原 子 力 局 放射能調査計画について 1954年3月から始まったマーシャル群島ビキニ環礁における原爆実験は、直接間接にわが国のマグロ漁業および一般水産業界に多大の損害を与えたが、これらの放射能調査は主として南方海域における原爆実験の影響調査に重点がおかれた。 1.目的 この調査は、わが国の原子力平和利用の推進を図るために、わが国の放射能の分布、生活環境の汚染度等につき放射能レベルを調査し、もって将来の原子力時代に備え、国土の汚染を防止し、国民生活への影響を最小限ならしめるための基礎資料とするものである。 2.調査対象 大気放射能 3.調査方法 調査を通常調査と総合調査に分ける。 4.調査時期 昭和32年度より行う。 5.通常調査 昭和32年度の通常調査は次の要領で実施する。 1.大気放射能調査 (1)一般観測 サンプル採取点:札幌、仙台、東京、大阪、福岡の5管区気象台および中央(気象庁) 浮遊塵埃(元素分析) 落下塵埃 降 雨(定時定量、大量雨水(元素分析)の採取) 降 雪(定時定量) 分析:気象研究所において必要に応じ元素分析を行う。 回数:毎日 (2)簡易観測 サンプル採取点:稚内、釧路、秋田、輪島、八丈島、米子、室戸岬、鹿児島、鳥島の気象官署 落下塵 降 雪(定時定量) 降 雨(定時定量) 分析:通常は行わない。 回数:毎日 (3) 上層大気の放射能調査(気球観測、飛行機観測) サンプル採取点:館野においてγ線ゾンデにより 0〜20kmの浮遊放射性物質の垂直分布ならびに移動調査飛行機観測は地上0〜8kmについての観測ならびにサンプル採取を行う。 回数:年20回、ただし飛行機観測は年2回 2.海洋放射能調査 (1)海水放射能調査 サンプル採取点:海上保安庁水路部等において南方定点および日本近海の黒潮、親潮の定線について行う。(ただし、昭和32年度は地球観測年の海水観測計画による。) (イ) 北緯30度以北、東経170度以西の観測点30ヵ所(経度6度、緯度4度ごとに1点)において水平および垂直分布の調査、親潮、水塊の元素分析 (ロ) 北緯30度以南、東経155度以西の観測点約15ヵ所において水平垂直分布の調査 分析:気象庁等で必要な元素分析を行う 回数:年1回 (2)海洋生物及び海底沈澱物質放射能調査 サンプル採取点:日本近海の4定線(房総半島、金華山沖、新潟沖、大瀬崎)でサンプルを採取する。 分析:東海区水産研究所で必要な元素分析を行う。 回数:年2回 3.地表放射能調査 (1)上、下水(井戸水、天水、河川水、水道水、湖水等) サンプル採取点:札幌、東京、茨城、京都、福岡の地方庁衛生研究所 元素分析:国立試験研究機関(放射線医学総合研究所)で必要な元素分析を行う。 回数:月1回 (2)食品(各種) サンプル採取点:札幌、東京、茨城、京都、福岡の地方庁衛生研究所 分析:国立試験研究機関(放射線医学総合研究所)で必要な元素分析を行う。 回数:月1回 (3) 土壌および植物の放射能調査 サンプル採取点:4地域(東京、農業技術研究所)および北海道(札幌)、東海近畿(金谷)、九州(熊本)の各地域農業試験場) 分析:東京(農業技術研究所)で必要な元素分析を行う。 回数:年1〜2回 4.自然放射能調査 (1)大気、水中の自然放射能調査(宇宙線を除く)大気、水中の自然放射能、特にラドン、トロンを対象として国内の数地点を選び調査する。 調査:国立試験研究機関(放射線医学総合研究所)が行う。 (2) 宇宙線の調査 空気中に存在する放射能、特に宇宙線、中性子、中間子、γ線の測定を行う。 調査地点:東京および乗鞍山上 調査:株式会社科学研究所が行う。 回数:毎日 5.そ の 他 (1)特殊地点における放射能調査 (イ)東海村:大気、地表放射能について全面調査 分析および調査:原子力研究所がこれに当る。 (ロ)東京湾および東海村沿岸海域:海洋放射能調査 分析および調査:東京湾は東海区水産研究所等がこれに当る。東海村沿岸は原子力研究所がこれに当る。 (2)人体に対する放射能調査 国立試験研究機関(放射線医学総合研究所)で人体の各臓器、血液、排泄物等の放射能調査を行う。 (3)動物に対する放射能調査 東京(家畜衛生試験場)において動物(家畜)の各臓器、血液、排泄物等の放射能調査を行う。 (備考) 1.国立衛生試験所においては放射能汚染による食品の検査法に関する研究を行う。 2.国立公衆衛生院においては環境汚染の調査等に関する技術者の養成訓練を行う。
1.目的 わが国の原子力の平和利用は着々進められており、それには必然的に放射能の放出がともなう。また一方において原水爆実験の結果により特に大気の放射能汚染度が高まっている現況である。 したがって今後、原子力の平和利用を推進するためには、わが国の天然放射能、放射能による汚染およびこれらの分布等を測定調査することは目下の急務であり、将来の原子力時代に備え、国民生活への影響、放射線の遺伝的影響等の基礎資料として常に把握する必要がある。 2.事業計画 1.大気放射能調査 (1)大気放射能観測 イ)地表附近の大気放射性塵埃の観測(地域別観測) 管区気象台および東京において電気集塵法により毎日試料の採取を行い、その試料を東京に集め気象研究所において元素分析を行う。 ロ) 上層大気の放射性塵埃観測 a 飛行機観測(0〜8km) 飛行機を使用し、年1回電気集塵法およびシンチレーションカウンターにより高度1kmごとに空中放射能の垂直分布の観測ならびに元素分析資料の採取を行う。 b 気球観測(0〜20km) 館野において年10回γ線カウンター法(γ線ゾンデ)により高層大気中に浮遊する放射性物質の垂直分布ならびに移動を測定する。 (2)分析設備 大気放射能観測および海水放射能観測で得た下記試料の放射能の分析、測定および人工放射能物質の精密化学分析を行うため気象庁(気象研究所)に分析設備を設ける。 地表の大気放射性塵埃(地域別観測) 上層大気の放射性塵埃(飛行機観測) 海水の大気放射性塵埃(海水放射能観測) 雨水の大気放射性塵埃(雨水放射能観測) (3)測定器の改良 測定精密度向上のための測定器の改良を行う。 (4)水盤法による測定 フォールアウトによる放射能の内部照射を考える場合Sr90が主となるのでSr90の量を定量的に求めるには、長期間に落下した雨水および自然落下塵をためておき、測定することが必要である。 2.海洋放射能調査 (1)海水放射能調査 海水放射能観測 (イ)第1回 時期:1957年10月 区域:北緯30度以北、東経170度以西 観測:観測点約30ヵ所(経度6°緯度4°ごとに1点)において水平および垂直分布の調査、親潮、水塊の元素分析 (ロ) 第2回 時期 1958年3月 区域:北緯30度以南、東経155度以西 (2)海洋生物の放射能調査 日本近海で海流、海産生物等よりみて最も重要と認められる代表地点(房総半島沖、金華山沖、大瀬崎沖、新潟沖)の4定線について海洋生物(プランクトン、稚魚、ネクトン、重要水産生物)および海底沈澱物(底質、ベントス)の採取と簡易測定を行う。(海上保安庁水路部、西海区、日本海区および東海区水産研究所) なお必要な元素分析を分析機関に送付する。 (3)分析設備 日本近海の4定線および特殊地点で採集された資料(海洋生物および海底沈澱物)につき必要な元素分析、重要な元素の蓄積ならびに移動を測定するため東海区水産研究所に分析設備をおく。 3.地表放射能調査 (1)上水等放射能調査 札幌、茨城、東京、京都、福岡の地方庁衛生研究所において検体(上水、下水、天水、湖、沼水、河川水等)合計15ヵ所分を毎月1回採取し、これを測定する。 なお必要な元素分析を行うため放射線医学総合研究所に試料を送付する。 (2)食品の放射能調査 札幌、茨城、東京、京都、福岡の地方庁衛生研究所において各種食品(野菜、牛乳等)11種類について毎月1回採取しこれを測定する。 なお、必要な元素分析を行うため放射線医学総合研究所に試料を送付する。 (3)機器整備費 札幌、茨城、東京、京都、福岡の地方庁衛生研究所の簡易測定および試料作成のための機器整備を行う。 (4) 土壌および植物の放射能調査 札幌(北海道農試)、東京(農業技術研究所)、金谷(東海近機農試)、熊本(九州農 試)において土壌(地質および土性を異にする数ヵ所)および植物(おもに農作物の代表的なもの)について試料を年1〜2回採取し、必要な元素分析のため農業技術研究所に試料を送付する。 (5) 土壌および植物の分析設備 土壌および植物の必要な化学分析(元素分析)を行うため農業技術研究所に分析設備を設ける。 4.自然放射能調査 宇宙線測定 空気中に存在する放射能特に宇宙線中性子および中間子ならびにγ線の連続的測定を行い、強度の時間的変化を科学研究所に委託する。 調査方法 GM計数管多数を用い宇宙線中間子強度の精密な測定を平地で行う。 B10をつめた比例計数管をパラフィンおよび鉄パイル中に置いて宇宙線中性子強度の精密測定を岐阜県乗鞍山上(2,840m)で行う。 5.そ の 他 (1)特殊地点における放射能調査 (東京湾近海の放射能調査) 東京湾を中心として相模湾におよぶ海域について4月、8月、12月の年3回にわたり、海水、底質、ベントス、プランクトン、稚魚の汚染状況を調査する。 (2)動物に対する放射能調査 東京(家畜衛生試験場)においておもに家畜(乳牛、山羊、鶏)の各臓器、血液、排泄物の放射能調査を行う。 (備考) 昭和32年度における各機関別の放射能調査費は表のとおりである。 放射能調査費 (昭和32年度予算) |