昭和31年度原子力平和的利用研究委託の決定および研究内容

 昭和31年度の委託研究については原子力局および原子力委員会において検討の結果次のページの表にしるした研究(一部は10月および11月号に記載)を委託することに決定したので、その研究内容について掲載することにする。

昭和31年度原子力平和利用に関する委託研究一覧

研 究 内 容

1.国内産ウラン鉱の選鉱製錬に関する研究

 委託先 三菱金属鉱業株式会社

 委託金額 29,073,500円

 研究内容

  国内産ウラン鉱から選鉱によりウラン精鉱を得ることならびに精鉱から酸化ウラン(または他のウラン化合物)を採取し、金属ウランを得るために必要な純度まで精製する。

 昭和29年度福島県水晶山および飯坂村産粗鉱12.4kgを処理したが、その場合比重選鉱および磁力選鉱により採取される鉱物の採取率は良好であったが、しかし鉱石はスライム化しやすく、このスライム中に含有されるウラン分は比重選鉱および磁力選鉱では精鉱として回収し得なかった。

 以上の結果により、わが国のウラン鉱石に対しては、比重選鉱、磁力選鉱のほか、浮遊選鉱を行わねば、収率を高めることができないということが判明した。本研究では小鴨鉱山地区産鉱石を対象として研究を行うが、同鉱は、燐銅ウラン鉱および燐灰ウラン鉱を多く含むといわれており、浮選法が有力と考えられるが、そのほか比重選鉱、磁力選鉱、静電気選鉱の比較研究をも行う。さらに上記の鳥取県産の鉱石およびこれから得た精鉱を原料として用いウラン濃縮物の採取およびウラン濃縮物からの精製法についての基礎的試験研究ならびにキログラム規模の研究を実施する。

研究の項目を具体的に例拳すると、

(イ)鉱石の溶解試験
(ロ)イオン交換樹脂法によるウランの吸着試験
(ハ)ウランの樹脂による脱着試験
(ニ)ウラン濃縮物の沈澱試験
(ホ)ウランの有機溶剤抽出試験
(ヘ)有機溶剤層から水によるウランの逆抽出
(ト)ウラン精製物の沈澱
(チ)ウラン精製物の再精製

 以上を研究することにより本邦産のごとき低品位のウラン鉱から酸化ウランを有利に採取し、この酸化ウランを金属ウランを得るに必要な純度まで精製する方法を確立することを目標とする。

2.無硼素石油コークスの製造の研究

 委託先 財団法人石炭綜合研究所

 委託金額 1,248,800円

 研究内容

 原子炉用黒鉛に使用する原料コークスは、現在米国のSpecial grade(硼素0.5ppm)を輸入し、またBinderには(硼素を相当含む、少ないものでも、0.7ppmくらいある)により石炭ピッチ、(1)重油を熱分解する際生ずる分解ピッチの性質の研究を行い、分解過程における硼素のきょ動、脱硼素の研究、(2)分解ピッチのBinderとしての性質の研究、(3)分解ピッチをコークス化した場合の黒鉛原料としての性質の研究コークス化に際しての脱硼素の研究を行う。

3.化学的および物理的方法によるB10の濃縮に関する研究

 委託先 株式会社科学研究所

 委託金額 3,478,000円

 研究内容

 中性子測定器には硼素の化合物が使用されているが、この硼素のうち中性子に感じるのはB10だけである。天然硼素ではB10の存在比が1/5ていどであるので、これを濃縮して90%以上にしてやれば中性子測定器の感度を2倍近く上げることができる。BH3(CH3)2Oなる液体化合物とBF3なる気体を共存させるとその間に硼素の同位元素に関する化学交換反応が行われて、B10はわずかながらBF3側に偏存して平衡状態に達する。しかし、このかたよりのていどは非常に僅少であるので、B10の存在値を数十パーセント以上にも濃縮するためにはこの効果を重畳する必要がある。ゆえに充填塔内で両者を向流させることによって目的を達しようと試みる。またBH3(CH3)2Oなる液体化合物がB10F3(CH3)2OとB11F3(CH3)2Oの同位元素混合物と考えることができるが、この両者の蒸気圧間には微少の差位が認められるので、分溜によってB10の存在値を変化させることは可能であり、この場合にもまた充填塔内で分溜効果を重畳しなければならない。当初は上記の二つの方法のいずれが効率がよいか試験装置を試作して研究する。

 また化学的方法の研究と同時に既存のカルトロンを利用し、この装置で硼素とハロゲン化合物の気体が使用できるよう排気系統イオン源等を改造して、これにより濃縮度の高い硼素化合物を作る研究を行う。

4.カルシウム還元による金属ウランの製造に関する研究

 委託先 株式会社科学研究所

 委託金額 8,962,000円

 研究内容

 昭和30年度の委託研究により四弗化ウランを金属カルシウムで還元することについて基礎的概括的な試験研究を行ったが、本年度は連続溶剤抽出方式により硝酸ウランを精製し、これを無水四弗化ウランに変えること、カルシウムで無水四弗化ウランを還元して金属ウランとすることの各過程について実験条件を検討し、中間規模の製造を行うことに移る。規模を漸次に拡大して不純なウラン化合物から金属ウラン3〜4kgを一度の還元操作で製造し、原子炉燐料としての適格性をもつ金属ウランを生産する実際面を開拓することを目標とする。

5.放射性廃ガスの処理に関する研究

 委託先 財団法人日本学術振興会

 実施者 東京大学講師 鈴木 伸

 委託金額 1,466,200円

 研究内容

 原子炉から発生する放射性廃ガスの処理のための研究で、昭和30年度から継続研究である。

 昭和30年度においては、(1)原子炉において発生する気体の種類の明確化とその発生メカニズム(2)対象となる放射性廃ガスならびに放射性、aerosolの性状について、aerosol発生器と測定器を試作し、aerosolの粒度、濃度、凝集性、崩壊性、あるいは光学的散乱性の研究、(3)放射性廃ガスならびに放射性aerosolの除去に関する基礎研究としてガスにおいては代表的ガスについての吸着、吸蔵、化学反応、溶解、凝縮などの原理にもとづく諸法を試み、aerosolについてはろ過法、凝縮法について基礎研究を実施した。

 昭和31年度においては、上記の研究を基礎として、(1)大気中における放射性ガス、ならびにaerosolの捕集法、および分析法の研究、(2)放射性ガスならびにaerosolの除去法装置の設計ならびにその評価に関する研究、(3)放射性ガスならびにaerosolの自動検知、自動記録化ならびにサーボメヵニズムに関する研究、(4)大気ガスからの放射線smog発生の可青皆性についての検討について研究を行う予定である。

6.放射性廃液汚泥の処理に関する研究

 委託先 財団法人日本学術振興会

 実施者 京都大学教授 岩井重久

 委託金額 1,230,300円

 研究内容

 放射性廃液から生ずる汚泥の処理法の確立のための研究で昭和30年度からの継続研究である昭和30年度においては、汚泥処理に必要な基礎研究として(1)凝集沈澱法によるF.P.を含む廃水の水酸化第二鉄による共沈、共沈に際してのスラッヂの物理的性質とpHとの関連等の試験、(2)F.P.を含む下水の生物学的処理の研究として上記沈澱処理後の下水について活性汚泥法による試験、(3)緩速ろ過による水中放射能の除去による、ろ過池におけるろ過膜の放射性物質に対する阻止能等に対する試験を行った。昭和31年度においては上記の研究を基礎として、(1)共沈、ろ過処理により生ずる汚泥処理に必要な、生成汚泥の脱水、固化に際して都合の長い界面化学的条件、共沈剤、同補助剤の選択についての検討。(2)イオン交換樹脂各穫吸着剤等によるF.P.の分離に際しての交換(吸着)速度、耐用限界ろ材および残滓処理に際しての粘土鉱物による吸着物質の固定等に関する研究、(3)蒸発により生ずる廃物残渣の処理に際しての濃縮にさいしての化学的条件の検討等につき重点を置き研究を進める予定である。

7.小型精溜装置による水素の液化精溜の実験的研究

 委託先 財団法人日本学術振興会

 実施者 東北大学教授 神田英蔵

 委託金額 7,743,090円

 研究内容

 水素の液化精溜による重水素濃縮は大装置で行えば最も経済的な重水製造法となる見通しがあるが、技術的に未開発な部分が多い。本研究は昭和29年度、昭和30年度にそれぞれ補助金、委託費による研究で行われた液体水素の性質の研究の結果を基にした継続研究である。昭和30年度までに得られた成果としては、(1)10−2mmHg以下で10−5mmHg以上の断熱効果を有する極低温の保冷法の研究、(2)液体水素温度における水素のオルリーパラ転移速度および転移用触媒の研究、(3)液化器の製作および液化の研究、(4)小型液化精溜実験装置による精溜試験、(5)水素膨脹機関気筒部の材質、試験等を個別的にそれぞれ実験を行い、水素の液化精溜の万能性について検討を行い、非常に良好な成果を収めた。

 昭和31年度における研究は、原料水素7m3/h、循環水素35m3/hの規模の精溜プラントを作り100倍に濃縮するプラントとしての総合研究を行い、(1)水素液化精溜方式における熱および物質バランスの解明、(2)特に液化精溜器における水素のオルソーパラ転移の影響、(3)液体水素精溜器の精溜効果、(4)水素膨脹機関の効果とその耐久性、(5)原料水素あるいは液体水素中の酸素の自動定量等について重点をおき研究を進め、工業化のための基礎試料を得んとするものである。

8.原子炉よりの廃棄物処理工程におけるウラン、核分裂生成物、プルトニウムの相互分離に関する研究

 委託先 財団法人学術振興会

 実施者 東京大学教授 斎藤信房

 委託金額 2,801,400円

 研究内容

 本研究はウランおよび核分裂生成物の分離を安全かつ能率よく分離するための基礎研究で、昭和30年度からの継続研究である。30年度において、(1)ウランと核分裂生成物とを分離する研究(2)ウランとプルトニウムを分離する研究、(3)ウラン、プルトニウムおよび核分裂生成物を含む溶液の化学的性質に関する研究について、研究を進め、(イ)人工的につくる以外に方法のない、ネプツニウム、プルトニウムを科研サイクロトロンによりつくり、これらの化学的性質を知ることができた。(ロ)これにもとづき弗化ランタンサイクル(化学的方法)およびイオン交換樹脂法におけるこれらの元素の行動を研究し、核分裂生成物との分離のさいの基礎的条件がわかった。(ハ)0.5%修酸を溶離液につかう方が硝酸の場合よりはるかに分離能率がよいこと。(ニ)6価ウランが中性子を吸収した場合4価にならず、6価のままでいること。(ホ)ウラン、プルトニウムと近接した溶離するジルコニウム、ニオビウムの分離法を確立等、廃棄物処理に際して必要な基礎的な条件の研究を行った。本年度においては上記の研究をさらに延長せしめ諸外国で行われている廃棄物処理方法を改良するとともに新しい処理方法を確立することに重点をおき、研究を行う予定である。

9.放射性廃液の処理に関する研究

 委託先 財団法人日本学術振興会

 実施者 東京大学教授 広瀬孝六郎

 委託金額 1,220,600円

 研究内容

 放射性同位元素を低濃度に含んでいる放射性廃液の処理に関する研究で、昭和30年度からの継続研究である。昭和30年度においては、(1)予備実験として、10−2μc/ccていどの低濃度のSr89の液を用い、薬品沈澱法、活性法等を用い90%以上の除去率を得た。(2)ついで核分裂生成物から有用なものを除去したある型(セリウム、ストロンチウム、バリウム、ルテニウム、セシウム、その他の稀土類元素を含む廃液を用い、(1)において行った薬品沈澱法を基礎にし、石灰、ソーダ灰、硫酸鉄、燐酸ソーダ、炭酸ソーダを単独あるいは組み合わせて攪拌し凝集沈澱せしめた結果、燐酸ソーダ法により90%の除去率を得た。以上の結果は、Jar Testerを用いたビーカーテストが主体である。昭和31年度における研究は実際に廃液処理する場合の薬品沈澱ろ過法あるいは活性汚泥法について、Jar Testerによる実験と連続流実験の相似性の問題の追及とあわせて、処理水を河湖、海、都市下水に排除された場合のそれらの水系への混合機構、環境汚染に対する影響を調査するものである。

10.放射線影響に対する保護物質に関する研究

 委託先 株式会社科学研究所

 委託金額 5,296,960円

 研究内容

 原子力平和利用の拡大にともない放射線による生物障害は重要な問題となってきている。本研究は生物防御作用を有する各種有機化合物の放射線影響に対する保護作用について検討することを主目的とし、あわせて放射線照射により発生する微生物の代謝機構を明らかにし、保護物質探索を容易にせんとするものである。研究の対象としている物質は、(a)含硫化合物:AET(S-β-amino-ethyl-iso-Thiuronium Bromide)等のアルキルチウロニウウ塩類等、(b)その他の化合物として枝状アミノ酸、環元型ビタミン類等につき、生物照射に際しての保護作用を検討する。

11.原子炉材料としてのアルミニウムおよびその合金の高温水に対する耐蝕性に関する研究

 委託先 株式会社科学研究所

 委託金額 5,373,500円

 研究内容

 アルミニウムは原子核的性質が良く、安価で入手容易であるため、低温の原子炉には広く用いられている。しかし高温水に対する耐蝕性が不良であるため使用できないと従来考えられていたが、この点については合金成分、防蝕法などにより改善の見込がある。現在市販の純アルミニウムおよびその合金の耐蝕性を実用的データで示し、国産炉設計の基礎資料をうるとともに、動力炉に高温で使用することの可能性を検討することを目的とする。

 研究の項目を具体的に例拳すると

  (イ)

 水に関する問題
 温度、水素イオン濃度、ガス等の各影響
  (ロ)  金属に関する問題
 市販品の耐蝕性、合金成分の影響、合金の電気化学的性質
  (ハ)  特殊問題
 放射線照射の影響、重水の腐蝕挙動
  (ニ)  腐蝕結果の判定
 重量変化、機械的物理的性質の変化、腐蝕生成物の検査

 以上の研究によりアルミニウムおよびその合金をなるべく高温まで使用できるような合金成分表面処理、水処理などが決定すれば、高価なジルコニウムや熱中性子の吸収の大きいステンレス鋼を使用せずにすむので経済的な炉が設計しうる。

12.放射線量の測定に適合した有機化合物に関する研究

 委託先 株式会社 科学研究所

 委託金額 2,026,000円

 研究内容

 有機化合物特に芳香属誘導体等が大量の放射線に照射されると分子間転移により、色その他物理的、化学的変化が起る。この変化を利用して放射線量の線束測定ができる各種化合物の探索を行う。本研究においては、研究の第1段階として、(a)アエノールエーテル類、(b)アエニールアルキル類、(c)鎖状化合物類等について照射実験を行い、これらの化合物の各性質を研究し放射線量線束測定に通した有機物の基礎研究を実施する。

13.拡散法による同位元素濃縮の基礎研究

 委託先 財団法人日本学術振興会

 実施者 東京工業大学教授 武田栄一

 委託金額 2,525,800円

 研究内容

 同位元素分離の方法には多数の方法が知られ実施されつつあるが、そのうちでも重要な方法に気体拡散法がある。わが国においてはいまだこの方法について十分な研究が行われたことがなく、不明なところが多いので、この方法による分離法の基礎的知識を得んとする。研究の内容としては

  (A)拡散実験用隔膜に関する研究
  (B)拡散法による同位元素濃縮の計算
  (C)拡散法による同位元素濃縮の基礎実験について行うものである。