原子力政策調査団の帰国とストローズ言明について

 原子力政策調査議員団が去る10月4日帰国したことは、前号に記載したとおりであるが、同調査団を代表して団長有田喜一代議士は大略次のような感想をのべた。

 原子力政策調査団は、多忙なる日程にもかかわらず一同元気で大成功裡に全日程を終了したことは最も喜びとするところである。この成功はプロジェクト・マネージャーMr.McCabeによってなされた熱心かつ惓まざる努力の賜であることはもちろんであるが、ICAおよびAECによる事前の周到な準備に負うものであり、私はこれらの人々の努力に対して団員一同を代表して心から感謝の意を表わすものである。

 調査団が訪れたすべての研究施設で、長時間にわたり、かつ詳細な技術的説明がなされたが、これらの説明は疑もなく調査団一行に稗益するところ大であった。欲をいえば、今少し政策および経済関係の面からの討議があってもよかったという感じはする。

 しかしながら、9月27日AECにおいて行われた会合において、ストローズ委員長から原子炉購入に関して日米間に協定が締結された場合秘密条項は含まれないという声明がなされたことにより、十分償われたものと考えられる。このストローズ委員長によって与えられた保証により、調査団はその使命の大半を終了し、わが国にとって非常に重要なこの価値ある通知をもって帰国することは大いなる喜びとするところである。

 アメリカに向け日本を出発するにあたり、調査団のいだいた最大の関心は、相互協定中の秘密条項に含まれているアメリカ側の要求と、日本の原子力基本法の要請とが調整されるかどうかということであった。しかしながら、ストローズ委員長は日米間に動力用原子炉の購入を目的とする相互協定が締結される場合になんら心配のないことを明白に言明した。

 このハッキリした言明により、他の種々の忠告とともに、われわれは原子力開発に関する大きな目的の一つを達成したものと信ずる。

 なお、原子力政策調査団に対するアメリカ原子力委員長ストローズ氏の言明について、両者の会談に立ち会った在米大使館一等書記官、科学アタッシェ向坊隆氏は次のような報告を寄せてきた。

原子力政策調査団に対する米原子力委員長ストローズ氏の言明

昭和31年9月27日 午後5時
於ワシントン米原子力委員会本部
報告者 在米大使館一等書記官
科学アタッシェ
向坊隆

 調査団はコミッショナー、リビー博士(Dr.F.Libby)、渉外部次長ボーゲル氏(Mr.G.C.Vogel)、原子炉開発部長デービス博士(Dr.K.Davis)等、米国原子力委員会幹部と会見し、放射能障害予防対策、民間における原子力開発に対する政府補助、原子力科学技術者の養成等の諸問題について討論せる後、調査団を代表して有田団長よりストローズ委員長に対して次のごとき意見ならびに要望を申し述べた。

 「日本はエネルギー資源の一つとして原子力の開発を急速に行う必要に迫られている。しかしながら、もし動力用原子炉を米国から輸入せんとする場合には、日米間にこれに関する国際協定を結ばねばならぬ。しかるに、動力炉に関する米国と諸外国との協定に関し、今までに発表された協定からわれわれの了解するところでは、同協定には秘密情報の提供が含まれ、したがってこの秘密を守るべきことが受入国に対して要求される。しかしながら日本には原子力基本法なる法律があって、その基本条項の一つとして、原子力に関する諸問題には、秘密が含まれてはならず、すべての原子力情報は公開さるべきことが明記されており、上述の既存の動力協定はこれと矛盾することとなる。

 日本の原子力基本法は原子力はすべて平和目的に利用さるべきものなりとの立場からできたもので、上の基本条件もこれにもとづくものである。

 したがって、われわれは、もし日本が米国に対して動力原子炉の購入を申し出た場合、米国側が日本の原子力基本法の主旨を了解せられ、日米間の動力炉協定には、日本の原子力基本法に矛盾するごとき条項、すなわち秘密保持の条項を含ませることなきよう、特に考慮を煩わしたい。」これに対し、ストローズ委員長から次のごとき回答があった。

 「原子力は平和目的にのみ利用さるべしとの日本の原子力基本法の主旨には全面的に賛意を表するとともに、日米間に動力協定を締結する場合には、日本の原子力基本法に矛盾せざるものとすることに協力することをお約束する。

 現在米国の非軍事的動力原子炉(civilian power reactor)にはほとんど秘密が含まれておらず、これらを秘密条項を含まぬ動力協定により日本に提供することが可能である。非軍事的原子炉に関連した事項中、現在秘密になっているのは、燃料の製作と加工(production andfabrication of nuclear fuel)に関するものと、使用済原子炉燃料の化学的回収処理(chemicalreprocessing)に関するものだけであり、米国で製作した燃料要素を購入して上述の動力炉に使用することには、秘密が含まれない。

 秘密なしに提供し得る動力炉としては、Shi-pping Portに建設中のPWR型(加圧水型、Pressurized Water Reactor)ならびにアルゴンヌ国立研究所で研究し、同研究所ならびにサンホセ(San Jose)に建設中のBWR型(Boiling Water Reactor沸騰水型)を例としてあげることができる。

 これに対し調査団より、これらの動力炉を秘密条項なしに外国に提供し得るとの方針はいつごろ決定されたかと質問せるに対し、ストローズ氏は「大部分は昨年夏のジュネーブ会議にて行われ、以後徐々に漸進的に行われたものなり」と答えた。

 さらに調査団より、何型の炉を秘密なしに日本に提供し得るか、具体的に列挙されたしと要求せるに対しストローズ氏は回答を保留し、翌28日のAEC幹部との再会見において、前記ボーゲル氏、グッドマン博士(Dr.Goodman、原子炉開発部次長)より次の回答があった。

 「昨日の会見後、AECにおいて関係者を集めて検討せる結果、現在建設または計画中の非軍事的動力炉のほとんど全部、すなわち次の型の動力炉は秘密なしに提供し得るとの結論に達した。

 1.PWR型(加圧水型、Pressurized WaterReactor)
 2.BWR型(沸騰水型、Boiling Water Reactor)
 3.SGR型(ナトリウム・グラファイト型、Sodium Graphite Reactor)
 4.HRE型(水溶液均質炉、Aqueous Homogeneous Reactor)
 5.FBR型(高速中性子型、Fast BreederReactor)

 なおLMFR(Liquid Metal Fueled Reactor)はか、一、二の型はまだ完全に公開し得る段階に達していないが、近い将来には非軍事用動力炉はすべて公開し得る見込である。

 また、現在秘密に残されているのは、ストローズ氏の述べたとおり、燃料の作製加工および使用済燃料の化学的回収処理のみであって、そのために動力炉協定においては、たとえ日本が燃料を購入した場合でも、使用済燃料の化学的回収処理は米国AECまたはその承認した施設において行われねばならぬとの条件がつくはずである。