各 省 関 係

建設省における原子力関係業務の実施状況

1.まえがき

 土木工学へのアイソトープの利用は米国ではすでに早くから着手され、そのみるべき成果も多々あるのであるが、日本においてはまさにスタートを切ったところで、その成果は今後の研究と努力にまつ以外に途はない。かつまた土木工学の現状からいっても、その種々の現象の解析は理論と実験および実地観測の三者があいまって完全なものとなるのであるから、計画、設計、施工の面においてはそのいずれをも個々に切り離してはなし得られないのである。
 建設省においては、明治以来直轄工事を行っているため、その工事の施工に当っては不断に調査研究を行ってきてはいるのであるが、現地調査研究の手段としてアイソトープをとりあげたのは、昭和27年度利根川上流調査においてである。
 利根川上流(群馬県利根郡、利根川左支片品川左小支利根川流域、流域面積80km2)では昭和22年から砂防調査費をもって、洪水による土石流の解明のため調査が進められてきたのであるが、これらの解明に必要な基礎調査(洪水前後の流量測定、気象および流域の状態等)に加えて昭和27年からRIを用いて洪水時水流の掃流力による転石移動調査と洪水中の含有砂礫状態を調査する洪水比重分布調査を行っている。
 試験当初は初めての事ではあり、ことにいろいろの観測が洪水期間中の悪条件中に行われるため予期せざる困難にあい、幾度かの失敗にもかかわらず関係者の不屈の努力によって着々その成果はまとまりつつあるが、かかる調査研究は豪雨洪水ごとの観測の多数例を集積しなければ結論は得られないので、その精度の向上とともに今なお調査研究が進められている。
 また北海道開発局においても苫小牧に、北海道開発のための理想的臨海工業地帯を造作すべく、苫小牧港として工業港を築造するために海岸の調査が昭和の初め頃から行われていたのであるが、本格的な調査は昭和26年からはじめられ、この調査の一環として放射性ガラス砂を用いた漂砂の現場実験が昭和29年6月以来行われている。

 これは漂砂現象の著しい苫小牧海岸においてRIをトレーサーとして砂の動きを知る目的で使うのであるが、観測地点の底質、比重、粒径が同じでかつRIを均等に含むガラス砂を人工的に製造し、これを所定の海域にポイントンースとして投入し、波浪、潮流によって動く状態を測定器で追跡するわけである。

2.地方建設局調査実施計画

A.昭和31年度実施状況

(1)海岸漂砂の調査研究

 鳥取県皆生地区は弓ヶ浜の基部に位置しているが、この弓ヶ浜は長さ18km、幅約3kmにおよぶ一大砂州である。皆生海岸はその東端に日野川が河口を開いていて、この上流においては明治大正時代に盛んに砂鉄が採集されていたものであるがその後中止され、また昭和8〜21年までに34ヵ所の砂防工事が施工されたため排出土砂量が減少し、最近30年間に約300mの海岸線の後退が認められている。
 既往の浸蝕防止工事は鳥取県で施工され、当初は災害復旧工事として昭和22〜24年に3本の防砂堤を施工、25年以降は海岸浸蝕対策事業として逐次実施され今日まで14本を終了し、なお3本の未施工分を残している。また29年度からは護岸を施工222mを竣功し、31年度118mを施工しているが、なお507mの未施工分を残している。
 本年度から直轄にて天神川工事事務所で海岸漂砂の現象究明と現地の対策確立のための調査研究に着手したのであるが、その調査事項のおもなものは下記のとおりである。

(イ)日野川排出土砂の分散状況
(ロ)皆生海岸における漂砂の移動方向
(ハ)荒天時における構造物前面の洗掘深

 本年度はRIとしてZn65 200mcが現地にいっているが、2〜3月ごろに第1回の投入を行う予定で目下は初年度でもあるので測定方法の検討、改善、測定器具機械への習熟、取扱者の研修等に主力を注いでいる。

(2)融雪度の観測施設

 洪水予報の重要性は今更のべるまでもないが本調査は信濃川水系魚野川において融雪による洪水の出水解析をなさんとするもので、流量観測所の流域面積は135.4km2ある。ここに本年度は雪量観測局1、基地局1を設置する。雪量観測には無線ロボット雪景計を用いるのであるが、これは測定地点の地表にCo60を置き適当な高さにGM計数管をつるし、地表のCo60から放射するγ線の一定時間のカウントを電波にのせて送信するもので、受信側ではこの電波をうけて計数器にカウント数を表示し記録するものである。この測定で計量される雪量は雪の深さの絶対値ではなく、水に換算した値ででてくる。

 当地では積雪深4mを見込み40mcのCo60を用いる見込みであるが、このCo60が未入荷のため雪量計はでき上っているもののいまだ設置を見ていないが、場合によってはメーカーの手持ちをもって、早急に現地運搬をなすようにしている。

(3)河川流出土砂の調査

 本調査は愛媛県重信川において実施されるものであるが、松山地方の豪雨は4〜5月の低気圧型豪雨、6月の梅雨型豪雨、8〜10月の台風型豪雨とだいたい三つの型に分けられる。ことに台風期の9〜10月は、例年その通過地帯となっている。重信川の流域面積は445km2であるが、山地面積はその80%を占め非常な急流河川となっている。重信川工事事務所では上流の砂防工事と下流の改修工事を行っているが、本川河口から25.4kmの岡砂防堰堤で実測された結果は毎年6万〜8万m3の流出土砂が推積されている。洪水時にはこれらの土砂が土石流となって流れる訳であるが、その洪水中の流出土砂の測定を行って洪水流の解析をなし、合理的かつ経済的な治水計画を樹立しようというのが本調査の目的である。

 本年度は予備実験として実験室にてCo60をもっていろいろの厚さの土砂の透過測定をなす予定であるが、Co60が未入荷のためいまだ実験にはいたっていない。32年度においては、現地河床に2測定点を設置し、両点間の流出土砂の実測を行う予定である。

B.5ヵ年計画32年度以降実施計画
(調査計画を終えたものは事業調査費に移行せしめる)

32年度

(1)海岸漂砂の研究(継続)

(2)融雪による洪水予報施設(継続)

     雪量観測局 2局

     中継局   1局

(3)河川流出土砂の調査(継続)

33年度

(1)前年度(2)、(3)の継続

(2)堤防漏水調査

34年度

(1)前年度(2)の継続

(2)堤防前面洗掘調査

(3)河川流量の測定

35年度

(1)前年度(2)、(3)の継続

(2)ダム埋没ならびに漏水調査


3.土木研究所調査実施計画

A.昭和31年度実施状況

 伏流水調査

 今年度は特に伏流水の問題をとりあげ、その一般的調査方法を研究するため予備実験場として、秋田県仙北郡玉川にある玉川温泉の除毒工事現場を選び伏流水の流速、流向を測定して透水係数を出し、伏流水の運動と関係する地下構造を推定すると同時に除毒動果との関係をも測定する事とした。

 8月に第1回の予備実験として75mcのI131を投入して測定を行い、その結果をとりまとめ中であるが、この結果をもとにしてさらにP32、I131の二重標識による実験も考えている。

B.5ヵ年計画32年度以降実施計画

32年度

(1)伏流水調査(継続)

(2)中性子線による堤防漏水の研究

(3)RIによる掃流および砂の連動機構の実験研究

(4)中性子線およびγ線によるコソクリート含水量の測定

(5)RIによる上水道浄化機構の改善に関する研究

(6)RIによる流砂量の測定

33年度

(1)前年度(2)、(3)、(4)、(5)の継続

(2)RIによる各種鋪装厚の研究

(3)放射能により汚染された排水の処理に関する研究

(4)土質試験に対する応用

(5)天然放射能を利用する断層等地質調査方法に関する研究

(6)潤滑油の品質試験

(7)潤滑機構の研究

(8)堤体の含水量および揚圧力の測定方法の研究

(9)鋼橋熔接部の検査法の研究

(10)RIを使用した簡易検潮器の試作

(11)コンクリートの性質に関する研究

34年度

(1)前年度(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)の継続

(2)32年度(2)、(3)の継続

(3)堤体基礎グラウト効果追跡方法の研究

(4)土の混合機構の研究

(5)摩耗に関する研究(ピストン、シリンダー)

(6)エアクリーナーに関する研究等

35年度

(1)前年度の継続研究

(2)土圧計等の圧力計に対する応用

(3)セメント化学への応用

(4)RIを用いて送配水管の漏水探知への応用等

4.建築研究所調査実施計画

A.昭和31年鹿実施状況

 建築研究所においては、Reactor BuildingおよびHot Lab.において、研究者、技術者を放射能の影響から保護するために、主体構造物の遮蔽力とその施工法、天井、壁、床等の仕上面の材料の選択に関する実験研究を行うとともにさらに排気、排水の汚染を除去して公害を防止する建築工学的な研究を行い、これらの建築物の設計資料をうるための耐放射線構造物に関する研究を行っている。

(1)Hot Lab.の計画に関する研究

 放射性物質および放射線を取り扱う実験室、原子炉室その他の放射線の利用にともなう施設の建設に関する設計および施工の基準を定めるためRI利用実験室の一部を作り、これとともに「放射性物質利用施設設計基準案」を作成している。

(2)遮蔽用コンクリ−トの施工に関する研究

 本年度はいろいろの重骨材を用いたコンクリートの試験を行っている。

(3)畳、床、天井等の表面仕上げに関する研究

 原子炉室や放射線利用施設の内部の表面仕上げは汚染除去の必要性から特殊の考慮が必要であるが、本年度は現在用いられている国産仕上材料約80種について試験を行っているが、32年度以降は新材料の製法、性能試験をも行う予定である。

B.5ヵ年計画32年度以降実施計画

32年度

(1)31年度の継続

(2)換気および汚染物処理に関する建築的研究

(3)RIを用いた建築物内換気および通気の測定

33年度

(1)31年度 (1)、(2)の継続

(2)前年度(2)の継続

(3)RI利用工場の障害防止施設に関する研究

(4)γ線照射室の設計計画に関する研究

(5)γ線照射室および Hot Lab. の構造工法に関する研究

(6)原子力工業の開発にともなう土地利用計画に関する研究

34年度

(1)前年度 (3)、(6)の継続

(2)動力炉の炉体の耐震設計に関する研究

(3)高温を受ける遮蔽壁に関する研究

35年度

(1)前年度(3)の継続

(2)動力用原子炉の収容防護施設