英国における原子力関係留学生の研修状況

  英国駐在西大使から原子力留学生の研修状況についての報告の写が外務省国際協力局からよせられたので、要旨を紹介する。

 1月2日在英大使館村田書記官(科学駐在官)は、在英原子力関係の留学生5名の参集を求めて最近の研修状況等について懇談した。その大要は次のとおりである。

1.各留学生の研修状況

 松下 操(Queen Mary College大学院)

 昨9月3日より10月12日まで6週間、大学院における原子力特別講座に出席、その後電気工学部所属、Nuclear Particle Laboratoryにおいて Prof.Murgatroydの指導を受けるかたわら、応用面については、A.E.A.ハーウェル研究所点から出張教授を受けた。研究室における主テーマは500kV Van de Graaffを利用するパルス中性子束の測定(本実験は最近ソ連学者が発表したパルス型原子炉とも関連あり、かなり興味深い問題と考えられる)等。なお1月2日から約1ヵ月この実験と並行し半日ずつ英特許庁へ通い、当地における特許制度とくに原子力特許政策を調査、更に2月4日以降14週間ハーウェル原子炉学校へ入学、同校卒業後は再び Nuclear Particle Laboratoryへ戻り前記実験を続行する予定。

 Queen Mary College の経験を概括すると比較的新しい学校なるため、生徒数の割合に教授が多く、親しく指導を受けられる機会が多い。原子力工学関係については「ロンドン大学」中で、留学に最も適しているものとみられる。物理出身者にも工学出身者にもよい。

熊取 敏之(University Hospital of Oxford)

 専門が内科臨床(血液学)なるため、現在Prof. Witts につき研修中、主として悪性貧血症に対するCo60の応用研究及び骨髄を培養し、これに放射線をあて、核酸の合成過程における放射線の影響を観察する等の勉強を行っている。今後の予定は、6〜7月の間、ハーウェル・アイソトープ学校へ入学、その後ロンドン大学の Prof.Dacie の研究所および癌研等を視察する。これまでの経験では、放射線医学関係で特にオクスフォードへ留学するほどのことはないように考える。日本との差異は、国内に原子炉があるので、必要なアイソトープが自由に得られるところにある。

福永 博(Harwell Reactor  School)

 9月7日ハーウェル原子炉学校へ入学し、去る12月13日卒業した。同校の講義は非常に広範囲にわたっており、原子力施設見学の機会も多い。したがって、行政官的立場で広く原子力の勉強をするにも効果的と考える。講義の主流はreactor physics と heat transferであり、ある程度の予備知識を有しておれば物理出身者でなくても講義について行くのはそれほど困難でない。反面いわゆるSpecialistにはあまり適しておらぬと思われ、また設計者にとっては elementary すぎる感がある。英国における本校の地位は次の事実によっておよそうかがえるであろう。すなわち、中央電力公社(C.E.A)の原子力発電所 Operator ないし Plant engineer は、Harwell Reactor School 卒業後 Springfield の工場および研究室に約1ヵ月、Calder Hall Operation School に8週間、さらにその後約1ヵ年ほど実地習得を行って、はじめてその資格を取得している。なお、今後日本から本校へ留学生を派遣する場合には、化学工学関係を加えるとよいと思われる。今後の予定は、1月中旬から Birmingham 大学へ入学し、留学期間の終るまで同校の原子力講座に出席する。

寺西 英三(Harwell Reactor School)

 「放射線測定器および標準の研究」をテーマとして留学したが、この目的に対するハーウェル原子炉学校の効果は一般的にいってそれほどでない。Standard の研究についてはすでに Harwell では完成されており、現在それを維持しているというところである。もっともどこにどれくらい測定器を使用しているかを見ることができた点では有効であった。原子炉 instrumentation の本格的勉強には本校だけでは不足でやはりハーウェル研究所の内部に入らねば駄目と思う。ハーウェル研究所には毎年平均して10名程度外国人研究者を入れる席があり各国から apply が相当多いようだが、わが国からもぜひ専門の研究者を送るべきで、その可能性はあるように思われる。

 なお1月からは Oxford の Clarendon Laboratory に席を置き、「速中性子の測定」に関する研究を行う予定である。この Laboratory は、物性論関係の留学生に適しているのではないかとみられる。

萩野谷 徹(University of Birmingham)

 10月初めから本校の原子力講座に出席しているが、このコースの受講者は10名で、うち5名は Port graduate の英国人であり、残りはカナダ、日本、インドからの留学生である。講義の主流は、reactor physics and technology で Prof. Walker が主任である。学生は、一応基礎的な Nuclear physics を卒業した程度の人が多く、本校にはサイクロトロン、電子計算機等の設備を有する。自分は上記講義に出席するかたわら、11月から4月まで、毎週1回大学で行われている「原子力発電に関する成人講座」にも出ており、1月からは「原子炉材料としての Steel に関する研究」というテーマで、本格的な実験を開始する予定である。この実験には、Harwellの原子炉を利用することとなろう。本大学を含め一般に英国では大学が自ら原子炉をもつ計画はないようで、必要な場合は、Harwellに行って実験をしている。つまり、原子力の基礎研究はOxford,Cambridge,Birmingham等の大学でやり、炉を使う研究実験は Harwellで行い、その実用化は Risley の Industrial Group が受け持つというように、原子力開発を分担して、能率よくやっているところに、この国の特色があるように思う。本大学への今後の留学については、日本の大学で、原子物理を専攻した若い人が来る必要はあまりあるまい。ただし、実験設備は日本の大学よりすぐれており、また、カナダのチョークリヴァー研究所以来の、永年原子力研究に従事して来た教授がいるので、その面での接触が多く、得るところが多い。これは本校の一つのよい点であると思う。

2.留学生派遣についての一般的 Suggestion

(1)何といっても、語学の研修を事前に十分行っておくことが大切、その具体的方法としては、原子力留学生候補者をできるだけ早い時期に選考し、科学技術庁あたりで講習会を開き、出発までここで語学の研修を行うよう義務づけては如何。特に、dictationを相当やっておく必要があろう。

(2)同じ施設に2名以上の学生を留学せしめる場合は、その専門分野がダブらぬよう、なるべく各分野の学生を出す方が有効である。(たとえば、留学中それぞれの専門分野で補足し合える利点がある。)

(3)ハーウェル原子炉学校は別として、英国の大学に留学した場合、ある程度担当教授の仕事を assist する形になるから、自分本位での勉強ばかりやっておれないことがあるので、注意を要する。

(4)各自の使用する各種数値表類、計算尺等はあらかじめ自分のものを携行した方がよい。(備付のものを利用していては、能率を阻害するおそれがある。)

(5)科学技術関係辞典、参考書(日本語)をひととおり、大使館に備え付けておくと、きわめて有効と思われる。

(6)現在の留学生日当は、当地ではほぼ十分と思われる。ただし、科学技術関係参考書(英文)は、相当高価である(例 Glasstone,Principles of Nuclear Reactor Engineeringは、当地売価60シリング、約3,000円なるも、邦訳は上下2巻にて1,600円)。

(7)熊取がクリスマス休暇を利用し、フランスの施設を見学したところでは、Radiobiology 関係留学生を Curie Institute のRadium Institute へ派遣するのが有効と思われた由である。