昭和30年度原子力平和利用研究の紹介

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により委託した研究のうち、今回はその第7回として株式会社日立製作所の実施した「カウンター式中性子測定器の試作研究」(委託金額2,165千円)と、株式会社科学研究所の実施した「カウンター式中性子測定器の試作研究」(委託金額3,668千円)とを紹介することとした。[なおこの二つは共同研究の形で行われたものである。〕

カウンター式中性子測定器の試作研究

1.緒 言
 本研究は昭和30年度原子力平和的利用委託研究費により株式会社日立製作所において行われたものであって、BF3ガスを封入した金属製の熱中性子測定用比例計数管の国産化をはかるものである。本研究を行うにあたっては、科学研究所と協力しているが、科学研究所においては BF3ガスの調整に力をそそぎ、日立製作所においては金属計数管の材料および構造を主として行っている。

 以下、記述するところは日立製作所における研究の概要である。

2.試作BF3比例計数管の構造

 試作計数管の構造を第1図に示す。本計数管は他の計数管とことなり全金属製である。これはBF3ガスが非常に化学的に不安定な気体で、たとえばガラス製品では

   6BF3+3SiO2→3SiF4+2(BOF)3

の反応によってSiF4が混入し、すぐれた性能の計数管を得ることが期待できないからである。試作管は特に同社製の無酸素銅を材料としており、不純気体の浸透によって生ずるおそれのある特性の経年変化が起らないようにしている。陰極円筒は長さ251mm、外径27mmφ、厚さ1mmである。 この両端にエンドピースおよびSt-upakoff HI-voltaga Terminal を銀鑞づけしている。BF3ガスは負性ガスであるから動作電圧は高く、端部に電気的漏洩が起りやすいが、これに対しで絶縁性の高いStupakoff Termi-naJを使用している。また、Stupakoff Temi-nalにはガードリングが着いていて動作時のend effect を補償する役目を果している。中心線は0.1mmのタングステン線を使用している。完成品はこれにエンドキャップをかぶせ、コネクタを取り付けたもので全長44mm、管径27mmφである。 なお実効長は205mmである。

第1図 BF3比例計数管構造

3.封入BF3ガス

 試作計数管には天然のBF3ガスを封入している。B10は天然硼素中18.8%含有されでいるので濃縮したB10F3を封入した計数管に比較して中性子に対する効率は数分の1で小さい。効率の点を除けば他にことなるところはない。BF3ガスは最近国内でも市販され始め、また外国でもボンベに填て市販されているが、おもな用途は触媒であるため約3%のSiF4のほか不純物をかなり含んでいるため計数管封入用としでは不適当である。計数管用にはこの粗製BF3ガスを極度に純化し、特に電気的に負性の気体を完全に除去しなければすぐれた性能の計数管を作ることは期待できない。試作管には科学研究において計数管用として作られたBF3・CaFを譲渡してもらい、これを熱分解して BF3を得ている。BF3発生容器は分解時における高温BF3と反応を起さないステンレス製で、また冷却套を附属して冷却した BF3 を精製炉中に送り込むようにしている。精製のための配管はすべて炉中に入れて発生にさきだちbakingを行って最も有害な水分を除去している。炉中ではコックのかわりに水銀カットオフを使用し、また数段の液体空気およびドライアイストラップを設けてBF3の分溜を行っている。
 BF3比例計数管の性能はBF3ガスの純度によって左右されるといってもさしつかえないが、化学的に不安定でその取扱いには多大の不安をともなう。

4.試作BF3比例計数管の性能

 BF3比例計数管は BF3 ガスの封入圧力によって効率および動作電圧が大きく変るので使用の目的に応じてその値を適当に選ばねばならない。熱中性子に対する効率の尺度となる計数率Cは近似的に

C=φVNBσB

φ:中性子束(n/cm2/sec)

V:計数管有効体積

NB:B10単位体積中原子数

σB:熱中性子に対する吸収断面積

であるので効率を高めるためには封入圧力を高くし、B10 の原子数を増すことが必要である。一方計数器に記録されるパルスは電極間の高電圧によって気体増幅されたものであるが、この気体増幅は電場の強さEと封入圧力pの比E/pの函数であり、封入圧力にしたがって電圧を高めなければならない。試作管はまずBF3ガスのみについて封入圧力を変え、それぞれの圧力に対して計数率曲線を求めたが、第2図にその一例を示す。増幅器の利得を上げると特性は良好になるから事情の許す限り上げることが望ましいが、Sensitivity 1mV でプラトー率は数%/100V、プラトー幅150Vという結果を示し、外国製品に比較して遜色はないと思われる。第3図はかなり多数の試作管について得られた封入圧力と計数率および封入圧力と計数開始電圧の関係である。RCL Model3ー20の計数率を標準にして効率を求めると封入圧力50cmHgの試作品の場合約2%であり、濃縮B10F3を使用すればRCL製と同等効率となることが明確となった。
 最後に、試作管の波高分布曲線を第4図に示す。 比例計数管の性能はGM計数管と異なり波高分布曲線の良否によって決定される。第4図の波高分布曲線ではB10(nα)Li7の反応による2.3MeVのα線パルスが波高値70Vの所に集中して検出されている。またB10(nα)Li7反応において2.78MeVのα線が放射されているので検出されなければならぬが、前者の杓7%であり、またWall effect 等のため前者におおわれて検出することは困難である。


第2図 計数率曲線


第3図 封入圧力と計数開始電圧、
計数率の関係

第4図 波高分布曲線

カウンター式中性子測定器の試作研究

まえがき

 昭和30年度原子力平和的利用研究委託費により、放射線測定器部門として「カウンター式中性子測定器の試作研究」が科学研究所に委託され、委託費として3,668千円が交付された。
 本研究は、31年8月末をもって終了したので、その研究結果の概要をここに紹介し、放射線測定器に特に関心ある向きの御参考としたい。
 本研究は次の4部分からなっている。

1.BF3・CaF2の調製
2.高純度ガス(BF3)の充填
3.BF3計数管の試作
4.BF3計数管の性能試験

 いうまでもなく、この計数管はBF3(三弗化硼葉)ガスを充填した比例計数管で、中性子の硼素10に対する(n、α)反応を利用して、中性子を測定するものであって、本研究においては特に重点を1と2においている。 以下簡単に各項について説明したい。

1.BF3・CaF2の調整
 BF3・CaF2はBF3を保存するのに適した化合物であるので、この調整を第1図に示す装置をつくって行った。この装置の試作は、以前に小型のものをつくった経験を生かしたものである。
 フラスコ①に弗化硼素ナトリウム(NaBF4)300gと無水酸化硼素50gと粉末にしてよくまぜ、これに濃硫酸300ccを加えて、徐々に加熱すると、最初空気といっしょにBF3が出てくる。これを脱水のために濃硫酸を入れたトラップ①とリーク①を通してそとへ逃がす。そして、だいたいフラスコ①の中の空気がなくなるまでこれを行う。
 次にリーク①のコックを閉じて、BF3をエーテルを入れたトラップ③へ、送る。 この時リーク②を開ける。 ここでトラップ②はエーテルの逆流を防止するためのものである。BF3がトラップ③に入ると、中のエーテルと激しく反応し発熱するので、トラップ③は氷を入れたビ-カーに浸して冷却しておく。エーテルがBF3で飽和したことは、リーク②へ、BF3 を放出したとき白煙が出るのでわかる。
 次にフラスコ②に前もってCaF2を入れ真空にしながら加熱しよくガス出しをしておく。そこでトラップ③とフラスコ 2)の間にあるコックをすこしずつ開けると、トラップ③の中にでこきた液体BF3・(C2H52Oはフラスコ②へ全部流れ込む。 次にリーク③を開けてフラスコ②を温水で加熱すると遊離したエーテルがリーク③を通して逃げる。この時エーテルを室外へ安全に放出する。このようにしてエーテルが全くなくなるとフラスコ②の中に白い白墨状のBF3・CaF2ができる。 もし温水で加熱しても液体がフラスコ②に残っているときはCaF2の量が不足であるから、CaF2は計算量よりすこし多く入れておくことが望ましい。さてBF3・CaF2はトラップ④をドライアイス・アルコールで冷し真空にして更にガス出してから、フラスコ②を封じ切る。

 以上の反応をまとめると次のようになる。

6NaBF4+B2O3+6H2SO4-(加熱)→8BF3+6NaHSO4+3H2O

BF3+(C2H5)2O→BF3(C2H5)2O

BF3(C2H5)2O+CaF2→BF3・CaF2

 これら3段階の反応はこの装置により一貫して行うことがでこきた。そして数回にわたって調製した結果きわめて高純度のBF3・CaF2が合計約700g得られた。

第1図 BF3、CaF2計調整装置

2.高純度ガス(BF3)の充填

 1.に述べた方法によりできた BF3・CaF2 を真空装置にとりつけこれを熱分解して生じたBF3ガスを計数管に充填する。
 BF3を取り扱う関係上パッキングはゴムをやめてすべてテフロンを用い、その締付金具に特殊な設計をしてある。 この装置全体の到達真空度は4×10-5mmHgである。

 本装置の概略を第2図について説明すると、はじめ装置の排気系全体を真空にした後BF3・CaF2 を200℃まで加熱し十分ガス出ししてから260℃くらいまで温度を上げると、BF3がドライアイスで冷却したHFトラップを通して計数管に充填される。 この時マノメーターを読みながら所要の圧力になるまでBF3・CaF2を加熱する。
 そこで計数管を封じ切って性能試験をする。HFトラップは不純物としてBF3とともに発生した弗化水素を取るためNaFを入れてドライアイスで冷却したものである。

第2図 高純度ガス充填装置

3.BF3計数管の試作

 計数管の構造は第3図に示すとおりであって中心線は直径0.1mmのタングステン線を用、陰極筒は外径27mmの無酸素銅を用いてある。
 また計数管の外形寸法は日立中央研と協定の上同じにしてあるが、将来外径を 27mmから1インチに改める必要があると考える。
 この計数管の組立に際してはよごれに細心の注意を要し、とくに溶接個所にフラックスが残存しないように清浄にしなければならない。
 また計数管の排気に際しても熱し、十分ガス出しをし、BF3のガス充填に際しては液体空気で2~3回蒸溜してその純度を高くした。

第3図 BF3計数管の構造


4.BF3計数管の性能試験

 この性能試験には中性子源として Ra(100mc)+Beを用い、電気回路には波高分析器を用いて精密試験を行った。
 さて試作計数管はBF3のガス圧が12cm~60cmHgまで充填したが、ガス圧の増加につれて始動電圧が高くなるのみで特性にたいした影響はみられなかった。その性能の一部を 第4図および第5図に示す。
 第4図は印加電圧と計数率の関係を示したプラトー曲線で、プラトーの長さは約600V以上、そのスロープは100Vあたり2%以下である。
 第5図は一定印加電圧に対する積分型波高分布曲線である。
 試作品の各種性能は外国文献に発表されているデータおよび外国製品に比して遜色ないものと考えられる。しかし計数管の経年変化については、なにぶん研究期間が短いため5ヵ月間の試験の結果しか得られていないが、その程度では経年変化は認められない。


第4図 試作BF3計数管プラトー曲線の例

第5図 試作BF3計数管による波高分布曲線の例(Ra-Be中性子源)