一 年 前 と 今 と

原子力委員会委員 湯 川 秀 樹

 一年前に原子力基本法が成立し、原子力委員会が発足して以来、原子力に関する国内情勢にも世界情勢にも多くの重要な変化があった。たとえば国内における放射性アイソトープの利用がますます盛んとなり、具体的な成果が得られるようになってきたことは喜ばしいことである。しかし、アイソトープの利用が盛んになるにつれて、危害防止、健康管理の問題がますます重要になる。この点について万全を期してゆかねばならぬ。

 世界情勢の変化の中で、特に歓迎すべきものは国連原子力機関の成立である。他の多くの重要な国際問題と同じく、原子力の場合にも国連機関が正式のルートとして最大限に活用されることが望ましい。しかし今度できた規約では、原子燃料ないし燃料体を供給する側に対して供給を受ける側が非常に不利な立場にある。将来この点が是正されることを強く希望するが、それと同時に原子燃料をたとい一部でも国内で供給できるかどうかが少なくとも当分の間、わが国の原子力開発に当って自主性を保持してゆくために重要な因子となるであろう。そういう意味で、国内ウラン資源の開発の努力をつづけることの重要性が各方面にもっとよく認識されるよう望んで止まない。最近になって二、三の有望な鉱山が見つけられ、前途に希望をもつことができるようになったことは誠に喜ばしい。

 もう一つの重要な変化は、いうまでもなく動力炉に関するものである。一年前と比べてみると、経済性その他色々な点が大分はっきりしてきた。また二国間の動力協定に関しても、わが国の原子力基本法の根本精神と全く相容れない機密保持という項目が除去されたという喜ばしい変化があった。一年前に私は、動力炉や動力協定に関しては、少なくともここ一、二年間の情勢の変化を静観すべきことを機会あるごとに主張してきた。一年たった今日の事情は大分変ってきているばかりでなく、色々な問題点も大分明確になりつつある。しかし動力協定や動力炉導入に関して何等かの決断をするということは、わが国の原子力開発の将来に対して長期に亘って重大な影響を及ぼすに違いないのであるから、慎重な上にも慎重でなければならないことはいうまでもない。わが国のエネルギー需給の問題が、一年前に予想されていたよりも更に深刻化しつつあるとはいえ、まだそこには時間的な余裕は残っているのである。この貴重な時間を如何に活用するかが私どもにとって一番大切な問題ではなかろうか。