方、斎藤、朝田(代理) 各参与
正力委員長、石川、藤岡、兼重 各委員
吉田政務次官、篠原科技庁次長、佐々木局長
島村政策、荒木調査、藤波管理 各課長、ほか担当官
日本原子力研究所 駒形副理事長、嵯峨根理事
原子燃料公社 原副理事長

配布資料

1.宇田大臣一行欧米原子力平和利用視察報告書
2.第5回参与会議事録

議題

1.実用発電炉の受入体制について
2.佐々木原子力局長の帰朝報告

議事内容

1. 正力委員長ならびに吉田政務次官の挨拶および新参与の紹介

 正力委員長が再任されてから初めての参与会であり、冒頭に委員長から挨拶があった。

 正力委員長:今度再び委員長になった。昨年1月に比べ国民の原子力に対する関心が深まってきたことは全く隔世の感があり、原子力の平和利用が実用期に近づいたことを国民が感じてきた。今まで日本の原子力利用は約10年おくれていたが、出発のおくれをとり戻すまでになった。私は独走といわれるが、そんな覚えはないのだが、今後も皆さんと協議の上諮っていきたい。
 吉田政務次官から新任の挨拶があった。
 参与の定員が増加され、それにともなって行政機関、原研および燃料公社から参与に加わった方々につき、島村政策課長から紹介があった。

2. 実用発電炉の受入体制について

 佐々木局長:わが国では将来エネルギー事情が窮迫する見通しがあるが、原子力発電を実施する国内法規も、原子炉等規制法および放射線障害防止法がつくられ、法的根拠ができ上っている。英米との一般協定の締結に関しては、草案の検討を終り、関係各省と協議の上正式交渉に入りたい。海外では英米とも実用規模の発電炉の開発に相当自信をもっている。このように、原子力発電は決心あるいは実施の時期になったと思われるので、今日は受入体制についての皆様の御意見をききたい。
 今までの段階では、採算に合うと考えられるので、民間の9電力会社とメーカーとの協力で民間の新しい会社を作って受け入れたらよいという考え方がある。もう一つは、まだ採算にのらないから国の補助または出資によるべきで、その際は新しい機構を作るより電発でやったらよいのではないかという二つの意見があった。これらの考え方のほか、原子力に関心をもつ当事者が皆集まって共同してやればよいとする意見もある。

 正力委員長:内海電発総裁は採算に合う段階ではないから、電発でやるべきだと私に希望をのべてきた。それに対しては、合わぬものをやるのではない。やるとしても調査団を派遣してやるのだといっておいた。電発に了解させて民間の会社と一緒にやらしたらどうかというのが委員会の意見である。

 大屋参与:産業会議の意見として申し上げると、9電力会社は供給責任を全うするためには1日も早く原子力発電にとりかからなければならないし、また少なくとも日本では引きあうのだということで案を出したものと思う。水力、火力、原子力を将来併用するためという理由で9電力がやることは当然で、最初の動力炉は試験の性格をもっており国産にもっていく基本となるものであるから、電力会社のみがやるよりもメーカー等原子力に興味をもっているものがあつまってやるのはもっともだと思う。こういった点から、9電力会社、電発、関連企業等による受入体制が望まれる。誰が主体になるべきだという考えはないが、寄合世帯の悪弊をださぬようにやってほしい。政府も燃料を貸与したり、税金等に関し考慮するというように、できる範囲で民営の邪魔にならぬようにこれに援助を与えるのがよい。導入する炉としては英国のものがまず考えられるが、今後も改良されるのでできあがる頃には輪をかけた経済性を持つことと思う。英国でも日本のメーカーにできるだけ協力する考えをもっているので、外国から炉を入れるのは国産化の邪魔にはならず大いに役立つと思う。最低200〜300億円の金がかかるから、外貨をどうしたら日本に持ってこられるかを考えて政府も協力してほしい。

 正力委員長:原研の安川理事長によると、原研では実用発電炉を三導入する考えはない、民間で入れるのは結構だということである。英国のバブコックのいうところでは、出力25万kWの設備ならば建設費が約270億円であり、これはkW当り11万円である。ヒントン卿の提示した15万円/kWと比較して相当割安になっている。こういった点から考えて原子力発電はすでに採算にのっていると思う。また、今後も安くなるからまだ待てば一層よいのではないかという論もあるが、現在の電力よりも安いコストでできるなら早い方がそれだけ得をする。最近民間から自分で導入するといいだしたから、この空気を醸成することは日本のためによいと思われる。

 松根参与:民間の構想の概略を申しあげて御判断をお願いすることとしたい。天然ウランと濃縮ウランと両方の型式の原子炉を入れると、500〜600億円かかる。このうち200億円を資本金、あとを外資と借入金とで調達する。相当の安全度をみて電力単価4円50銭ないし70銭となる。これは新鋭火力の発電原価とほぼ同じものであるが、石炭の価格が毎年上昇している傾向も考えると、原子力は新鋭火力に比してトントンか少なくともよくなるものと考えられる。電力会社は1年に2〜3千億円の電源開発をやっており、そのことからみて、原子力発電に要する500〜600億円を年に割ると相対的に少額であり、相当のコストで発電できるとなれば若干の狂いはあっても株式会社としてやっていけると思う。まず10億円程度の株式会社をつくり、それから調査団を、派遣した結果で実施計画をたて所要資金をはっきりさせたい。電発側とはコストの試算を双方からもちよってコストの幅を狭めようということになっている。

 大来参与:ユーラトムの3人委員の報告書には、建設すべき動力炉の型式は1958年になってから本式に考えたいといっているが、問題はどういうところにあるのか。

 佐々木局長:英国ではブラッドレー、バークレーに発電用の原子炉を造っており、そのうち1基だけは、1958年の夏に動くということである。また米国でも、1958年にPWR、BWRの試験炉が完成するので、これらの結果をみてということだと思う。

 菊地参与:燃料のウランを照射した後は、どう考えているか。

 松根参与:燃料は送りかえすものと考えている。米国に送りかえすときは12ドル/g、英国に送りかえすときは5千ポンド/トンで、運賃は別に考慮している。天然ウランにはU235が0.7%含まれているがこれが0.4%になるまで照射し、濃縮ウランの場合は濃縮度2.6%の燃料が1.9%になるまで照射するものとしている。

 倉田参与:受入体制を作った場合、望ましいのは国をあげて一丸となってやっていくことである。その際電発の性格からいって、普通の会社と一緒になってやっていくのに制約はないか。 

 松根参与:出資はお互いに腹づもりでだしていく。増資の問題が起ったような時など、足手まといになることも考えられるが、大勢でやるのだから多少のことは辛抱せねばならない。

 脇村参与:電発のできたいきさつは。

 松根参与:電発は戦後、9電力に資金がなく、一方、巨額の電源開発資金が必要になってきたときに、大規模かつ困難な地点を開発するものとして発足した。その後、9電力の力もついてきて自己調達もできるようになった。開銀資金は工事資金の約1割程度である。

 脇村参与:電発は火力の建設はできないのではないか。できるとしても採算にのらない特別のものではないのか。

 大来参与:火力の開発もできる。電発は採算にあうという建前でやっている。

 脇村参与:電発は9電力と協力してやっていけるのか。

 大屋参与:許可があれば出資ができ、9電力と一緒にやっていける。母屋をとって電発が主体となってやっていくには特殊法がいる。

 大来参与:民営で動力炉を導入するとして、国のなすべきことは何か。保険はどう考えているか。

 松根参与:国家の援助は、今の電気事業が受けている程度のものを考えている。保険は各国でもやると思うが、その程度は当然日本でも行われると期待している。

 脇村参与:保険会社が再保険できない場合は、国家が再保険をしてやらねばならない。

 大屋参与:再保険の問題は米国でも起っている。大きな災害は実際には起らないと思うから再保険は実施するようにした方がよい。

 伏見参与:英国は地震の研究をどのようにやっているか。

 佐々木局長:週に一度専門家があつまり研究した結果、コンクリ一トを厚くするとか、内部に釣り上げるようにすることで解決できると非常な自信をもっている。

 茅参与:私はコールダーホール改良型は、新鋭火力に匹敵するという大臣の言葉を信用したが、経済べースにのるというのでやるのならばよい。その際には地震のような問題はよく考えてやってほしい。基礎的な研究部門のなかで、実用規模のものまでもやるというのには大きすぎる設備だから、研究部門は別に考えるということに気をつけて欲しい。

3.佐々木原子力局長の帰朝報告

 佐々木原子力局長から配布資料にもとづいて次のような帰朝報告があった。

(1)2年ほど前に藤岡委員と一緒に行った時と比較して一番感じた点は、各国が日本に対し非常な好意と関心を持っていることである。

(2)一般協定に関して英国と米国で意見書を示す程度の会議をもったが、日本でそれほど心配しなくても大きな問題は話合いがつくという感じをうけた。

(3)動力炉の開発は、各国でそれぞれ計画を進めている。英国の天燃ウラングラフファイト型の原子炉はまだまだ改善の余地があるということで、今後もなお進歩すると思われる。米国ではAPPRという原子炉をみたが、部品が全部飛行機で運べる小型の炉で、燃料は約1年もつ。日本でも僻地等で使えると思う。BWRの実験炉も9月に動き、実用炉も並行して建設しており、PWRとBWRの優劣も間もなくはっきりした見通しがでると思う。

(4)研究炉は、どこの国でも材料実験に真剣な努力を払っている。